表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

なりたいアタシにアタシはなる!

期間だけ長かったこの作品もついに完結です。

「……私帰ります」


 アタシたちの正座を見た驚きから気を持ち直したみりあがそう言う。


「ま「待ってみりあちゃん」


 アタシが顔を上げて声を出した瞬間、お姉ちゃんがみりあに声をかけた。

 見るとみりあの右手は玄関ドアの取手にかかっていて、左手はお姉ちゃんに握られていた。


「帰るときはもちろん送るから、その前に圭織たちの話、聞いてあげてくれない?」


 優しく諭すようなお姉ちゃんの言葉。

 でもみりあの顔は俯いていてその表情を見ることはできない。


「……お姉さんは知っているんですか?」


 俯いたままみりあが声を絞り出す。


「何を?」


 みりあの問いにお姉ちゃんは優しく問い返す。


「私と……倉崎くんのことです」


 辛そうに言葉を吐き出しおそるおそるお姉ちゃんの顔を見上げるみりあに、お姉ちゃんは小さく頷く。


「……っ、どうして」


 顔をくしゃくしゃにして今にも泣き出しそうなみりあがお姉ちゃんの言葉にくいつく。


「どうして、どうして私と倉崎くんのことを圭織のお姉さんが知っているんですか!!」


 みりあの絶叫が玄関に響く。

 みりあが倉崎くんに告白したのはつい昨日のこと。

 昨日の今日だ。アタシやお姉ちゃんが知っているのはおかしい。普通なら。


 これを正しく理解出来るのは、お姉ちゃんのようにアタシと倉崎くんが入れ替わっていることを知っている人だけ。

 そして、そもそも入れ替わりだなんて奇想天外な話、誰も予想すらしないだろう。

 だから誰にも理解出来ない。


「圭織と倉崎くんはホントは付き合ってて、お姉さんにも話してて、私はただの笑い者だったってこと!?」

「違う!!」


 思わずアタシが声を上げてしまう。がアタシの否定の言葉は、倉崎くんの姿をしたアタシの言葉はみりあには届かない。


「どうして倉崎くんが圭織の家にいるの!?」


 みりあがアタシを指差す。


「しかも二人して土下座なんてして! 私に言えない後ろぐらいことがあるからなんでしょ!!!」

「アタシは圭織なんだ」



「は……?」



 倉崎くんの姿をしたアタシの唐突の告白にみりあは再び固まってしまった。


「僕が倉崎悠介です」


 アタシの姿をした倉崎くんもアタシの告白に続く。


「な、何言ってんの二人とも。そんな冗談面白くない」


 アタシたち二人の突拍子もない告白に少したじろぐみりあ。

 アタシは立ち上がってほんの少しだけみりあに近付く。両手で体を抱くみりあ。


「月曜日のアタシと火曜日のアタシ。月曜日の倉崎くんと火曜日の倉崎くん。様子がおかしくなかった?」


 アタシは自分の記憶を探るようにみりあに語りかける。


「クラスのサル共と大乱闘する倉崎くん。格好良かったけど普段倉崎くんあんなだっけ?」

「火曜日の朝のアタシの姿はさすがにアタシでも恥ずかしかったよ。男嫌いのアタシがあんな隙だらけの姿を見せるっけ?」



「……わかんないっ!!!」



 突然みりあはいやいやをするように首を振ると再び玄関ドアに手を伸ばした。


「あっ」

「待って!!!」


 でも今度はお姉ちゃんも、そしてアタシもみりあには届かなかった。

 みりあはするりと玄関から強い雨が降りしきる暗闇に走り去る。


「バカみりあ!!!」


 アタシはすぐに靴を履いてみりあを追いかけた。







 門から道に出ると左右を見渡す。

 わずか数秒。

 強い雨の中でも街灯がしっかりみりあの後ろ姿を照らしてくれていた。

 中学生とはいえ男子と女子では足の速さは歴然。

 アタシはすぐにみりあに追いつくとその小さな身体を抱きしめた。


「倉崎く「アタシが圭織!!! 昨日の告白だってアタシ!!! 倉崎くんの知らないところでみりあとくっつきたくなかった!!! みりあを誰かに取られたくなかった!!!」


