『暴力という名の力』
怒りをコントロール出来ない。
「殺してやる.........」
何度もそう言った。
「うるせえなぁ.........! ならお前が先に死ね!!」
ライアが魔法剣を持ち、再び間合いを詰めてくる。
「こいつもくらいな!!」
そして『火球』を俺の足元に放つ。地面に直撃した『火球』が砂埃を立たせる。目くらましだ。
「今度こそ死ねや! アラタァァァ!!」
そして後ろから魔法剣を振り下ろす。視界も見えていない状況で、背後の攻撃を防ぐことは普通出来ないだろう。
しかしそれは普通ならの話。
「.........ああ?」
俺はその魔法剣を背後を取られたまま掴んだ。
バキィ!!
そしてそのまま魔法剣の刀身を粉々に握りつぶす。
「声で丸わかりなんだよ馬鹿が!」
そしてそのまま振り返り、ライアの顔を思いっきり殴る。
「がっ.........!」
ドゴッっという鈍い音が闘技場に響き渡る。ライアは殴られた衝撃で闘技場の端まで飛ばされた。
「.........あっ.........がっ.........」
ライアは歯が折れ、鼻が潰れている。そして何より脳震盪により視界が定まってなかった。俺はライアに詰め寄る。そして倒れているライアの髪を引っ張り上げる。
「これで終わりだと思うなよ?」
俺は拳に魔法陣を展開する。『身体強化』の魔法陣だ。今、エルの魔力が上乗せされている状況で『身体強化』を使えば、パンチの威力は格段に高くなる。
人を殺せるほどに。
「ふー、ふー、.........死ね」
俺は拳を思いっきり振り下ろす。その威力はやはりとてつもなく、闘技場の広場に広範囲にヒビを入れた。
会場がざわめく。
しかし、俺の拳はライアに当たっていなかった。僅かにそれ、地面を殴っていたのだ。
「ん〜、何があったかは知らないけどそこまでにしときな。一応これ模擬戦だし.........ね?」
後ろから男の声がする。俺はすぐ様振り向き、その男の胸ぐらを掴む。
「邪魔しないでくれ!」
「やだね! これ模擬戦だって言ってんじゃん。さすがにこれ以上はやらせらんないよ」
「.........止めるのは別に構いませんが、怪我しますよ」
俺がそう言うと、男は冷酷な笑みを見せる。
「ふふっ。一体どっちが怪我するんだろうねぇ?」
俺はその言葉を聞いた瞬間背筋を凍らせた。この男のその発言が嘘ではないと直感的にわかった。
「.........」
「ほらほら! この勝負は君の勝ちなんだしいいじゃないの! もう確定で合格だよ! 救護班〜! 担架もってきて〜!」
俺は男に背を押され、静かに闘技場を出ていった。
闘技場を出た途端、エルが人間の姿に戻った。
「.........アラタ、我はお前の使い魔だ。お前のする事に異論はない。むしろ肯定するだろう。しかしこれだけは聞いてくれ。.........後悔はするなよ。絶対だ」
「.........ああ」
エルのその言葉がどういう意味なのかは正直今ひとつわからない。だが、心配してくれているということは分かる。.........神滅龍って案外良い奴なのかもな。
俺とエルは闘技場を出る。
「あっ! アラタくんじゃん! はえ〜もう終わったのかにゃ?」
入口の前でアイリスが立っていた。
「アイリス.....あれ? 確か2回戦じゃなかったっけ? 」
「あ〜それにゃんだけど........一回戦の人が来なくてね。結局私が初戦だったにゃ。でも! なんと勝つことが出来ました〜!」
「おお、それはおめでとう! じゃあアイリスも合格か」
「『も』ってことはアラタくんも!? 凄いにゃ! じゃあこれから同級生ってことか! よろしくにゃ〜!」
「.........うん、よろしく」
「あれ? なんかテンション低い?」
.........しかしアイリスのおかげで少し冷静になれた。感謝しなくては。
「ん〜....そうだ! この後の試験一緒に回ろう? まだ模擬戦始まったばかりだし、きっと人が少ないと思うにゃ! 早く回ってその後ご飯いこう!」
.........ご飯? .........一緒にご飯=デート.........
な、なんてこった!! 女の子とデートだと!?
少し緊張するが断る理由がない。喜んでついて行こう。
「わかった。一緒に回ろう」
「ありがとにゃ!」
「.........我も行くのか?」
エルが目を細めてそう言った。
「あれ? アラタくんの知り合い?」
「いや、俺の使い魔.........。ほら、さっきのちっちゃい翼竜」
アイリスは表情を変えずにエルの方を見た。
「えええええ!? まさか形状を変えられるにゃ!?」
「うん」
驚くのも無理はないだろう。俺も初見ならそんな反応をする.........。
「とりあえず次の試験に行こう。エルはさっきの翼竜に戻ってくれ」
「わかったわかった」
俺達は次の試験会場である後者に向かった。
「こちらゼファス、追いかけますか?」
「ああ、よろしく頼む」