表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/55

陽葵と団長

「団長、あの⋯」

 

 陽葵(ヒナタ)が恐る恐る、小さな声で団長に話しかけるが、他の誰も居なくなった会議室はしんと静まり返っていた。

 曇り空の上では陽が高くなり、昼過ぎを回っていた。

 

「陽葵、なぜ(スイ)の手を取らんかった」

 

 長は小さく問いかけた。

 

「それは⋯翠の言っていた「団長が四季の神様を怒らせたって」⋯正直、疑問は過りました。

でも、団長は四季の神様を怒らせた時、まだ生まれてないじゃないですか。百年も前の話ですよ?

 それに⋯私の父はどうしたって団長(あなた)なので、その父を裏切るなんて⋯出来ませんでした」

「そうか⋯」

 

 長は、椅子を引き深く腰をおろした。


 

 寒露部隊。隊長、陽葵、二十歳。

 天真爛漫ではあるが、少し自分に自信が無い。立葵(タキ)とは双子の兄妹である。

 二人が二歳の時、両親が不慮の事故で死去。その後団長で、村長であった長が親代わりになり、育てていた。

 

「ちょーさあん!あっち!あっちに行ったの!ウサギさんだよ!」

「陽葵ー!どこいったのじゃ?」

「長さんは寝てるの?おめめにまゆげがこんにちは、してるよ?」

「長さんが、ご飯焦がしたー!」

 

 長は子供を育てことも、家族を持ったこともなく、最初は三人で居ることが大変だったが、いつも長と一緒にいた二人は、町の人々からも慕われ皆が家族のように暖かく、二人の成長を見守っていた。

 立葵と陽葵が十歳の頃、長に言われ「町の魔術団」に入団した。

 

「二人とも、紹介しよう。今リーダーを務めている(リン)。髪が長くひとつで結んでいるのが(カエデ)、眼鏡を掛けているのが(レン)だ。歳はお前たちと同じだ。仲良くやってくれ」

「お願いします」

 

 幼い頃から魔術の素質は十分に備わっていた二人は、長からの指導もあり、十歳でも十分に戦力になっていた。

 ただ、この頃から立葵が長と陽葵から離れ、何処かで訓練を積み始めていた。

 

「ねぇー、長さん、お兄ちゃんはどこ行ったのかなあー?」

「さーなぁ。友達も増えてきてるし分からんのう」

「夜ご飯には帰るかなー?」

「どーじゃろーなぁー」

 

 それから三年半の月日が過ぎ、立葵があまり見慣れない二人を連れて魔術団にやってくる。

 

「長さん、お願いがあります。(スイ)(アサヒ)、それから碧李(アオリ)です。この三人も魔術が使えるので、団員にしてくれませんか?」

「そうか。一度どの程度の魔術が使えるか、訓練で見てみよう。良ければ入団としようか」

 

 程なくして三人の入団が決まる。

 こうして今の「町の魔術団」が完成した。

 

「陽葵はワシの娘じゃよ」

 

 そう言い長は陽葵の肩をポンと叩き、優しく笑った。

 

「ちょーさん、さっきは引き止めてしまって、ごめんなさい。でもやっぱり仲間内で揉めるのは嫌なの」

「解っておるよ。陽葵の優しさじゃろう。ありがとう」

 

 肩に置かれた長の手に、暖かな陽葵の手が置かれた。その手をギュッと握り、長が再び笑った。

 

「しかしあれじゃな。そろそろ⋯頃合⋯じゃろな⋯――意識・盗(ルト・キシーィ)――」

 

 そう術が唱えられると、陽葵は目を瞑り、その場に倒れ込んでいた。

 長は、陽葵が触れた手の甲を、スっと撫でると、皮膚が新しい皮膚へと生まれ変わっていた。それは触られたところが嫌だったから、拭いた。と同じ行動心理である。

 

「お前は本当に馬鹿で、扱いやすく何も知らずに、育てがいのあるやつだよ」

 

 横たわる陽葵を靴でツンと蹴り、意識がないことを確認した。

 

「さて。翠の方も気にはなるが、まずは人員配置のし直しと、計画の練り直しだな。陽葵、少し寝ていろ――眠り人形(スリープ・ドール)――」

 

 長が術を唱えると、陽葵の体が十五センチほどの持ち運べるサイズになる。そのまま雑にポケットへ入れる。

 長が向かったのは、凛達のいる懲罰房だった。

 

「なぁ、立葵、お前どこまでの情報を手に入れたんだよ!」

 

 立葵は壁から下がる鎖に繋がれ、至る所に青アザができ、頭からは血が流れていた。

 

「⋯さぁーな⋯知らねぇ⋯よ」

 

 ゴリっと髪を掴み、下がる頭を無理やり持ち上げ、凛はさらに質問を続けた。

 

「知らねぇーって、そんな訳ねぇだろ?次は碧李(アオリ)が死ぬぞ?」

 

 立葵の前には、手錠をはめられ動かなくなった旭が転がっていた。旭の体も至る所にアザや血の流れたあとがあった。

 

「旭も、碧李も死なねぇーよ⋯ばーか⋯」

「またそんな戯言を!」

 

 ゴッ!