 アタシは思いのたけを腕の中のみりあにぶつける。


「アタシはみりあが好き!!! でも今の体だと自分の気持ちもわかんないの!!!」


 ぎゅううと抱き締めるみりあの体は、普段アタシの体で抱き締める時よりも小さくて、より密着する。


「……」


 みりあはただ、無言だった。

 アタシとみりあのがむしゃらに走った荒い息と鼓動だけが音と振動で互いに伝わっていく。


「圭織のバカ、痛い」


 呟くような声でようやくみりあの声が聞けたのはどれくらい経ってからだろうか。


「ちょっとはなして、もう逃げないから」


 そう言ってみりあはアタシの腕の中から抜け出す。

 みりあが抜け出したあとの腕の中は見た目以上に虚無だった。


 誰一人通らない、雨が降りしきる街灯と窓からもれる光で照らされる暗い道。

 そこでアタシとみりあはお互いびしょ濡れで向かい合う。

 最初に声を出したのはみりあだった。


「私ね、今の倉崎くんはキライ、かな。ゴメンナサイ☆」


 そう言って笑顔であかんべーをするみりあ。

 告白された昨日のアタシとお断りされた今日のアタシ。何が違うんだろう。

 でもアタシはこんなみりあが見たかったんだ。


「今度はアタシがフラれちゃったか」


 つられてアタシも笑う。

 そしてアタシは手を差し出す。


「今夜元に戻れるんだ。だから帰ろ?」


 みりあはその手を取らず歩き出す。


「元に戻ったら構い倒すね」






「おかえりなさい」


 びしょ濡れのアタシたちが家に帰ると、倉崎くんがバスタオルを持って待っていた。


「みりあに告白してフラれた、水もしたたるいい男です」


 肩をすくめながらのアタシの言葉に倉崎くんも思わず笑ってくれ。


「だから圭織は私を今見れないんだね、納得」


 びしょ濡れで下着が透けてるみりあを極力見ないようにする倉崎くんの視界に、ワザと入り込もうとするみりあの横暴に慌てて。


「あんたたち仲直りしたんならお風呂入りなさい!!! 風邪ひくよ!」


 すでにお風呂も沸かしてあって、アタシたちはすぐに冷えた体を温めたり。


「圭織、一緒に入らない?」


「悪くないけど、男の子のアレが臨戦態勢になっちゃうからなー」


「やめて!?」


 入浴後、お姉ちゃんが取ってくれた出前のお寿司をみんなで食べて、ようやくアタシたちは落ち着いたのだった。















「現状は納得したけどやっぱり信じられない……」


 みりあはアタシたちが手渡した二つのスマホのSNS履歴を見終わると、首を振ってテーブルに突っ伏した。

 もちろんついさっきおばあちゃんから聞いた話もすでにしている。


 ここはアタシの部屋。

 夕食後、アタシたち三人は二階のアタシの部屋に集まっていた。

 倉崎くんはゆったりとしたアタシの部屋着、みりあは持ってきた着替えを着ているが、アタシには倉崎くんの制服しかない。

 それをびしょびしょに濡らしてしまった。


 男の子の倉崎くんは女の子のアタシの家には泊まれない。

 だから今、時間の許す限りお姉ちゃんが懸命に水分を取って乾かしてくれている。

 お姉ちゃんには頭が上がらない。

 さすがに服を着ないのはマズいので今はお父さんのパジャマ一式を借りている。


「倉崎くんは我が物顔で机の椅子に足組んで座ってるし、圭織はお客様みたいにこっちに座ってるし……、明るいところで改めて見ると違和感しかないよ」


「この部屋の本来の持ち主だしね……僕はちょっと横になるね」


 そう言って倉崎くんは生理になってから手放していないであろうストールをお腹にかけてごろんと横になる。


「倉崎くん、ベッドに寝てていいのに」


 アタシの言葉に倉崎くんは寝ころんだままふるふると首を横に振る。


「さすがに正体バレたのに四枝さんのベッドに寝る勇気は僕にはないよ……今は横になってるだけで楽だから」


「……男の子で圭織の生理は辛いよね」


 みりあが沈痛な表情を浮かべて倉崎くんに同情する。みりあのは軽いので尚更だ。


「これはもう入れ替わったタイミングが悪かったとしか……」


 アタシは痛くもないお腹を思わずさすりながらつぶやく。明日からまたあの身体かあ……。


「結局さ、私は圭織にフラれたの? 倉崎くんにフラれたの? そもそも私どっちが好きなのさ」


 みりあはテーブルに突っ伏したまま両手でバンバンとテーブルを力無く叩く。


「四枝さんが入った男の子?」

「アタシかなぁ」


「さっきまでの私がバカみたいに思えてきたよ……」


 アタシと倉崎くんの言葉にみりあが足をバタバタさせる。みりあさんや、そこで足をばたつかせると倉崎くんにスカートの中が見えてしまいますよ。ほら、倉崎くんたら目を見開いて、慌てて顔を逸らしちゃいましたよ。


