最終回。
最終回となりました。
梶の視線の先では、ピクトさん達が何事もなかったかのように、絶えずピコピコと動いていた。
あ、こら! まだ大縄跳びしてたのか! そろそろお片付けしなさい!
「あれ? 轢とくっついてるのに……ピクトさんが……消えていない⁉︎」
「本当だ! はかりん、どういうこと⁉︎」
「よっしゃーーっ! 成功だ!」
俺は拳を高く突き上げて、ガッツポーズ!
「俺が生きている限り、ナナシは缶バッジピクトさんとして封じられ、俺の呼び出しで使役できる……いわば従属関係みたいな感じなんだよ。だから、他のピクトさん達と条件が違っていて……つまり、あちら側との繋がりが常に保たれた状態になる……ってわけだ」
「なるほどな」
俺の言葉に、モブ天使がうんうんと頷くが、梶と花音は微妙な表情を浮かべている。
「え? それ……やっぱり『悪魔との契約』なんじゃ……」
「騙されてるよ、はかりん! 詐欺られてる! クーリング・オフは⁉︎」
「……」
二人が真剣に俺の心配をしてくれている。
まぁ、普通の反応はそうだよな……きっと俺の考えの方が非常識なのかもしれない。
でも……人間側の世界とピクトさん達のあちら側の世界……俺は……片一方だけをなんて、選べなかった。
俺にとって、どちらも大切なんだ。
以前はこの不自由な身体を呪ったが……今は違う。
俺が持つピクトさんの能力があったからこそ、美風を助けることが出来た。
全てをひっくるめて『俺』なのだ。
そして、ナナシへの提案をしていて気づいた、能力を失わずに済む可能性……俺は喜んで、そこに賭けたんだ。
「なんか、悪魔が出入りした経験で、轢がレベルアップした感じだな」
「ちゃらららっちゃっちゃーーん!」
梶の言葉に合わせて、花音がゲームの効果音を口にした。
「ははっ! だけど、この左足の怪我は治らなかったな。身体に悪魔が入ったんだから、それくらいの恩恵があるかと思ったんだけど……」
「そんなファンタジーなお約束万能チートなんてあるかよ。夢見がちだな、轢斗」
「……天使のお前がそれ言う? ……ん?」
皆と会話をしていると、なにやら後ろで誰かがブツブツと呟くのが聞こえ、思わず振り返った。
すると、そこには思い詰めたような顔で美風が独り言をお経のように唱えていた。
その異様な様子に思わず全員、ビクッとなる。
「み……美風?」
「轢斗に触ってもピクトさん達が消えない? ってか何? 実験ならアミちゃんじゃなくて私で良くない? 二人ったら実はやっぱり怪しい関係? でも、じゃあ私……轢斗にいっぱい触っていいの? イチャイチャしていいの? 我慢しなくていいの? 好きなだけ、アレもコレも全部、何してもいいってことーーっ⁉︎」
「おい、澤奈井。お前、何するつもりだよ?」
「美風……お願いだから自重しなさいよ!」
………………
あ……美風の目が……ヤバい。
初めて会った日、俺が『妖怪オカルト女』と陰で呼んだアレを彷彿とさせる顔をしている。
「はぁ、全く……完全に禁断症状だな、あれ。轢斗欠乏症」
「は?」
「はかりんをヨシヨシしないと死んじゃう病」
「え?」
「しょうがない……」
「はい、これ」
「?」
花音が差し出してくれた松葉杖を、首を傾げながら受け取り、脇に挟んだ。
「「ほら!」」
「え?」
とんっ!
片足立ち姿勢から重心を整え終えるのと同時に、二人が俺の背中を軽く押した。
だが、予想してなかった俺は、前方へグラッとバランスを崩す!
「ちょっ! うわっ!」
「轢斗⁉︎」
がしっ! カランカランカランッ!
斜めに傾いた俺を、美風が前から受け止めてくれたおかげで転倒は免れたが、俺の手から離れた松葉杖は地面に衝突して高い音を鳴らした。
……整形外科のレンタル品、さらに小傷が増えたな。ボロボロやん。
不安定な体勢で体重を預ける形になった俺の身体は、そのまま美風に強い力でぎゅっと抱き締められた。
全てを……受け止めてくれるかのように……。
「っ……」
一瞬、躊躇したが……俺も手を彼女の背中にそっと回して……抱え込んでいた想いを本人に告げた。
「俺……美風のことが……好きだ。誰よりも好きなんだ……」
「えっ……? わ、私も‼︎ 轢斗のことが世界で一番大好きーーっ!」
ぎゅううううぅぅぅぅっ! ミシミシッ!
