華麗なる詐欺師の手口みたい。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
悲鳴が豪邸に響き渡る‼︎ ……俺の。
「ちょ、ちょっと! それはこちらの台詞なんですけどぉっ‼︎」
慌てた女の子がクレームをつけてくる!
風呂上がりの無防備な状態。
マシュマロちゃんを抱っこして、俺の大事な部分は丸っきり隠せていないのだから、叫び声を上げても仕方ないじゃないか‼︎
いやぁぁぁぁぁぁ! 恥ずかしい‼︎
しかも……
ちらっと非常口くんを見る。
マシュマロちゃんと俺の間に隠れて、ガタガタ震えている。
こんなに焦っているところを見るのは初めてだ。
今のところ非常口くんはバレてない……はず。
………………
でもバレたら死ぬーー! マジで終わるーー‼︎
俺の顔は赤くなったり、青くなったりで大忙し。
「あ、あの……ちょっとタオルだけでも巻かせて頂いても……」
バタバタバタバタッ!
「おやおや、うちの甥っ子の裸を見るなんて……婿入り前の大事な身体なのに……しかも、君、手にスマホ持ってるって……なっ! ま、まさか盗撮⁇」
叔父貴が俺の悲鳴を聞きつけて脱衣所に現れる。
……俺、まだ裸なんですが……。
「えっ⁉︎ ちょ、ちょっと待ってください! 私、そんなつもりなんて……!」
「ん、まぁ! 美風‼︎ 貴方なんてことを……」
まさかのマダム澤奈井さんもいらっしゃった……。
俺、裸。
何? この公開処刑状態‼︎
「お孫さんにまさかそんなご趣味があったなんて、これは由々しき問題ですね……ねぇ、澤奈井理事長?」
理事長? えっ?
もしかして、この上品なお婆さんが……これから通う高校の理事長先生か?
「違っ! 私、そんなつもりじゃ……」
………………
段々、この涙目の女の子が気の毒になってきたぞ?
叔父貴にかかれば、無罪の人も有罪扱い。
冤罪はこうして生まれるのか。
「でも、大丈夫。一時の過ちは誰にでもありますし、今回の貴方の秘密は何処にも漏らしません。これも何かのご縁ですし、うちの甥っ子をどうぞよろしく。ねぇ、美風さん?」
「えっ⁉︎ あ、はい⁇ あっ、よろしくお願いします……?」
あれよあれよと言う間に、何故だか彼女が俺の高校生活のサポーターに任命されたよ?
華麗なる、まるで詐欺師の手口みたい。
っつうか、マダム澤奈井さんはともかく、お孫さんが同じ高校とか……どこまで知っていたのか?
もしや全部計算づくめかよ叔父貴……本当に恐ろしいな。
………………
あの……とりあえず、タオル巻いてもいいですか?
◇
ブォォォォォォォォォォッ!
「マシュ! 駄目よ、すぐ終わるから!」
「きゅぅぅぅぅぅぅぅん」
ドライヤーが苦手なのか、マシュマロちゃんはどうにかして洗面所の隅っこに逃げようとする。
だんだんと、濡れ毛が乾いてきて、濡れ鼠からふわふわ毛玉ちゃんに戻り中。
時折、ドライヤーの風が隣の彼女の長い黒髪もふわりと揺らす。
二人で協力しながら、毛並みを整える。
余計な事は言わず、お互い作業を黙々とこなした。
「はい、終わり〜〜!」
「きゃんきゃん!」
ほわっほわの綿毛ちゃんがドライヤー地獄から解放され、とんとんと跳ね回る。
物凄い勢いでプルプル振られる尻尾からも、喜びが溢れている。
「綺麗になったよって、お婆ちゃんとこ行ってらっしゃい」
「きゃん!」
ちょこまかと駆け足でマシュマロちゃんは奥の部屋へと駆けていった。
白いふわふわのお尻が可愛いらしい。
冒険は一日半で懲りたのだろう、もう脱走するなよ?
