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セイギノミカタ!  作者: 間形 昌史
2/12

第2話 愛を叫ぶ!

 夜のJRA研究所。今田愛はにんまりとモニターをチェックしている。

「楽しそうですね。何か発見有りました?」

 そこに横から男性研究員が声をかけてくる。

「まあね。ほら、カジノドライブとの同調性を見てちょうだい。賢は不安定、反対に進之介は安定している。

 けどね、その分爆発力は賢の方が有るの。一瞬だけ、賢の総合力が進之介に追いつく時が有る。そんな時は決まって互角になるのよ。

 ああ、昼のトレーニングの時からモニター結果をチェックするのが楽しみだったけど、予想以上の面白い結果だったわ。トレーニングでこれなら実戦だとどうなのか、今度じっくり調べたいわね。」

 愛は答えながら目を輝かせる。実に研究が楽しいと言わんばかりに。

「はは、本当に研究が好きなんですね。

 ところで、研究に打ち込むのもいいですけど、たまには食事でも行きませんか? いい店知ってるんですよ。おごりますので一緒に行きましょうよ。」

 研究員がそう返すので、愛は彼の方を向く。

「何? もしかして口説いてるの?」

「ええ、一応は。」

 愛の問いに研究員は恥ずかしそうに言う。しかし愛はそっぽを向いてしまう。

「悪いけど、断らせてもらうわ。賢すぎる男って、好きじゃないの。」

「これは手厳しい。頭は悪い方が好みでしたか。」

 愛の答えに研究員はそう苦笑いする。しかし愛は首を横に振る。

「それもノーね。馬鹿もそれはそれで嫌い。適度にそこそこ頭良いのが好みなの。我ながら贅沢な好みだけど。

 それに今は研究が楽しいしー。付き合うとかは二の次かな。それこそ、全てまとめてぶち開けてくれる人でも出ない限り。」

 愛はそう苦笑する。

「そうですか。高いハードルですね。

 それじゃあ、誘いも断られたことですし、僕は帰りますね。」

「はい、お疲れ様。」

 研究員の言葉に、愛はそう返す。研究員は去っていった。愛はモニターに視線を戻す。

「やっぱり、実戦でのデータも欲しいわよね。次は賢の後方支援に行くべきかしらね。」

 愛は一人そう言って楽しそうに笑う。どこまでも研究が好きなのだった。


 スパーリングの休憩中、賢は荒い息を吐く。

「くそ、今日は、一発も当てられなかった…。」

 賢はつぶやく。本日から進之介は竹刀を使い始めた。本来の戦い方ができる進之介に、賢はまだまだ敵わない。

「はい、お疲れ様ー。これどうぞ。体力回復に効くわよ。」

 愛がそう言いながらレモンのハチミツ漬けを差し出す。賢はありがたく一切れいただいた。甘みとさわやかな酸っぱさが身に染みた。

「本当に愛っていい女だよなー。気が利くし、明るいし。」

 賢はそんなことを言い出す。愛は首を傾げる。

「何それ、口説いてるの?」

「そんなつもりは無かったけど、いいなそれ。ぜひとも俺と付き合ってくれ。」

 愛の問いに賢はそう憧れをぶちまけた。愛は苦笑いを返してきた。

「いいわね、なかなかに大胆で。だけど答えはノー! 単純な熱血馬鹿は好きじゃないのよ。残念でした。」

「ちぇ、どうせ俺は単純な熱血馬鹿だよ!」

 愛が笑いながら答えると、賢はふてくされて大の字になる。

「まあ、素直なのはいいんだけれどね。私は賢すぎず馬鹿過ぎず適度な賢さがいいのよ。」

 愛はそう言ってまた笑う。

「そうするとシンチャンとかどうなの?」

 賢は何気無く言ってみる。愛は吹き出し笑いをする。

「賢さはいいけど、ちょっとひねくれすぎかな。」

「あは、やっぱそうだよねえ。」

「お前ら、斬られたいか?」

 愛と賢が笑い合うのを進之介が不機嫌そうに突っ込んだ。

「そうね、賢と進之介のいいとこ取りがいたら気に入るかもしれないけどね。」

 愛はそう言って話を広げる。

「いいとこ取りねえ。ってどうした、シンチャン?」

 賢はそこで進之介に話を振る。彼は顎に手をやりながら首を傾げていたのだ。

「いや、いいとこ取りと言っても、お前に何のいいところが有ったかと思ってな。話の流れ的に素直さが一つだが、それ以上何が有るかと。」

「シンチャン? スパーリングじゃなくてマジ喧嘩したいのか?」

 進之介の言葉に今度は賢が青筋立てながら突っ込んだ。愛はそれを聞いて爆笑するのだった。

「さて、そろそろ再開しましょうか…」

 そう愛が言った時。非常ベルが鳴りだす。怪人出現の報であった。愛がすぐに通信機器に取り付き、指示を受ける。それに二言三言話して、方針が決まったのか通信を切り、賢たちの方に歩いて来た。

