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天晴  作者: くまばち
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宮高院 1年 春

俺は宮高院に入ったことを大歓喜した。宮高院の衣食住はどれも一級品だった。特に食事、これは衝撃だった。おっちゃん家で食べるご飯ももちろんおいしかった。だけれどただの鳥を焼いて塩で味付けしたものとハーブで整えられたポポのたん。人参だけのスープと魚介類たっぷりの野菜スープ。青宮直属の高学院はレベチだ。


俺は宮高院に入ったことを大後悔した。師匠ガチャに失敗したのだ。宮高院には師弟制度がある。3年間武術や奇術を学校以外で学ぶというものだ。師匠はこちらから指定することもできるが指定がなかった場合は宮高院の方で手配してくれる。


都市部から少し離れた砂漠地帯にアマツという武人がいた。いかにも強そうで、大型の魔族にも素手で勝てそうな感じすらする。


「お前は今日から俺の愛弟子だ。よろしくな。


「よろしくお願いしま


目にも止まらぬ速さで鉄拳が腹を貫いた。幸いにも風穴は開いていなかったが死ぬほど痛い。


「いつ何時も油断するな。魔族の前でも、人の前でも死ぬ時は一瞬だぞ。


「しばらくは弟子はとらないつもりだったんだがな、愛弟子の一人から面倒見て欲しいって頼まれてな。ほれ、お前の試験監督をした奴がいただろ、あいつが俺の弟子でな。俺が推薦されたってわけだ。


「あ、あの、今からでも師匠を変えてもらうことはできないでございますしょうか?


切なる思いから今まで出たことのないような敬語が出た。このままでは宮高院を卒業することはおろか半年と続けられる気がしない。


「安心しろ愛弟子、俺が1人前の奇術師にして見せるさ。


あ、終わったわ


「して、愛弟子よ。なぜ宮高院に来た。そしてこれから何を成したい。


俺は今までのことを全て話した。百魔夜行で家族と親友を失ったこと、いまだに-宮ヲ恐レヨ- という謎の言葉が頭に流れること、うまく笑えないこと、大切な人を守れるように強くなりたいこと。


「なるほどな、その謎の言葉が頭に流れると言うのは呪いの奇術が原因かもしれんな。生まれつきとなると母親が子を宿した時点で呪われていた可能性が高いな。それとも村のものが呪った可能性もなくはないが。いずれにしても宮とは距離をおくにこしたことはない。呪いが悪化する可能性もあるからな。目をつけられないようにあまり派手なことはするなよ。



師匠との修行は過酷だった。あざと傷が日に日に増え、毎日疲労困憊。眠すぎて授業など聞いてる余裕はなかった。授業を聞かないことで怒られることはなかったが、教師からはあまりいい顔をされなかった。


「サファ、明日は実習だ。クラスのほか3人と引導のものと一緒に近辺の街を荒らしてるファグを狩ってきてくれ。


青宮の国から近辺の街へはガルーの荷車で移動した。ねみぃ。


「俺はCランクの冒険者だ。よろしくな。今日はファグの討伐、それほど難しくはないが初めての実践となれば油断は禁物だ。いざとなればおれが手を貸すが自分たちだけで倒す心持ちでいてくれ。


「ファグってどんな魔族なんですか?


「ファグは豚のような魔族だよ。サファィア君、入学してすぐの授業で習ってるよ。


「あ、そなんだ。えっと、サファでいいよ、君たちの名前は?


「俺はイズチ。こっちの二人はオロとミドロだよ。改めてよろしく。


「よろしく。イズチとオロとミドロだね、覚えたよ。


街に着いてからは歩いて移動した。どうやら少し離れたところにある畑を荒らしてるらしい。


「よし、あそこに2体のファグがいるな。1体ずつ仕留めよう。誰から行く?


「俺が行きます。


オロが刀を抜いた。走って近づくと一瞬姿が消えてファグの前に瞬間移動した。瞬歩というらしい。オロの奇襲は見事に成功したが、刀の1振りでは傷がついただけで致命傷にはならなかった。


そこで次はミドロが奇術を使った。岩というより石といった方が正確か、何もないところから石の礫をファグにお見舞いした。ファグは少し怯んだが効果は薄いようだ。


ファグがこちらへ猛突進してきた。俺は木刀を構えた。


[直立する壁]


イズチが詠唱すると同時に透明の壁が目の前に現れた。猛突進したファグはぶつかってめまいを起こしている。その隙にイズチは刀で心臓を1つきした。ファグは動かなくなった。


「イズチ君やるね、、非のつけようのない完璧な狩だったよ。じゃあもう一体はサファ君にお願いしようかな。君はどんな奇術が使えるんだい?


「俺は奇術が使えないんです。だから、


「奇術が使えないのに宮高院に入れたのか!?それは楽しみだな。じゃあ早速やってくれ。


この3月間ひたすら師匠と修行してきた。木刀の扱いにも大分に慣れてきた。でもいざ実践になるとこうも緊張するものか。


こちらに気づいたファグが警戒してる。やろう、1つ、呼吸をした。軽快な足取りでファグに近づく、ああ、まだあの鬼火の魔族が頭に浮かぶ。あの刹那をもう一度。


[百魔喰]


木刀がファグの脳天を貫いた。熱い血の感触に高揚感を覚えた。俺は1人で魔族を倒したんだ。


「サファ!逃げろ!ドスファグが突進してきてる!


ファグよりも2回りくらい大きい魔族がこちらに突進してきている。一旦その牙を折る!


