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天使討伐!

 天使なんかい!

「って! 天使なわけないだろ! 誰だよ轟音のミカエルって!」

「くくっ、この忌々しき聖なる波動が聞こえて来ぬか!」

 忌々しき波動て、いつもと違うところと言えば……。

「この少し漏れて聞こえる歌声の事ですか?」

「さ、さすが我が盟友ファーストカウントで判断するとはな……」

 けど少し漏れてるだけじゃ無いのかな?

 俺は葵さんの狂言に付き合ってる暇は無いんだよなぁ。

「えーと、ちょっとだけ漏れてるのは時々あるじゃ無いですか、それよりも俺は203に料理を運ばないと————」

 さっさとこの階の一番奥の203に[絢爛(以下略)]を運ばないといけないのに。

「203だぞ我が盟友」

 へ?

「えっと、なにが……」

「だから轟音のミカエルだ」

 轟音のミカエルが203……ん?

「え? ちょ、葵さん、203って一番奥の部屋ですよ……」

「我はお主よりもここでの歴が長いぞ」

 って事は分かって言ってるって事か……え?

「じゃ、じゃあ……この店の最奥地からこの歌声が響いてるって事、ですか?」

 なんかちょっと言い方が葵さんっぽくなっちゃったな。

「あぁ、それほどの実力が無いと三大天使は名乗れないからな」

 いや、葵さんが勝手につけてるだけだろ! というか、

「まじっすか?」

「これが唯一無二の真実だ」

 …………………………………………………………え?

「ど、どんな轟音ですかそれ⁈」

「だから轟音のミカエルだ」

 が、ガチかー。

「というかその板なんですか?」

 今日葵さんを見つけた時からずっと気になってたんだけど、

「これか、これは聖なる魔力を抑えるサウンドプロテクトだ!」

 えーと……音を防ぐ? ……あ! 防音材ね。

 まあこいつの設定上は天使なんだろうけどこの歌声はただの騒音だよな。

「さて、盟友よ、我はこの神器を203に運ぶ。お主はその[絢爛豪華な(以下略)]を203に運ぶのがディスティニーなのだよな」

「ええ、まあ」

 運べる気がしないけど……。

「ならば共に行こう! 盟友よ!」

「まあいいですけど」

「我らのミッションは三大天使の一角たる轟音のミカエルを封印する事だ!」

 これまさかあと二人ほどこの程度の猛者がいたりして……居ないよな?

 まあともあれ道のりで言えばほんの数十メートルの距離なのですぐにたどり着くと思ってたのだが……。

「こなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ゆきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 うるっせぇ!

「な、何という轟音、さすがミカエル!」

 こ、今回ばかしは葵さんの言ってる事が正しかった、飛行機でも墜落したのかよってレベルの騒音だぞこれ! というかただ叫んでるだけだろ!

 というかそもそもなんでその歌なんだよ⁈ それそんな歌じゃ無いぞ!

「ちょ! これ、なんとかならないんですか⁈」

「ぼ、防音材を、取り付ければ、治る」

 嘘だろ! あまりの轟音で葵さんの厨二病が一時的に治ってる⁈

「というか、来る前に、これ、取り付ければ————」

「心までしぃぃぃぃぃろくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

「良かったんじゃ無いですか!」

 あーもー! うるせぇなあ!

「盟友! 轟音で聞こえぬ!」

 戻ってるし!

「先に! 取り付ければ良かったのに!」

「お主————バカなのか!」

 なんか普通に怒られた。これ八つ当たり?

「本来ならば受付が来た瞬間連絡して先に設置しておく手筈なんだ!」

 え⁈ そうだったの!

「まあ若輩だから知らぬのは仕方ないから触れないでやったのだが————バカか!」

 う、それは全面的にごめんなさい。

「次から、そうしろよ!」

「はい!」

 にしても……うるさいなぁ! これ、あと……何メートル?

「な、何……そんな、お主の[絢爛豪華(以下略)]が…………」

 え? 俺の[絢爛(以下略)]がどうしたって…………え?

「あ、あまりの轟音にお主の[絢(以下略)]の皿にヒビが入ったというのか……」

 んなバカなことがあるかぁ!

