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「その人はベンタの部下「(オウ)」だと思う」


 そう蕗狛が声を上げた。

 一同は耳を疑った。蕗狛は桜とのことをほとんど話していない今まさかの一言だった。

 

「なんだって?」

「その人がおーばちゃんの探していたアポトー町から空と太陽を奪った魔術師、百年探し出せなかった奴だ」

「なんでそんなことわかる?桜が百年探したって解んなかったのに」


 翠や柊が疑問を投げかける。百年という長い年月をかけても()()桜が見つけられなかった人を最も簡単に言うなんて「なるほど」とすぐ飲み込める状況ではなかった。

 

「おーばあちゃんはその収穫祭で魔力が半分以下になってたんだ」

「は?」

「おーばあちゃんは四季の神様が天候を操り荒天にした中消えていった魔術師を追って行ったんだ。その時魔力を取られていたんだ」

「取られただと?そんな魔術・・・」

「そんな魔術は存在しないとされていたんだけど、存在してたんだ「裏術書」の中に」

「裏魔術書だと・・・?そんなもの聞いたことなんてない」

「聞いてる聞いていないは関係ない、存在してるのは事実だ」


 魔術書は町の魔術団本拠地、二階図書室に大事にしまってある。その存在すら見たことのない人間が多い中「裏」とは、初めて耳にする言葉である。

 

「その裏魔術書の中には他人の魔力を吸い上げる魔術が書いてあったんだ。おーばあちゃんはその最初の被害者だ。一度吸い取られた魔力は戻らない…だから百年かかっても見つけられなかった」

「こんなに姿が変わらないのにか?」

「おーばあちゃんは目が見えていなかったんだよ。魔術師である(オウ)を追いかけていた時に攻撃を受けたことにより失明していたんだ」

「見えてなかった…だと…?俺らに稽古をつけてくれたんだぞ?見えないなんてありえないだろう」


 翠は蕗狛に喰ってかかる。

 しかし真実を伝えて怒られる筋合いはない訳で。知っていて話せることは話しておきたいと思い重い口を開く。

 

「・・・・・・おーばあちゃんと結婚した「(シバ)」が魔術師の一人でね、視力を貸していたんだ。稽古の時や大事な時には二人で見ていたんだ。だから芝じーちゃんが亡くなってからは視力もなかったから稽古はしてないだろ?」

「十年はしていないな。芝さんが亡くなって十年は経つ」


 芝は桜と結婚し町はずれの小さな学校の校長を務めていた。晩年は桜と二人のんびりひ孫の面倒を見ながら楽しく暮らしていたという。もちろん立葵や翠の稽古にも付き添っていた。ある日突然亡くなったと葬儀も執り行わずひっそりとしたものだった。

 

「桜は見えない中俺らに稽古をつけてくれなたんだ」

「桜・・・」


 桜と連絡を取ってはいたが魔術団に近寄るべきではない。といったこと以外は「元気だ」「まだ空は灰色だ」「ひ孫はかわいい」など当たり障りのないことの方が多かった。魔力が半分になったことも、目が見えなくなったことも言ってはこなかった。心配をかけたくないという思いなのは重々わかるが、寂しいものがある。

 

「桜さんは団長が(オウ)であると本当に最後までわかっていなかったのか?」

「わかってたよ。カタコおじさんの娘たちが魔力を失った時に気づいたって言ってたよ。俺が生まれる三年前になる」

 

 桜は子だくさんだが孫やひ孫はそんなに多くなかった(オウ)に会うことも多くなかったため気づくのにかなりの時間を要した。そして気づいた時には桜を一番理解していた芝は亡く自分の魔力も残りわずかであった。

 

「それはどんな心情だったことか…」

「そんなん、考えなくてもわかる。敵はその団長、本名は(オウ)、黒幕はベンタだ。シンプルな話だ」

「わかっていたなら早く言えよ!」


 柊が苛ついた声で怒鳴った。

 怒られるだろうことは想像がついていたが「言えない理由」は確かにあって。

 

「・・・それは・・・」

「誰も巻き込みたくなかった。だろう?」

 

 翠が蕗狛を庇うように一言かけた。

 

「え?」

蕗狛(コイツ)は優しすぎるんだよ。桜もそこを気にしていたんだよ」

「だってさ・・・」

 

 蕗狛が口籠るも話は進む。

 

「なぁ、春に行って椿に会いに行かないか?」

 

 翠は荷物を持ちながら次に行かないかと提案していた。

 冬にかまくらで一休み。十分冬を堪能し次の春に行く為の扉は開けられる。

 

「椿か、そうだな。これからのことを考えると楸を守ってもらいたいしな。春を抜ければ四季の神様が氷漬けにされている城があるはずだ」

「ベンタもその辺にいるだろう」

 

 この結界内は秋から始まり、夏、冬そして春へと続いていく春の奥に城が建ち最上階からは各地域を隔てる扉もなく四季折々すべてを見下ろすことができる。それは圧巻の景色。悩みなどが小さいことに気づくと、よく四季の神様と登り酒を酌み交わしていた。

 

「四季の神様はどこにいるんだ?」

「行けばわかる」

 