「怪人出現よ。二人で出撃してちょうだい。」

「二人出る必要は無かろう。俺一人で充分だと思うが。」

 愛の言葉に進之介が異議を唱える。

「いや、そこは是非二人で。カジノドライブの反応をモニタリングしたいのよ。二人一緒の方が都合が良いわけ。まあ、つまりは研究の都合。拒否はさせないから、さっさと出撃しましょう。私もついてくから、早めにね。」

 愛はそう説明する。反論は無駄と悟ったか、進之介はそれに従うようだった。なので賢も動くことにする。


 賢と進之介、二人のバイクを先頭に、後ろに研究員用の支援車両、さらに後ろに一般戦闘隊用の車両が続いていた。二人はナビゲートに従って進んでいく。急ぐバイクは、特別製のおかげか仲間の支援車両すら引き離していく。

 現場まで近付いたころ、ナビゲートに異音が混じった。

『敵襲だ! 支援車両が狙われた!』

 それは愛と一緒に支援車両に乗った男性研究員の声。ヒーローが倒せないからって支援の研究員を狙うか! 賢は思わずバイクを止める。

 しかし、進之介はかまわず行ってしまう。

「おい、シンチャン、どうするんだよ!」

 賢は叫びかかる。そこに進之介から通信が入る。

『決まっている。一般人を守るのが先決だ。こちらは戦闘隊もつれている。そちらを優先するわけにはいかない。』

「だけど、仲間がやられているんだぜ! 愛もやられるかもしれない! 戦闘隊をつれているったって、怪人相手に勝った実績なんて無いじゃないか! 怪人が来ていたら、みんなどうなっちまうと思っているんだ!」

 進之介の言葉に、賢は反論する。

『それでも一般人が優先だ。行きたいならば一人で行け。俺は先に進む。』

 進之介は言う。それに、賢は手を叩いた。

「それだ! シンチャンは先に行って、俺は戻ればいい。両方倒せばいい、それだけだ。」

 賢は一人で納得して、バイクの向きを変える。

『…単純馬鹿が。』

 進之介の皮肉も、賢の耳には入らなかった。賢は急ぐ。手遅れになる前に。


「敵襲だ! 支援車両が狙われた!」

 隣の研究員が慌てて通信に割り込むのを、愛は茫然と見ていた。研究員が座っている、運転席側の外。そこに怪人がべっとり張り付いていた。これまで支援側が狙われたことは無かった。すっかり油断しきってしまっていたのだ。

 研究員は振り落とそうと車を左右に蛇行させる。しかし怪人は離れない。それを見て、研究員は考えを変えたようだ。車は進路を変え、怪人ごと街路樹にぶつかっていった。

 エアバッグが作動する。衝撃のおかげで怪人は離れたらしい。その代わり、研究員は気絶してしまったのか動かない。愛は慌てて車を降り動向を探る。

 怪人は、支援車両から離れた後方にいた。その周りを取り囲まれている。JRAの一般戦闘隊員達だった。

「今までは煮え湯を飲まされてきたが、今回は違うぞ! 放て!」

 隊長の号令とともに、戦闘隊員たちは一斉に射撃を始める。しかし、怪人は涼しい顔だった。

「馬鹿な! 最新の装備が、全く効いていないだと?」

 隊長は、驚嘆の声をあげる。

「そうとも。こっちも、最新の怪人なんでね。」

 怪人が、そう言って手を前に出す。その手のひらには、穴が開いていた。腕が脈動して、その穴から丸い物が生み出される。怪人はその物体を地面に叩き付けた。

 その瞬間、爆発が起こる。周りにいた戦闘隊員たちはまとめて吹き飛ばされた。

 爆弾を生み出す、怪人。その怪人が、愛の方を向いた。

「今田愛だな? 貴様には死んでもらう。」

「私を殺して、何の得が有ると?」

 怪人の言葉に愛は問い返す。

「我々はヒーローを殺せない。ならば、その支援をする者を殺せば良い。貴様は、誰よりもカジノドライブについて知っている。殺せばJRAは大打撃だ。だから殺す。」

 怪人はそう答える。全てわかった上か。愛は納得し、覚悟する。賢も進之介も先に行ってしまった。戻ってくるには時間がかかり過ぎる。おそらく助かるすべはないだろう。

 だけど、体が震える。覚悟したつもりだった。それでも、恐怖を消すことはできなかった。傍目にもわかるくらいに、愛は震える。

 それを笑いながら、怪人は爆弾を生み出す。そして、真っ直ぐにそれを愛に投げ付けてしまう。終わったな。愛は目を閉じ受け入れる。

 爆音が鳴り響いた。

 …しかし、愛は無事だった。わけもわからないまま、愛は目を開ける。

 そこには、愛の前に立ち塞がり爆発を受けたものがいた。羽根の生えた緑のヒーロー。ウインガー01がそこにいた。

「賢…?」

「悪い、ギリギリになっちまって。俺は、君を助けに来た。」

 戸惑う愛に賢は言う。

「絶対に君を守る。憧れの女も守れなきゃ、正義の味方を名乗れないからな!」

 賢は、そう声高に叫ぶ。

「ほう、なかなか面白い話だな。それができるか見せてもらおうじゃないか。」

 怪人は楽しそうに手を叩く。賢は怪人と見合う。激しい戦いが始まる。確かに純粋な戦いでは怪人はヒーローに勝ったことは無い。しかし、誰かを守り抜くのが勝利条件なら。・・・勝負はわからない。