 ……………………でも…………確かに…………ヒビ…………入ってるな……。

「これ、皿が割れたら[け(以下略)]が溢れちゃうんじゃ————」

「ふたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁりのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「無いですか!」

 いちいち入ってくるなよ! 轟音のミカエルだがなんだか!

「そうだな! [(以下略)]が溢れる可能性は大いにある!」

 それ……結構ヤバイな…………————というかふと思ったけど……。

「これ、店のどっかから203の音量だけ下げる事出来ますかね?」

 そうすれば全部解決するような、

「盟友よ! できるに決まっておるだろ!」

 まじかよ! 超ナイスタイミングじゃん!

「じゃあそれをすれば————」

「ぼぉぉぉぉぉぉぉくわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁきみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 ちょっとお前黙ってろよ! そこ発狂するところじゃ無いからな!

「たわけぇ! してるに決まってるだろ!」

 は?

「え? それって……」

「はあ、これだから若輩は、すでにマイク音量はゼロだ」

 は?

「え? ゼロ?」

「ああ、簡単に言えばあれば全部地声だ!」

 ……え? 地声で皿にヒビを入れる人は存在しないだろ! ってもここに居るけど……。

「えっと、前に進みましょうか……」

「わかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁらないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

「ああ、考えるだけ無駄だ……進もう」

 こ、こりゃ凄いな。

「にしても……こ、これ以上進むのは命の危険があると思うんですが……」

 め、めっちゃ耳が痛くなってきた。

「う、うむ。ミカエルめ、今宵は調子が良いな」

「歌が終わってからにした方が————」

「おい伊達! ミカエルが来てるのか⁈」

 ん? 二階の端から……立花さん?

 というかその轟音のミカエルって二つ名はみんな分かるの⁈

「くっ、良いところに来たなハーデース!」

 いくら立花さんでもこの騒音はどうにかなるもんじゃ、

「ついにこの時が来ちまったか」

 あれ? バックルームから出てきて一応お客さんの前なのにフォルムチェンジしてない?

「柳葉! リミッター上げろ! 伊達! サウンドルームだ!」

 なんのリミッターを上げるの⁈ そして立花さんはどこ行くつもりなの⁈

「ふっ、今回ばかしは手を組むかハーデース!」

 あ、サウンドルームが開いた。

「よし! 伊達! 柳葉は?」

「嗚呼! 今解除が終わったと連絡が来た!」

 ん? だからなんの解除なの? というか店員総出で何してんだよ。

 立花さん帰ってきたし俺は受付にでも戻ろっかな?

「くくっ、こんな所でハーデースとミカエルの決闘を拝めるとはな」

 店員と客だけどな。

「こ、これは見逃せないな盟友」

 心の底からどうでもいい!

「行くぞ! お前らぁぁぁぁ!」

 え? 立花さん(ヤンキーモード)何やってんの?

「待ってたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 葵さんノリノリじゃ無いか⁈ 何始めるんだよ⁈

 えーと、わざわざ音の響くサウンドルームに行ってマイクを握って……リミッターってマイクの音量の事かな? とすると……。

「こなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁゆきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 うるさいなぁもう! 静かにしててくれよ!

「ぼくぅぅぅぅぅぅぅのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 うるさいなぁ! 歌変わってんじゃ————って立花さん何してんの⁈

「つ、ついに始まったか……ミカエルとハーデースの決闘が!」

「本当に立花さんは何をやってるんですか⁈」

 どうでもいいけどその曲も発狂する曲じゃない!

「見てわからぬか」

 は?

「決闘だ」

 いやだからそうなんだろうけど、そうじゃなくて、

「かつてハーデースはミカエルに一度屈しているのだ」

 聞いても無いのに歴史を語り始めちゃったよ。

 というかハーデース(立花さんの事だよ!)がマイクのリミッターを解除してサウンドルーム使ってる時点で全然フェアな勝負じゃ無いよね。

「えーと、一応他のお客さんもいるわけだし迷惑になるんじゃ……」

「心配はいらぬ」

 心配しかないからこの店はピンチなんだよ。

「他の部屋のリミッターもリブァイアサンに解除してもらった」

 は?

