宮高院 1年 冬
師匠の修行は俺の成長とともに激しさを増した。俺は相変わらず宮高院の授業を寝てばかりだったが、たまに起きれるくらいには元気な時もあった。そんときに授業を聞くと、退屈だと思ってた授業も意外と面白かった。中学院とは異なり宮高院の教師は国の中でも一流の人たちが集まっている。そういう人たちが話す経験談は他では聞けない楽しさがあった。あと俺はやっぱり生命の授業が好きだ。この授業だけはどんなに眠くても起きるように努力した。まあ、起きれないことも多くて努力しただけなんだけどな。
先の百魔夜行で宮本院は戦闘員の1/4を失った。宮本院だけじゃない、国の兵士も多く亡くなった。その分国からの依頼は冒険者に流れることになり、冒険者たちは大いに潤ったそうだ。俺たち学生はというと、国公認の冒険者とともに現場に駆り出されていた。こんな環境じゃ学生も貴重な戦力だ。俺や完全復帰したイズチは比較的高難易度の依頼を、まだそんなにランクが高くないオロやミドロは比較的低難易度の依頼を受けた。サソリの魔族の一件のようなアクシデントが起きる可能性もなくはないが、俺たちは実践を積むことでメキメキと実力をつけた。
特に何か起きるわけでもなく、俺たちに進級試験の時がきた。オロ様イズチ様そしてミドロ様の完璧なノートのおかげで俺は学術試験を突破できた。いやー、友達がいなかったら俺確実に退学だな。今の環境に入れるのはみんなのおかげ、ありがたやありがたや。
ただ、そんな悠長なことを考えてる余裕はない。闘術試験が控えているのだ。闘術試験は基本的に学年に相応しい実力があれば合格になる。故に俺が落ちることはほぼほぼない。一方で、学生より試験監が弱ければ正確に実力を測ることはできない。今、自分がどれほどの強さを保有してるのか把握することも闘術試験の目的の1つなのだ。
半年ぶりの試験会場、黒い立方体の部屋に俺は入った。今回の相手はまだ来てないようだ。
嫌な感覚がした。悪意に満ちた腐敗した感覚とでも言おうか。今回の相手が入ってきた。
「お前が噂のサファか。見るからにクソガキって感じだな。真剣も奇術も使わずにS級ぶっ倒すなんて頭いかれてんな。
この人口悪いな。でもたたずまいから今まで見てきたAランク冒険者とかとは別格なのがわかる。
「一応お教えといてやるよ、俺は宮本院のもんだ。
宮本院…!ついに宮の最高戦力が来たか。つまりSランクと同等、それ以上の力を持ってるわけだ。
[影縫い]
足が動かない。影を使う奇術か。
[活晴]
俺は瞬時に活晴を展開した。相手の攻撃は早く強い、でもその剣術の流儀は授業で習ったやつだ。知ってればどうとでもなる。体の後ろを狙われようとそれに対応できるだけの剣術を持っている、師匠の修行はどこまで見越しているのだろうか。
相手が影縫いをやめた。自由に動けるようになった。次はこちらの番。と行きたいところ間髪入れず相手の攻撃がくる。
[影烏]
[影槍]
[影波]
相手の攻撃は確かに強かった。でも活晴を使ってる俺にはどれもまだぬるい。俺は思うがままに刀を振るった。しかし影の盾で相手には届かない。
相手は奇術を展開しつつ剣術で仕留めるスタイルだ。どんなに防御が堅かろうが刀を奪って仕舞えばどうということはない。
俺は刀を壊すつもりで木刀を振るった。
[壊れろ]
相手の刀は根本から2つに折れた。その時相手の雰囲気が変わった。まずい、これは”本物”だ。
「お前まじで気に食わねーな。名前持ちの刀を木刀で折るとかありえねーだろ。もういいよ、お前死ね。
相手が左の人差し指を立てた。次に右の人差し指を立てて口の前で両の人差し指をクロスさせた。そして発するは
[発晴:影庭心需]
その瞬間世界が影に包まれた。それと同時に相手は影縫いを展開し俺の動きを奪う。追い討ちをかけるように10を超える影の烏がこちらに襲いかかる。
なんだこれは、明らかに奇術がブーストされてる。さっきまで発現できる奇術は1つまでだったし、影烏の数も倍以上に増えてる。
考えている余裕も与えてくれない。影縫い、影烏に並行して影槍が俺の右手を貫いた。さっきまでとは違い1本に絞って強度をあげた槍。もう木刀は持てない。
痛いがそんなことはどうでもいい。呼吸を整えろ、活晴を切らすな。
気がつくと相手が消えていた。どこに消えた、わからない、わからない。一か八か、奇力を心臓に集中した。頭を貫かれたら死ぬが対人では心臓を狙うのがセオリーなはず。
生ぬるい血の感触がした。気づくと俺は胸を影の槍で貫かれていた。心臓は守れた、が他の臓器は完全に損傷してる。
近くに折れた刀の刀身が見える。俺は崩れるように地面に、影に落ちた。
わからないことをわかろうとするな。わかるものをわかればいい。師匠の教えが頭に浮かんだ。
俺は死ぬだろう、でもこいつを生かしておけばまた新たな被害者が出るかもしれない。それがイズチたちなんてことはあってはならない。
俺は今自分に見えているもの、聞こえるもの、全てを感じとった。影の中に沈んでいく感触、鋭利な刀身、影の中の、あってはならないはずの存在、異物感。
「俺は刀は使えない。でも折れた刀身であれば相手の心臓を貫くこともできるんだ。
「化け物め
部屋の中の結果が解かれた。俺は血を吐きながら外に出る。受付の男性が慌てて近づいたところで目を閉じた。