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収穫祭

「はーぁい?ここが今の拠点でしょーか?外くっそ寒ぃーんだけど!」

 

 荷造りをしていた蕗狛たちのかまくらに呑気な声が響いた。

 その男は鼻を赤くし手を擦りながらズカズカと中に入り、陽葵に近づき笑顔で手を振る。

 

「元気そうでよかった!変わりはない?」

 

 と声をかけ背中をバシバシと叩いていた。

 

「っ!お兄ちゃんは?生きてるのっ?」

 

 陽葵は目を潤ませながらその男に詰め寄った。

 その慌てぶりに焦った男は落ち着くように声を掛け、頭を撫でた。

 

「待て待て。ちゃんと話してやるから、なっ?頑張ったんだろ?」

 

 そう言われ陽葵はこくんと頷きここに来てから一番の安堵の顔を見せていた。

 その光景があまりにも自然で呆気に取られてしまうが、陽葵の顔を見て、その男は敵ではないと確信した。

 

「えーっと、誰?」

 

 もちろん当たり前のことを当たり前に聞く。

 

「あ、ごめんごめん!君が蕗狛君でしょう?」

 

 その男は軽い謝罪をしながら蕗狛の方へと歩み寄って姿勢を正し、

 

「私は町の魔術団、白露部隊所属の(すい)です。立葵から話は聞いてます。あ、蕗狛君を捕縛しに来たわけではありませんので、身構えないでください」


「町の魔術団」なんていうもんだから、応戦体制に入ろうとした蕗狛を見てすかさず止めに入り、かまくらに入ってきた時よりもピシッとした顔立ちで上司への報告と言わんばかりの挨拶をし、その場にいた全員が驚くほど綺麗な礼をした。

 

「おぃ、蕗狛?」

 

 呆気に取られてた蕗狛が固まっているのをみて、柊が蕗狛の服を引っ張る。

 

「あ、あぁ。俺は蕗狛です。えーっと、よろしくお願いします?かな?」

「うーん!桜さんの血を受け継ぐとこーも凛々しくなるんですねえー」

 

 翠は、蕗狛の全身くまなく観察し、ひとり感心している。

 

「翠とかいったな、桜と面識あるのか?ってか、どーやってここに来たんだよ」

 

 柊が、感心している翠から少し蕗狛を引き離し質問した。翠は少し顔を歪め何か考えている様子をみせた。

 パチっと暖炉の火が間を埋めるかのように音を立てて静けさを演出していた。

 

「あー、そうっすね。どこから話したらいーんでしょう」

 

 翠は少し悩んでポケットからひとつの髪飾りを取り出した。その髪飾りは桜のモチーフの飾りがみっつ付いている。ひとつは色が黒く桜と言われない限りわからない。

 

「これ、見たことないですか?桜の花一つひとつに前もって契約すると契約した人のところへ一度だけ飛ぶことができるんです。これは桜さんが創ってくれているので、魔力が弱くても使えるんです。見たことなかったですか?」

「そんな便利な物は知らなかった・・・」

 

 柊は驚きながらも翠の持っていた髪飾りを手にし、いろんな角度から見ている。どの桜の花もガラス製なのか綺麗なもので桜の匂いがした。

 

「他にも知ってますよー?えーっと、(ラギ)さんですよね?」

「え?」

「そっちで蕗狛のポケットに隠れているのが、(エノ)さんですよね?」

 

 急に名前を呼ばれびっくりした榎は蕗狛のポケットからだしていた顔を引っ込めてしまう。

 

「二人の事、知ってるのか?」

「えぇもちろんですよ。桜さんのお仲間ですからね、昔からよく聞いていました。短気な柊さんと、ビビりな榎さん。あと(ヒサキ)さんと椿(ツバキ)さんといますよね?二人には会えてないんですか?」

「あ、うん・・・椿にはまだ会えてない。楸は・・・」

「うん?」

「楸は俺に魔力を全部渡して核だけになっちゃったんだよね。楸の魔力が空っぽで元の姿には戻せていないんだ」

 

 蕗狛はポケットの中から楸の核を取り出して翠に見せた。楸の核をみて翠は言葉を失っていた。

 

「あの楸さんですよ?魔力が尽きるだなんて・・・蕗狛君、君は魔力が無くなるまで何をしてたんですか?」

 

 翠は蕗狛の肩を掴み雪の壁に押し当てて近すぎるほどに顔を寄せ睨みつけながらそういった。

 蕗狛の背中は雪がつき体の熱を奪っていくがいやでもわかった。

 

「攻撃魔術を連続で使った・・・」

 

 目が合わせられない。合わせた相手がとてつもなく怒っているのがわかっているから。

 

「ちゃんと主様から借りましたか?」

「借りて・・・ない・・・」

「借りろ、と桜さんから言われていましたよね?」

「いけると思った・・・」

「その結果が、楸さんの魔力貰い受けることになったんだろうが!」

 

 握っていた手に力が入る。

 

