アタシ、男の子になる
ピロピロリン♪ピロピロリン♪
何度目かのスマホのアラームをようやく止めてアタシはベッドから身を起こす。
「んっ」
手を上げて伸びをすると胸がそれにつられて大きく揺れる。
しばらくしてから手を下ろし、ふぅと息を吐くと壁に掛けられた壁時計を確認する。
それからおばあちゃんに買ってもらった2つのサッカーボール型のクッションを枕元に揃えて並べると、アタシはベッドから降りて身支度を始める。
アラームのスヌーズ時間は30分。
低血圧なアタシは朝が苦手。
その間ゆっくり目を覚ますのがアタシ流の起き方。
それからベッドで5分間のくつろぎタイム。
これがアタシの朝のルーチンってやつだ。
着ていたパジャマを脱ぎ捨てると下はすっぽんぽん。
下着の締め付けがキライなアタシは夜だけ下着を上下どちらもつけずに寝ている。
これは1年中ずっとだ。
お姉ちゃんには「バカ?胸のカタチ崩れるよ?垂れるよ?」って言われるけど自分の部屋でくらい自由でいたい。どうせこんなに大きいのなら、ブラ付けてたって老後垂れるのは覚悟してる。
だから着替えはまず下着をつけるところから始まる。
肩紐を肩に通して前屈みになり、大きい胸をカップに収めてから背中のホックを止める。
正直ブラをつけるのはイヤなんだけど、揺れてもこすれても痛いのはアタシだし、男に見られるのはもっとイヤなのでつけるしかない。
ブラしても下着を見ようとするんだから世の男ってバカだと思う。
夏なので制服はブレザーだけだ。
空っぽのカバンを持ってアタシは自分の部屋を出た。
日本中梅雨真っ只中のはずなのに、朝のテレビで見た天気予報ではうちの地域は降水確率0%だった。
リビングのレースのカーテン越しに見える景色も久々の青空を見せている。
無論それを鵜呑みにするアタシじゃない。
制服姿で朝食のトーストとヨーグルトを食べ終えたアタシは「いってきまーす!」とお母さんとお姉ちゃんにゴキゲンで声をかけ、玄関の傘立てから愛用の傘を取り出して出掛けようとして。
いけないいけない、身だしなみの最終チェック忘れてた。
慌てて家の中に戻って玄関の姿見で服装のチェックをする。
髪の毛よし。
顔よし。
胸元のパンくずは払ってと。
「あ」
ブレザーの第2ボタン周辺にスキマが出来ててブラも肌も丸見えになっていた。
全てはこの大きすぎる胸のせい。
思わず視線を下にして自分の胸をにらむ。大きすぎて足元すら見えやしない。
周りからは「おっぱい大きくていいね!」とからかわれるが冗談じゃない。
中学2年でGカップは人目を引きすぎて恥ずかしい。
クラスの男子も「おっぱい女」とか囃したてたり「お前の胸妄想して一人でしたぜ」ってわざわざ言いに来たりとか信じられないバカばかり。
担任の男の先生に言っても「分かった、注意しとく」とか口ばっかりで、そのクセ視線が胸に行ってるの、アタシが気付いてないとでも思ってるの??
みりあと街で遊びに行った時だって周りの男性の目がいやらしく感じるから楽しくない時もあるし。
ほんっとサイアク。
アタシはため息をつくと自分の部屋に戻ってサマーセーターを着込む。
これでボタン周辺のスキマは見えなくなるけど……暑いんだよ。胸の間と下に汗疹出来ちゃう。
足早に玄関に戻ってもう一度身だしなみチェック。
胸よし。
スカートよし。
靴よし!
