番。
記憶の再上映に打ちひしがれ項垂れる俺とは対照的に、悪魔は上を見上げたまま、すぐに隣の映像を鑑賞し始めているようだ。
こちらには顔を向けずに、そのまま俺に声を掛けてきた。
「お前……こっちの前々世は覚えているのか?」
「……いや……そっちは全く覚えていない。ピクトさんだった時点でも何一つ思い出せなかった」
力無く首を横に振り、そう正直に答えた。
俺は前々世で何かしらの罪を犯したからピクトさんに転生するという、輪廻の輪から逸脱した過程を辿った……だとしたら、覚えていないんじゃなくて思い出さないように、俺の魂が強制的に記憶に蓋をしたんじゃないか?
すぅっと、途端に目の前がさらに暗くなった気がした。
自分の過去に向き合うのが……正直、怖い……でも……ここで見て見ぬ振りをして、この先を生きていく自分を想像したら……それはそれで恐ろしい。
後ろめたさを抱えたままじゃ、俺はこれから先、美風の側にはいられない。
………………
意を決し、重たい頭をぐいっと持ち上げて、俺もヤツが見つめる画面に視線を向けた。
………………
「ん? なんだ、これ?」
前々世の映像は、ただただ真っ暗だった。
何も見えないが、映像障害……ではないようだ。音はする。
記憶映像群がいくつも並んでいるからか、一つ一つから流れてくるのは小さめな音量。
よくよく耳を澄ますと、黒い画面からどこかを移動するような音や誰かの荒い息遣いが聞こえてきた。
たったったったっ……
はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……
「えっと、これは……もしかして夜? 全く何も見えないな。どこかを走っているみたい……」
「明治時代にガス灯が導入されるまで、灯りなんてのは月明かりか提灯ぐらいだろう? それより前じゃ松明か? しかし、真夜中を移動するってことは……あまりいい状況じゃなさそうだな」
「……何かに追われているのか?」
胸の辺りがいやにざわついた。
まるで、俺が思い出すのを全身の細胞達が拒絶しているかのような感覚。
眉間に皺を寄せ、俺はじっと目を凝らして見つめ……すると前触れなしに、真っ暗な画面が薄ぼんやりした映像へとバッと切り替わった。
……どうやら、暗闇を抜けて少し周囲の開けた場所に出たらしい。
月明かりがぼんやりと辺りを照らし出し……ここが川沿いの原っぱの中だと分かった。
そして、繋いだ俺の手の先……息を切らせた少女が反対の左手を膝につけて、乱れた呼吸を整えていた。
「女の子?」
年齢はいくつぐらいだ? ……現代なら中学生から高校生くらい⁇
簡素な着物を着てるから……昭和よりも前の時代かな?
彼女へと伸びた俺の腕が黒く濡れてる……これは……血か⁉︎
映像から読み取れる情報を元に推測していると、下を向いていた少女がパッと顔を上げた。
本来は整った顔立ちなのだろうが、置かれた状況が彼女の幼さの残る顔に暗い陰を落としていた。
その怯えたような、哀しむような表情のまま、こちらに向けて悲痛な声を上げる。
『兄さま……もう、無理です……お逃げください……』
どんっ!
少女の言葉を聞いた瞬間、強い衝撃で俺の全身がのけぞる!
そして、眠っていた記憶は濁流のように身体中を駆け巡り、咄嗟に両手で頭を抱え込んだ。
「ぐぅぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
「お、おい! どうした轢斗⁉︎」
ガンガンと割れそうな痛み……ぐらつく頭をどうにか抑え、なんとか倒れないように踏みとどまってから、再度、記憶映像を見上げた。
「……カ……カヤ」
この子を……俺はよく知っている。
「おい、悪魔! この子は……もしかして……」
「あぁ……もしかしなくても、この子が美風の前々世の姿だ」
「そうか……俺と美風は……前々世で兄妹だったのか……」
以前、モブ天使が夢の中で言っていた……『縁がある魂同士は転生した人生においても、また繋がる』って…… 美風……俺達は、縁があってずっと繋がってきていたのか。
「お前らは過去、一度も結ばれなかった魂の番だ……はっ! 認めたくはないがな」
悪魔が口にするのも嫌そうに、そう吐き捨てた。




