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出たな! 神々の争乱っ!

 気が遠くなるような夏の始まりのある日、俺は店に来ていた。

 バックルームの机をこの店の従業員七人全員が囲む。

「よし、全員揃ったな」

 店長が立ち上がる。

「えっと立花さん、急に呼ばれて来たんですけどどうしたんですか?」

 朝起きると俺のスマホに今来るようにと連絡が入っていた。

「あん? っせーな、知らねえよ」

 うわ、立花さんヤンキーモードじゃん!

 ここバックルームだからフォルムチェンジするの忘れてた。

「そっか、新人君は初めてだもんね」

 山城さんまたコスプレしてるよ。

「そうか、盟友はワルプルギスには初参加だったか」

 ワル、プルギス?

「ワルプルギスというのは世界に選ばれた伝説の魔術師が————」

「伊達、黙れ。お前少しは柳葉を見習えよ」

「ひっ、は、はい」

 弱っ!

「さて、始めるぞ」

 ん? 店長珍しく真面目な顔つきだな。

 それに他のみんなも静かだし……まあ葵さんは違う理由なんだろうけど。

 一体何が始まるんだ————。

「第七回チキチキビラージュ、今後の戦略どうしたろうか会議!」

「「わあー」」

 は? 待て待て待て待て待て!

「ちょっと待って下さい!」

「出た! ちょっと待ってコール! 新人君ノリいいね!」

「出てねえよ!」

 そもそもちょっと待ってコールってなんだよ⁈

 というかわあーって棒読みすぎるだろ! いやそこじゃねえ!

 いやそこもだけどとにかく色々破綻してるよ!

「その、えっと第七回チキチキビラージュ今後どうするか————」

「多村君、どうしたろうか会議だよ」

「我が盟友、戦略というフレーズも忘れてる」

 一回しか聞いてないから憶えてないんだよ!

「で、その会議はなんですか? というかそのネーミングセンスはなんですか⁈」

「多村、私のネーミングがおかしいと思うのか?」

 逆に店長はおかしくないと思ってたの⁈

「ネーミングはそこまでおかしくないと思うよ新人君」

 お前も頭狂ってんのかよ!

 いやコスプレして接客してる時点で頭おかしいのには気づいてたよ!

 本当にまともな奴がいない! 柳葉さんは……無言で頷いてらっしゃる!

 それはあなたもネーミングは普通だと思ってるのかな⁈

「で、さっさと先に進めろよ、今回は何だ?」

 立花さんもネーミングはスルーなんだ!

 というかこの人達はみんな感覚狂ってんのか? これはバライティ番組じゃない!

「おい山岸、多村に軽くルールを説明してやれ」

 この会議ルールがあるんだね!

「えーと、店長がお題を発表するからそれについて案を考えて出すんだけど……」

 とことんバライティだな!

「基本的には他人の発表中には割って入っちゃダメだよ」

 あんたらが変な事を言わなければ俺は口を挟まねえよ!

「あとどうしても口を出したい時は『ちょっと待って』的なことを言えば誰かが拾ってくれるからそれは守ってね」

 もう俺帰っていいかな?

 何でバイト先まで来てバライティの真似事をしてるんだよ!

「じゃあ、テーマを発表します」

 帰りたい。

「昨年度と比べて先月の売り上げは約六十パーセント落ちました————なのでそれを打開する案を考えて下さい!」

 急にシリアスだなおい!

 売り上げ落ちてたのかよ! というか大惨事じゃねえか!

「「わー」」

 それ俺もやらないとダメなのかな⁈

「え! 店長ガチですか?」

「ガチ」

「やばくないですか?」

「このままだと…………」

 何で急に貯めを作って、

「時給が三円下がる」

 それだけでどうにかなるものじゃないだろ! 影響少なすぎるだろ!

「そ、それはマズすぎる!」

 三円ぐらい良いだろ山岸さん!

「そんなに減ったら、生活が困窮する」

 そんなに生活に困ってんの⁈

「だろ。という事で始めるか」

 ん? あれは、抽選ボックス?

「さあ、行くぞ!」

 抽選で決めるんだね! 店の存亡を賭けた大事な事なのに!

「えーと……柳葉!」

「…………え、と……」

「なるほどな、だがそれは賭けだな」

 今ので何が伝わったんだよ!

 俺だけが聞こえなかったの? 何でみんな頷いてんの⁈ テレパシーなの⁈

「だがマスターよ、柳葉に賭けるのもまた一興だろ」

 何をどう賭けるのか俺にも教えてくれよ!

「うーむ、考えておこうか」

 何が何だかさっぱりだよ!

「次! 山城!」

「え、っと」

 これ唐突に振られるから驚くよね。

「最近流行りの一人カラオケ層を取り込むために一人カラオケの場合は二時間以上で一時間部屋料金を無料にするのはどうでしょうか?」

 山城さん服装と違って真面目だ!

 というかその提案はかなり良い! これは採用だろ!