顔はさっきより曇ったけどね。
外は快晴、本日は晴天なり。
校門に着く頃には多くの傘持ちの生徒を見かけた。
そりゃそうだよね。
何度天気予報にだまされたことか。用心のために傘持っていくのは自衛ってやつですよ。
「おはよう圭織。今日も暑いね!」
靴箱の前でで親友の上浜みりあが挨拶してきた。アタシは靴を上履きに履き替えながら
「おはようみりあ。このまま晴れてくれると蒸し暑くなくていいんだけどね」
と返す。
今日の時間割の話をしながら二人で教室に入るとまた男子たちが騒ぎまくっていた。
「こいつら悩みなさそう」
「見てるだけで暑苦しいよね……」
何が楽しいのか大声を上げてばんばん背中を叩き合い、羽交い締めにして叫んだり。
動物園のほうが動物と人間を別々にしているだけマシだと思う。
「お、おっぱい女だ!よ!」
「あっちいけサル」
「セーターなんて着て暑くないのかー?」
「お前等に見せるものはない」
サル共をあしらいながら自分の席に着くと隣から小さな声が聞こえた。
「おはよう、四枝さん」
「おはよ、倉崎くん」
倉崎悠介くんはこのクラスでは数少ないマトモな男子。
ついこないだの席替えで窓側に座ったアタシの右隣になったのでサル共と関わりあう機会を減らしてくれた、ありがたい存在だ。
148cmのアタシからするとすごく身長高いのに、いつも窮屈そうに背中を曲げて体を縮こませて図書室で借りてきた本やマンガみたいな小説を読んでいる。
髪型ものっぺりしていて俗に言うオタクくんだ。
格好つけろとまでは言わないけど、見苦しくないくらいに髪にも意識向けたらいいのに。
でもアタシのほうを見る時はとても恥ずかしそうに胸を見ないように顔を凝視しようとするので、かえってアタシが恥ずかしくなって彼の顔を見れなかったりする。
バランスってなかなか取れないものだと思う。サル共、倉崎くんを見習え。
あ、別にアタシ倉崎くんに気があるとか、そういうの全くないのであしからず。
ただまあ、倉崎くん含む男子はなんの苦労もなく好きなことをしているなぁとは自分勝手ながら思うことはある。
アタシたち女子は第二次性徴期を迎えて胸が膨らみ、生理が始まり、子宮が子供を作る準備を始め、否応なしに大人の仲間入りをさせられる。
そんな未成熟な心身をおっさんどもが金の力にあかせて好き放題しているニュースを見る度、他人事とは思えないし、許せない。
でも結局大人なんて、男なんてそんなもんなんだろう。
優しかった近所のお兄さんに襲われかけて以来、そう思っている。
結局お兄さんだってサルだった。
おっさんもサルだ。
あああもう。
考えても仕方がないことを気にしても仕方ない。
4限はプールの授業、それを楽しみに今日もやっていきましょう。
「あー気持ち良かった」
アタシは体を動かすのが大好きなので無心で泳いでスッキリしていた。
「良かったね圭織。なんか悩んでたみたいだったから心配したよ」
「ごめんごめん。みりああの日なのに心配かけちゃった?」
着替え終わってまだ少し濡れたショートボブの髪をかきあげながら更衣室を出ると、今日のプールの授業を休んだみりあがロングヘアをなびかせ、アタシの元に小走りに駆け寄ってきた。
「んーん。私は軽いしプールそこまで好きじゃないし。佳織は前に終わってて良かったね」
アタシの生理はとても重いほうだと思う。
人と比べられるものじゃないから絶対じゃないけど、少なくともみりあみたいには動けない。だるくて横になりたいし、よく保健室のお世話になっている。
下半身は重くなるし腰も痛くなるし。貧血でいつもフラッフラ。地獄の数日間だ。
あのサルたちが騒いでないのでバレてないとは思う。
うちのクラスの女子の結束が固くて良かった。
