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天晴  作者: くまばち
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小学院、中学院

行くあてのない俺を拾ってくれたのは村の様子を確認するために来ていた青の国所属の兵士だった。本来だったら孤児院送りになるところを善意で面倒を見てくれることになった。


「孤児院に行ったやつはロクな人生を送れないんだ。国は豊かでもみんながその豊かさを享受できるわけじゃないんだ。


おっちゃんはパッと見無愛想で感じ悪そうだけど、実のところは優しくていい人だった。


「お前が中学院に行くまでは俺が責任持って面倒見てやる、あとは自分でなんとかしろ

ここ青の国では中学院までは義務教育とされている。それでも中学院を卒業するのは人口の半分ほどらしい。俺は豊かさとやらをキョウジュできるらしい


「まあ、まずは小学院にいっていろいろ学べばいい。ただ高学院に行きたいんだったら宮高院を目指すんだな。無料なのはあそこくらいだ。


「宮高院?なんで無料なの?


「宮、ここ青の国にある青宮が運営してるからだ。優秀な人材の育成と勧誘が目的だな。


-宮ヲ恐レヨ- *死*


「え、えーと、宮には行きたくない。


「…そうか、なら無理に高学院に行く必要はないぞ。ただ、高学院を出るだけで就ける職業が大きく増えるからな。学費高すぎてうちに払える余裕はないけどな。


小学院には転入って形で入ることになった。意外にも友達はすぐにできた。アオとアシラの二人の女の子だ。二人ともいいとこの家系のようで頭も良かった。勉強は嫌いだけど、二人と一緒にする勉強は楽しかった。




小学院も2年目、9歳になった俺たちに新しい講義の科目ができた。奇術と闘術だ。


「80%の人は何かしらの奇術が使えるとされています。身体強化をしたり、何もないところからナイフを出したり、水をぬるま湯に変えたり。生まれながらにして一人ひとつ持ちます。奇術が使えない人は奇術を持っていないというよりは発現できていないとする説が有力です。


「俺、水浮かせることができます!


「それはすごいわね!何もないところから水を出すことはできる?


「何もないところからは出せないです、


「そう。それでもこの若さで発現してるなんて十分すごいわよ。奇術師の世界ではね、火、水、氷、雷を自在に操る属性奇術は重宝されているの。持ってるだけで宮高院から推薦がくるほどよ。


宮高院からの推薦。俺もすごい奇術が使えたらくるかな。宮高院は卒業しても宮には行かな行くていいみたいだし属性奇術あったらいいな。


「よーし、みんな揃ってるな。闘術の講義始めるぞ。この世界には魔族は何種類いると思う?そこの君!


俺!?


「えっと、(百魔夜行があるくらいだし)数千種くらい?


「なかなかいい線いってるな。大型種は百種、中型種は2百種、小型種は2千種と推測されている。


「「サファすごい!


「はん、適当言ってるだけだろ。


「仮に適当でも当たってるんだからすごいの!


アオとアシラは少し熱を帯びて噛みついた男子を凄む。


「この国は青宮に守られている。魔物を見たこともないものもいるだろう。ただ、国を出ればそうはいかない。無数の魔族から身を守らなきゃいけないわけだ。


「先生、護衛の人に守ってもらうじゃダメなの?


護衛の人がいるの??


「護衛の人がいるのか笑。仮に君が一切戦闘に関わらないとしても魔族を理解することは大切だ。毒を撒き散らす魔族が出たら薬が必要だろう?そこに薬師がいなくても勉強して知識があれば近くの薬草で解毒できるかもしれない。身を守る上でこの講義はとても大切なんだ。


「今はまだ座学しかしないが、半年もすれば闘術を実践形式で学んでいく。戦闘の職種を一切考えてないのであれば成績は気にする必要はないが、戦闘の職種や宮高院を考えてるんであればこの講義の成績は重視される。頭には入れとくように。




難しいことはないはずだった。ただいい成績を取って宮高院にいくだけ。


「おまえ、学校楽しんでるか?


おっちゃんにきかれてドキッとした。


「楽しんでるよ、友達だっているし。


「そうか?おまえから学校の話きいたことないぞ。


毎日充実してる。笑う時だってある。それでも幸せを感じる時にはあの時の音 バキャ が頭に響く。目の前の友を救えなかった俺に幸せになる権利はきっと無い。


「俺はお前を助けたくて拾ったんだ。幸せになってもらわにゃ俺が困る。


「おっちゃんは優しいな。でも俺に幸せになる権利はきっと無いや。


声に出てた、やばい。


「…幸せはな、幸せになりたいやつにしか訪れないんだよ。だからお前には幸せは訪れない。でもな、幸せを願うやつには絶対訪れるんだよ。時間はかかるかも知れねーけどな。


「だからサファィア、無理してでも幸せを願っとけ。そしたらそのうち幸せになっからよ。


「ありがとう、俺はおっちゃんに拾ってもらっただけで十分、


「欲深くていい!サファに似合うのはしみったれた表情じゃなくて満面の笑みだからよ!だから笑っとけ、苦しくても笑っとけ、そしたらきっと幸せがついてくるからよ。


そう言うと酒瓶から手を離しておっちゃんは寝た。普段はこんなに喋る人でも酒を飲む人でもない。


幸せになりてぇ、満面の笑みでおっちゃんと過ごしてぇ。少しだけ、少しだけなら幸せになってもいいかな?なあ、エメラルド。




勉強は嫌いだ。面白くない。でも中学院から始まった生命の授業は面白かった。大きな魔族が小さな魔族や動物を食べ、その小さな動物が虫を食べ、虫は目に見えないほど小さな生き物を食べる。その小さな生き物は朽ちた大きな魔族を食う。命が繋がっていることに感激を覚えた。命のやり取りは一方通行ではないのだ。きっと俺が食われても巡り巡ってまた同じ場所に戻ってくる、そんな気がした。


「なんでお前に勝てないんだよ!こっちは家庭教師もつけてんのに!


