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一般道で時速194キロを出していた事故を検証した結果、犯罪となりました。

作者: 湖灯

 制限速度60キロの一般道で時速194キロものスピードを出して、事故を起こし、人を死なせた事件がありました。


 2021年2月9日、大分市の産業道路。

 加害者は、当時19歳の少年。

 運転していた車は、BMW 2シリーズのクーペ(新車価格は420万円以上)


 犯行の動機は「何キロまで出るか試したかった」と言う身勝手なもの。


 交通事故にも関わらず、ここで何故”犯行の動機”と言う犯罪用語を使用したのかと言うと、私はこの事故が通常の交通事故とは大きく異なると思ったからです。


 話しは凄く飛躍してしまいますが、

 例えば、包丁の専門店でゾーリンゲンの牛刀を手に入れたとしましょう。

 牛刀と言っても、カタナではないので買うことも、それを持って帰ることも違法ではありません。

 しかしここで「どれだけ切れるか試したかった」と牛刀をケースから出し、公の場で生身を手に持ってしまえば立派な”銃刀法違反”となるわけで、それで実際に人を刺し殺してしまえば殺人となります。


 今回の事故は、感覚的に言うと、この牛刀が車に変わっただけ。


 ”特定の相手を対象としない、殺意のない殺人”だと、私は思っています。


 事故現場は両方向合わせて5車線の道路で、中央分離帯や歩道には植え込みもある”高架”ではない一般的な道路です。


 その道を、時速194キロ。

 時刻は午後10時。


 時速194キロを秒速に直すと、秒速53.88メートル。

 つまり、事故を起こした車は1秒間に約54メートルのスピードで走行していたことになります。

 夜間の反応時間(危険を察知して、対処するまでの時間)が約1秒程ですので、中央分離帯または歩行者用の植え込みから、歩行者や自転車が飛び出してきた場合、その距離が54メートル以内であれば全く減速することなく衝突します。


 さらに自動車のハイビームが照らし出す距離は約100メートルチョットですので、運転者が異常を発見してブレーキペダルを踏み始めるまでに、その半分の距離まで接近してしまいます。


 そして、残された距離は50メートル。


 時速50キロで走っている車の制動距離は約18メートルです。

 時速60キロでは27メートル、時速70キロでは39メートル。

 時速80キロでは54メートルとなりますが、時速80キロでの空走距離は22メートルなので、一応停止することは出来ます(ただし被害者が50メートルほどの距離から飛び出した場合は、殆ど減速することなく跳ねてしまいます)


 では夜間のハイビームで確認した100メートル先の障害に対して、当たらずに停止できる速度とは時速何キロでしょう?


 答えは時速90キロ。

 この場合の停止距離は93メートルでギリギリ止まれます。

 ただしヘッドライトがロービームですと、照射距離が40メートルとハイビームの半分以下ですので時速60キロ(空走距離17メートル+制動距離27メートル=停止距離44メートル)で走行していては止まることは出来ません。


 では一般道を時速194キロで走る車とは、どれほどの凶器なのでしょう?


 先に記載した通り空走距離は約54メートル制動距離は約212メートルとなり、空走距離と制動距離を合わせた停止距離は266メートルにもなり、危険を察知してから停止するまでに要する時間は約9秒も掛かります。


 しかもここまでのデーターは乾燥した状態のアスファルトという、条件の良い路面設定で計算したものです。

 路面抵抗値の低くなる雨天や横断歩道やセンターラインなどペイント部分を踏んだ場合は、更に長くなります。


 では、この時速194キロで走るBMW2シリーズの持つ、運動エネルギーは、どのくらいのものなのでしょう?

 BMWの乗車重量を1700㎏、秒速54メートルとして計算すると、運動エネルギーは約247万ジュールとなります。

 自転車が走る運動エネルギーが約4万ジュールなので、その60倍以上!

 と言っても、ピンと来ませんね。

 これは6トンの物体が真上から(加速度無し)落ちて来るのに等しい運動エネルギーとなります。

 まあ、誰がどう考えても助かりようが無いことは分かりますよね。


 このように、自動車という物体が凶器に使われたのが、今回の事故。

 いいえ、これはもう事件です。


 夜の10時とはいえ、交差点もあり、歩道も並行する一般道。

 そこを、ハイビームの照射距離内では全く対処できないほどの速度で走る事は、人の命を軽視した行動だと思います。

 

 この行為に過失致死の判決を下した検察&裁判官は、いったい何を考えているのでしょう?