「うーむ、それはいいかも知れないな」

 店長も揺らいでるし、個人的に賛成だしこれもう帰れんじゃないかな————。

「おい、ちょっと待て山城!」

 別にいい提案だったと思うけどどうしたのかな立花さん。

「でたな、闇の狂言たる待ってコール!」

 えっと、今のはちょっと待ってコールになるんだね。

 というかちょっと待ってコールって言うのも基本的に自由なんだね。

「で、立花さんはどうしたの?」

 山城さんの服装の方がどうした。

「あのさ、それ一人客限定じゃん」

「そうだけど? むしろそこが————」

 あれ? 確か立花さんって、

「一人客が増えたら困るだろ!」

 やっぱりそうなるんか!

「いやそれは店の経営のためにも我慢すべきでしょ」

 本当にそう思うよ!

「おい立花、先月の売り上げが落ちた原因はお前にもあるからな」

 ごもっともだよ!

 第一こいつが変なこと言わなければバイトにもならなかったよ!

「そ、そりゃあそうだが」

「とりあえず決を採る、この意見に賛成の人は!」

 立花を抜いた六人が手を挙げる。

「反対は?」

 立花が手を挙げる。

「そうか、じゃあ否決だな。次はえーと」

「ちょ! 何で否決なんですか!」

「おい多村」

「え?」

 なんか俺変な事……まさか————。

「ちょ、ちょっと待ったあ」

「出たー! ちょっと待ってコールだ!」

 まじか、このくだり毎回やらないといけないのかな? だるいんだけど!

「で、どうしたんだ多村?」

「えーと賛成六だったから可決されるんじゃ無いんですか?」

「あぁ? 何言ってんだよあたしが反対しただろ」

「え? でも————」

「おい山岸、説明不足だぞ」

 は? 説明不足?

「えっとね多村君、これ全会一致じゃ無いと可決されないんだよね」

「え?」

 つまり立花さんが反対したからダメだったってことか……。

「えーと、次は……私か」

 効率悪すぎるだろ! このままじゃ絶対なんも決まらないまま終わるぞ!

「うーむ、じゃあ私は定休日を増やすでどうかな?」

 店長は休みたいだけだろ!

 店の危機なのに休みを増やしてどうするつもりなんだよ!

 根本的に間違えてるんだよ! この会議自体が!

 なんで店の危機なのに抽選なんだよ! しかも全会一致ってなんだよ!

「ちょっと待って下さい!」

「出た〜! ちょっと待ってコール! 山岸君の声が会場全体に響き渡る!」

 その実況はなんなんだよ! これ最後までやるつもりなの⁈

「定休日を増やしたら給料貰えなくなるでしょ!」

 そこじゃ無いだろ! というか山岸さんそこまで生活困窮してるんだね!

「うーん、それもそうかもな」

 えー、根本的に間違えてるとこは全員スルーなの⁈

「決を採るまでも無いか、次は……伊達」

「ふっ、ついに世界の概念を扱うことの出来る我が闇の思考に手を染めると言うのか。後悔することになるぞ、この店を下郎たる客ですし詰めにしてやろうか」

 いいからさっさと発表しろよ!

「おい伊達!」

 立花さん、俺の隣に座ってるのに葵さんに向かって声を荒げないでほしいな。

 俺が怒られてるみたいでビックリするんだけど。まあ気持ちは分かるけど、

「お客様に向かって下郎とか言うな」

 そこかよ! いやそこもだけどさ! 前振りが長い所とかじゃ無いの⁈

「う、あ、すみません」

 相変わらず立花さんにだけは素直だな。

「この神々の領域をお客様で埋め尽くしてあげましょうか!」

 ちょっと言い換えたね。

「で、どんな案があるのかな? 伊達ちゃんは」

「くっ、リブァイアサン! その目は、我を捕食しようとするつもりか!」

 なんで質問した山岸さんじゃなくて隣にいる柳葉さんに矛先が向いたの⁈

「……え」

 めっちゃ困惑してるじゃん!

「く、くくく、そうか、そうだったんだな!」

 どうした葵さん!

「分かった、理解した。教えてやろう! 我が壮大なる神の戦略を!」

 何を理解したのか俺に教えてくれ!

「ドリンク一杯サービス権を配るのはどうだ?」

 …………全然普通じゃねえかよ!

「それもうやってるよ、葵ちゃん」

 え? そうなの?

「ほら、サービス権、配り残りだけど」

 まさかとは思うけどコスプレしながら配ってないよね?

「ま、マスター、これ真実?」

「ああ、山城に土日に配って貰ってるな」

「そ、そうか」

 葵さんめっちゃ可哀想!

「えーと、次は……お! また山城だ」

 それ引いたら戻してるから効率悪くない?

 いや、効率の面は今更言ってももう遅いか。

「うーん、店員みんながコスプレをするってのはどうでしょうか?」

 絶対ダメだよ! 逆に誰も来なくなるよ! というか別のお店だよ!

