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災厄だよ、ピクトさん。  作者: 枝久
第三章 高校。

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祟り。

 部室棟は二階建てのプレハブ。

一階の最奥にその部屋はあった。『オカルト研究会』と不穏な字で書かれた貼り紙のある部室。

ピクトさんのイラストがここにもあるが、紙がそれほど傷んではいない。割と新しいな……研究会員の誰かが描いたんだろうか?


 通り過ぎた他の部室ドアを振り返り……ふと疑問が湧く。


「同好会なのに……部室があるの?」


 勝手なイメージだけど『部』として活動していないと、部屋は割り当ててもらえないと思ってた。


「ここの部屋、どの部活も使いたがらなかったの……『祟りがあるから』って……」


 美風は俺に背を向けたまま、そう言った。


「……『祟り』?」


 そう俺が呟いた瞬間……。


 きぃぃぃっ……


 突然、ゆっくりとオカ研の部室ドアが開く。


「ひぃっ!」


 思わず、俺は悲鳴を上げた!


 ……だって……開いたドアの陰から、こちらをじっと見る人影と目が合ってしまったのだ!


 ビクつく俺とは対照的に、落ち着いた美風が声をかける。


「あら、こんにちは。こちら現オカルト研究会唯一の部員、二年生の屋嘉(やか)未来(みらい)先輩だよ」

「こんちわ」

「せ、先輩? こ、こ、こんにちは。は、謀、轢斗、です」


 慌てて、思わず声が上擦(うわず)った。

誰もつっこんだりしてこないのだが、自分で何だか恥ずかしくなる。


 ちらりと再度、目の前の人に視線を向ける。


 少し猫背気味な姿勢に、ジャージの上からはスウェットパーカー、そのフードを目深く被った、先輩……っつうか、男? 女?


 ピクトさんのイラストポスターを作成したのは、この人か? 

……無意識に警戒感が高まる。


 ちゃんと背筋を伸ばせば、身長は……170cmに届くか届かないか。

声も低すぎず、高すぎず……。

喉仏はジャージのチャックが上まで上がっているから、分からず。

……阿弥田くんとはまた違った意味で中性的な人だな。


「……先輩は、この部屋で何を?」

「自分はちょっと調べ物」


 『俺』でも『私』でもなく、一人称が『自分』か……ますます不明。

テーブルの上には難しそうな専門書が何冊も積まれている。


「どうぞ」


 先輩に促されるままオカルト研究会の部室内に足を踏み入れた。


 雑然とした室内にもピクトさんのイラストがあちらこちら……気を抜かないぞ!


「……ねぇ轢斗。『祟り』について、聞かないの?」


 あまりに無関心で通常運転な俺に、美風が不思議そうに聞いてきた。


「……どうせ何かのトラブルの後に怪我人が続出したり、体調不良者が出たり、彼女に振られたりとか……何でもかんでも『祟り』のせいにしたんじゃない?」


 本棚を眺めながら、俺は返答する。


 『祟り』という神仏か霊的かの因果がこの部屋にあるのなら、依代(よりしろ)になりやすい人型のピクトさんに魂が入り込むはず……でも、それが無い……だから、これが俺にとっての答え。


 この部屋に『()()()()()()』のだ。


 運動部に怪我は付き物だし、プレハブ校舎の中で一番西側のこの部屋は太陽光による熱が(こも)りやすいので、人によっては体調に(さわ)る。

……誰かが『祟りのせいだ!』と言い出せば、噂はあっという間に拡散する。


 精神的な思い込みは心身に驚く程の影響を及ぼす。

特に高校生くらいは多感な時期、集団ヒステリーによる事案は数多く報告されている。

こうして、事例がいくつも積み上げられていったのだろう。


「……世間的には『祟り』っていうもんはあるらしいけど、ここの部屋は違う……と思う。誰かが意図的に噂を流して、利益を得るように仕向けた、のかな? 例えば……以前の研究会員さんの仕業、とか?」


 俺の仮説に美風も先輩も何も言わない……けど、二人ともなんだかちょっと嬉しそう。


 だから、きっとそういうことなんだろう。

……新入生の美風が、この二年生と顔見知りの時点で。





 カチャリ!


 オカルト研究会の部室……いや会室か? に外側から鍵をかける屋嘉先輩。

今日はもうお終いみたいだ。


「部活動申請は来週からだ。今日は帰りな新入生」


 優しくそう言いながら、指先でキーリングをくるっと回す。


 結局、先輩の性別は分からずじまい。

……まぁ、こんなジェンダーレスの時代に追及するのも野暮(やぼ)だしな。


「は〜〜い。こちらも目的達成したので帰ります。ねっ?」


 敬礼ポーズを先輩に返しつつ、俺を見る美風……可愛いな、おい。


「お、お、お、お疲れ様、でした……」


 俺も小さいながらも声を車椅子上から返す。


「仲良いね。謀くんは……美風の彼氏さん?」


 左右に視線を動かし俺らを見てから、先輩がさらりとびっくり発言!


