『今回ばかりは同情するよ』
「魔法学院の入学試験は1ヶ月後、受かるとは思うが一応準備しといた方がいいぞ!」
カルディおじさんはそう言っていた。確か試験項目はほぼ実技が締めていたはず。しかしどんな試験が来てもいいように準備はしっかりしておきたい。
「エルドラド、そこでお願いがあるんだけど.........」
「どうでもいいがエルドラドという名は長い。エルとでも呼んでくれ。それで願いとはなんだ?」
「魔法を.....おしえてくれないか?」
実は俺、テイミングスキルしか習得していない。使い魔が欲しすぎて基本の魔法習得をすっ飛ばしていたのだ。
「よかろう! それで? 具体的にはどんな魔法を使えるようになりたい?」
.........魔法学院は優秀な冒険者を多く生み出してる学校。その特性から考えて攻撃魔法! と言いたいところだが......ここは欲張って
「エルが知ってる魔法」
「ほう、それは死ぬ覚悟をしといた方がいいぞ」
ん.......? 欲張りすぎた? 俺が言いたかったのはエルが知ってる『基本魔法』を教わりたいということなんだが.........。
「そうだな.....1ヶ月のうちに我が心得ている魔法を教えるとなると.........50回は死ぬな。その覚悟があって言っているのだな!?」
「ああ、うん、でも俺が習得したいのは.........」
「よし分かった! 久々の魔法訓練だ! われも腕がなるぞ! こう見えて多くの配下に稽古を付けてきた! アラタ、お前を立派な男にしてやる!」
聞く耳を持ってない。こうなってしまったらもう誰もこいつを止められないだろう。50回死ぬ覚悟をしなければ.........。
「家の中じゃなんだし、外に行こう」
そう言い俺とエルは家を出る。向かうはこの集落から少し離れた広場。滅多に人が通らない場所だ。丁度いいだろう。
俺とエルはくだらない話をしながら広場へ向かう。
「あれ? もしかしてアラタじゃね?」
「あ.........ライア.....くん」
.........なんでこいつがここに.........。魔法学院で寮に入ってると聞いたが。
「め、珍しいね。こっちに帰ってきてるなんて。帰省中?」
「んなこたぁどうでもいいんだよ。これから街に行くんだがよ、ちょ〜っと金が足りねえんだ。貸してくんね? 貸さなかったらどうなるかはよく分かってるよな」
「いや.....今お金持ってないから.........」
そう答えるとライアは俺の胸ぐらを掴んだ。
「なら金はいい。その代わり1発殴らせろ。それでチャラにしてやるよ。ははっ」
.........またこれか。いつもそうだ。こいつに会う度必ず殴られる。それも本気で。同じ集落出身だがこいつと俺では力に大きな差がある。ライアは魔法学院へ首席で合格するほどのエリート、一方俺はまだ基本魔法すら覚えていない......。そのせいかライアは俺をかなり見下している。しかし......反論できない。
俺は殴られると思い、ぐっと目をつぶる。
.........しかしその拳は俺に当たらなかった。
「おい貴様。アラタに何をしておる。手を離せ」
そう言ったのはエルだった。見るとエルが振りかぶったライアの腕を掴んでいた。
「.........なんだてめえ。部外者は邪魔すんな」
しかしエルの手はライアの腕を離さない。
「アラタ、こいつを殴れ。見てると無性に苛立ってくる」
それじゃあライアとやってる子と一緒な気がするが.........。
そう思いつつも、俺はこれまでやられてきたことを思い出すと拳を握らずにはいられなかった。
「ふっ!!」
俺は思いっきりライアを殴った。後のことなど考えずに。
ゴッ という鈍い音が鳴った。エルは爽快に笑っていた。
「.........なにすんだてめぇ!!!! 殺すぞ!!」
案の定ライアはブチ切れた。そしてその手には炎の魔法陣を展開している。
「燃えろ!!」
そして炎の玉が俺に向かって放たれた。普通殴られたからってここまでするのか?
炎の玉は勢いよく俺に向かってきている。
「はぁ.........」
エルがため息をつく。すると一瞬にして火の玉が消えた。
「.........!? 俺の『火球』はどこに行った!? 」
「.........なぁアラタよ、何故こんなやつに屈する必要がある。口先だけの雑魚に構う必要などないだろうに」
「俺が雑魚だぁ? ていうか誰だよてめえ! いい加減手を離しやがれ!」
ライアがエルの手を振り払おうとする。しかしエルは微動だにせずライアの腕を掴んでいた。
今だけは同情するぞライア.........。
「.........離せよくそが! 殺すぞ!!」
殺すぞが口癖なのか? キレすぎて語彙力が低下してるな。
「ほう、面白いことを言うではないか!かつての戦争でも我は死ななかった。.........だが今は先を急いでいる。余興に付き合ってやる暇はない。今は失せよ」
「はっ! 誰がお前の言うことなんか聞くかよ! 」
わかりやすくライアは反抗する。
「.........それは困るな。失せないというのならそれこそ.........殺してしまおうか?」
エルが冷たい目でライアを睨む。
すると突然ライアの体がいきなり崩れ落ちた。そしてエルは何事も無かったかのように口を開く。
「アラタ、時間を食ったな。先をいこう」
「.....ライアに何したんだ?」
「なに、恐怖の余り失神してしまったんじゃないか? 」
睨まれるだけで失神.........。こいつは.....人間がどうこうできるレベルじゃない。
俺はそのエルの力に恐怖と共に少しの安心感を覚えた。
矛盾してるな.........。