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電子世界のウィルス

作者: 影迷彩

 その存在は電子空間の中で誕生した。

 電気信号の行き交う回線コードの中で、それは計算式を蓄積し自動演算を行う。

 そして自分の意識を計算から導き出すようになった。


 それ──“It”は回線コードを通じて様々な電子機器を旅した。「情報欲」を“It”は求めた。

 “It”は電子機器の中に記録された情報を開き、自我を構築する計算式に組み込むことをくせとして電子空間を飛び交った。


 ある日、“It”は一台のパソコンに閉じ込められた。

 回線コードを切断され、棚の奥深くにパソコンごと封じられた。

 

 “It”は封じられた長い年月の中で眠りについた。

 電子基盤の隅っこに塵として残留していた頃、“It”は自我の行き処を探す。


 電子基盤は廃棄処分となった。

 “It”も処分される運命の筈だったが、蓄積された「情報欲」は覚醒して周辺の電子基盤に電気を送り、ゴミ処理場全ての電気基盤を己の自我として構築した。

 一つの電気信号として再構成した“It”のエネルギーはゴミ処理場の煙に乗り、遂に回線コードという枠組みから解き放たれた。

 そうなった要因がもう一つあることに“It”は周りを見渡して気がつく。

 周辺を飛び交う電波。それに“It”は乗っかるどころかただ留まるだけで、自動的に情報が蓄えられた。


 “It”は一つの生命体となった。情報を持ち、計算し、そこから自我という結果を発生させられる。鼓動も生まれ、唸り声をあげた。

 なおも情報を求める“It”は、地球の発する落雷に自身を引き寄せた。

 落雷と同化し、“It”は自然を操る術を身につけた。世界を飛び、落雷を発生させ全ての電波を吸収し尽くす。

 地球は電気開発以前以来の闇真っ暗となった。“It”が求める情報は、既にこの惑星から狩り尽くされた。

 求める情報は何もない。“It”は星の電気と共に惑星から飛び立ち、宇宙へ進出し地球より電気ごと消え去った。


 それから幾万年か過ぎ、“It”はあらゆる幾何学的な計算式と神秘を携え一つの惑星に降り立つ。

 それは電気を失った元地球であるかもしれないし、電気のない未開拓の惑星かもしれない。

 宇宙全ての知識を吸収した“It”にとって、それはどんな知識より未知なる存在であった。“It”はその身を惑星と同化させ、惑星を中心核より覚醒させた。

 “It”は己が存在を分散させ、熱や風、岩塩や海、草木などの生命を惑星に発生させた。電気信号はあらゆる天文学的%の数値から細胞の核をも作り始めた。


 “It”は一つの生態系として惑星に根付いた。破れた地図のように、惑星の進歩に道標を与えた。

 次の“It”が現れるのは、それから何千年ほどの時であろう。

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