「えぇっ⁉︎ ち、ちが……」

「はい! そうです‼︎」


 俺の否定に被せるように、全力の肯定発言が美風の口から飛び出る‼︎

キラッキラな満面の笑顔で‼︎


 ………………


 えぇーーーー⁉︎⁉︎


 俺はい、いつ、か、か、彼氏になったんだ⁇


 自分のスッカスカな記憶を速攻、巻き戻す‼︎


 ………………


 ……あぁ……もしかして、あれか?


 『放課後付き合って』ってつもりで言ったはずの言葉を、彼女は俺からの『告白』として受け取っちまったのか⁉︎


 ………………


 ちらっと頭上の彼女を見遣る。


「ん? なぁに?」


 ……全てがもう神々しいなぁ。

くっ、微笑みの御尊顔が眩しすぎてくらくらする。


 こんなヒエラルキートップクラスの女の子に俺が好かれる要素はこれっぽっちもない‼︎


 ……皆無だ、うん。悲しいほどに。


 せいぜいオカルト沼女のお眼鏡に叶うのは、俺のこのピクト体質くらいだろうし……。


 はっ! 


 まさか俺の身体目当てか? 

……って自分で言ってて、なんか嫌だ‼︎ あぁ‼︎


 ブンブンと首を左右に振る‼︎


 考えろ……えーと、えーと、えーと……


 はっ‼︎


 彼女は、美人 = モテる = 困る


 つ・ま・り。

男避け役のニセ彼氏が必要! 

…… ってことじゃないのか⁉︎


 そうだ!

そうに違いない!

正解はこっちだな‼︎


 よしっ! 


 そういうことならお安い御用だ!

大事な友達の為にもこのニセ彼氏役、貫き通すぜ‼︎


 俺は心の中でガッツポーズをした!


 ……この時の安易な判断を後々に後悔することを、この時の俺はまだ知らない。



「なんか謀くん、一人百面相してるけど……?」

「ふふっ。可愛いでしょ? 私の旦那様は……」





 かっかっかっかっかっかつーーん!


「だーーっ! 疲れたーー‼︎」


 帰宅すると共に、車椅子を玄関に乗り捨て、高速松葉杖歩きで杖ごとリビングのソファにダイブした。


 時計の針は午後2:15を指している。

入学式の後、校内を随分とうろついていたからな……。


「おっ、帰ったか。お疲れ。昼飯食って来たのか?」


 午前中までのスーツを脱ぎ捨て、いつものラフなスタイルに戻った叔父貴がひょこっと自室から出てきた。

今日は一日お休みだ。


 『甥っ子の入学式の為、本日お休みします。 店主より』


 ……って、喫茶店のドアに貼っていたからな。

店主の気まぐれで度々、店休日となるけど、お客さん達からはクレームも無い。

愛されキャラな叔父貴の役得だな。


「いやまだ、食ってないよ。何か冷蔵庫残ってる?」

「なんだ、てっきり二人でランチデートしてきたのかと思った」


 冷凍庫から炒飯を取り出しながら、叔父貴が言う。


 彼の言葉で俺の顔が一気に熱くなる。


「デ、デート⁉︎ し、してないよ! 校内アプデしてたら遅くなったんだよ‼︎」


 帰り際、『一緒にご飯食べて帰ろっか?』って誘われたけど、丁重に断った。


 美風が車椅子を押して送ってくれたのだが、もういっぱいいっぱいでキャパオーバーな俺は一刻も早く家に帰りたかった……。


「ふ〜〜ん」


 にやにやしている叔父貴の顔が、超腹立つ!


「……いいから炒飯ちょーーだい! 腹減った!」


 俺はクッションに、ぼふっと顔を(うず)めて言葉を投げ返した。





「へーー。オカルト研究会に、ピクトさん描きな先輩、ねぇ……」

「ほぅはんはよーー」


 炒飯をもぐもぐしながら、今日の出来事を伝える俺に、珈琲を飲みながら楽しそうに聞いてくれていた叔父貴。


 だが急に、かちゃりとカップを置く。

顎に手を当て、少し考えるような素振り……ん? なんだ?


「?」

「……今の話を聞いて、ちょっとやってみたいことが出来ちまったんだけど……」

「……」


 嫌な予感しかしない。


 これ以上、聞いてはいけない。


 叔父貴の頼み事は……俺にとって面白かった試しがない。


 俺の心の願いは叶わず、叔父貴が口を開いた。

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