「そもそもさ」


 そんな倉崎くんの様子に気付かないまま、みりあは言葉を続ける。


「圭織たちの言葉の通りなら明日には元に戻ってるんでしょ? どうしてこんな急に私を呼んだのさー」

「しかも『借りを返してほしい』だなんて。元に戻ったあとなら問題なしじゃん」


「……そうだね」


 みりあから出てきた『借り』という言葉。

 アタシはこの言葉を使ってみりあにメールを出し、みりあに泊まりに来てもらうことに成功した。


「アタシにはそれくらい大事な話だったから」

「私をイジメから助けてくれた時くらい?」

「そう。みりあをフったこの体でみりあにアタシの好きを伝えたかったんだ」

「そっか」


「……」


 居心地悪そうに身体を起こした倉崎くんがのそりと起き上がって部屋を出ていこうとする。


「倉崎くん待って」


 だけどアタシは倉崎くんを止める。


「さすがに僕が聞いちゃいけない話じゃない、それ?」


「聞いてほしいかな」


 倉崎くんの言葉をアタシは否定する。


「倉崎くんにはみりあの味方になってほしいからね」


「別に話聞かなくても僕は……」


「いやいや」


 そこで敢えてアタシはクックックとまるで時代劇の悪代官のように嗤う。


「秘密の共有者になってもらうんだよ」


「ええ……」


 絶句する倉崎くんの手を引いてアタシのベッドに寝かせる。

 アタシの笑顔に気押されたのか、倉崎くんは抵抗なくアタシのベッドに寝そべってくれた。


「みりあもいいよね? アタシと倉崎くんは今半分アタシで半分倉崎くんだし」


「倉崎くんなら……いいよ」


 アタシの言葉に答えたみりあの顔に少し赤みがかっていたことに、アタシは気付かないふりをした。





 あれは小学四年生の頃。

 みりあはイジメを受けていた。

 みりあには何の非もない。イジメられていた子と仲が良かった。ただそれだけである日からイジメのターゲットはみりあに変わり、イジメられていた子はみりあから離れた。


 アタシがそれに気付いたのはみりあがイジメられてから数日経ってからだった。

 いつも一緒に登校するグループ。そこにみりあの姿がなかったからだ。

 正確には登校時におはようの挨拶はする。けどいつの間にか姿が見えなくなる。

 アタシは何も考えず、グループの先頭に行ってみたり後方に行ってみたりしてみりあの姿を探した。

 みりあは後方も後方、何百メートルも離れたところを一人歩いていた。


「みりあちゃんどうしたの?」


「あたし足遅いからさ。圭織ちゃん先行ってていーよ」


「せっかくみりあちゃん見つけたから一緒に行く!」


「そっか」


 みりあはそれ以上何も言わず、アタシはみりあの周囲をぐるぐる回ってみりあに話しかけ続けた。




「四枝さん、あの子に近づかないほうがいいよ」


 そんな日が続いてさらに数日。

 そう声をかけてくれた子はみりあの前にイジメられていた子だった。

 その子はおどおどした声でアタシに忠告してくれた。


「なんで?」


「四枝さんもイジメられちゃうよ」


「イジメ?」


「うん」


 そこでアタシはみりあがイジメられている経緯を聞いた。

 正直みりあから離れたこの子にも怒りの気持ちがわいたけど、今思うと当時たかだか十才くらいの女の子だから、この子の行動はしょうがないよね。

 でもアタシは違った。

 その頃は男の子たちと混ざってサッカー三昧だったし、ガキ大将だったけど正しいことは正しい、って無邪気に信じてた。

 もちろん大人だって信じてた。

 だから。






「そこでも暴れたの……?」


 アタシのやんちゃな話を聞いて倉崎くんが呆れた声を出す。


「そ。私がイジメられてる現場に突然入ってきて大暴れ。イジメっ子の中にはケガした子も出ちゃったよ」


 みりあがぐてーっとしながらあの頃のことをしゃべる。

