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 ここがどこで、何故ここにいるのかも、目の前にいるのが誰なのかも皆目見当がつかない。

 ただ、あまりいい状況ではないことはよくわかる。更に三人をよく見れば若い男の肩に精霊が隠れているし、もう一人の男はこちらを睨みつけている。

 そんなところを見ると睨んでいるがこのメンバーの中では一番まともか・・・怪しい人物をよく観察できていると言ったところか。

 

「誰かと聞かれても・・・私は、町の魔術団所属、寒露部隊隊長陽葵(ヒナタ)よ」

「町の魔術団・・・?」

「ええ。アポトー(ちょう)にある魔術団のことよ」

 

 アポトー町は蕗狛や季の住む町である。

 

「君の町?」

 

 蕗狛の肩に座っていた榎が小さな声で訊ねる。臆病な榎は蕗狛の肩に隠れていた。

 

「あぁ。俺が育った町だよ」

「ってことは桜が言ってた町の魔術団ってことだね」

「ってことになるね」

 

 二人の会話は小さな声でやり取りされているためあまり聞き取れない。

 柊は陽葵にまだ睨みつけたままで問いかける。

 

「陽葵はなぜ人形の姿だった?」

「え・・・?人形・・・?」

「さっきまで、人形だったから、魔術で元に戻したんだ。ここは陽葵(おまえ)の町にある、結界に覆われている森の中だぞ?この結界内に潜り込むために、人形だなんてふざけた魔術かけてたんじゃねぇーだろうな?」

 

 この結界内に入るにはそれなりの手順が必要で、まずは森の入り口の鍵を開ける。その次に季節を堪能し、季節を司る精霊へ季節を渡る許可、鍵。それから、魔術で花を出す。つまり魔術を使えるのが最低条件になる。――少々やることが多い。

 鍵は誰かから譲り受けない限り、その辺どこの鍵でも結界の扉を開けられるわけではない。

 そんな面倒な事をせずに入れる方法――それは結界を開け中に入る人の荷物に紛れて中に入ること。紛れておけば魔術も鍵も必要ないわけだ。

 

「(ここが、あの森の中で更に結界内ですって?)わ、私はここが結界内である事なんて知らないわ!言いがかりよ!」

 

 陽葵は目を見開き明らかな動揺をみせていた。

 

「知らないって。証明、できねぇーよな?」

「できないけど・・・」

「いーんじゃない?ここが結界内ってことすら知らないってんだ、信じてあげよ?陽葵、君は隊長なんだろ?今魔術団は何が任務とかあるの?」

 

 肩に精霊を乗せた蕗狛が静かに陽葵に問いかけた。

 

「任務。そうね、今は蕗狛と言う男を追っているわ」

「彼を追っているのは何故?」

「それは・・・町から出て結界に近づいたからよ。」

「森に近づいては行けないの?」

「ええ。この森には四季の神が眠っているから、中に入って荒らされでもしたら神の怒りに触れ、また何かを取り上げられては困るもの」

「・・・は?」

 

 柊が陽葵の話を聞いて苛ついているのは手に取るようにわかる。蕗狛は柊を制止し、話という名の尋問を続けた。

 

「そうか。じゃあ、蕗狛を見つけたら始末するのか?」

「始末はしないわ。団長の元へ連れて行くのよ。連れて行った後は、処罰の対処になるとは思うけど・・・」

「森に近づいただけで、処罰って、少しいきすぎてはないか?それに…」

「そう思うのだけど・・・町の法律にもあるから仕方ないのよ・・・」

「法律・・・ねぇ・・・」

 

 町の法律は八十年変わっていないという。誰がつくったか、今となっては不明であるが、内容はかなり古く曖昧にしか考えられないものが多い。

 だいぶ疑問を抱くが、そのまま話を進める。

 

「追っているのは蕗狛だけ?」

「ええ。もう一人仲間がいたんだけど、()()()から・・・」

「そのもう一人は、何をしたの?」

「・・・ごめんなさい、尋問をする前に()()したと聞いているの。だから、彼がどこまで何に関わったかはわからないのよ・・・」

「そうか・・・最後にその男に会ったのは、誰だ?」

 

 最後に会った人間が何かを知るのはよくある話。今回もその流れで間違いがないと考える。

 

「最後・・・団長かしら・・・尋問の為面会に行った時、首を掻っ切っていたと・・・」

「団長?」

「えぇ、魔術団団長、兼町長でもある「(チョウ)」よ・・・」

 

 長とは面識がない。いや、一方的に見かけたことはあるが、少しだけで顔見知りにもならない程度。

 この小さな町で今までちゃんと会ったことがないのだ。それは蕗狛一家がおーばあちゃんの言いつけを守り、蕗狛を隠して育てていたからである。

 我慢できなくなった柊が陽葵に手を伸ばしていた。思わず榎が止めに入るが間に合わなっかた。

 

「ちょ!」

 

 陽葵の胸ぐらを掴んで冷たい雪の壁に押し当てていた。

 

