『非日常の出会い』
この世界には『使い魔』というものが存在する。
使い魔とは、人間が魔物手懐け、扱うことを指す。一般にテイマーと呼ばれるものだ。
いつか一流のテイマーとなり、ドラゴンを使い魔にしたい。そんな俺の願いだが.........
「我の領域に踏み込むとは......いい度胸ではないか!!」
目の前には殺気を放ちらかしてる暗黒龍。
お母さん、僕の明日は来ないかもしれません.........
事の始まりはついさっき。いつも通り母に頼まれた薬草を取りに小さな洞窟へと足を運んだ。
ここで取れる薬草は質もよく、何より美味い! 基本苦味しかない薬草だがここのは違った。
特に危険もないしいつも通り小さな袋だけ持って来たのだが.........
足を滑らせた。
前日降っていた雨の影響もあり、華麗に滑った。足を滑らしただけなら全く問題ないのだが、不幸なことに下へと続いている横穴に落ちてしまった。
傾斜はそれほど無いもののバランスを崩しているため転がり落ちた。
そして.........今に至る。
とてつもなく巨大な身体に吸い込まれるような黒い鱗.........。その貫禄に圧倒され俺は腰をぬかす。
「.........ふむ。貴様人間か?」
暗黒龍はそう口にした。もちろん『はいそうです』と今の状況で言えるわけない。怖すぎて声も出ないのだ。
「人間か! と聞いている!!」
「あっっひゃい!!」
.........変な声が出た。しかし俺が人間ということがわかった瞬間、空気が緩んだ。
「そうか! 人間か! 人間は嫌いじゃない。お主らの作る料理とやらは絶品だからな!」
「はぁ.........」
さっきまでの殺気はなんだったのだろうと思うぐらい緊張が溶けた。とりあえず殺されなくてすむ.........のか?
「ええい! もっと楽にせぇ人間! 我も久々の相手が出来て嬉しいぞ!」
「久々の相手.........?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、暗黒龍を纏っている薄い膜に気づく。俺はそれが何かを知っていた。
「その黒い膜、聖協会の人達が使ってた...封印魔法.........。もしかしてあなたは....いや、あなたはいつからここに?」
「どうじゃろうか.......よく分からんが3000年はたっとるんじゃないか? もう前のこと過ぎてさっぱり覚えとらん!」
ガッハッハッと笑いながら暗黒龍はそう話す。
しかし3000年....その数字が本当なら神話の時代に存在したということになる。
「そんなことはどうでもいいんだ人間! 」
「あの.....一応アラタという名前があります」
「おおそうか! ならアラタ、お前に頼みがある! この封印を解いてくれ!」
「無理です」
.........どう考えても無理だろ。まず封印を解く魔法なんて使えないしこんな巨大な封印、たとえ使えたとしても封印に弾かれるだろう。そんなもの俺にどうしろと.........。
「.........そうか。やはり、ダメか。期待はしとらんかったがそう言われると少し辛いのう」
「すいません.........。お役に立てず.........」
「なーに気にすることは無い。.........ただ.........少しでいいから外に出たいのう.........」
暗黒龍は下を向きそう呟いた。
......3000年もの間、ずっとこの暗闇の空間で何もすることなく生き続けていたのか。偶然にも俺はこの場所に来た。俺に出来ることならするつもりだが......こんな封印の前では.........
「.........あっ! この方法なら.........」
「どうした? なにか方法があるのか?」
以前テイマーの魔法を教えて貰った時に見た。聖協会の人が拘束魔法をかけた魔物を熟練テイマーが心を通わし、使い魔にしていた。
封印魔法は拘束魔法の上位互換.....要領が同じなら.........
「俺の、『使い魔』になってください!! そうすれば封印を解くことが出来ます!」
..................あれ? よく考えたら俺今とんでもないことしてるんじゃ? 封印されてるってことはそれだけ危険な存在なはずなのに、なんで俺その封印を解こうとしてんの?
あっれ〜???
「その話本当か?」
「はい、俺はテイマーなので問題は無いかと」
.........自分で言っててなんだが問題オオアリだ。引きさがろうにしても暗黒龍のあの期待の表情を見ると取り消せない.........。
「.........いいだろう! この封印がとかれるのならば使い魔にでもなってやろう! 」
.........もう、いいか。使い魔にしちゃおう。
「あなたの名は?」
「我が名はエルドラド、神滅龍エルドラドだ!」
「分かりました.........」
俺は土の床に魔法陣を描き、そこに血を一滴たらす。そしてその魔法陣の中心へ立ち、掌をエルドラドに向ける。
「.........汝、我が使い魔としてその一生を主に尽くせ」
俺はそう唱える。あとは使い魔側の同意が必要だが.........
「ああ! よろしく頼むぞアラタ!」
問題ないようだ。
足元の魔法陣がパリンと割れる。そして.........エルドラドを覆っていた黒い膜が霧散した。
「..................おお.........おお! 動く! 身体が動くぞ!」
「エルドラドこれで正式に俺の使い魔だ。よろしくな」
「.........なんだ貴様? 使い魔になった途端その口調は?」
え.........主従関係ってそういうものじゃないの?
「ハッハッハ! 冗談だアラタよ! 旧友のように接してくれて構わない、そして封印を解いてくれたこと.........感謝するぞ」
「ああ.........」
.........母さんになんて説明したらいいんだろう。