かませ勇者にされました ~異世界召喚されて勇者だと言われましたが僕は聖女です~
僕、「日高光」は片思いをこじらせていた
幼い頃に離れた地元に戻り、大学に入学してはや半年
元幼馴染の想い人、速水拓海に話しかけようといつもの様に彼の後ろを歩いていた
今日こそは、と気合を入れたのだが、タイミング悪く彼女、林田空美に捕まってしまった
また明日があると、小さくため息をつき空美の相手をしながら歩いていると…
拓海の足元に魔法陣のようなものが浮かび上がった
驚くより先に僕は駆け出していた。彼の元へ
そして、僕たち三人は異世界召喚された
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ようこそアルバニスタへ。勇者さま」
光が収まった直後、僕らに声をかけてきたのはゆるくウェーブのかかった桃色の髪を腰まで伸ばした少女だ
先程まで居た日本では絶対に存在しない髪色。これが、異世界転生…いや、異世界召喚か
彼女に見惚れるふりをしながら拓海の様子を探ると、小さく拳を握り、口角が少し上がっていた
異世界召喚と異世界の美少女に出会った事でテンションが上がっているようだ
オタク気質だった彼は、順調にオタクに育ったんだね
僕も彼に影響を受けてオタクとなったが、いわゆる隠れオタクだ
僕は見目がとても良いらしいく、親の転勤で都会に住んでいた頃に何度かアイドルオーディションを受けさせられた
もちろんダンスや歌などの練習をしていない、顔だけの僕が通るはずもなく全滅した。だが、学校ではオーディションを受けたというだけでウケが良かったらしく人気者になった
そんな中でオタバレをする勇気はなかった。期待を裏切られた周囲の目に耐えれそうになかった…
そんな事を考えていたらピンクの彼女が問いてきた
「わたくしはアルバニスタ王国の次女カンナ=ウル=アルバニスタと申します。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「速水…」
「勇者さま」
_________ __
えっ?ちょっと待って?
この子、僕の方を見てるよね
折角、拓海が自己紹介しようとしてるのに。何だこの女?
「勇者さま?アッハ。すごいじゃんヒカル」
僕の腕に組み付いていた空美が言う
って、こっちもちょっと待って?
何でくっついてきてるの?僕、君を振り払った気がするんだけど?
だめだ。頭が追いつかない。ちょっと拓海、笑ってない目で僕を見ないで傷つくから
「ヒカルさまとおっしゃるのですね。光とは、勇者さまにふさわしいお名前ですね」
「そうそ、ヒカルってばマジ勇者サマ。アタシも助けてもらってからずっとゾッコンよ~。姫サマ解ってる~♪」
「…教室に日高が居ると皆が優しくなるよな」
「えっ?ほん…」
「マジソレ!アタシもオタクの友だち出来ちゃったし!」
「俺も陽キャの奴らと馴染めたわ。えっと、林田、さん?」
「速水だっけ?あんたも解ってるゥ~」
え、だから待って待って。何二人で拳突合してんの?僕も混ぜてよ
ってか拓海に触るとか羨ましすぎるよ空美。いや拓海のハーレムに加わるなら別にいいけど…
ってそうじゃない。落ち着け落ち着け
「ご歓談中申し訳ありませんが、勇者さまには我が国を救って欲しいのです」
「へ~。タクトモから聞いてたけど、こういうのマジあんだね」
「そうそう。この後多分、ステータスとか調べたりするんだろ」
え、二人とも乗り気なの?
「・・・こほん」
また雑談になってる。姫様怒っちゃうよ二人共
っていうか勝手に話が進んでる?姫様だけじゃなく二人も僕が勇者って事で話進めてるし!
