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心情

自分が傷つく分にはいくらでも。それは自己犠牲が過ぎると言われれば、そうかもしれない。

 ただ、自分は弱いから、強がっているだけなのかもしれないとも思う。

 おーばあちゃんが、自分を隠すように育てている事は、小さいながらに気づいた。

 学校も週に一度程度。遊び相手はほとんどが親戚と季だった。

 何故か皆には魔術が使える事は言ってはいけないと、強く言われれていた。だから何となく皆と距離を感じていた。

 それでも、嫌だなとかは思わなかった。


「ねぇ、おーばあちゃん。もう隠しきれないかも知れない」


 どこかで全部、吐き出してしまいたい。と、ずっと思っていたのかもしれない。

 ここに来た本当の理由も、隠していることも全部。知らない()()も、そー簡単では無い。



 目の前には、(セチ)が戦闘態勢で待ち構えていた。


「初めまして。だね。君が蕗狛くん?」

「ああ。あんたが、漆だろ?弱そ」

「あ?」

「いや、なんでもない」

 

 ヘラっと笑ってはいるが、内心はどうかまではわからない。

 

「主様、お力お借りします――火炎(ブレイズ)――」

 

 漆の放った炎が勢いよく蕗狛に向かって走っていた。

 

「――火炎・龍(ブレイズ・ドラゴン)――」

 

 勢いよく放たれた漆の火炎が、蕗狛のだした火炎・龍に飲み込まれ、消えていた。

 

「なっ!火炎を消しやがった!」

 

 漆の後ろから足音が聞こえ、

 

「俺も混ぜろよ!」

 

 そう言いながら飛び込んできたのは、紺だった。

 

「あんたは、紺。だな」

「やーやぁ!君が蕗狛だろ?俺も混ぜろ」

「対一、より楽しそうだ」


 漆と紺がニヤ付きながら蕗狛を見る。

 

「俺は不利だよ。――(アッシュ)――」

 

 二人を灰が包む。間髪入れずに、

 

「――種・火(シュ・ファイア)――点火(イグナイト)――」

 

 立て続けに魔術を唱えると、チリっと小さな音がして、至る所で爆発が起きた。

 

 バフン!

 

「なっっ!」

 

 咳き込みながら灰が撒き散らかされた場所から離れる。

 

「っぶねぇーなあ!あの野郎、いっぺんに魔術使いすぎじゃねぇの?」

 

 漆が灰を落としながら少しの疑問を口にした。それを聞いた紺が、やっぱり?と疑問を確信に変える。

 

「なぁ、蕗狛(あいつ)、魔力借りてないんじゃねぇの?」

「は?」

 

「まだ、お喋りしてーの?」

 

 逃げた先に再び蕗狛が現れた。

 

「おま⋯」

「――巨濤(キョトウ)――」


 蕗狛は小指を口元にあて、宙をなぞって

 

「――(アキュー)――」

 

 術を唱える。

 何も無いところに水が湧き出て、海から離れた場所にも関わらず大きな波が二人に襲いかかった。

 

「っくそ!主様、お力お借りします!――保護(シェルター)!――」

 

 ザブン!


 と、二人を飲み込んで波は海へと消えていった。波が消えた後には硝子製の少し小さめの家があった。

 中には怯える漆と、睨みつける紺が居た。

 

「あ、あの硝子の家は、波に流されたりとかはしないのか。じゃあ⋯」

 

 蕗狛は次の攻撃に悩んでいた。

 

「紺!魔力借りてないってどーゆう事だよ!」

「だから、借りてないの!蕗狛(あいつ)、魔術発動時に「主様、お力――」って言ってねぇだろ?」

「言ってない⋯かも」

「ってことは、主様から力借りる必要が無いって事だよ!」

「え?」

「お前アホなの?」

 

 魔術を使うという事は、魔力を消費する。

 魔力があっても使う術との調和がなくては、上手く発動できない。

 自分達よりも魔力のある主様から力を借りることによって、術と力の調和を行い、間違っても暴走することがないようにしている。

 四季の神や、新月の王ベンタや桜は十分に魔力があり、魔術から愛されている為、他から力を借りて調和をとる必要が無い。

 