「なぁ、マジで森に近づいたからって処罰の対処とかっておかしくねーか?」

「そんな事・・・いわれた・・・って・・・」

「離してあげたら?多分陽葵は命令のもと動いてる。法律とかなんの為かは知らないけどねぇ」

 

 柊は掴んだ手を放し、大きな舌打ちをした。

 

「お前は悔しくねえーのかよ」

 

 それは、怒りを表さない蕗狛に怒りを向けた態度であった。人の怒るポイントは違う。蕗狛の苛立ちは彼女には向かない。向けたところで意味がないのを知っているからである。

 

「そうだな、季が死んだことへの悔しさはあっても、法律云々に対しては特には」

 

 蕗狛はそう言って陽葵の乱れた服を軽く整えた。

 

「あなた方は季の知り合いなの?」

「彼が悪かったね。知り合いとかそんなのには深く関わらないほうがいいと思う、君のためだ」

「あの……こんなことを頼むのはおかしいと思いますが私の兄を助けてください、団長にきっと・・・殺されます」

「ほんとにおかしくねえーか?なんで俺らが町の魔術団の話にか関わらないとならないんだよ」


 柊が喰い気味に話しにかぶる。

 

「いちいち喰ってかかるな。陽葵、悪いけど俺らがその話に協力する義理はないよ」

「あなたは、ろは・・・でしょ?」

「な・・・」

 

 蕗狛達は互いに名前を呼んでいない。

 

「なんで、俺が蕗狛だと思う?」

「あなたの肩に居る彼と、彼は・・・精霊でしょう?」

 

 陽葵は榎と柊を指さした。

 

「さっき(かれ)飛んでたでしょう?見逃さないわ。それに、柊は怒りっぽく榎は優しいけど少し臆病よね。残ったあなたが蕗狛でしょう?」

「あ・・・ごめん。飛んじゃった」

 

 榎が軽く謝る。

 

「探偵にでも鞍替えしたら?」

 

 蕗狛が笑いながら言う。

 

「お断りするわ……ねえ、さっきの話もう少し聞いてくれないかしら」

 

 蕗狛は椅子に腰かけ少し考え込む。ここで陽葵(かのじょ)の話を聞き足を止めるわけにはいかないが、背中の傷がまだ完治していないことを考えると、この話を聞くのは足止めではなく蕗狛には必要な時間かもしれない。


「いいよ。聞こう。ただ殺されそうなお兄さんが助かるかは、わからないよ」

「……ええ」

「蕗狛がいいならいいけど、先を急ぐのにいいのか?」

「あーまあ、背中痛いんだ。もう少し休みたいてのが本音かなー」

 

 背後からの傷は今も術で治しているが戦えるほどの回復は見込めない。


「完治・・・してないよな・・・」

「まあ、時間がかかるのは仕方ない」

 

 そう言った蕗狛の顔を真っすぐ見ることが出来ない。そこへ下を向いた柊に榎が小さいスープを差し出す。


「陽葵、俺は怒りっぽくない・・・」

 

 そう言ってスープを飲み込んでいた。


「ふふ、ごめんなさい」

 

 榎はみんなにスープを配り、各自落ち着く為の穏やかな空気が流れる。

 飲み終わったカップを静かに置き辺りを見渡した。暖炉の火がゆっくりと揺れ、かまくらの中にいることを忘れさせるほど、暖かだった。これが精霊の成せる魔術のそれなんだろう。自分との力の差を見せつけさせる。


「で、何があったの?」

「話の前に、蕗狛は背中を怪我しているの?」

 

 蕗狛は肩を擦りながら頷いた。

 

「ここに来る前に、二人と戦った時にちょっとね」

「あら、結界の中も物騒なのね。安全だと思っていたわ」

「結界内が物騒なわけないだろう。ここは普段ベンタが支配してはいるが“敵”に襲われることはない」

「じゃあ誰と?」

「一人は楓って言ったかな、魔術を使っていたから、陽葵の仲間かもな。アポトー町は外部からの人の往来はないからね。もう一人が強くてさー」

 

ーガタン!

 

「楓と戦って生きているの?」


 蕗狛の話を途中に陽葵は驚き椅子から立ち上がった。その様子を見て三人は逆に驚いた。蕗狛が最初に『楓』の話をした時は『あんな弱い式神』とそう言っていた。

 

「生きてるって・・・だって楓は強くないだろう?」

「何言ってるの?楓はあたしの部隊で副隊長よ?演習したって毎回最後まで残っているのよ・・・」

「何って……式神だもん、術主が力加減操っているだろーから演習でも最後まで残ってんじゃねーの?」

 

 出されたスープをくるくるとかき混ぜながら、当たり前のことを何言ってんの?と蕗狛がきょとんとした顔で陽葵に投げかける。

 ただ、その話を陽葵だけでなく柊も榎も驚いた顔をして聞いていた。

 みんなの驚いた顔、誰も何も言わない異変に「あ、れ?まずかった?」と、お道化てしまう。

 

 「……式神……だったの?」

 

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