 

 鈍い音を立てて、凛の拳が立葵の腹部に入る。

ゲホゲホ!と、咳き込みながら、立葵がニヤける。

 

「やー効くわぁー。普段殴られたりしないもんで⋯ね⋯」

「強がってないで、どこまで調べたか。を言ってくれりゃいいんすよ?」

 

 楓が旭に腰かけながら立葵に話しかける。

 

「や⋯むり⋯かなぁー?」

「あ?」

「だってねぇ、言ったら言ったで⋯情報の出処⋯聞くっしょ?俺⋯町の人達⋯危ない目に⋯合わせたくない⋯しねぇー」

「⋯はは。かっこいーわ、俺らの大将は」

 

 気を失っていた碧李が、目を醒まし手錠がされたままの右手をヒラヒラとさせながら、壁にもたれて答えた。

 

「お前、まだ生きていたのか!」

「あぁ、俺は不死身だからねぇ」

 

 碧李がふざけながら答え、立ち上がろうとした時、

 

 ぎぃぃぃ

 

 重たい懲罰房の扉が開いた。

 

「まだやっていたのか」

「団長、すみません。なかなか口を割らずで⋯」

「どうせ、たいした情報を仕入れてはないじゃろ」

「団長か。いよいよ殺しに来たか?」


 碧李がふざけたように団長へ声をかけると、伸びた眉毛の隙間から獲物を捕らえた、蛇のような睨みで碧李をみつめ、

 

「――主様、お力お借りします。雹・弾(ヒョウ・ダン)――」

 

 長は立ち上がっていた碧李に向かって、三発の雹弾を浴びせていた。

 

 ダン!ダン!ダン!

 

 どれも碧李の腹部、脚、頭にきっちり収まっていた。

 ヒュウっと、息が上がりそのまま、碧李は腰が折れ倒れ込んでいた。

 

「⋯碧李?おい!碧李!」

 

 立葵の碧李を呼ぶ声が懲罰房に響いていた。

 

「頭は、流石に助からないんじゃねぇーの?」

 

 楓が碧李に近づき確認する。

 鼻や口から血を流し、息をせず、ただただ横たわっている。

 

「さて。旭も碧李も、もう居ないぞ?どーする?立葵よ。知ったことを話す気になったか?」

 

 長は立葵の前まで足を運んだ。立葵の頬に着いた血を拭き上げた。

 

「⋯ならねぇーよ。話してどうするんだよ。そもそも、知ったからって俺らが⋯殺されるような話じゃねぇだろ?⋯それでも口封じしたいならさっさと殺せばいいだけの事。何を躊躇う?」

 

 仲間を二人も殺され身動きの取れない立葵からすれば、絶望だろう。もう死を覚悟していた。

 何より、この懲罰房に入れられた時から諦めていたのかもしれない。

 この懲罰房の中で魔術は団長しか使えない。それはここが「特別室」だからで、この部屋は団長の結界内になる。自分以外は魔術を使えないようにしておくことで、自分が絶対的優勢に持っていく。魔術が使えれば長に勝てた人でさえ、この部屋で犠牲になったとも聞く。

 そして、大半が立葵と同じように「団長の過去を調べた」罪によって。

 

団長(オヤジ)⋯いつ()る?今か?そろそろ、傷が痛くてしょーがねぇんだけど?」

 

「こそこそと嗅ぎ回っているような奴に、「親父」なんて呼ばれたかねぇーなあ」

「そーかい」

 

 立葵はヘラっと、笑ってはいたが何処か苛立ちを隠しているような、目付き長を睨みつけていた。

 

「――主様、お力お借りします。雹・弾(ヒョウ・ダン)――」

 

 至近距離から三発の雹の銃弾が、立葵の心臓めがけ飛んでいった。

 

 ドン!ドン!ドン!

 

 全て避けることなどできない。立葵自身避ける気もなかった為、全て受け取って大量の血を吐き、そのまま伏せった。

 

「凛、手間をかけるな。聞きたいことを喋らないやつは消していい」

「はい⋯すいません」

「長さん、なんでこの部屋だったんですか?俺らだって魔術が使えれば⋯」

「お前たちじゃ、この三人と魔術戦では勝てないだろうからな」

「な⋯んだ⋯と⋯」

「楓、やめろ。長さんが言うのは間違いない。俺らじゃ魔術を使っても立葵たちには勝てない。これは紛れもない事実だ」

 

 苛立ちを隠さない蓮に対し、凛が静かに諭すように話をする。いや、蓮を諭すより凛自身を落ち着かせるためであろうことは、楓にはわかっていた。

 

「まぁ、そんな事よりも、作戦を変更する。楓はこれから夏へ行け。行って蕗狛を確保してこい。立葵には勝てなくても、蕗狛はまだ魔術を使い始めたばかりだろう?お前でも勝てるだろ」

「⋯それは、わかりませんが⋯任務はわかりました⋯」

「それから、こいつを連れて行け。役に立つはずだ」

 

 そういって小さくなった陽葵に腕輪を着け渡した。

 

「これは⋯陽葵ですか?」

「ああ。夏に着けば勝手に元のサイズに戻るようにしてある。好きに使え⋯⋯あぁ、殺しても構わんぞ。()()()は誰にでもあるからなぁ」


 つまりは殺してこい。との命令だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