第7話 決戦、四天王! ~一人目、剣豪林勘助~
ネオユニヴァース本拠地内、総帥室に忍は戻った。
「首尾はどうだった?」
音雄はそう聞いてくる。
「何の問題も。軽く殺してきた。」
忍はそう答える。音雄は、怪訝な顔で忍の方を見ていた。
「どうかしましたか?」
「いや、少しばかり異音がする。」
貴喜の問いに、音雄はそう答え、耳を澄ませようと手を当てる。そして、忍のコートのポケットを指差す。
「善野。ポケットに入っているものは何だ?」
音雄はそう言う。忍は不思議そうな表情でポケットに手を入れ、何かをつかみ、顔がこわばる。
忍がそれを取り出す。見るからに発信機だった。
「はは、やられたな。音雄、どうする?」
忍は笑ってそう言う。音雄は少し考えて、
「そうだな。おそらく場所は割れたわけだ。不本意だが、ここで迎え撃つべきだろう。ならばヒーローを始末し終えたら、こちらから打って出よう。少し時期が早くなったが、今でも十分戦力は有るからな。少なくともここにいる五人はヒーローよりも上だ。」
音雄は、冷静な表情を崩さずそう言う。渋い顔をしたのは貴喜一人。忍、勘助、最高の三人はどこか嬉しそうだった。
「それでは各員配置に着け。一人も生きて返すな。」
音雄が命令する。それを合図に全員動き出した。
ただし音雄だけは、急がず、ただコーヒーを入れただけだった。あくまでも優雅に。まるで自分の出番は無いと確信しているようだった。
「ここが、敵の秘密基地の入り口?」
ウインガーが、顎に手を当てながらそう言った。
そこは樹海の真ん中だった。何の変哲も感じられなくて、本当に入口が有るのか全く分からない。
『反応が途絶えたのはまさにそこよ。調べてみてちょうだい。』
通信機の向こうで愛が言う。ウインガーは、全くわからず首を傾げるしかない。
そんな中、マスターガイアは目をつぶって地面に手を当てていた。しばし後、カッと目を開く。
「この下に、空洞が有る。」
マスターガイアはそう言うと、剣を構えた。そして、地面を切り裂いていく。
地面が、崩れていく。そして、その跡に見えたのは階段。ウインガーが口笛を吹いておだてる。
「ビンゴだな。」
『そうみたいね。』
ウインガーのつぶやきに、愛が答えた。
『それじゃあ、私たちのサポートはおそらくその先は届かないわ。こっちもいろいろやってみるけど、期待しないで。
二人とも、頼んだわよ!』
愛が、叫ぶように力を込めてそう言う。
「当たり前だ。」
「ああ、任せとけ!」
マスターガイアとウインガーはそう答え、顔を見合わせて、頷いて進んでいった。
戦闘員達が湧いて出てくる。それを、二人は拳と剣で薙ぎ払っていく。
やがて、分かれ道に出る。二人は再び顔を見合わせた。
「どうやらこの先は二股だ。分かれて進むしかないようだな。」
マスターガイアはそう言う。
「なあ、シンチャン。」
それにウインガーが真面目な声色で言う。
「頼みが有る。この先誰が出てきても、決して殺さないでくれ。」
ウインガーは真剣にそう言う。マスターガイアはその目を見て、やれやれと肩をすくめた。
「何を当たり前のことを言っている。これまでの戦闘員も峰打ちだっただろうが。」
マスターガイアは呆れたようにそう言う。ウインガーは、そう言えば、と回想して、納得していた。
「わかっている。俺達は正義の味方だ。」
マスターガイアは、そう言う。ウインガーが目を真っ直ぐ見た。
そして笑う。
「ああ。そっちは任せた。」
「そっちこそ、しくじるなよ。」
ウインガーとマスターガイアはそう言い合って、背中を向け合い進んでいった。
道は二つ。しかし、心は一つになっていた。