「だから、蕗狛が主から魔力を借りていないってことは、調和をとる必要がない。即ち――」

「俺らより、より優れた術を扱える!」

「そう!」

「ってことは、同じ魔術を使っても威力が違う!」

「そう!」

「ってことは、俺ら勝てなくね?」

 

 このままでは負け戦になってしまうのは明確。しかし、どうにか勝つかこの場を去るかしなければならない。ちょっと遊びに来ただけ。とかそんな生易しいものでは無いのはよくわかった。

 

「さて、どうしたもんかねえ」


 熟考はしていない。向こうは二人。どうしても倒しておきたい。この後のことを考えると向こうの手駒は少なくしておきたい。

 ⋯やっかいな保護(シェルター)に入られちゃ⋯

 

「焼き尽くしてやる。――業火・火の精霊(ゴウカ・サラマンダー)!――」


 蕗狛は指で円を作り、ふーぅっと息を吹き火の精霊(サラマンダー)を出すが、その身体は蒼く橡の時に出した火の精霊(サラマンダー)とは姿が違った。


「⋯おい、紺っ!アレなんだよ!」

 

 硝子の家から外を見ると、そこには見た事もない蒼い火の精霊(サラマンダー)がこちらを睨んでいた。

蕗狛は火の精霊(サラマンダー)の後ろ脚を撫で、「頼むね」と優しく囁く。


 ブオオオオオオオン!


 大きな雄叫びと共に、蒼炎の業火が二人のいる保護(シェルター)に向かって吹き付けていた。

 霊気に染まり、今まで見てきた威力の何倍もある業火。それは百年もの間、柊達を縛り上げていた見えない罪への報復とも言える炎のようだった。


 

 

 燃え尽きたのか、蒼炎の勢いが収まりつつあった。蕗狛はドロッと溶けた硝子の家へと近づいた。

 中には漆だろうか、小さなウルシの実が転がっていた。自分の身を護るのに全霊をかけ魔力を使い果たし、本来の姿に戻っていた。

 

(セチ)は、(ウルシ)の実が本体だったのか⋯⋯紺が居ない」

 

 ウルシの実を拾い上げ、グッと握りしめるとパリン!と、音を立て割れた。

 

「これで、核は割ったから、漆は暫く大人しくしててね⋯さて。紺はどうしたかな?」

 

 辺りを見渡し、紺の形跡を探すが、どうも姿は見えない。

 この狭い保護(シェルター)の中で隠れるのは無理である。しかし、姿が見えない事には何も出来ない。

 

火の精霊(サラマンダー)もう、戻っていいよ!ありがとね」

 

 少し離れたところにいた火の精霊(サラマンダー)に声をかけると、フッと頭を下げフワッと消えた。

 

「⋯待ってたよ、この時を」

 

 そう、火の精霊(サラマンダー)がいては、いつ攻撃されるかも解らない。ただ、魔術を解いてしまえば、直ぐには同じモノは使わないと、紺は待っていたのだ。火の精霊(サラマンダー)の魔術を解くのを。

 

 ザン!


 背後から右下斜めに、入っていたのは、硝子の刀だった。

 自分の体を突き抜ける、赤みを帯びた硝子。抜けば大量の血が流れるのは解ったが、紺がすぐ後ろにいる、ならば今が攻撃の好機であるのは明確。

 

「――業火(ゴウカ)――」

 

 指で円を作るが、吹くことが出来ない。

 

――ヒュッ――

 (息が⋯出来⋯な⋯⋯⋯い⋯⋯)

 

「無理だろ。さっきあんなデカい火の精霊(サラマンダー)を、しかも蒼炎での業火だ。魔力を使いすぎてる」

 

 ズズッ

 

 収まっていた硝子の刀を抜きとどめにと、よろめいた蕗狛へ刀を振り下ろす――その時、

 

「主様、お力お借りします――砂嵐(ダストストーム)――」


 ザザザザザザアアアアア!