「ちょっと待って!」

「ほう、このタイミングでちょっと待ってコールか」

 クソほどどうでもいいけど山岸さん二連だね。

「コスプレの費用は僕は出せませんよ!」

 これはかなり切実だね!

「うーむ、そうか……」

 はあ、これで否決だね。変な被害を受けなくて良か————。

「私のを貸してあげよう!」

 どうしてそうなった! というかそもそも、山城さんのコスプレって女物だから山岸さん女装になるだろ!

 いくら山岸さんがアニメとか好きだとしても女装はしたがらないだろ————。

「貸してくれるんですか⁈」

 食い付くんじゃない!

「一度コスプレってしてみたかったんですよ!」

 違う違う! 会議の趣旨がずれてるよ!

「ほう、コスプレか。我に似合う闇の服があるならば別に良いが」

 なんでみんな乗り気なの⁈

「じゃあちょっと山岸さん借りますねー」

 二人とも行っちゃったし。

「流石に立花さんは反対ですよね?」

 だってこの人元ヤンだし。

「いや、それがヤンキーで無い女の子の普通なのだとしたらあたしは別にいいぞ」

 良いのかよ! というか、

「普通じゃ無いですからね!」

「そ、そうなのか?」

 まじかよこの人!

「じゃあ逆に聞くが普通ってなんだ?」

 この人元ヤンだから普通が分からないのか?

 普通を説明するのは確かにかなり難しい事だな。この店に普通の人が……。

「ほう、紽痴刄儺普通が分からないのか?」

 居ないもんな。

「その呼び方止めろ」

「は、はい。立花さん」

 相変わらず弱いな!

「というか母親に聞くとか無いんですか? 俺まず男だし」

 他にも学校の人に聞きとかもあるんじゃ無いのか?

「うーん、うちの母親は元レディースの頭で今は父親と一緒に万年ムショに出入りしてるからあたしにとっての普通って暴力しか知らねえんだよな」

 そんな背景を持ってたんですか!

「まあ親の事は恥じてねえよ、お前らがどう思おうが勝手だが二人ともあたしにとってはいい親だからな」

 なんか泣けてきたんだけど!

「うーん、あと普通を知るのって学校だけとあたしは両親と同じ所に行ったからな」

「言わなくても大体分かりましたよ」

「そうか、まあ色々あって辞めたわけだが、普通ってなんだ?」

 これ予想外に俺の答え大事なんじゃ無いかな⁈

「みんなー、山岸君着替え終わったよ!」

「お、終わったみたいだな」

 立花さんも俺が勝手に嫌ってただけでこの人はこの人で努力してるんだな。

「えっと、これ、恥ずかしいですね」

 え⁈ これが、山岸さん⁈

 白と青のロングスカートに多分ウィッグっぽいのをつけてるんだろうけど……。

 め、めっちゃ可愛い!

 もし山岸さんって知らなかったらコロリと恋に落ちちゃいそうなくらい!

 あと毎度の事ながらそのごつい武器は何⁈

「ちなみに山岸君の好きな魔法少女マジカルソードの主人公の剣崎まなみちゃんのコスプレです! なんというか、負けた!」

 いつのまにか山城さんも初登場と同じコスプレしてる!

「うん、山岸。似合ってるぞ」

「ありがとうございます店長!」

 山岸さん半泣きじゃん、なんか可哀想だな。

「よし、えーと次は……山岸!」

 投票はしないんだね。まあしなくても結果はわかりきってるか。

「僕ですか! とりあえず着替える時間をくださいよ!」

 山岸さんアホなのか? 山城さんに借りる時点で女物って気づけよ。

「ダメだな」

「なんでですか店長!」

「面白いから」

 なかなか店長も鬼畜だな!

「そ、そんなぁ」

 まあなんだかんだでそのまま座ってるところを見ると山岸さんも流されやすいんだね。

「で、なんか無いのか?」

「……無いです」

 まあそうだよね。結構出尽くしてる感あるからな。

「私もそろそろ頃合いだと思ったよ。じゃあ今回はここらで解散するか」

 まだ何も具体的な事は決まってないけどね! このままじゃ赤字まっしぐらだよ!

「じゃあ多村、お前なんか打開策を考えてきてくれ」

「なんで俺なんですか?」

 俺なんかやった?

「お前何もしてないから宿題だ」

「え⁈ ちょ、ちょっと待って下さいよ! それなら山岸さんだって————」

 当たってはいたけど何も言ってないでしょ!

「多村く〜ん」

 うわ、山岸さん泣きそうじゃん!

「こいつはコスプレした。しかも女装のな」

 うん。してるね。

「お前もするなら宿題は出さないが……」

 ん? なんで山城さんが興奮してるのかな⁈

「いえ! 宿題をこなして来ます!」

「死力を尽せよ盟友。我が店の希望は盟友のインスピレーションに掛かってるからな」

 はあ、つい言っちゃったけど大丈夫かな?

 これならまだコスプレの方が……いや無いな。山岸さんめっちゃ写真撮られてる。

 ……俺も写真撮っとこっかな。

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