雰囲気を感じ取ったのだろう二人がやっちゃったって顔で私語を止めた
よし、訂正するなら今だ。僕じゃなく拓海が魔法陣の中心に居たと説明すればきっと…
「勇者ヒカルさま」
「え、あ、はい」
「我が国に伝わる予言です」
『悪しき邪神は封印された。だがこの封印もいつかは破られよう。されど希望はあり。異界の男がこの陣より答え、勇者となり。邪神を打倒し永劫の平和をもたらすであろう』
「え、僕は…」
「ヒカルさま。邪神を討ち滅ぼし、我が国…いいえ。この世界を救っていただけますでしょうか?」
「えぇ…」
「そうでございますか!ありがとうございますヒカルさま!」
「「「勇者様ばんざい!」」」
「「「ヒカルさまばんざい!」」」
ちょっと!?困惑して出た溜め息を了承と取るってどれだけ早とちりなのこの姫様!?
「勇者さま!」「ばんざい!」
クミクミ共!一緒になって囃し立てるな!ってかこのまま行くと…
◇◇◇◇◇◇
「勇者さま。こちらがステータスプレートです」
ステータスオープンとかの呪文じゃないんだ
「ステータスオープンとかの呪文じゃないんだ」
拓海と被っちゃった…照れる…
「こちらの板に魔力を通すと、ジョブ・スキルが表示されます」
魔力!魔法!
「魔力?魔法!」
空美と被っちゃった…恥ずかしい…
とと。とりあえず受け取ったのはいいけど、魔力ってどうやって出すんだろ。参考書(異世界ノベル)だと大体は体の中の熱を集めるイメージとかそんなよね
あ、なんか出来そう。ってか本当にそうなんだ。プレートが赤くなって…いや熱くなってるよこれ。めっちゃあっつ!あぁやっと文字?出てきた!あっつ!って、手が。指が。動かせない!離せない!あっつ!は、はやく終わって!あっつ!クミクミ共は!?って空美はもう終わってる!?うらやまあっつ!拓海もあつそうじゃない…やせ我慢してるっぽいかっこいいあっつ!は、早くおわってあっつあっつ…くない!終わったら速攻引くの?不思議…いやすっごい指先ヒリヒリしてるから火傷はするんかい!
「三人共プレートが赤く染まるとは…」「レッドプレートの持ち主は、かの大賢者様や先代騎士団長以来…」「我が国は救われる!」「ばんざーい!」「勇者さま!」「聖女さま!」「えーっと…従者さま?」
何かまた好き勝手言ってるし…指先すっごいヒリヒリするんだけど。ちょっと涙出てきたかも。恥ずかしい…
「え~っとなになに…?ふんふん」
?空美?プレート読んで何を?
「あ、ヒカルの手ちょうどいいじゃん。ちょい貸してみ?」
「え?うん」
「癒やしの、水ゥ~」
うっひゃ!つめった!つめた…や、あっつ!またあつい!つめたあつ!あ、おわった…濡れた感触すら消えたし。あ、ヒリヒリも治ってる
「空美。ありがとう」
「や~ヒカルにお礼言われると照れる~」
「……あの、クミさま。いいえ、聖女さま!」
「はぁい?」
「勇者さまには、守護する聖女さまがついていたとも予言に伝わっております!この国一番の癒し手であるわたくしが卑しくも聖女であると祭り上げられておりましたが…貴女さま程の癒やしの術を、わたくしは習得出来ておりません!貴女こそが聖女さまですわ!」
すっごい早口。このおっちょこちょい桃姫もオタク気質あるなぁ
この突っ走り具合は絶対拓海と気が合うよね…
でもそういうのは流石にプレート見てから決めようよ
日高 光
ジョブ:パラディン
スキル:万能の癒し手 支援の御業 守護者
林田 空美
ジョブ:シャーマン
スキル:豊穣の祝詞 祈りの踊り手 招霊
速水 拓海
ジョブ:マジックナイト
スキル:万能の魔術 万能の武術 全能
ほら!魔法も武芸も出来てしかも全能だよ!?どうみても拓海が
「ヒカルさまは、流石勇者さまです!パラディンのジョブはどんな攻撃も防ぐと言われる伝説のジョブなのですよ!」
「そうなんだ。皆を守れる力なんだね。やっぱり僕は…」
「はい!とても勇者らしい力ですね!」
またも食い気味に!