さらに彼女の腕に強い力が入り、俺達の身体は恥ずかしいくらいに密着する……が……つ、強いな。
あれ? なんか、身体の中から骨の軋む音が聞こえるような……?
「澤奈井! 力を緩めろ! 轢を抱き殺す気か⁉︎」
「ちょっと美風! はかりんの背骨、折れるって!」
「やだぁ! あまりに轢斗愛が溢れ過ぎちゃって、思わず……」
「……ごふっ」
『思わず』で殺されかけるのはちょっと、いや、だいぶ困るが……友人達に文字通り背中を押され、俺はようやく彼女に気持ちを伝えられた。
取り戻した前世や前々世の記憶も……いつか、美風に伝えられるかな。
「ごほんっ!」
「「⁉︎」」
ベンチの上からわざとらしい咳払いが一つ。
そちらを振り向くと、正座するナナシの隣でモブ天使が腕組みして立っていた。
でたな、ラブコメクラッシャー。
「さて、俺はもう用済みだな。想定外のことで報告事案が増えてしまったから、ここでさらばだ」
「本当にありがとな、モブ天使……っつうかお前、気づいてなかったかもだけど、途中から一人称が『私』から『俺』になってたぞ?」
「なぬっ⁉︎ まぁ、そこは時間外労働中だ、許せ。では……また会おう、轢斗」
「いや……出来れば『また』は会いたくないがな」
人間が天使に会うなんて、捻りがなければただの純粋なる死亡フラグじゃない?
止めてくれ、縁起でもねえよっ!
「はははっ! まぁお前ら、せいぜい仲良くやれよ」
ピカッ!
手を上げながらそう言うと、突然、モブ天使の身体が発光した!
……かと思ったら、すぐにシュウゥッとその光は消えて、ただの緑色の身体へと戻った。
キョロキョロと左右を見回してから、バタバタと手足を動かしている……なんだか、先程とは少し様子が違う……あれ?
「え? もしかして……非常口くん⁉︎」
「戻ったの⁉︎」
「‼︎」
俺に名を呼ばれた彼は、ベンチからピョーンと飛び降り、俺の足元までトットコ走って来た……かと思うと、顔をグリグリと脛に押し付けてきた。
謝罪? 安堵? 顔が痒い?
うーん……わからないが、とりあえず……。
「もう大丈夫だよ。天使に身体貸してくれて、ありがとな」
「‼︎」
コクコクコクコクッと、高速で頷いてる所を見ると、既に一連の事情を知っているようだ。
体内でヤツとの対話があったのかもしれない。
「また、これからも俺と友達として、よろしくな。で、あっちはナナシ。新入りだから、仲良くしてやってほしいな」
「……」
非常口くんがベンチを振り返り、微妙な反応……っていうか、若干ビビってる?
ピクトさん歴は非常口くんの方が先輩なんだから、ドンと構えてていいんだよ?
「おーーい! おーーい!」
その時、遠くからよく知る声が響いてきた。
「叔父貴⁉︎」
「ったく、いったい何時だと思ってんだ? もう遅いから皆帰るぞ! 送ってあげるから全員乗っていきなっ!」
「「「はーーい!」」」
三人が揃って叔父貴に返事を返した。
……あれ? 叔父貴に行き先言ったっけ? まぁ、いっか。
そういえば、すっかり忘れてたけど、河原木先生や傀儡にされた人達は池の周りからとっくにいなくなっていた。
ここにいるのは俺らとピクトさん達だけ……きっと俺が目を覚ますまでの間に、皆が対処してくれたんだな。
俺一人ではきっと悪魔に敵わなかったし、美風を救うという願いも叶わなかった。
『人間、一人では生きていけないってこと。そのうちわかるさ』……叔父貴に言われたなぁ……俺は……ちゃんと『人間』なんだ。
『化け物』なんかじゃないよ、お母さん。
「皆、本当にありがとう! そして、またこれからもよろしくな。お礼はまた今度」
ぱちんっ!