 砂嵐が起き、辺りの視界が悪くなる。


「っち!柊か!前が見えん!――主様、お力お借りします!(シールド)!――」

 

 紺は盾で、自分自身を覆い砂嵐から身を守っていた。

 その隙に柊は、血まみれの蕗狛を抱えその場を後にしていた。



 

 暫くして砂嵐は落ち着いていた。辺りは砂で荒れていた。盾の術を解き、顔を出す。


「うげ。砂まみれじゃねぇか。

 ――まぁ、あそこまで傷が深いならしばらくは静かか、死ぬかどちらかだな。むしろもう会いたくない。精霊じゃない蕗狛は魔力が戻っても傷は治らないかから、会わない!

 ⋯⋯漆が、やられるとはな。しかも蕗狛(あいつ)しっかり核を破壊しやがって⋯」

 

 紺はその場に座り込み、どうしたものかと、砂をいじりながら物思いにふけっていた。

 漆を破壊⋯いや、殺された事は存外悔しい。

 ここまで負けたことがない紺は、こんな感情はなかなか持つことはなかった。

 それに⋯このまま主のベンタのところに帰って、スミのようにベンタに飲み込まれてしまえば、もう存在すらできない。お叱りを受けるか、赦されるかは五分五分。


「はあ⋯⋯帰るか、ベンタ様のところに。俺はあそこでしか生きられない」


 紺は服の砂を払い帰路に着いた。



 

小島の木の根に窪みを見つけた柊が、蕗狛と精霊の姿になっていた楸を横にし、蕗狛へ声を掛ける。

 

「蕗狛!蕗狛!息をしろ!頼む!」


 柊が必死に蘇生しようと試みるが、蕗狛は動かない。

 

「⋯柊⋯大丈夫?」

 

 蕗狛の隣で横になりながら楸が訊ねた。

 先程の庇護の中で、魔力が少し戻り精霊の姿ではあるもの身体は起こせないが、話すまで回復していた。

 傷口にドバドバと消毒液をかけ、ガーゼで止血しながら震えた声で柊が答える。

 

「解らない。応急処置はしたけど、傷が深いんだ」

「魔力も足りなさそう⋯ね⋯」

「俺は、魔力を渡す魔術を習得してない。全書読み解けていたならって、こーゆ時思うよ」

「そうね⋯(魔力があればもう少しいいかも知れないわね)」

「春に行けば、椿(ツバキ)が魔力を分ける魔術を覚えてたから、何とかなるんだよ」


 考えるんだ、今ここで何もしないということが一番まずい。ただ、思いつく魔術もない。

 だけど、動かなくては何も始まらない。

 頭を抱え、うずくまる柊を楸は少し微笑ましく見ていた。

 

(あら、柊が取り乱すなんて⋯⋯珍しいわね⋯桜⋯力貸して⋯ね⋯)

 

 楸は蕗狛の手を握り、

 

「――お譲りしますは、我が魔力――譲渡(ジョウト)――」

 

 小さな声がした。

 顔を上げた柊が楸を見ると、紅く小さな光が楸の手のひらから、蕗狛へと渡って行くのが見えた。

 

「⋯ひさ⋯き⋯⋯?」

 

 (桜、ありがとう⋯)

 

 楸は表情が固まったまま動かなくなった。

 

 ――バサッ――

 

楸の体が落ち葉へと変わり、楸は楸ではなくなった。その落ち葉の中に、赤い球体が転がっていた。


「ウソ⋯だろ⋯」


 赤い球体は、楸の核である。

 破壊されない限り、再び「楸」として存在することは出来るが、楸をまた「創る」ことになる。

 そんなこと、魔力が有り余る四季の神様にしか出来ない。

赤い球体に、誰にも知られず暖かな涙が落ちた。


 


「眠れる⋯その(タマシイ)よ⋯今⋯再び⋯我の力で⋯目覚めよ――夏を護りし者よ――覚醒(ウェイク)――」


 蕗狛のポケットで、楸の髪についていた髪飾りがほのかに暖かく輝いていた。

 

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