 そんなみりあにはもうイジメられていた頃のイメージはないし、辛い顔をすることもない。アタシと他愛ないことで笑い合う、いつものみりあだ。


「で、アタシは先生たちに怒られたんだけど、その前のイジメられっ子の声もあって、イジメっ子たちからのイジメはなくなったんだ」


「そうなんだ……結果的には良かったね」


 そう安堵したように言う倉崎くんにアタシは人差し指を立てて横に振る。


「ただね……アタシたちクラスの女子から無視されるようになったんだよね」


 そう、確かにみりあへのイジメはなくなった。

 だけどアタシが暴れたその代償に、みりあとアタシは女子たちから無視され始めるようになった。

 元イジメっ子たちはもとより、そうでない女子もアタシを恐れたのか近寄らないようになってしまったのだ。

 表面上ではわからない。挨拶だってするし、班での行動でも問題らしい問題は起きない。


「さすがにこれにはアタシという原因があるしね……先生たちも何も出来ないみたいで」


「でもさ」


 頭をかくアタシの言葉にみりあがそっと言葉を繋ぐ。


「私は圭織の行動で救われたんだよ。だから助けてもらったこれが『借り』」


「アタシはそんなのいいって言ったんだけどね。アタシの言動だと遅かれ早かれ女子の敵作ってたと思うし」


「もう『借り』なくなったからいいじゃん」


「ねえ倉崎くん。アタシたちが他の女子と絡んでるところ見たことないでしょ?」


 そして倉崎くんに話を振る。


「ごめん、あまり二人を観察してはいないから……。二人は特に仲がいいなって思ってたくらいだよ」


「じゃあこれが真相。実はアタシたち中学生になっても友達少ないんだ。小学校から同じ学区の子がほとんどだし。だからこんな馬鹿げた機会で悪いんだけどさ、アタシたちと友達になってくれない?」


 アタシはテーブルに突っ伏していたみりあを立ち上がらせると二人でベッドに近付き、アタシは右手を、みりあは左手を差し出した。その手を倉崎くんは体を起こし笑顔を添え両手で迎え入れてくれた。


「僕で良ければ喜んで。これからもよろしくね、四枝さん、上浜さん」







「さて、では元に戻ろっか」


 アタシは軽く倉崎くんに声をかける。

 時間もそろそろ21時。

 みりあはともかく倉崎くんはさすがに女子の家には泊まれない。あまり遅いと倉崎くんのご両親に心配をかけてしまう。


「上手くいくといいね、じゃ私は外に出てるよ」


 そう言って立ち上がったみりあの手をアタシはがしっと捕まえた。


「ここにいてよ。元に戻ったアタシたちを見たらしっかり納得できるからさ」


「ええ……、もう納得したし、圭織のはだかを見るのは別にいいんだけど、く、倉崎くんのハダカを見ちゃうのはマズいんじゃないかなっ!?」


 そう言ってみりあは倉崎くんに助けを求めるが。


「四枝さんにへそ曲げられて困るのは実は僕なんだよね……。四枝さん僕の体気に入ってるし」


 力無く呟く倉崎くんの肩をぽんぽんと叩く。


「倉崎くんもみりあにはオンナノコの身体のお世話になったでしょ? 少しくらいみりあにも役得が有ってもいいんじゃない?」


 ああアタシ今悪い顔してる。くくく。


「僕の体を見て役得と思うかはわからないけど、まあ、もう、早く戻りたいからいいよ」


 倉崎くんからやけっぱちな素敵な返事をいただく。


「すぐ済むからね」


 そう言ってアタシと倉崎くんはみりあの目の前でストリップを始めた。


「……」


 さくっと服を脱ぎ捨てたアタシの裸体を見てみりあがごくりとのどを鳴らす。

 女の子だって思春期。異性の体に興味があるのは男子だけではないのだよ。


 さすがにアレが臨戦態勢になっているので真っ正面から見せることはしないけど。だってアタシの部屋で服着てる子がいるのにすっぽんぽんがいるってよく考えなくても異常だよ?