「クミさまのジョブは…シャーマンとは、初めて見るジョブですわね。魔術学長は知っているかしら?」
「はい、姫様。私も文献で見ただけですが、かつて東国に存在したミスティランドという国に存在したと言われるジョブですな。巫女とも呼ばれ、死人や神とも交信したそうです」
「うち寺だかんね~。寺生まれのHっす!ハ~!」
波ァ!じゃないの?
「波ァ!だろ林…プックク」
「いや、しんないから~」
「そして…ハヤミさまは…えっと、その」
「「あ、この流れは」」
「マジックナイトとは…剣に魔法と全てをこなせる、とても珍しいジョブなのですが…」
「「器用貧乏でどれも特化職に及ばない、ハズレジョブ」」
「え、えぇ…その通りです。ヒカルさま、ハヤミさま」
「イキピタわら」
「でもこのスキルが」
「その、申し訳ないのですがハヤミさま。勇者さま方の足かせになる前に街へ下りていただけますか?」
は?なんだこの女
「ひ、姫様!?」
「だって、そうでしょう学長。お三方はとても仲がよろしい様子。ですが、マジックナイトでは勇者さまや聖女さまにはとてもとても…」
「それはそうですが、何も今すぐは…」
「学長。カンナ様の御慈悲が解らぬのか?」
「騎士団長殿…」
まってまって。また当事者置いてけぼりの予感
「そうですな。我々の都合に巻き込んでしまって命まで落とされては」
「そうですぞ学長。城下ならばマジックナイトでも危険は無い」
「えぇ。我がアルバニスタの城下ほど、治安の良い街はございませんもの」
「それはそれは。ハズレの俺になんとも慈悲深い」
あ~もう。わかってたけど。乗るのわかってたけども!
「え~。ハヤミンだけずるくない?アタシも城下行きたい~ショッピングしたい~」
「聖女さま…その大いなる慈悲は高潔ですけれど、どうか勇者さまをお助けくださいませ…!」
「そうそうハヤシン。日高のことよろしく頼むぜ…ククッ」
「勇者どのを守れぬ事に涙するか…心は武人よの、ハヤミどの」
俯いてシャクってるけどそれ、笑いを噛み殺してるだけだけど?大丈夫かこの国の騎士!
「勇者さま、聖女さま。ハヤミさまには十二分の支給をいたします」
「我が騎士団も城下に駐留している。兵士にも伝え、身の安全は保証する」
「近隣であれば、邪神により凶暴化した魔物も少なく、弱い。例えば冒険者となっても問題なかろう」
「って訳で、俺は城下に下りるよ」
「え、まって。た」
かませらしく、危険なことはするなよきらら
「えっ。あの」
「ショッピングくらいなら付き合うぞハヤシン」
「マジ!?ハヤミンサイコー!クミクミ組つくっちゃう?」
「親密度あがるの早すぎだろ。チョロ聖女かよ。作るけど」
「おっけー!イエー!」
「イエー!」
「い、いえー!」
「「ヒカルは入れない」」
「えっ。ひど」
泣きそう。けど、光って呼んでくれた。こんな、親に言われるがままに男みたいな格好してる女の僕を、幼馴染の少女のきららだと、認識してくれていた。ほんと泣きそう。っていうか泣いてる
これから離れるけど、目的は同じだ
だから、かませ勇者としてまた出会った時は…
聖女として、彼の力になろう
そして、この早とちりな姫様も、頭の硬そうな学長さんも、親切すぎる騎士団長さんも、そんな人達の暮らすこの国、世界も
三人で、絶対守ろうね
誰も傷つかないやさしいせかいが好き