ドスファグの大きな牙と交差した木刀は一瞬耐えたがすぐに折れてしまった。


どうしようもなくなった時は気合いだ、それで大体解決する。いいか愛弟子、もう無理だって時はあの言葉を叫ぶんだ。そうすれば何とかなるってもんよ。


師匠、いまがその時ですよね。


ドスファグがこちらをめがけて突進してくる。


「気炎万丈ー!!


両角と両手がぶつかる。ドスファグのチカラはとんでもなく強かった。後ろに持ってかれる。でも、俺、もう負けねえから。


「おらぁ!


出せる力振り絞ってドスファグをぶっ飛ばした。


「イズチ!とどめ刺して!


イズチが的確に心臓を貫いた。ドスファグ乱入事件はこれにて一件落着した。


この実習からと言うもの、俺はイズチ達と過ごすことが増えた。最近は師匠くらいとしか飯を一緒に食べてなかったからなんか新鮮だ。


「なあ、サファって真剣に使わないのか?木刀でも十二分に強いけどもっと強くなれるじゃん。


「オロ、いいとこに気がついたね。実は俺師匠との約束で卒業まで木刀以外使えないんだよね。


「ドヤ顔うざ!でも木刀じゃこの前みたいにサファの力に耐えられなくて折れそうじゃん、そこんとこどうすんの?


「あー、なんかね、師匠からやたら丈夫な木刀譲り受けたから大丈夫。なんかいい意味で呪われた刀らしい。


「そもそも疑問なんだけど、なんでそんな約束したんだ?これから先のことも見越すなら真剣の扱いも慣れといた方がいいだろ。


「俺は奇術が使えないからね。まずは剣術と闘術の基礎をこの3年間で身につけろってさ。でも実際師匠と修行してるとまだまだだなって痛感するんだよな。


「真剣しか使ってない俺たちにその教えは刺さるよな?イズチ。


「俺たちも精進しないとな。そういえば俺とサファがDランクに認定されたそうだ。この間のファグとドスファグを仕留めた功績が認められたらしい。


「そのランクって何?なんか冒険者にもあるんでしょ。


「「「はぁー。


「サファ、修行が大変なのは分かるが少しは授業を聞いた方がいい。宮本院に入らないとしても卒業してから役立つ情報は多い。


「ごめんなさい。


「でね、ランクってのはね、その人を表す強さだよ。Dランクならそれに相当する魔族や事件を1人で担えるようになるんだ。EDCBASって順にランクが上がってくんだよ。


「ありがとうミドロ。ちなみになんでAのつぎSなの?


「すごいのSじゃね?


「オロには聞いてない。


オロの怒号とみんなの笑顔を広がった。こんな会話ができるくらいには仲良くなった。友達といってもいいのかもしれない。



ある日、師匠と修行してる最中についに肋骨が折れた。医者からはしばらく安静が言い渡された。俺は心の中で大きくガッツポーズをした。痛い、痛いけどしばらく修行が休みだと思うと笑が溢れそうだった。


「しばらく通常の修行は無理だな。


「残念ですがそうなりますね。


「よし、愛弟子よ、一週間走り込みに行くぞ。高院のほうには伝えておくから安心しろ。


「…あの師匠?骨折が治るまでお休みというのはどうでしょう?


「気にするな、骨折の1つや2つすぐ治る。安心して新しい修行にいくといい。


薄々気づいていたんだ。師匠の頭にはお休みがないということを。でも信じたくなかった。信じたくなかったんだ。


意外にも新しい修行は楽しかった。本来は走って行うのだが、今回は手負なので歩いて行った。修行の内容はさまざまな地形の土地を歩くというもので、見たことのない生物がたくさんいた。ふさふさした尻尾を持つ金色のさるや空を漂う謎の昆虫、青白く光る斑をもつ不思議な魚、見るもの全てが輝いて見えた。あと魔族の肉が美味しいことも初めて知った。ファグの肉は硬いけどとってもジューシーだ。


「愛弟子よ、休みを取ることは重要だ。無理をして死んでしまえば元も子もない。ただな、どんなに倒れそうでも、もう立てないような状況でも戦わなくてはならない時がきっとくる。それは強き者の定めだ。その時に折れない心ってのは今からでも作れるんだ。先に立ち向かうために、死なないために今がんばれ、それがきっと愛弟子の力になる。


俺は泣いていた、この涙は弱い涙じゃない。強くなるための涙だ。


「ありがとう師匠、俺強くなるよ。


「おう、それでこそ愛弟子よ!


師匠は笑った。俺も泣きながら笑った。おっちゃん、俺今幸せだ。宮高院にはってほんとによかった。


その夜は珍しく悪夢も何もなく朝を迎えた。


「師匠は刀2本持ってますけどどう使い分けるんですか?


「俺は2刀流だ。双剣ともいうがな。愛弟子も試しに2本構えてみるか?重いぞ?


実を言うと真剣を持つのは中学院の授業以来だ。少し緊張したしワクワクした。


師匠から渡された刀を持とうとするがするりと刀が避けるように動いて持てなかった。何回やってもダメでついにはろくに触れることすらできなかった。


「もしかすると、だ。俺との真剣は使わないという約束が原因かもしれん。まだ確証は持てないからこのことは気にするな。どのみち卒業までは真剣は持たせないつもりだったしな。


どうやら俺は真剣を持てない体質らしい。木刀で満足してるから別にいいけど。

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