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夏の日差し

2024.10.05編集

「森の前にある結界で、術を唱える⋯」

 

 楓は森の結界前に立ち、大きく息を吸って、目を閉じた。団長からの任務の為、中で蕗狛を捕まえ帰る。

 初めての一人での任務に少々緊張を覚えていた。

 

「――夏を護りし精霊、榎との契約外から―扉開けさせてもらう―解・強制(カイ・コウアーション)―」

 

 大きな音を立て黒い炎が吹き上げ、結界に円を描きながら鍵穴を示す。

 そこに団長から預かった鍵を差し込み回すと、バチン!と、静電気が起き鍵を通して力が抜けていくような感覚を覚えた。

 

「⋯うぅ⋯なんだ⋯なんか力抜け⋯や、大丈⋯夫」

 

 ぐっと、鍵を握り返し負けじと遠のく意識を保つ。

 そのまま、黒紅の扉が現れドアノブを回すと、目の前に現れたのは、真っ暗な空間。

 

「真っ暗じゃん――主様、お力お借りします――(ファイア)――」


 ボボボッ


 指先に火を灯し、真っ暗夏の中へと足を踏み入れる。



 

 吹き抜ける風が心地よい。緑の香りが開け放たれた窓から、漂う。ただ、部屋の中は彼の吐いた副流煙でいっぱいだった。

 

 カンカン⋯

 

 気だるそうに煙管の灰を落とす。

 机に両肘をつき暇そうに球体を覗き込む男が一人。

 

『んーこのまま行っても暗闇同士で、なかなか会わないんじゃないかなあ。つまんなっ』

『行ってきましょうか?ベンタ様』

 

 煙たいですよ。と目で訴えかけながら、ベンタに話しかけるのは、(スミ)同様、ベンタの部下の一人(コン)である。

 

『そーだねぇ、(コン)。誰と行きたい?』

 

 煙管に葉を詰めながら問う。

 

『そーですねぇ。(セチ)にしましょうか』

(セチ)なら丁度いいかぁ』

 

 パチンと、指を鳴らすと部屋の扉が開き、漆と呼ばれた彼が部屋に入ってくる。

 

『セッちゃん、コン君と行ってきてねえ』

『うっす』

 

 ヒラヒラと、手を振るベンタに二人は頭を下げ、その部屋を後にする。

 

 『さて。――夏が無くなりし今、新たに我が護る⋯想・像(ソウ・ゾウ)――』

 

 フゥっと、部屋に充満していた煙を吹く。そのまま窓から森の方へと消えていった。


 


 

「さて、と。そろそろ行きますかー?」

「どこにだよ」

 

 もうこの会話、地味に三十回は繰り返している、(ラギ)蕗狛(ロハ)の会話。

 空は真っ暗だし、なんて何百回思ったことか。そう思いながらまた空を見上げると、

 

「なぁ、あれ何?煙?」

 

 南の方から煙がフワフワと飛んでいる。

 

「俺らが焚き火してるんだから煙くらいあがるだろーよ、バカチン蕗狛くん」

「あら、ホントに変な煙よ?」

 

 蕗狛の声を聞いて空を見上げた(ヒサキ)が指をさす。

 

「は?」

 

 南から飛んで現れたその煙が空のほぼ真ん中で、ドン!っと音を立てて弾け、目の前が一瞬真白くなる。

 

「なっ!まっぶしっ!」

 

 思わず目を覆い、ゆっくりと目を開けるとそこは先程とはまるで違う光景が広がっていた。

 空には曇りひとつなく、陽の光が体をジリジリと焼くのがわかるほどの晴天。砂浜の前には大きな海が広がり、海の真ん中には大きな木を支えに小島がひとつ。

 

「あっつぅ!何これ!砂?つーか、なに、あれ!水たまり?でっかくねぇ?」

 

 目をキラッキラに輝かせた蕗狛が、砂浜の上をはしゃぐ。

 楸と柊はぽかんと、その様子をただ眺めていた。

 

「ねぇ、何よここ」

「知らねぇー(エノ)の夏とはえらい違いだが、夏⋯だな⋯」

 