マスターガイアは戦闘員を蹴散らしながら進んでいく。途中からその数は減り、そして完全にいなくなった。マスターガイアはいぶかしむ。ここは、守らなくても良いということか、それともより強力な守りがいるということか。
やがて、電動のドアに行き当たる。脇にスイッチが有り、それを押せば容易に開くだろう。
だが。気配がする。それも、濃密な殺気。一般人なら気配だけで殺せそうなほど鋭い殺気がにじんでくる。
どうやら、より強い守りがいる方だったか。そう納得して、マスターガイアは剣を構えながらスイッチを押す。
ドアが開く。瞬間刀の突きが襲ってくるが、気配を読み切ったマスターガイアは剣で弾いた。
その刀を放った人物が飛び退いていく。それは白髪頭の老人だが、鍛え抜かれた鋭い気配を持っていた。
「なるほど。なかなか強いと思っていたが、予想以上だな。この一撃をしのぐとは。」
老人がそう言って楽しそうに笑う。
「あれだけ殺気を満ち満ちとさせていたら容易にわかる。見くびるな。」
「否、これほどもわからぬ輩のなんと多いことよ。試験は合格だ。」
マスターガイアの言葉に、老人はそう言ってなおも笑う。
「これまで儂は剣の道に行き、それに殉じてきた。しかし、それに見合う戦いは全くと言う程無かった。お主が来て助かった。これで本懐が遂げそうだ。」
老人はそう語る。マスターガイアの目が、険しくなる。
「本懐とは?」
「決まっておろう。死合だ。命をかけた殺し合い。それをお主とならやれる。そうじゃろう?」
マスターガイアの問いに老人はそう答える。それに対し、マスターガイアは肩をすくめた。
「それなら残念だったな。殺し合いはできんよ。」
マスターガイアが言うと、老人は怪訝な顔をする。
「簡単なことだ。お前は殺すつもりでも、俺は殺さない。そういうことだ。」
マスターガイアが続ける。それに対して、老人は怒りの顔を向けてきた。
「侮るか、小僧。手を抜いたままで、儂が倒せるとでも?」
「とんだ誤解だな。俺は本気だ。」
老人の言葉に、マスターガイアは真面目に答えた。
「俺は、本気だからこそ殺さない。俺は、お前と同じで、殺し合いが全てだと思っていた。だから殺し続けてきた。何も動かなかった。
だがな、それを殺さないことで動かした奴がいる。正義を通して動かした奴がいる。だから、俺は改めたのだ。正義を信じ、殉じることに改めたのだ。
今の俺は正義の味方だ。だから人を殺さない。」
マスターガイアは語る。それを聞いていた老人は、納得したように、喜びの笑みを浮かべた。
「なるほど。お主にはお主の信ずる道が有るということか。それはそれで面白い。
ならば、決めようではないか。殺すか、殺さないか。どちらが本当に正しいのかをな。」
老人はそう言って、刀を構えた。マスターガイアも応じて構える。
「名乗ろうか。」
老人は言う。
「ネオユニヴァース四天王、林勘助。」
老人、勘助は名乗る。
「正義の味方、マスターガイア。」
応じてマスターガイアも名乗る。老人が、ニィッと笑う。
「いざ、参る!」
勘助が叫び、戦いの火ぶたが落とされた。
勘助は瞬時に間を詰め、横薙ぎに刀を振るう。
速い! マスターガイアはそう感じながらも、剣で受け止めた。初戟は防いだ。次は、
そう思った瞬間にはもう刀はそこには無かった。逆からの薙ぎ。剣は追い付かない。まともに食らって、装甲を超えて体にダメージが来る。鋭い。
次の瞬間には、すでに真上から脳天目がけて刀が振り下ろされる。防ぎきれない。マスターガイアはとっさに頭をよじって直撃を避ける。しかし、肩に刀が食い込む。
うめく暇もない。すぐさま胸元への突きが追撃で来る。とっさに腕で防ぐ。しかし、それを貫通して胸にわずかに傷ができた。