 高速道路ならまだしも、いつ誰が飛び出してきてもおかしくは無い一般道。

 まさに凶器と化した自動車です。



 今回の事故は現在大分地検で「過失運転致死傷罪」として起訴されています。

 まあ“過失”と言うのはおかしいですが、検事は

①加害者の少年は直線道路をまっすぐに走行しており、危険運転致死罪と認定し得る証拠がない。

②時速194キロで危険運転という判決にならなかったら、それが前例になるので争点にしない。

 と言う理由だそうです。

 市販車最速の車はブガッティ・ヴェイロンと言う車だそうで、最高速度は時速430㎞。

 もし、この自動車メーカーに「時速430kmで直線道路をまっすぐに走れますか?」と問い合わせたなら、もちろん「YES」と答えが返って来るでしょう。

 各自動車メーカーは、その車を販売するにあたって、あらゆるデーターを取り、安全であることを確認して世の中に送り出しています。

 ①に関して言えば心身ともに正常な状態の運転手の場合、違法改造の車以外ならたとえ時速430㎞でも該当すると言う事になります。

 ②に関して言えば、ただの“意気地なし!”と罵ってあげたいくらいの理由ですよね。

 そんな根性なら検事と言う職を辞めるべきだと思います。


ちなみに「危険運転致死傷罪」にあたる6つの構成要件は以下の通りになるそうです。


1)『酩酊危険運転』 

   アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態で車を走行させる行為。

2)『高速度危険運転』

   運転の制御ができないほどの速度で車を走行させる行為。

3)『技能欠如危険運転』

   無免許など、技術がない状態で車を走行させる行為。

4)『通行妨害目的危険運転』

   人や車の通行を妨害する目的で幅寄せや割り込みなどを行い、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で車を運転する行為。

5)『信号無視危険運転』

   赤信号などをことさら無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で車を運転する行為。

6)『通行禁止道路危険運転』

   通行禁止道路を進行し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で車を運転する行為。


 争点となるのは(2)の“運転の制御ができないほどの速度”と言う事ですが、車における制御とは単に走行するだけの事ではなく、周囲の状況に合わせて安全に曲がれ、そして停止できる状態を言うのではないでしょうか?

 (6)の通行禁止道路に関してですが、通常は商店街などが該当すると思うのですが、峠道などで危険な暴走行為をする自動車やオートバイに対して「そんなにスピードを出したいのならサーキットに言って走れ!」と言うのはよく耳いします。

 一般道で時速200㎞のスピードを出すことは“違反”ではあるものの“容認できる”と言う事なのでしょうか?

 私は時速194㎞を“一般道での走行禁止速度”と言う解釈で“通行禁止”とし(6)の後半部分「重大な交通の危険を生じさせる速度で車を運転する行為」が該当するのではないかと考えます。



 私は人を裁く側の人間ではありませんから、事故を起こした少年を“非難”することは可能ですが裁くことは出来ません。

 彼の人生を考えると、危険運転致死傷罪の適応は酷だとも思います。

 ただこれ程までに交通事故が減らない以上、厳罰化と言うのは一つの方法だと思います。

 もっと言えば、飲酒運転や、あおり運転をしたドライバーさんには一生運転免許の資格を与えないで欲しいとも考えます。


 車はとても大切な交通手段ですし、とても楽しい乗り物です。

 ただし自分がどれだけ安全運転に勤めても、周囲の車が安全でない運転をすれば事故は起こります。 


 皆さまも、車の制動距離をよく把握して、このようなことにならないように安全運転に勤めてください。

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― 新着の感想 ―
[一言]  大人は子供のお手本にならなければならない。  と云う自覚があれば、世の中はもっとまともに機能していくのではないかなって思います。  でもそんなこと考えて行動している大人が情けないことに殆ど…
[一言] 酒酔い運転じゃなくて自分酔い運転() 危険運転致死の条件を満たせませんかねー…
[一言] お返事、ありがとうございました。 目指すところ、なのですが。悲惨な事故を減らしたいのか、悲惨な事故を起こしたドライバーを厳罰に処したいのか、という所があると思います。 私は当初後者かな、と…
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