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災厄だよ、ピクトさん。  作者: 枝久
第六章 部活。

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39/85

データ。

「で〜〜きた!」

「うん、いいね」


 いらないA4用紙の裏面を上に向けて、新二年生の名札をその上に並べる。

ピクトさん達の証言を元に矢印を書き加える。


 ぱぱっと登場人物の相関図の出来上がりだが……随分と一方的な構図になる。


 新二年生五人の女子生徒から伸びた矢印は五本全部が相田先輩に向かっており、その横にハートマークが書き足されていた。

予想通りか。


「轢斗、なんでここへ来る前から色恋沙汰(いろこいざた)だなんて言ったの?」

「えっ⁉︎ はかりん知ってたの?」

「マジ?」


 三人がばっと一斉に俺を振り返る。


「いや、えっと知らないけど、なんとなくそうかなって……」


 学生において、人間関係が(こじ)れるとしたら……仲間、いじめ、恋愛、成績格差、先輩後輩等にざっくりと分類できると思う。

今回のように、同学年での一対多の関係性になるとしたら……いじめか、恋愛か。

相田先輩の様子を見てたら、後者かなって。


「それぞれが別件かと思ったのは、オカルト研究会に『謎の笑い声』について相談に来たのが卒業していった図書委員の先輩だと思ったから……」


 ………………


 うっ……。

皆にじっと注目されるとなんだか話しづらい。

視線をそっと床に向けた。


「そ、そもそも各学年150人くらいいる中で、俺は別な学年の部活の先輩なんて分からない。ユニフォームやゼッケンでもありゃ別だけど。部室に入り浸る屋嘉先輩や森羅さんが知らなかったってことは通りすがりか教室でタコ先輩に声を掛けている。だとしたら同学年かなって……」


 あんなに素晴らしいモブ顔の先輩、相手のことをオカ研だと認識していなければ声は掛けられない。


「ただ『謎の声』とは伝えても『気持ち悪い』という表現はこの段階で使われていない。だから、図書委員をボイコットする彼女達にとって『気持ち悪い何か』を図書室で知ってしまったのではないか……と思ったんだよね」


 あくまでも推測だが、ね。


「しっかし五人か……モテモテなんだな、相田先輩」

「え〜〜? 梶、羨ましいの〜〜?」


 花音がむうっと頬を膨らませ、隣の梶の顔を斜め下から覗き見る。


「いや、俺は沙月だけいればいい……」

「‼︎」


 さらりと出た糖度高めなお言葉に、小柄な彼女はぴくっと身体を揺すって、ぎゅっと彼に抱きついた。


 あぁ、相変わらず仲がよろしくて平和なこった。

二人の周りにハートマークが飛んでるような幻覚(エフェクト)が見えてくるぜ……見てるこっちが照れちまう。


「五人……それと、相田先輩……じゃあ……六人か?」

「ん? 轢斗、なんか言った?」

「あ、いや、まだなんとも……」


 情報が足りなさすぎるな。

当事者不在じゃ質問もできやしないが、今回は少し憶測で話を進め過ぎている感がある。

気をつけよう。


 叔父貴によく言われる言葉。


『仮説を潰す為に証拠を集めろ』と。


 仮説に当てはめるように証拠を探そうとするのは危うい……間違った道に進んで行った先が行き止まりだったら、どこまで戻ればいいか分からなくなって、あっという間に迷子になってしまう。


 潰されない仮説が真実により近いのだ。

……証拠が欲しい。


 くいくいっ!


「ん?」


 急に、飲食禁止ピクトさんが俺の袖を引っ張り、受付カウンターをツンツンと差し示す。


「あれ? さっきあっち行くの嫌がって無かったっけ?」


 俺の言葉に、頷き、腕で丸を作る……『うん……大丈夫』ってか?


「ふぅん……」


 ぴょんと俺の肩に飛び乗った()ピクトに促されるまま、カウンターのパソコン前の椅子に座る。

少しくたびれたデスクチェアが、思ったよりも大きな音を立てて軋んだ。


「で、俺をパソコン前に座らせてどうしたいんだい?」


 画面をじーーっと凝視している黒い小人達が、仲良く揃って……なんだか困っている……目はないけどな。

ポスター画内の空間から出たことないから操作の仕方がよく分からないのか、もしくは彼らの前世がパソコン登場以前の時代なのかもしれない。


「ねぇねぇ、パソコンの中に何か秘密があるってこと?」


 びしっ!


 美風の言葉に『その通り!』と言わんばかりに彼女を差す。


「えへへ」


 嬉しそうに微笑む……可愛い、マジ精霊(フェアリー)


「さっき使った時は何も気付かなかったけど……何かデータが入ってた……とか?」


 梶もひょこっと画面を覗き込む。


 びしっ!


