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災厄だよ、ピクトさん。  作者: 枝久
最終章 決戦。

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79/85

さぁ、どうしたい。

「さてと…」

 

 考えがまとまらず頭ん中が忙しい俺を横目に、悪魔が立ち上がって、ぐーーっと伸びをする。

精神体なんだから、別に筋肉は疲れてないだろう?

……と言いかけたが、やめた。


 今のところ、ヤツが先生の中にいた時より俺との会話が成立している。

ここで嫌味を言って、無駄にイラつかせる必要はない。


 悪魔の直近の目的は、この空間から出るか、俺の身体を乗っ取るか……二者択一だ。

さっき悪魔が弾き飛ばされたのを見るに、直接的な攻撃はどうやら防げるらしいが……モブ天使よ、いつの間にそんなオマケ特典を俺に付けてくれてたんだ? 


 ちらっと悪魔を見遣ると、今度はラジオ体操第一っぽい動き……よく知ってるな。日課(ライフワーク)か?


 それにしても……さぁ、どうする?

  

 俺らは今この空間内において対等、もしくは俺の方が優位……いや、違うな。

アイツは幻惑が使える……もうすでに2回もやられた。

違和感を探して幻覚から抜け出すなんて、某人気謎解き出口脱出作品みたいだが、下手に掛かって操られでもしたら詰む…… やっぱり俺の方がアイツより分が悪いか。


 ………………


 ぐるぐると考えれば考えるほど、ドツボにハマる……人外野郎が何を考えてるかなんて、俺には全く読めやしない。

そもそも人の心の機微(きび)にすら疎い俺には無理な話。

でも……いつまでも警戒していても仕方ない……ここは一つ、揺さぶりを掛けてみるか。


「お、お前はさ……」

「ん?」

「み、美風の魂を手に入れて……その後どうしたいんだ?」


 俺の質問に、悪魔がキラキラと目を輝かせた。


「どうって……そりゃあ飾ってぇ……眺めてぇ……()でてぇ……あれ?」


 デレデレした顔が、途端に曇る。


「それで……終わりなのか? その先は?」

「そ、そんなわけ……何よりも綺麗で、光っていて……ずっと昔から見続けてきた。護ってきた。ずっとずっとずっとずっーーと! 欲しくて欲しくて欲しくて……でも……じゃあ、あの魂を手に入れて……俺は……その先は?」


 自分で言いながら頭に疑問符が浮かんできたのか、自問自答しながら首を傾げている。


 モブ天使が言っていた……『アイツは幼い子供みたい』だ、と……本当にそうなのかもしれない。

純粋……悪く言えば世間知らず。

欲のまま堕天する以前の彼に、諭してくれる仲間や話を聞いてくれる存在はいなかったのだろうか?


 美風のストーカー、許せない敵なのに……ほんの少しだけコイツを気の毒に思った。

……モブ天使も己の仕事に忙殺されてりゃ、仲間のケアにまで気は回らんだろう。

それとも……何者かが、(そそのか)した?


「おい、お前。そういや名前は?」


 悪魔がプチ混乱してるのに乗じて、ダメ元で質問を追加する。

ポロッとうっかり名乗ってくれたら助かるんだが……悪魔との取引や解除にどうやら名前が必要らしいからな。

『はぁ? 誰がテメェなんかに教えるかよ⁉︎』とかって、逆ギレされそうだけど……。


 だが、予想外な返答が悪魔から返ってきた。


「俺に……名前はない」

「え?」

「お前も知ってるようだが、元々、俺は天使だった…… 下っ端なんて名前すらない。ただ、淡々と役割をこなし、(そら)から見守るだけ……有象無象(うぞうむぞう)の仕分け作業対象なんかにいちいち興味を持たないし、ましてや、そんな人間を救うなんて……お前らの生み出した幻想だ。エンドレスで同じことの繰り返し……俺は……何の為に生まれてきたんだろうなぁ……」

「……言ってることが矛盾してるぞ? お前は美風に執着した」

「ははっ。あぁ、だから堕天したんだろ?」


 そう言って、自虐的に笑う。


「自然死か事故死か……割合はともかく、生きとし生けるものは皆、等しく最期は死ぬ。『我が人生、一片の悔いなし!』なんて言って死に逝ける人間は少ないだろう。未練が少なければ身軽な魂は浮かび上がって天界へと向かい、心残りが多ければ重みで沈み下界に留まる。浮かばれない魂の回収役として天使が巡回する。残留した魂は思念体として残ったり、鏡の裏側に異世界を造ったり……そうそう、殺された死人の魂は浮かばれない……重く沈んだまま……そこにはハイエナのように悪魔も回収へとやって来る」

「?」


 何の話か先が見えず、俺は眉を(ひそ)めたが、気に留めない悪魔は話し続ける。


「いったい何度、護ったと思う? 転生してはまた天寿を待たずに殺され、その度に必死に悪魔を追い払い、天へと還した魂が……また無駄な転生を繰り返して殺される……」

「⁉︎」


 ようやく、コイツの話の意図が分かり、俺は一気に青ざめた。

そして、喉から絞り出すように……彼女の名前を口にする。


「み……美風は……過去、どの人生でも……殺されたのか? ……だ、だったら……ずっと護ってきたお前が……なんで? なんで、今度は奪いに来るんだよーーっ⁉︎」


 ぐいっ!


 思わず、悪魔の胸ぐらを両手で掴み、叫んでいた。


 ガツッ!


 だが、俺の両腕を悪魔が握り締め、忌々しげに声を荒げる!


「本当にお前はムカつくな! いつもいつも側にいるくせして護れなかったのはお前だろ⁉︎ クソがっ! おい、いいか? よく聞け! 俺の元にいれば、美風は二度と転生なんかしなくて済むんだ!」

「ふざけんな! お前に美風は渡さない‼︎ ……あれ? 今なんて言った? いつもいつも……って?」

「忘れてんのかよ……アレだよ、アレ!」


 そう言って苛立つ悪魔は後ろを振り仰ぎ、前世の記憶映像を指し示した。

鏡の裏に異世界を造るお話は、別作品からの引用です。

そちらは完結済みですので、お読み頂けると嬉しいです。

お暇でしたらどうぞ。

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