 榎が護っていた夏は、木々が青々とし、カブト虫や、夏の花々が咲き誇る花畑が広がっていた。

 

「なぁ!ひーさぁきぃっ!らぁーぎぃー!この水、超冷てぇーよ!」

 

 波打ち際にいると思っていた蕗狛は、荷物をその辺に置き、はしゃいではしゃいで⋯だいぶ沖にいた。あーやって遭難するんだろうなぁ。と、少し呑気にみていたいくらい、蕗狛は楽しそうだった。

 

「これで、夏を満喫したら、春に渡れるかしら?」

 

「どうだろーなあ。ここは榎と契約した夏じゃねぇからなぁー怪しいもんだよ」

 

 見るからに知らない「夏」

 あちこち調べたいところ。と、楸を見るも既に姿はなく、少し離れたところに小さくなった楸が、その辺を散策していた。

 

「おー楸まじかよーもう、居ねぇし⋯」


 自由すぎる二人に若干の「呆れ」を覚えだが、まぁいいかと、柊も少し散策する事にした。

 

 

「はあーすげーなぁー。この水しょっぱいけど、すげー楽しい!確か⋯ウミって言ったっけなぁー。昔本で読んだ気がするの思い出したわ。(トキ)にも見せてやりてぇ」

 

 蕗狛は海の中、大の字になり青空を見上げた。

 未だかつて見た事のない、「晴天」は眩しいくらいに青く、太陽の陽をめいっぱい浴びる。四季の神様に「青空と太陽」を取り上げられていなければ、四季が巡るごとに味わえていたであろう、情緒。

 そのまま暫く波に身を任せていると、砂浜から見えた小島にたどり着いた、

 

「なんだろ、ここ。奥にでかい木がある⋯」


 ちょっとみてこようっ!と、小島に上がり、砂浜に落ちている貝殻を拾い点々と歩き回っていた。


「わぁ!なにこれっ!超綺麗じゃん!」


 その時、暗い影が落ちた。

 

「あれ、これは⋯」

「あのー貴方は蕗狛さんでいらっしゃいますか?」

 

 蕗狛を覗くように声を掛けてきたのは、くせっ毛の頭をかきながら質問してくるは、メガネを掛けた見た事のない男。

 

「何?あんた⋯誰?」

「俺は町の魔術団、甘露部隊隊員、楓と申します」

「はあ?」

「私、少々厄介な任務を受けましてね、私と一緒に町まで戻って頂きたく参上した次第です」

「は?」

「では、参りましょう!」

 

 楓はにこやかに、緩やかに笑ったかと思えば、ギリっと蕗狛を睨みつけて術を発動するため、そらを唱え始める。

 

「ちょ、ちょっと!」

「――主様、お力お借りします!――猛炎・龍(モウエン・リュウ)――!」

 

 激しい炎の龍が蕗狛を目掛け飛び掛ってくる。

 

「⋯それ、連れに来たってよりも()りに来たって感じだけど?――渦潮・虎(ウズシオ・ディグリス)――!」

 

 パンっと手を合わせ印を結び、渦を巻いた海水で虎が現れ、楓の出した猛炎龍を飲み込んでいった。蕗狛は渦潮虎を出したその先から、楓一直線に走りだし、距離を詰めに行った。

 

「お前なぁ、急になんだよ!」

 

 ブンっと、岩刀で斬りかかっていた。

 

「なっにを!(虎は捨て駒?)」

 

 自分の出した猛炎龍の動向を見ていた楓は、蕗狛に気づくのが少し遅れた為、急に出てきた蕗狛が切りかかった岩刀で、腕を負傷していた。

 パタパタと血が落ちるが、そんなのをいちいち構っていられない。

 

「ヤンチャ君ですか?――岩・刀(ストーン・)!」

 

 蕗狛と同じく岩刀を出し応戦する。

 