「嗚呼つまり今どの部屋からもかなりの音量が流れているのだ!」

 えぇ! ミカエルの轟音を聞いてたせいで耳が慣れてたけど確かにうるさいな。

 ………………じゃなくて!

「なんで立花さんがミカエルに対抗して歌ってるんですか⁈」

「だから決闘————」

「シミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 やめろ、これ以上ぃを連発したらぃがゲシュタルト崩壊する! これ字の話だからな!

「あのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉどろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉだらけのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 やめろ、これ以上ぉを連発したらぉがゲシュタルト崩壊する! これ字の話だからな!

「だから、今ミカエルと立花さんが決闘して何になるんですか!」

 余計うるさくなるだけだろ! 仕事をしろよ仕事を!

「俺の仕事はあくまでも[絢爛豪華(以下略)]をミカエルさんの所に届けることで————」

 なんかミカエルって自然に言えちゃう俺が怖いよ。

「ふっ、盟友よ[絢爛豪華な春の踊り子ロールキャベツちょっと遅めの旬を召し上がれ、ミントを添えて]を見てみろ」

 うわっ、葵さん全部言ったよ。

「え? 何を————って[(以下略)]の皿のヒビ割れが収まってる⁈」

 な、なんで⁈

「ふっ、簡単に言えば————」

「どんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁときもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「こなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁゆきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 まだその歌なんだ。

「の二つのパワーが拮抗状態にあるおかげで互いの音波がせめぎ合っている、そして繊細な合致により一時的に超音波が打ち消し合っている状態だ」

 超音波ってそういうものなの⁈ というか口から超音波ってなんなの⁈

 え? 立花さんこれ狙ってやってんの⁈ 全然繊細な歌声には到底聞こえないけど。

「超音波に続きただの音波も同じような理由で弱くなってる!」

 確かに耳への負担が少なくなってる気はする。するけどそういうものじゃないだろ!

「さあ盟友よ! 今のうちに[絢(以下略)]を203に運ぶんだ!」

 確かにうるさいけど耳への負担は減ってるし皿も割れてない。

 割り切れないが効果あるんだな、この戦法って。

「すきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃなものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 と、とりあえず203の轟音のミカエルさんのところまで届けるか。

 もう完全に冷めてるけど、この[絢爛(以下略)]をさ。

 一応防音材を盾にしながら前に進み203を叩く。

「あのーご注文の[絢爛豪華な春の踊り子ロールキャベツちょっと遅めの旬を召し上がれ、ミントを添えて]を持って来たんですけど」

「こなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁゆきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

「あのーご注文の品を————」

「こころぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁでぇぇぇぇぇぇ」

「あのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 ま、全く聞く気ないだろ……なめ腐りおって。

「さっさと開けろよ! ミカエル!」

 とまあ意気揚々とドアを開けたわけだけど……。

「ミカエルって誰ですか?」

 いきなり歌うのやめたよ! 切り替え早ないな!

 っじゃなくて……やらかした。ミカエルはただのあだ名だよね。

 この人からしたら急に店員が入ってきてミカエルって叫んだんだよね……俺厨二病かよ。

「え? あ、あの……ミカエルって————」

「————……ふ、これは闇の世界に封印されし伝説の巻きミートベジタブル……」

 あー、俺何言ってんだ?

「これを貴様、三大天使たるミカエルが食べることにより闇の加護を受け天使は闇へと還る! ふはは、闇に溺れるのだなさらばだ!」

 勢いよく203を出てドアを閉める。

「あー、詰んだな」

 なんというか、死にたい

 適当に流そうと思ったのについ葵さんみたいな事を……なんというか————。

「ふ、聞いてたぞ我が盟友」

 え! あ、葵さんじゃん……今一番聞きたくない声だったよ。

「えっと、これはですね……仕方なく————」

「やはり盟友はそうなると信じていたぞ! さあ! 共に世界を滅ぼそう!」

 ああ、この人話聞かないタイプだ。

 なんというか、死にたくなったね。

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