生理の話をアイツらに知られたらと思うとゾッとする。
うちの女子カースト上位は高校生と付き合っているらしい。
可哀想に。サルの相手をしてくれる女子はいないようだ。
そもそも女はベストコンディションを出すのが難しいと思う。
男女とも子供の頃は差なんてないのに、女は第二次性徴期で胸が大きくなって生理が来て子供を産む。
男は何もない。
ただ体だけ大きくなって大人になるだけ。
ただそれだけなのに女より力が強くなるし足も速くなるし身長だって伸びる。身体能力では男に敵わない。
勉強で頑張ろうとしたって、いつだったかニュースで大騒ぎになった女子の点数を下げる入試の件で正直萎える。
辛いなぁ。
またどうでもいい考えに囚われかけたアタシにみりあがノンキに声をかける。
「圭織はスタイル良くて羨ましいよ?」
「チビで胸がデカいのはスタイルが良いとは言わない」
アタシ四枝圭織は身長148cmなのに胸だけ大きい。
世の男どもが言う「ロリ巨乳」の部類なんだろう。
男のそういう上から目線の女カテゴライズは本当にムカつく。
みりあも153cmでチビなんだけど、胸は性格に似合わずとても控えめだ。どうせチビなら身の丈にあったスタイルが良かったよ。
あーあ、アタシは好きなことをして生きていきたいだけなんだけどなぁ。
女であることがそれを許さない。
「圭織バカなのにまた変なこと考えてる」
みりあがアタシのほっぺを横に引っ張った。
うるひゃーい。
「危ない!」
放課後。
結局雨どころか雲一つない青空の元、家路に着こうとしたアタシとみりあに大声と一緒にサッカーボールが勢いよく飛んできた。
「きゃああ!!」
みりあが叫び声を上げて頭を抱えて慌ててしゃがむ。
アタシは片手に傘を持ったまま、みりあの前に躍り出ると飛んできたサッカーボールを胸でトラップした。
「あいたたた」
久々の胸トラップだったためか、胸からの激痛がアタシを襲う。
顔をしかめつつ、それでもトラップしたボールをリフティングし、飛んできた方向に両手を振って合図している生徒の姿を見つけると、ボールを一度も落とすことなくアタシは思いっきりボールを蹴り上げ、ボールはそのまま相手の足元に収まった。
「悪かった!四枝ありがとう!」
「下手くその新入生に思いっきり蹴らせるんじゃなーい!」
相手は小学校の頃一緒のサッカー倶楽部に通ってた顔なじみだった。
アタシが大声で注意すると
「助かったよ!!圭織カッコいいね!!」
アタシが胸元の汚れを払っていると、アタシの下から声が伸びてきて、みりあが抱きついてきた。
「サッカー続けたら良かったのに」
「前から言ってるじゃん。ムリムリ」
アタシはみりあを体から引き剥がしながらどうでもいいことのように言う。
本当はどうでもよくなかった。
でも仕方がなかった。
第二次性徴期を迎えて胸が大きくなってきて、胸でトラップ出来なくなって。
それまで倶楽部でも速いほうだったのに徐々に遅かったはずの男子に抜かれ始めて。
一生懸命努力したキック力も周りの男子に軽々と追い抜かれて。
トドメとばかりに重い生理がアタシからベストコンディションを奪っていって。
アタシは夢を諦めてしまった。
倶楽部のコーチやお父さんは「女子サッカー倶楽部はどうだ?」って勧めてくれたけど、それは違う。
アタシはあのワールドカップに出たかった。
男とか女とかよく分からない頃、テレビで見たあの舞台に立ちたかった。
どうしてアタシはあの舞台に立てないのか。
どうしてアタシは女なのか。
「圭織はスポーツバカなんだから考え事なんてしなきゃいいのに」
アタシの顔を見てみりあがヒドいことを言う。
確かに勉強ダメだけど!?
それは言いすぎ!