知らない、俺が聞きたい。何もしなくてもなぜか闘術の授業は負けたことがなかった。宮高院を目指す俺にとってはいいことなのだが。


「無視すんな!


勉強は家庭教師をつけられる恵まれた子供とそうでない子供で大きく差がつく。中学院までは問題ないが高学院を目指すとなると大事な問題だ。その点は俺は友達に恵まれた。アオとアシラは恵まれた子どもの方で地頭もいい。学校の休み時間や放課後の時間を使って俺に勉強を教えてくれた。友達と過ごすこの時間が俺は好きだ。




「はぇーーー…


「サファ目につくため息つくな、うっとうしい!


「モブのお前にこの気持ちが分かるか、この成績次第では宮高院の道は閉ざされ無職の道を歩むしかないのだよ。


「サファなら大丈夫よ!万が一ダメでもうちで雇ってあげるから!


「ありがとうアシラ、でもこれ以上2人に甘えるわけにもいかないよ。最悪0から冒険者をー


「おーい、席付けー、成績渡すぞ。ほい、サファ。


「どうだったサファ?


「宮高院のボーダーライン超えてた?


「…超えてたー!!


クラスから祝福の声が響く。


でも本当の問題はこっから。宮高院を受ける人は毎年100人以上いる。でも合格するのは10人くらい。その高い壁は闘術試験にある。実技試験とも呼ばれる1対1の実践形式で己の実力を示さなくてはならない。


「あとは実技試験のみ、やってやんよ!


「なんかサファ楽しそう。いい顔してる。


「そう?満身創痍でギリギリの状態なんだけど。


「サファは学校で大人しくしてるよりギリギリの状態で生きてる方がイキイキするのかもね。私たちと勉強する時ともまた違ったいい顔よ。


「なんかよくわかんねーけどありがとう!頑張る。




準備はしてきた。おっちゃんに短期集中で武術を鍛えてもらった。俺は奇術が使えないから拳と刀だけで戦わなくちゃいけない。相手の奇術に対抗する手段もないけどもうあとは流れに任せるのみ。


「ここで戦ってもらいます。


受付のお兄さんが案内してくれたのは黒い立方体の部屋。外からは中が見えない。


少ししたら国の兵士の格好をした人が入ってきた。


「見た目はやんちゃそうなのに落ち着いてるね。一応伝えとくけど僕は奇術使えないんだ。それでも上級兵にいるくらいの実力はあるからさ、


「安心していいよ。


得意そうに笑ったが鼻にはつかなかった。こんな状態なのに頭に浮かんだのは6年前の百魔夜行のことだった。エメラルドを食った魔族、それを襲った鬼火の魔族。あいつの一瞬の狩の姿が鮮明に浮かんだ。


「よろしくお願いします。


「うん、よろしく。木刀でいいの?真剣でも構わないよ?


「木刀で修行してきたので。


「そうか、じゃあ始めようか。


木刀がぶつかり合う心地良い音が響く。その音は時間と共に速度をあげる。速度の上昇は止まらない。


すこぶる調子がいい。体が軽い。勝つこととか試験とかどうでもいい。今はこの感覚に身を委ねたい。


先に根を上げたのは試験監督のほうだった。速すぎるサファについていけず、被弾が増えた。


「君、すごいね。中学院の強さじゃないよ。今の僕じゃ敵わないね。試験は合格、その上でこれからの君の未来のためにー


それは奇術の使えない弱者のための術、黒い立方体の中で鳴り響くは、


[活晴]


体が震えた。目の前の男は目に見えぬ何かを纏い、青い蒸気を発している、まるで魔族のような威圧感だ。


今までとは比べ物にならない速度と威力で振るわれる木刀はもはや真剣より脅威だ。


痛い、きつい、逃げたい。誰か、誰かー


 欲深くていい!サファに似合うのはしみったれた表情じゃなくて満面の笑みだからよ!だから笑っとけ、苦しくても笑っとけ、そしたらきっと幸せがついてくるからよ。


笑え!俺は、俺は幸せになるために宮高院に行くんだ!笑え!


ボロボロの体から溢れるのは満面の笑み。そして浮かぶはあの鬼火の魔族の一撃。喰らえ、喰らえ、喰らえ!


[百魔喰]


刹那、サファから繰り出されるは一線の刺突、それは試験監督の腹を貫いた。


「活晴使って敵わないか。見事としか言いようがないね。




「試験で倒れたって聞いてアシラと慌てて駆けつけたのよ。サファ大丈夫?


「試験監督倒して、気づいたら家で寝てた。今も体超いてーよ。


「サファ、サファィア。先ほど宮高院の方から試験の結果が届いた。


試験官を倒した。合格以外ないはずだけど、あれって倒して良かったんだっけ?記憶が朧げだけど大怪我させた気もするし。あれ、もしかして宮高院には人として適してないとかで不合格とかある?あるの?


「はぇー…


「…合格だそうだ。おめでとう。


その日は今まで見たことのないようなご馳走をたらふく食った。おっちゃんとアオとアシラとその家族と泣いて笑ってまた泣いて。なんかよくわかんないけど幸せな気がした。笑うと本当に幸せになるんだな。


バキャ


エメラルド、忘れてないよ。一緒に遊んだ日々も森を探検した日々も。あの時何もできなかったことも。俺、強くなるから。今度あの時と同じ状況になっても助けられるくらい強くなるから。だから、だから今だけは幸せでいさせてくれ。

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