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災厄だよ、ピクトさん。  作者: 枝久
最終章 決戦。

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消された命。

 悪魔の指し示す先を見上げると、そこには俺の前世、前々世、前々々世……映像群が奥までずらりと並び、暗い天井を飾っていた。

ふいに一番手前の一つにパチッと焦点が合うと、途端に他のも一斉に上映を開始する。


「これは……俺が前世の……ピクトさんだった時の映像だな。俺の視点……しかもこれは…公園の……あの日だ」

「あぁ、どうやらそのようだな。お前らが張り付いていた公衆トイレが取り壊されるきっかけとなった、あの事件の日の映像だ」


 悪魔は俺と同じように上を見上げながら、意外にも薄ら笑うことなく、淡々と言葉を口にする。


 流れる記憶は男子トイレマークなピクトさんだった、俺の動かない視点……公園内を行き交ったり、トイレを出入りする人間達が映し出される。

定点カメラ映像のようで情報量はそう多くはないが……あの日のことは覚えている……前世を思い出したあの時から、忘れられない……忘れてはいけない(おぞ)ましい記憶。



 映像の中では、目の前の通路をニコニコと愛らしい顔をした少年が、一人真っ直ぐにこちらに向かって歩いてきていた。

年齢はまだ小学校就学前の年長か年中くらいだが、母親が公園デビューでベビーカーに乗せてきた時から彼のことを俺は知っている。

きっと家が近所なのだろう、庭代わりに天気の良い日はいつもこの公園に遊びに来ていた。


 この日も母親と共に、幼稚園帰りで制服のまま遊びに来ていた。

運動場にテニスコート、ドッグランやバーベキュー広場もある広い公園……とはいえ、この親子がいつも立ち寄るのは遊具エリアの遊び慣れた場所。

トイレにも母親から少し離れて一人で行って戻るなんて、いつものこと……のはずだった。


『ん?』


 少年の数メートルほど離れた後ろから、こちらに向かってくる一人の男が目に入った。

トイレに向かってくるのに鬼気迫る表情の人間は何も珍しいことはない。

なんせ俺は男子トイレの案内標識だから……腹痛や尿意に耐える挙動不審な人間を見るのは日常茶飯事だ。

……だが、この男が仄暗(ほのぐら)い目で見つめている先はトイレ……ではない?


『お、おい! なんだ、アイツは⁉︎』

『ん? どうしたのタロー?』

『おい、何事だ?』


 俺が慌てて声を上げると、近くにいる避難誘導ピクトのポチと女子トイレピクトのタマもすぐに反応し、男の方をパッと見遣る。


 痩せた身体を丸め、背負っていた黒いリュックのショルダーベルトを両手で固く握り締めていた男は、少年の後を追うようにトイレへと入ってきた。

トイレで用を足す時、人によってはカバンは邪魔になる。

背中からそれを下ろしながら、男が俺の真下を通過した……その瞬間、俺は見てしまった。

男がリュックから刃物を取り出すのを……。


『『『えっ⁉︎』』』


 俺達が同時に声を上げたのと同時に、小さな小さな悲鳴がトイレ内から漏れ聞こえた……それは公園で遊ぶ子供達の笑い声に掻き消されてしまうほど、か細く儚い声だった。


 ………………


 液体がぴちゃぴちゃと床に落ちる音、何かを拭く音、水道で手を洗う音、リュックを閉めるジッパー音……俺の位置からでは男子トイレ内の様子なんて何一つ見えないのに、全神経を集中させて拾った音が最悪の想像を作り上げる。


 それから何分もしないうちに、男は足早にトイレから立ち去った。

その後ろ姿がスローモーションのように、俺の目に焼き付いた……血のついたデニム。


 男とすれ違い、トイレに駆け込んできた少年が、空間をつんざくような悲鳴を上げた。

そして……あの男の子が、生きて俺の真下をくぐって、いつものようにトイレから出てくることはなかった。


 泣き叫ぶ母親の声が響く中、青いビニールシートをかけられた遺体として担架で運ばれていく少年を見送り……俺らは自分達の無力さに、ただ絶望するしかなかったのだった。



「俺達は……気づいたのに……何もできなかった……救えなかった……ずっとあの公園で、子供達を見守ってきたのに……」

「あぁ、そうだな。お前達は手も足も出せずに、子供が絶命する瞬間の声を聞いたんだろ? そして……老朽化と凄惨な事件現場という理由で、公衆トイレは取り壊され……ピクトグラムとしての任期を修了したお前らは輪廻転生の輪に戻った……同じ時代を共に生きる為に……」

「……え?」


 悪魔のその言葉に思わず聞き返し、ヤツの顔を見つめる。

 

「ま、まさか……あの子って……」

「あぁ、あの公園で殺された少年が……美風の前世だ」

「そんな……」


 俺の脳裏に、あの少年の溢れんばかりの笑顔が思い浮かんだのだった。

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