「翠!何をそんなに怒ることがある!なぁ、蕗狛!楸はまた創れるんだろ?」

「・・・ごめん、多分無理かも・・・」

「あ?」

「楸がくれた魔力は一滴も残らない全ての量だった。楸は、全身全霊を掛けて俺を助けてくれたんだ・・・」

「桜さんに()()守れって言われてたよなあ?」

 

 翠と蕗狛は面識はない。ただ桜は自分の最期は解っていた時間がない中、蕗狛のことを翠や立葵に頼んでいたのだ。もしかしたら桜には蕗狛が無理をするのは容易に想像できたのだろう。

 ……何も言い返せなかった。()()()()な理由で無理をした結果が、楸の魔力が空になるまで魔力を受け取らなくてはダメだった、その楸を元に戻す術がないのだから。

 

「翠君っ!あの、あのねっ!落ちつこ?ね?」

 

 陽葵が翠の腕を掴み引き離そうとするが、かなり拳に力が入っている。服を握っているはずなのに、蕗狛の服に血が滲んでいた。もちろん、蕗狛のものではない。

 

「翠君、落ち着きませんか?俺たちも楸が元に戻れない事は知らなかったんです、すみません」

 

 榎が翠に声を掛ける。

 二人に声をかけられ、頭の血が少しづつ下がっていくのを感じた。弛んだ手から蕗狛の服が解けそのままその場に座り込む。

 

「お前が桜さんとの約束を守らなかったことは許さない。どんな理由があってもそれはしない」

「理由くらい聞いてもいいんじゃないの?蕗狛の背中に大きい傷があるって言ってたし・・・あの楓と戦っていたみたいだし」

 

 陽葵が、翠の怒りが落ち着くように声を掛けるが、「だから?」と、陽葵の方を睨んでいた。

 蕗狛自身が何か言い訳めいたものをしようとはしていなかった。

 

「楸はもう、戻らねえのか?」

 

 黙っていた柊が口を開いた。

 

「楸さんの魔力が核に少量でも残っていたらまだ可能性はあったと思います。ですが蕗狛がみせた核から楸さんの魔力は何も感じられません。はっきり言って希望はないですね」

「そう・・・か・・・。でもよ、蕗狛を責めるのはやめてくれねぇーか?」

「は?」

「楸が魔力を渡すとき、俺も同じことを考えたよ。俺は魔力を分ける魔術は持ち合わせていなかった。持っていたなら楸と同じことをしていた。それほど、あの時の蕗狛は瀕死だったんだ」

 

 彼ら精霊はもともと決まった魔術を与えられていた。楸が持っていたのは四季の神が創った時に何かあった時の為に持たせていたのだろう。そんなことは(ラギ)には聞かされていなかったことである。

 

「そうですか。柊さんがその魔術を持っていなくてよかったです。どうせ蕗狛の傷は彼の()()だろうから、なんならそのまま死んでもよかったんですよ」

 

 冷たい目で蕗狛を見下ろした。

 

「何もそこまで!」

 

 柊が怒鳴るも、蕗狛が柊のズボンの裾を引っ張り、

 

「いい。その通りだと思う」

 

 と、小さく呟いた。

 そんな蕗狛を横目に翠は鞄を開け、一枚の写真を取り出した。

 

「情けない奴は放っておこう。陽葵みてみろよ、百年前のものだ」

「何?この写真・・・」

 

 祭りの後だろうか宴での集合写真が陽葵に手渡される。翠は「よくみて」と一言。言われたとおり写真を見ると、そこに居てはいけない人がいた。

 

「ちょう・・・さん?」

「あぁ、そこに写っているのは俺らの団長だ。百年前の写真に今と変わることなく映ることがあるか?」

「ありえないわ・・・」

「俺にも見せろ」

 

 柊と榎が写真を覗く。

 今の団長を見たことがない二人はどれが団長かわからない。が、

 

「なぁ、これ桜じゃねぇーか?」

「え?……あ、ほんとだ!いつも可愛い人だったよね」

 

 柊が指差す先に若い姿の桜が写っていた。

 

「ねぇ、これってさ四季の神……様じゃない?」

 

 榎が指差すのは、写真の隅に桜と並んで写っている男とも女ともわからない一人の「人」の姿。しかしほかの人からは感じられない何かを感じた。

 

「桜さんと四季の神様ですか?」

 

 割って入って確認する翠が不思議そうに首を傾げた。

 

「四季の神様ってこの人ですか?」

「あ、そうそう!でも……なんで一緒に写ってるんだろ?」

 

「その写真、秋ごろなんじゃない?」

「え?」

 

 確かに木の葉は赤みがかり空は高く見える。

 俯いた顔を少しだけ上げ前髪から皆を覗くように見ながら蕗狛がものすごい小さな声で話しかけた。

 

「秋の写真だと思う。おーばあちゃんと四季の神様が一緒に写真を撮ったのは、秋の収穫祭だけだって言ってた。そしてその収穫祭であの事件だ。もし、そこに写ってるのが間違いなく団長なら、その人はベンタの部下「(オウ)」だと思う」

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