 まあこの異常事態を引き起こしたのもアタシだけど。


「ぬ、脱いだよ……」


 ややもたついていた倉崎くんがそう声をあげる。

 生理中だからね、血が付かないように脱いでくれてありがとう。

 垂れちゃう前にささっと済ませよう。


 アタシは正面から倉崎くんの身体を抱き締める。

 アタシの身体は倉崎くんの体に比べると小さくて、でも胸は大きいから抱き締めてもぴったりとはくっつかない。


「倉崎くんもアタシを抱き締めて?」


 何も起こらない。

 アタシだけが抱き締めているだけじゃダメなんだろうと倉崎くんにも抱擁を促す。

 おそるおそるアタシの腰に回される手。


「目を瞑って祈ってみよ? 元に戻りたいって」


 そしてアタシと倉崎くんは目を閉じただひたすらに念じていく。


 元の身体に戻りたい

 元の身体に戻りたい

 元の身体に戻りたい

 元の身体に戻りたい

 元の身体に戻りたい

 元の身体に戻りたい

 元の身体に戻りたい

 元の身体に戻りたい

 元の身体に戻りたい―――


 ……


 ……ちょっともったいなかったかなぁ










「戻った……?」


 アタシは倉崎くんの声で目を開けた。

 聞こえてくる声は女の子の声ではなく男の子の声。それが上から聞こえてくる。


「……」


 アタシは久しぶりの胸の重さと対面していた。

 次いで思わず座り込みたくなりそうなお腹の奥からの痛み。


 そしてアタシのお腹に当てられた熱さを感じる硬い―――


「戻ったー!!!」


 大声を上げてアタシは慌てて倉崎くんから身体と目を離す。

 すぐに生理用ショーツを穿くとみりあがアタシにシーツをかけてくれた。


「倉崎くんはあっちを向いて着替えるんだよ!」

「はい!」


 みりあの号令に倉崎くんは慌ててアタシたちとは反対側を向いて服を着込んでいく。

 そして着替え終わると


「元に戻れました! 帰ります!」


 と下のお姉ちゃんに声をかけながらすぐにアタシの部屋を出て行った。





 着替え終わったアタシはみりあと向かいあって床に座る。

 ぺたんとお尻が床に着く女の子座り。

 これも懐かしいといえば懐かしいのかな。


「おかえり圭織。男の子の体はどうだった?」


「すごく楽しかった。サッカーもひさびさに出来たし。みりあは?」


「ドキドキしたよもう……」


 そう言うとみりあは笑顔でアタシの頭に手刀を下ろしてきた。


「てい」


「あう」


 痛くもない頭を両手で撫でていると、みりあに抱き締められる。


「ホントに圭織がおかしくなっちゃったんじゃないかって心配したんだからね」


「ごめん」


 アタシを抱き締めるみりあの腕が震えている。

 本当に心配かけてごめんね、みりあ。


「みりあ、アタシみりあに言いたいことがあります」


 かしこまったアタシの言葉に、みりあは手を離して女の子座りから正座に座り方を変える。

 アタシもそれに倣うと大きく深呼吸する。

 そして―――


「みりあ、アタシみりあのことが好き。付き合ってください」


「圭織。私圭織のことは大好きだよ。でも友達としての好き、かな。お付き合いはできません。ごめんなさい」


 思わず脱力してがっくりと床に両手を着いてしまう。


「うう、みりあはやっぱり倉崎くんの外見が好きなんだ……」


「は、はぁ!? ち、ちげーし!? あれは圭織が入れ替わってたから……」


 慌てふためくみりあ。うんやっぱり可愛い。


「アタシの精神と倉崎くんの外見合わせて好きでー、アタシだけだとオコトワリされるってことはー、そういうことじゃないの?」


「そんな簡単なことじゃないんだってば!!! もう圭織のバカ!!!」


 顔を真っ赤にしたみりあがぽかぽかと叩いてくる。


「そうだよね、簡単なことじゃないよね。アタシだってどうしたいか訳わからないもん」


 あははとアタシの口から笑いが零れる。


「私たちバカだねえ」


 つられてみりあも笑い出す。


「お互いフりフラれって笑うしかないよね」


「ホントにね」


 アタシたちの笑い声はお姉ちゃんにうるさいと叱られるまで続いた。







「お世話になりました」


 なんとか着れるようになった学生服を着込んで、倉崎くんはアタシたちに頭を下げる。


「可愛い妹が出来て私は楽しかったわ」


 おかしいな、可愛い妹はすでにここにいるはずなのに。

 アタシの視線にお姉ちゃんはやれやれといった感じでわざとらしいため息をついた。く……。


「倉崎くん、たくさん倉崎伝説作ってゴメンね?」


 アタシもしっかりと頭を下げる。