「みりあさん、助けたお代いただきましょうか?」
「えー、タダじゃないのー!?」
二人して笑いながら帰途につく。
助けたお代はコンビニの棒アイスだった。
「ただいまー」
「おかえりー」
使わなかった傘を傘立てに入れ、家のドアを開けて声をかけると中からお姉ちゃんの声が聞こえた。
「お母さんは?」
リビングに入ってソファでだらしない格好で寝そべってテレビを見ているお姉ちゃんに、いつもなら返ってくるはずの声がないことに気づいて聞いてみる。
「お母さんは病院。おばあちゃんちょっと調子が悪いみたい」
アタシのほうを振り向きもせず、お姉ちゃんが言う。
「えー!週末のお見舞い行けるのかな?」
「分かんないね。こないだもダメだったから今度もダメかも」
「お姉ちゃんは行きたくないの?」
「いやー、うーん、そういうわけじゃないけどさ。病院苦手なんだよね」
おばあちゃん子のアタシとそうでもないお姉ちゃん。
アタシはお姉ちゃんがおばあちゃんをキライって訳じゃないことは知っている。
単純に病院が苦手なんだろう。
でも。
「それで看護士とか無理じゃないの?」
「んー、まあ、そう言われたらそうなんだけど」
両親の前では将来看護士になりたい!と言っているお姉ちゃんもアタシの前ではこうだ。
ここらへん、アタシたち姉妹は仲が良い方だと思う。正直に胸の内を語り合う。
「将来何になる?って言われてもさ、なかなか実感湧かないんだよね」
「分かるけどさ……」
あまりにも開けっぴろげなお姉ちゃんの言葉に苦笑する。
お姉ちゃんはアタシのようにザセツしたことはあるのだろうか。
「お姉ちゃんさ、女に生まれて良かったことってある?」
「まーたアンタはいきなり変なことを言う」
呆れたような声を出しながらもお姉ちゃんはソファから体を起こしてアタシに向き合う。
アタシも近くのソファに座る。
「良いも悪いも。そりゃ面倒だなーって思うこともあるけどさ、楽しかったーってこともあるんじゃないの?」
「例えば?」
「アンタはスポーツが好きで男子に負けたくないって気持ちがあるからなんか意固地になってるけどさ。可愛い服とかキレイな服とか男の子はなかなか着れないと思うよ?」
「服とか興味ない…」
「そりゃアンタ個人の興味の有る無しであって、女がどうこうじゃないんじゃない?」
「そうかもだけど……」
「男だってアンタの物差しで生きてるわけじゃないから、中には可愛い服が着たいのに着れないって悩みがあるかもね」
「着たらいいじゃん、着るのは自由なんだから」
「世の中の可愛い服は圧倒的に女が着て似合うようになってるだろうね。圭織、アンタはないものねだりだと思うよ」
いつもこうだ。
お姉ちゃんと話しているといつの間にか煙に巻かれてしまう。
「お姉ちゃんは女に生まれて良かった?」
だからもう一度聞く。
お姉ちゃんの回答はあっさりとしたものだった。
「たぶんね」
夜。
お風呂から上がったアタシは勉強机の椅子に腰掛け、明日の準備をしながらなんとなしに机の前の窓から夜空を眺めていた。
今日はこれでも良い1日だったなぁとため息まじりに考える。
サルたちに絡まれなかったし(朝のあれ位は可愛いものだ)、水泳の授業はあったし、セーターのおかげで登下校中いやらしい視線は感じなかったし、久々にサッカーボールは蹴れたし、アイスは美味しかったし。
こんなことでいいのかなぁと思う。
もっと自分の思うがままに生きてみたいなぁ。
女はいやだなぁ。
男は羨ましいなぁ。
今日はずっとそんなことばかり考えていたせいだろうか。
ふと視界に入った流れ星にアタシはバカなことを祈ってしまった。
男になれますように。
男になれますように。
男になれますように。
「アタシ本当にバカかもね……」
いつもみりあにバカバカ言われてるけど、間違いじゃないのかも。
幻のように消えた流れ星に一生懸命願った事に苦笑し、アタシは明日この話をみりあにして一緒に笑ってもらおうと思いながらベッドに入った。
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ
スマホのアラームがうるさい。
もそもそと手がスマホを探る。
ない。
ない。
いつもの場所にスマホがない。
アラームも鳴り止まない。
音を頼りにスマホを探す。
やっぱりない。
…なんでやねん。
心の中で慣れない関西弁のツッコミを入れつつ、アタシは布団から体を起こした。
おや?
鳴り止まないスマホのアラーム。
だけどアタシはそれどころじゃなかった。
体が軽い…?
アタシは寝る時ブラは外している。窮屈な締め付けから寝る時くらいは解放されたい。
ただその代償として大きな胸が重力に引かれてアタシの胸や肩にその重量をかけてくるはずなのに。
「胸が…ない!?誰!?」
胸がないことに驚いて声を上げ、その声がアタシのものじゃないことにさらに驚いた。
慌てて口を閉じる。そしてゆっくり小さく声を出してみる。
「あー、あー、あー」
低い。
とてつもなく低い声がアタシの頭にこだまする。
この声は知らない声だ。
ああ、自分で聞いてる声と他人が聞いてる声は違うんだっけ?