そう言って俺は左指を鳴らし、ピクトさん達を元の場所へと帰した。
あと、忘れてることは……。
………………
「あっ! しまった!」
「どうした、轢斗⁉︎」
「あのさ……車椅子、返してきていい?」
「はいはい」
こうして、悪魔との戦いは終わったのだった。
◇◇◇◇
月曜日ーー
先週の土曜日の出来事が全部、夢だったんじゃないかと思うほど、少しも途切れることなく日常生活は続いていた。
だけど、あの日を境に、いくつか変わったこともある。
ちなみにあの後、非常口くんは戦いに参加できなかったことを気にして少しだけ拗ねていたが、叔父貴からパンケーキタワーをご馳走になってご機嫌を取り戻していた。
ナナシも嬉しそうにガツガツ食べてたっけ。
勝手な都合で生み出され、失敗したら救われずに廃棄される……そんな神の自己中ルールに……俺達は一矢報いることができたのかな? 俺にはわからない。
それこそ……神のみぞ知る、か。
◇
ザワザワザワザワッ……
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
学校で会った河原木先生は、別人級に顔色良く、俺へにこやかな挨拶を返してくれた。
……本当、誰? って感じ。
きっとあの日の、いや、それ以前の記憶も部分的に忘れているのだろう……それでいい。
◇
放課後、美風と二人でオカルト研究会室に立ち寄ると、ソファに座った屋嘉先輩からはいつもの気怠そうな声が飛んできた。
「ねえねえ、先週末に調節池の辺りで人がバタバタと倒れる事件があったの……知ってる?」
ドキッ!
「「へ、へぇ……」」
「来月の調査議案に上げようと思ってね……っていうか、美風……いつまで謀くんを膝に乗せているんだい? 彼、顔を手で覆って、なんか恥ずかしがっているようだが?」
「え〜〜?」
「……」
先輩のご指摘通り、俺は彼女の膝の上でガッチリ抱きかかえられたままで話を聞いていた。
告白して、両想いが分かって……美風から俺への溺愛が止まることを知らず、やや暴走ぎみだ。
まぁ、もう一つ『理由』はあるんだけど……。
そっと目から手をずらした瞬間、室内のポスターに描かれた、魂不在なピクトさんが俺の視界に入ってしまった。
「あ!」
ぴきーーん。。。。
「ん? 謀くん、なんか様子が……あっ! しまったもうこんな時間か……用事があるからそろそろ行かなきゃ! 鍵そこにあるから、あとよろしくね」
「はぁい! またね、未来ちゃん!」
バタバタと慌てて出て行った先輩の様子、あれはまた森羅さん絡みかな?
彼女の出て行ったドアが閉まる途中で、ポージングがふっと解けた。
そう……ナナシとの繋がりにより、俺の身体はただのイラストピクトさんにすら反応するようになってしまったのだ。
この学校、危険だらけ!
「はぁ……災厄だ」
「じゃあ、ピクトさんが目に入らないように、ずっと私のことを見つめてたらいいんじゃない?」
「……美風が言うと、本気だか冗談だかわかんないよ」
キラキラと神々しい微笑みを浮かべる彼女にそう切り返した。
美風から、俺への隠すつもりもない愛情が駄々漏れに漏れてしまっている。全方位、拡散?
「嫌なの?」
「う……い、嫌じゃない。嬉しいから、困るんだよぉぉ……」
「いやぁぁん! 轢斗ぉ〜〜っ!」
ぎゅうぅぅぅぅぅぅ〜〜っ!
照れて真っ赤になった俺を、美風が強く抱き締めた。
「少しずつ、実験していかないとね」
「え?」
「とりあえず、抱き締めるはオッケーでしょ? でも、それ以上の接触は、まだ誰とも試してないはずだから、やってみないとわかんないよ? もしピクトさん消えちゃったら、困るよね?」
「う、うん」
「だ・か・ら……」
チュッ!
そう言って、俺の頬に美風がキスをした。
「⁉︎」
「まずは一つ一つ、一緒に経験していこうね、轢斗!」
「は……はひっ……よ、よ、よ、よろしくお願いします!」
至近距離な彼女の笑顔に心臓バクバク!
既にもうキャパオーバーな俺は、そう返事をするのが精一杯。
「ふふっ、轢斗大好きっ!」
そう言って、彼女は屈託なく笑ったのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
強引ながら、なんとか完結しました。
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