「あー……、上げている話ばかりだし、気にしないよ。それより僕こそ四枝さんを演じきれなくてごめんね」


「私は倉崎くんが節度ある男子ってことが分かって良かったかな。圭織と比べても女の子の身体で変なことしてなかったし」


「あはは……」


「あんたは倉崎くんの爪の垢でも煎じて飲みなさい」


 アタシはお姉ちゃんを真似て軽く肩をすくめる。


「それじゃあまた来週。これからよろしくね、倉崎くん」


 アタシとみりあの出した手を握る倉崎くん。

 それを横目に見やるお姉ちゃん。


「それじゃあ」


 こうして倉崎くんの精神と体は倉崎くんの家に戻っていったのでした。










 おしまい。






















「ー! こっちこっち!!」


「ほいよっ!」


 そう言って圭織は体と視線を仲間に向ける。

 圭織に付いていたマークは圭織のフェイントにかかり体勢がそちらにゆらいでいく。


 ここだ!!!


 圭織はそのままドリブルで目の前の相手の横を抜いていく。

 もうゴールは目の前。


 圭織は大きく足を蹴り上げると―――、斜め後ろから来た敵を足捌きでかわしその先にいた味方にパスを送る。

 圭織が強引に中央突破を狙っていたこともあって味方はフリー。

 パスを受けた味方はゴールキーパーの動きの逆を突いて落ち着いてゴールを決めた。


「ナイス()()!!!」


 圭織は拳を握り込むと胸の前で小さくガッツポーズをした。


 やっぱりサッカーは楽しい!!!





 同時刻。

 圭織の家。

 そこでは二人の少女がテーブルを囲んで勉強していた。


「そこの公式違うね。……こう、かな」


「さすが()()くんだねえ。でもおっぱいテーブルに置くのは行儀悪いよ」


 みりあがそう指摘するが、本来男子である倉崎悠介にとって重いものは重い。


「最近悪いところ圭織に似てきてるよ、気をつけないと」


「でも胸って重い……あいたたたたた!!!」


「男子におっぱいマウントを取られるのはさすがにつらいんだよ」


 みりあが笑みを浮かべながら本来悠介にはない大きな胸を引っ張る。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


 感じたことのない痛みに謝り倒す悠介。が周囲に気付かれないほどの一瞬、動きを止めるとまた動き出す。


「ただいまー! っていたいいたいいたい」


「あ、圭織おかえり。急に入れ替わるのは倉崎くんに悪いよ?」


「またやっちゃった、倉崎くんに悪いことしたなぁ」


 圭織はあちゃあと顔をしかめているが、あんまり反省していないんだろうなとみりあは内心ため息をつく。


「なんでまた入れ替わりが出来るようになったんだか……。しかも今度は自由自在って」


 みりあの言葉に圭織は腕組みをする。


「念じてた時に雑念混ざっちゃったかも?」


「圭織ってホントにバカだよね……。これからどうすんのさ」


「とりあえず今度こそ倉崎くんにはしたいことしていいよ、って約束したし」


「知らないよ、私と倉崎くんではだかのお付き合いしても言わないからね」


「え!? それはダメ!!!」


「圭織ワガママだよ……」

ここまで拙作を読んでいただきありがとうございました。


初めて完結出来ました。


ストーリーの流れは頭にあったのですが、途切れ途切れだったため細かい設定を思い出せず、何度も最初から読み直しちまちま細かい修正を繰り返してきました。


今回は気合いを込めまとまった時間を作って書きました。


今作は四枝圭織の一人称だったため、少しおバカ(褒め言葉)な圭織に合わせて出来るだけ難しい言葉や文章を使わないことに注意しながら書いていました。

また一人称であったため、ほぼもう一人の主人公であるはずの『倉崎悠介』視点の描写はありません。


一応構想として彼視点での話や、圭織が自在に入れ替わりを操れるようになったほんの未来の話も頭の中にあります。

未来の話では倉崎悠介くん視点でお話が進んでいく予定です。

手紙の女の子、今作ではどうなったか書いていませんから。


なろうかな……ノクターンかな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やっと終わりましたね。完結おめでとうございます。 あまり長い話というわけではないのに数年渡って読むことになってしまいましたね。無事に完結を迎えて良かったです。 結末はなんか微妙ですね。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