 またしても()ピクトが『正解!』のポーズ。


 カチカチカチッ……


 パソコンをざっくり操作して色々とファイルを開いてみるが、梶の言う通り表面上は何もおかしい感じは無い。

……とっくにあの人に消されているんだろう。

おっと憶測、いかんいかん。


「なぁ、轢ってパソコン得意か?」

「……まぁまぁかな? う〜ん、あんまし自信無いけど……久々にやってみるか……なっ!」


 カタカタカタカタカタカタカタカタッ!


「「「えっ?」」」


 三人の驚く声を背中に聞きながら、作業をする。




 中学三年間、引きこもっていた頃、時々様子を見に来る叔父貴からちょくちょく分厚い本を渡され、宿題を出されていた。


『身につけた技術と知識は自分を裏切らない……次来るまでにこれやってみな?』って……。


『無駄な時間、無駄なことなんてない、ぼーーっとすることだって有意義な時間だ。全ては自分の糧になる』とも言ってたな。


 俺は一生、叔父貴に頭が上がんないだろうな。




 カターーンッ! 


 ピーーッ、ガガガガガガカタカタカタカタッ……


 ピコン!


『データ復元、完了』


「おっ、出来た出来た!」

「……そんな『トースト焼けた』みたいな軽いノリで言わないでよ、はかりん」


 花音が呆れてるんだか、感心してるんだからわかんない声を俺の後ろで上げた。


「えっと……」


 皆が驚いてるのが正直、意外だった。

『これくらいのパソコン操作は中学校の必修課程で習うんだぞ?』って叔父貴に言われてたけど……もしかして騙された?

え? 普通出来るんじゃないの?

学生の(たしな)みなんじゃ……⁉︎


 ……ま、まぁいいか。


 カチカチッ!

 

 マウスを素早く操作してダブルクリック!


 パッ!


 画面いっぱいにフォルダが開かれた。

何者かに削除されたのはこのフォルダか……中身は、ずらっと並ぶ写真達……細かいので、何が写ってるかよくわからないな。

ポインターを動かし、一つを選択、全画面表示に。


 カチカチッ! パッ!


「「「「⁉︎」」」」


「はっ! れ、轢斗、見ちゃだめーーっ‼︎」


 がばっ!


「ぐはっ!」


 咄嗟(とっさ)に美風が俺のことを目隠し!

目隠しと言っても『だぁ〜れだ?』って後ろから手で目を覆う可愛いアレではない。


 ブラジリアン柔術の締め技のよう、素早い身のこなし!

後頭部をその細腕で拘束され、美少女からはまるで想像出来ない怪力で俺の顔面は彼女の身体にあっという間に(うず)められた!


 ぎゅうぅぅぅぅぅっ!


 しかも……か、硬い⁉︎

密着部位は、ちょっと残念ながら、その柔らかそうなお胸ではなく、折れそうにか細い肋骨から腹部にかけての位置だ。

椅子に座ってる俺の顔と同じ高さだったから。


「〜〜っ‼︎‼︎」


 ジタバタするが、彼女の手がまるで外れない!

い、息が……!

このままでは天に召されちまう! ギ、ギブッ!


「美風! はかりんが死んじゃうよ!」

「腹で窒息……まずいね」

「きゃっ! ご、ごめんね轢斗……」


 がばっ!


「ぜぇーーはぁーーぜぇーーはぁーーぜぇーー……」


 供給が止まってた数倍の時間、酸素を大量に身体へ取り込む!


 くわん、くわん、くわん、くわん……


 ま、まだ……の、脳に酸素が足りないのか……?

目が霞むし、世界がぐるぐると回る感じ。

カウンターに腕を置き、その上に頭を乗せて休ませ、平行感覚を取り戻す。


 じ……じじっ……


「ん?」


 横目でちらりと見遣ると……カウンター上のピクトさん達が電波障害のテレビみたいにざらついて見えた。

うわぁ……俺の頭がバグってる。


「はい! はかりんはお子ちゃまだからあっち向いてなさい」

「えっ? ちょ、ちょっと……」

「また……締められるよ?」

「うぐっ!」


 いきなり俺の座るデスクチェアをくるっと半回転させた花音。

一言返そうと思ったが、梶がやんわりと彼女をカバー。

……お似合いカップルだな、こら。


「美風もそっち向いてて。ここは花音さん達に任せなさぁ〜い」

「はぁい……」


 同学年だが、ある意味で少しだけ大人な二人に任せて、お子様な俺達はパソコンに背を向ける形となった。


 一瞬しか見えなかったが……パソコン画面に映し出されたのは、R指定ものの破廉恥(ハレンチ)写真だった……そして、そこに映っていた裸の男子の顔を俺は知っている。


 それは、人当たりの良いモテ男……図書委員の相田先輩だった。

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