泥まみれちゃんを保護した時に着ていた俺の服一式は、澤奈井理事長のご厚意でドラム式洗濯乾燥機の中をグルグルと回っている。
完了音が鳴るには、あと1時間かかりそう。
その間、裸に白いバスローブという、これまた初めての格好。
……なんだか足元がすーすーする。
そして、バスローブのポケットの中に非常口くんはしっかりと隠れている。
大丈夫! ちゃんと隠し通すぞ‼︎
ポケットを表面からそっと撫でてから、足を揃えて座り直す。
僕と理事長のお孫さんは互いに畏まって、洗面所の床に正座で向き合った。
………………
気まずい沈黙の後、彼女が先に口を開いた。
「あの……さっきはごめんなさい!」
そう言って、目の前の少女が深々と頭を下げた。
「えっ、いや、こ、こちらこそ……な、何か、すみません!」
見たくもないものをお見せしました……。
事情があったとは言え、自分の家の洗面所開けたら知らない人間が風呂入ってるだなんて、何のドッキリだ⁉︎ って話だ。
猥褻物陳列罪で訴えられても仕方ない状況。
しかしパニック状態の時に、叔父貴に畳み込まれていたのは、かえって申し訳ない。
「あ、改めまして、私は澤奈井 美風って言います。同じ高校なんですね。よろしくお願いします」
丁寧にご挨拶してくれる。
清楚で品のある振る舞いは、本当に同い年?
ドタバタしてて気づかなかったが……よくよく見ると、整った顔の美少女だ!
ドキドキドキドキッ!
俺の心拍数が急上昇! お、落ち着け……。
「あ、あ、あの、俺……は、謀 轢斗で、です。よ、よろしく、お願いします!」
挨拶ってだけで、緊張してしまい声が上擦る。
は、恥ずかしい!
「は、かり……くん?」
俺の名を呼び返し、驚いた様に目を見開いている。
ん? まあ、珍しい名字だからな。
「お〜〜い、轢斗、終わったかぁ? こっちおいで!」
その時、ナイスタイミングで声を掛けてくれたのは流石の叔父貴。
俺達は静かにリビングへと向かった。
◇
あぁ……お願いだ、非常口くん。
頼むから妙な真似はしないでくれよぉぉぉ。
顔には出さずに、心の中で祈る。
俺と叔父貴の目の前、食卓には普段食べることのない豪華な食事がずらりと並ぶ。
料理名は分からないけど、おそらく呪文みたいなカタカナ名だろう。
貴族様のお食事ですか⁉︎
「心ばかりのお礼よ。どうぞ召し上がって頂戴」
リビングに通され、澤奈井さんからマシュマロちゃん保護のお礼として、ご馳走を頂くことになったのだ。
帽子とサングラスの探偵セットを外した叔父貴は目の前の食事よりも、澤奈井さんが今まさに開けようとしているお高そうなワインに心奪われている。
……お気楽で良いよな、全く。
心の中でそっと毒づく。
俺はバスローブのポケットから、食いしん坊がそわそわしているのを肌で感じる。
そう、俺は気が気じゃない!
……今、非常口くんに出て来られたら、確実に終わる。ジ・エンド。
純粋にご馳走、楽しめないよぉぉ!
さりげなく、ロールパンをポケットに差し入れるが、すぐに無くなる……えっ、秒殺⁉︎
食い意地張り過ぎ!
後で何か買ってあげるから、今はマジ勘弁して!
ちらりと見ると、叔父貴はワインと食事を純粋に楽しみだしている。
音を立てる事なく、流れる様な仕草。
はぁ……ほんと絵になる男だな、羨ましい。
完璧なテーブルマナーは何処で学んだんだろうか?
今度教えてくれ!
叔父貴と対照的に、慣れないフォークとナイフとそわそわ心な俺の食事は、遅々として進まず。
ガチャガチャ、ガチャン!
挙げ句、ナイフ操作ミスで、切るのに失敗したお肉がピューーッとお空を舞い、ぺしゃんと床に落ちた。
「あーー! あっ、す、すみません……」
慌てて、ナフキンを使い、片付けようとしゃがみ込む……と。
………………
おい、こら。
ひと足先にポケットから踊り出ていた非常口くんが、お肉に齧り付いていた……。
……拾い喰いしちゃ駄目でしょうが‼︎
全く油断も隙もあったもんじゃない。
あっという間に、ぺろっと平らげ、すたこらっと俺のポケットに走り戻る。
ふぅ……やれやれ。お説教もんだな、こりゃ。
床を拭き、ふっと視線を上げると、怪訝な顔で覗き込んでいた彼女と目が合ってしまった‼︎
ぎくっ‼︎
心臓が跳ねた気がした。
がばっと視線を床へと向け、彼女の視線の追随を避ける。
お、思い出せ!
どこだ?
どのタイミングから彼女はこちらを向いていたのか⁉︎
非常口くんを見られたのか?
頭の中で、記憶を巻き戻すが、確信が持てない。
その時、震える声で彼女は言った。
「ね、ねぇ……今、何か動いてなかった?」