「町の魔術団とかって言いながら俺になんの用?」

「貴方は、町の法律違反者ですので、団長から裁きがあります!なので、一緒に町まで戻ってください」

「やだねっ!それよりも、お前ら季を殺したろ!」

「季君ですか?」

「そーだよ!季を殺したヤツらのところにノコノコと出ていくと思うかよ!」

 

 ガチっとお互いの岩刀が噛み合って動きが止まった。

 

「何故、季君が死んだことを知っている?」

「あーっと、内緒♡」

 

 ふふっと笑って返し、グッと力を入れ楓の刀を押し上げた。その拍子に楓の腕が後ろ側へと投げ出され岩刀の術が解けてしまう。

 

「なっ!(なぜ簡単に術が解けた?)」

「(え、今ので術とける?まぁ、様子見ようか)

 楓くんは、俺を殺しに来たんだっけ?」

「いぃえ。貴方を迎えに来たんですよ。さぁ、戻りましょ?」

「はい、そーですね。とはならんだろ」

「――主様、お力お借りします――岩蛇(ストーンパイソン)!」

 

「楓くんは、岩が好きなの?⋯それとも⋯岩系の魔術()()習得、出来なかったのかなー?」

 

 逆撫で。以外の何者でもない言い回しで相手の様子を伺う。季を殺したヤツらの一人に手加減なんて、する必要もなく、

 

「――炎・弾(ファイア・ショット)――」

 

 ボボっと、手のひらに炎を出し、グッと炎ごと握り再び手を開いた時には、右手の指先に炎が弾丸になり、放たれるのを待っていた。

 

「岩蛇!蕗狛くんを食べて差し上げなさい!」

 

 楓の号令で岩蛇が、蕗狛の方へと体を捩りながら噛み付きに向かっていた。

 

「――(トゥイグ)――」

 

 左手の甲に枝を巻き付け、向かってくる岩蛇に向かって投げ岩蛇の頭に巻き付けた。その巻き付けた枝を使い、岩蛇の頭へと登る。

 そのまま岩蛇の身体を走り、術者である楓の元へと距離を詰める。

 

 楓の姿を捕らえた頃、

 

「――飛ぶ(フライアー)――」

 

 ダン!岩蛇を思いっきり踏みきり、大きく空へと飛び上がっていた。

 飛び上がる際に踏み台にした岩蛇の術が解けてしまう。空高く飛び出し視界は良好。

 

「――弾丸(ショット)――!」

 

 ダン!ダン!ダン!ダン!

 

 四発の弾丸が楓へと打ち込まれた。

 肩・腕、足と腹部にそれぞれ一発づつ撃ち抜かれていた。

 

「ゴフッ!」

 

 大きく後ろへしなる身体。追いつかない思考。すぐに解けた術。負ける要因はいくつもあったように思う。負けを意識してしまえば、もう体は動かなった。

 楓の倒れた所へ蕗狛が駆けつけ、様子を確認する。どうやら意識を失っているようだった。

 意識のない楓に思わず、

 

「なぁ、あんたその団長?って人の事信じていーのかよ」


 声をかけてしまうが、返事は無い。

 

「⋯死んだのかな?でも⋯炎だったし、結構小さく弾丸作ったから致死量の出血も無いはずなんだけどなぁ⋯」


 息を確認するが、波の音がうるさくて全然聞こえない。


「困ったなぁー。話聞きたかったんだよなぁ⋯」


 はぁ。と小さくため息をついて、その場に座り込んで、暫く楓を見ていた。


「俺もついに⋯人殺しかぁ⋯母さん怒るかなぁー。や、それよりもおーばあちゃんに、怒られるぞコレ⋯え、やだなぁ⋯楓も死ぬこた無いだろ?だってそこまで強い炎じゃなかったろ?」


 頭を抱え、ブツブツと文句を言っていると、ズンっと音がして楓の体が溶けてゆっくりと消えた。


「ひぃ!何!何でそうなるの!ってか、楓⋯人間では無かったってこと?核もない?」


 ゆっくり体が消え、楓がいた所には人形が落ちていただけで、核はないようだった。


「核は無い⋯ね⋯。それになにこれ⋯人形?楓の趣味⋯なわけはねぇーよな⋯」

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