アタシは訳が分からないまま、改めて胸に手を当てる。
そこは真っ平らだった。
胸がなくなった。
声が低くなった。
この2つの事実に頭が急速に目覚めていく。
ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴっ。
畳に置いてあった、ようやく見つけた知らないスマホのアラームを止める。
幸運にも同じメーカーの同じスマホでアラームの止め方はアタシのと同じだった。
もしかして……。
アタシは起きてからずっと違和感があった股の間にそっと手をやる。
そこには触った感触と触られた感触、両方を感じる、女にはない生殖器官がもんまりと鎮座していた。
アタシ、男になってる!!!!!!
興奮したアタシは着ていた上着をめくり上げ胸を見てみる。
がっちりとした筋肉があるわけではないけどもそこは平坦で、アタシのような下の視界を遮るふにふにしたおっぱいはない。
上を確認したら次は下だ。
半ズボンと下着を引っ張って覗きこんで見るもよく分からない。
思い切って下を全部脱ぐ。
少しの恥ずかしさと止められない好奇心にワクワクしながら股間を見てみた。
そこには小学校の頃男子に見せられたものより少しだけ大きくてグロいアレがアタシの股間から生えていた。
実物を目で確認して少し落ち着いたアタシは、下を履き直すと部屋の中を見渡した。
部屋の中には本棚と襖がいくつかあり、アタシは床に敷かれた布団に寝ていたようだ。
昨日はベッドに寝た記憶はある。
つまりアタシは単に男になったわけではなく、誰かと入れ替わったのではないだろうか?
そうじゃなきゃこの見知らぬ部屋は見当がつかない。
アタシは誰になった?
誰かはアタシになった???
まずは鏡を探す。
見当たらない。この部屋の中には鏡がない。
そうだスマホ!
カーテンを開け、光が差し込むようにし、スマホを持ち上げると画面が暗い状態で鏡のようにして顔を見てみる。
そこには若い男の子の顔が映っていた。
知ってるような気がするけど頭はまだ寝ぼけているのかピンと来ない。
事
とその時突然手に持ったスマホが着信を伝えた。
「わわっ!?」
突然の振動にスマホを取り落としそうになりつつも画面を確認する。
電話をかけてきた相手は―――
「アタシ?」
アタシのよく知る、アタシの電話番号だった。
そうか、このスマホはこの体の持ち主の物なんだから、指紋認証なんて問題にならない。
アタシは深呼吸をして電話を取った。
「もしもし!?」
取ったと思ったのも束の間、キンキンした女の子然とした声が耳をつんざいて思わず耳から離した。
これがみんなに聞こえてるアタシの声なんだろうか。
「良かった、出てくれて」
相手はアタシが電話を取ったことに安心したようだった。
こんな訳の分からない状況なのに、相手が少しほっとした雰囲気なのが電話越しに伝わってきて癪に触ったので、アタシも極力落ち着いた声で話した。
「もしもし、どちらさまですか?」
「僕は倉崎です。……あなたもしかして四枝さんじゃないですか?」
!!!!!!!!
「く、倉崎くん!?この体倉崎くんの体なの!?」
「しーっ。声が大きいよ」
「ご、ごめん」
驚いて大声を上げたアタシを倉崎くんが注意してきたのでついついスマホの前で頭を下げて謝ってしまう。
「朝っぱらから大騒ぎしたら家族が起きちゃうよ」
彼(彼女?)の言うことはもっともだ。
よく考えたらここは倉崎くんの家。
アタシは彼のことなんて全然知らない。
同様に倉崎くんもアタシの家のことなんて全然知らないはず。
「どうして入れ替わったのか分からないけど、僕と四枝さんの精神が入れ替わったのは確かだと思う」
倉崎くんが整理するように言う。
どうして入れ替わったのか。
倉崎くんのその言葉にアタシは内心ドキリとした。
別にアタシは超能力者じゃないし、クラスのオタクくんたちのように自分にすごい能力があるだなんて信じちゃいない。
ただ、昨夜アタシが流れ星にかけた願いが思いがけず成就してしまったみたいで少し引け目を感じ、黙ってしまった。
「とりあえずお互い情報交換を。まずは今日をやり過ごそう。そして放課後は―――」
倉崎くんの提案にアタシは見えるわけもないのに静かに首を縦に振った。