 (ラギ)はその言葉以外何も言わず、荷物をまとめ始めた。その姿をみて(エノ)は深いため息とともに嫌な感情も吐き出した。

 

「そう・・・だね。まずは春に行こうね、蕗狛」


 

 

 翠は蕗狛の頭を軽く小突いた。


「なあ、ところで蕗狛。まだ隠し事してんだろ?」

「なんで、そう思う?」

「してんだろう?」

 

 翠は眉間にシワを寄せキリっと睨んだ。

 

「隠してるよ?でも話す気はない聞いてくるな。俺は優しいんだろう?」

「さっきの怒ってんの?」

「いいや?でも、話す気はない。芝じーちゃんや(オウ)の話は必要だから話した。これからどうしても春に行くことになるし嫌でもベンタに会って戦うことになる。知っておかなくちゃならない最小限のことだったから」

「だから話したのか」

 

 コクンと頷きかまくら入口に向かった。


 

「お前は背負いこみ過ぎだって言われねーか」

 

 そんな言葉は蕗狛のにもほかの面々にも届かない。

 

「あのー春に行くって何ですか?」

 

 一番話についてこられなかった陽葵が恐る恐る声を上げた。

 

「あ、陽葵は人形だったから知らないのか」

 

 うんうん。と、頷く陽葵はさらに続けた。

 

「それに翠君、立葵兄ぃのこと教えてもらってな…い・・・」

「あ・・・」

 

 ごめん忘れてた。と言わんばかりの軽いノリで笑ってごまかそうとしていた翠に蹴りを入れ絡む陽葵。やられたらやり返す!と。

 そんなやり取りを見ていた蕗狛は少し寂しく思った。自分には持ち合わせない「兄弟・友達」とのワイワイする心許せる相手・・・季がいたときは感じなかった感情。

 

「季、さみしーなあ・・・・・・」


 蕗狛は少し潤んだ瞳を力強く拭いた。

 そんなことは知らない翠は陽葵の顔を手で押さえながら蕗狛に確認をしてくる。

 

「おい、扉開けるのか?」

「あぁ。開けていい」

「よくなぁい!翠君言ったよね?立葵兄ぃのこと教えてくれるって!」


 頬を膨らませだいぶ怒っている陽葵は「嘘つき!」と、言う声に翠も確かにな。と陽葵に答えを出す。

 

「生きてるよ!あいつは生きてる。もう少ししたら会えるから!傷が深いけど大丈夫」

「生きてるの?ほんとに!」

 

 陽葵は何度も「本当に?」と確認し安心したのか大粒の涙を流しその場に座り込んでいた。

 しばらく泣いた後顔をあげもうひとつ気になっていたことを焦って確認した。


「よかった…ほかの二人は?(アサヒ)碧李(アオリ)はどうしたの?」

「落ち着けよ、二人も傷は深いが大丈夫だよ。全部片付いたら町に戻って会いに行こう?」

「約束よ、絶対会わせてね」


 翠はポン。と軽く陽葵の背中を押す。

 

「わかったよ、ちゃんと会わせる」

 

 また会えるその一言が今まで引っかかっていたつっかえが取れたようだった。


「また約束ができるなら大丈夫だろう、よかったな」

 

 蕗狛が陽葵の声をかけた。

 

「ありがとう」

 

 笑って礼を言う陽葵に笑顔を返す。陽葵の後ろで顔をしかめ何かを隠す翠を蕗狛は黙ってやり過ごした。

 人には言いたくないことも言いづらいこともある相手が大切すぎて傷つくのを何とかしたいと守るための「優しい嘘」があることも。

 

「(その嘘は自分が傷付くよな・・・慣れないことすんあな…)じゃあ、春に行こうか」

 

 蕗狛はため息交じりにさりげなく陽葵を春に行くように誘導し翠から距離を取らせた。

 柊と頭の上にいた榎に簡単に声をかけ春に行くための準備を整える。

 

「柊ぃ!鍵貸してー俺もやりたい!」

「ていうか、魔力は回復したのか?」

「大丈夫だってぇー」

 

 柊は呆れながら、首元から鍵を取りだす。

 

「遊びじゃないんだぞ?ちゃんとやれよ?」


 「はーい。榎のおかげでめっちゃ暖かいこの部屋ともお別れだなぁ」

 と、しみじみ返事をし大きく息を吐き、術を唱える。あたりに風が吹き蕗狛の周りを円を描きながら吹き付けた。

 蕗狛は悠然と続ける。

 

「――主様、お力お借りします――(サクラ)――」


 ふわっと桜の花が輪を描きながら宙を舞った。その中心に鍵をさすと、パキっと薄ら空気が波打って、扉のシルエットが現れた。

 

「――春を護りし精霊、椿との契約の元、扉開けさせてもらう――(カイ)――」

 

 鍵を回すと、扉がはっきりと現れて

 

 ――ガチャン――

 

 と、音を立て扉が開いた。

 扉が開いたその向こうには淡いピンクの花が満開に咲き誇り、蕗狛たちが来るのを今かいまかと待っている。そんな春の風が吹き込んだ。

 

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