勘助は退く。その表情はつまらなそうに冷めた顔をしていた。
「見込み違いであったか。音速に近い儂の剣は、かわすことすらできないとはな。」
勘助がそうこぼす。それに対して、マスターガイアは笑った。
それがわかったのだろう、勘助はいぶかしげな表情をする。
「何が可笑しい? お主が圧倒的不利なこの状況で。」
「何、音速を達していなくてありがたいと思っただけだ。ならば、俺が音速を出せれば勝てる。俺は既に次の段階への道を、知っている。」
勘助の問いにマスターガイアは笑って言う。勘助が、気付いた。
「もう片方のヒーローは、進化した、ということは、」
「そういうことだ。マスターガイア、アップグレード!」
勘助の言葉に応えながら、マスターガイアは叫ぶ。マスターガイアは光に包まれ、そこに出現したのは、甲冑を重ね着したような無骨なフォルムをした、クリーム色のヒーロー。
「マスターガイア・セカンドフォーム!」
マスターガイアは、高らかに名乗りを上げた。
勘助は、瞬時に攻撃を放ってくる。しかしマスターガイアは、音を立ててそれをあっさり薙ぎ払う。
上、右、左、もう一度右、下…さまざまな方向から、勘助は斬りを撒き散らしてくる。しかし、マスターガイアは、それをことごとく弾き返した。勘助の顔に脂汗が見える。勘助程の達人ならわかっているはずだ。スピードは、明らかにマスターガイアが上回っていることを。今のマスターガイアは、本物の音速を出していたのだった。
勘助が退く。そして、刀を鞘にしまった。降参ではない。明らかに、戦う意思をにじませている。勘助が狙っているのは、居合だ。自身最速の抜刀術をもって、速さに打ち勝つつもりなのだ。
マスターガイアは、それに真っ向から向かっていく。最速には、自らも最速を。マスターガイアは、剣を構えて、そして突撃した。
音速で突っ込んでいく。それに対して、勘助はまさにどんぴしゃのタイミングで居合を放った。真っ直ぐ向かってくるそれは、確実にマスターガイアの胴を薙ぐだろう。
ただし。マスターガイアが防御をしなければ。マスターガイアは、しっかりと剣でその居合を弾き返した。
そして、返す力でこちらから薙ぎを放つ。
「剣斬!」
マスターガイアは剣を、峰打ちで激しく叩き付けた。勘助が吹き飛んでいく。勘助は部屋の隅まで飛んで、壁に当たって止まった。
決着。…否。マスターガイアは剣を収めない。その壁にかかっていたものに気付いた。
RPG。対戦車用のロケットランチャー。それを、勘助はつかんで、構えた。
「剣で敗れたなら、もはや剣では戦わん! 剣士としての誇りを捨ててでも、儂は勝つ!」
勘助は叫ぶ。はたして、弾丸が放たれる。だが、マスターガイアはそれを、斬る。爆風も剣の軌跡を避け、真っ二つに割れていった。
驚く勘助に向かい、マスターガイアは構えを変える。
「お前が剣を捨ててくれて良かった。こちらも剣を捨てて、正真正銘の本気で行ける。」
マスターガイアは言う。勘助は一層驚愕する。
剣が、変化していく。それは質量を増やしていき、円筒状の塊が取っ手に付いた、そう、これはハンマー。マスターガイアが、ハンマーを振るう。
「プレストン!」
ハンマーは、横から勘助を圧迫し、壁に押し付けた。あまりの衝撃で、勘助は完全に気を失った。その威力は、PressTonの名に恥じないものだった。
マスターガイアは、勘助が動かないのを確認すると、ハンマーを剣に戻した。
「お前は弱くは無い。だが、剣士としても戦士としても俺が上だったようだな。」
マスターガイアはそう言い残して肩をすくめる。そして、あたりを見回し、奥に電動式のドアを見付けると、それを開け、悠々と歩いてさらに奥へ向かっていった。