 怪人の腕が脈動する。怪人は生み出した爆弾を愛に向けて投げ付ける。

 それを防ぐため、ウインガーは愛を抱きかかえ走り出す。

「って、ちょ、何を?」

 愛は思わず照れてしまう。しかし、そういう場合じゃないことを愛は思い出す。

 爆発が有った。ウインガーの体がわずかに揺れる。さっきの爆発をまともに受けたのだ、ダメージが有ることに、愛はようやく気付いた。ヒーローの防御は強化されているとは言え、万能ではない。

 爆弾が投げ付けられる。ウインガーはかわす。街路樹に追い込められた。爆弾が投げ付けられる。しかしウインガーは、愛を抱えながらも街路樹を駆け上がった。爆発を尻目にウインガーは木を蹴り飛び上がる。そして、愛の抱き方を変えながら、羽根を使って抵抗を作り出し、捻りを加えて、ウインガーたちの着地点を狙った爆弾をかわした。まるでサーカスのようだが、守ってもらっている愛には文句は言えない。

「ほう、なかなかやるようだな。ならば、これはどうだ?」

 怪人は、そう言って爆弾を生み出し、そしてそのまま自分の足元に叩き付けた。爆発が起こる。ウインガーが呆気に取られる。愛は考え、すぐに気付く。

「ウインガー、来るわ!」

 愛の言葉に、ウインガーが反応した。爆炎を突っ切って突撃してくる怪人の一撃。ウインガーはとっさに体勢を変えて、背中で受けた。

 ウインガーと愛は吹き飛ばされる。それでもウインガーは何とか体勢を整え、着地する。怪人が楽しそうに手を打ち、ウインガーが歯をきしませる音が聞こえた。

 しかし、愛は確信する。自分にこそ勝機は有るのだと。

 愛は口元に手をやる。そして、そのままささやくように言う。

「動かずに聞いて、ウインガー。一つだけ勝機が見付かったわ。」

 愛の言葉に、ウインガーは荒い息をついている。あえて反応を隠している。聞こえている、と愛は判断した。

「相手は表面は爆弾に対する耐性が堅い。だけど、おそらく中からのダメージは想定していない。爆弾を出す直前で詰まらせれば、ダメージは与えられるはず。できる?」

「たぶん。挑戦する価値は、十二分だ。」

 愛の言葉に、ウインガーも小さな声で答えた。決まった。ウインガーは愛を下ろす。愛は歩いてウインガーの後ろに隠れる。

「どうした、やけっぱちか!」

 怪人は、斜め上に向けて腕を掲げる。その瞬間、ウインガーは飛び上がった。そして、回転を始める。

「ギャラントアロー!」

 ウインガーは、脈動する怪人の腕の穴目がけて、真っ直ぐに突っ込んだ。はたして、爆弾は外に出ること無く爆発する。ウインガーは吹き飛ぶ。

「だが、甘い!」

 そこに、片方の腕を無くした怪人が飛び上がった。しかし、ウインガーの足は真っ直ぐ怪人の胸元を向いていた。

「!」

「真っ直ぐ襲いかかって来るなら、動きは読める。」

 驚く怪人に、ウインガーは声を浴びせる。

「ギャラントアロー!」

 ウインガーが、回転をかけ蹴りを放つ。その蹴りは怪人の胸を貫いた。怪人は爆発して果てた。

 ウインガーは着地して、変身を解き愛の方を向き直した。

「大丈夫か、愛! 怪我は無いか!」

 そして愛に駆け寄る。それを愛は頭を小突いて返した。

「大丈夫か、はこっちの台詞よ! あなた、明らかにダメージ受けてたじゃない! 心配したんだから!」

 愛はそう叫び返した。

「え? 心配してくれてたのか?」

 しかし、賢は真面目な口調で聞き返す。愛の顔が真っ赤になった。

「って、顔赤いぞ、愛。熱でも有るのか?」

 続けてそう言う賢の腹に、愛は拳を叩き付ける。

「あ、愛、何を…」

「何をじゃないわよ! この鈍感男! あー、一線をぶち開けたのがこんな奴だなんて! 納得いかないー!」

 悶絶する賢をよそに愛は叫ぶ。賢の方はいまだ顔にハテナマークを浮かべていた。

「…何をやっているんだ。」

 そこにバイクで通りかかった進之介がぼやく。賢の目は進之介に向けられた。

「あ、シンチャン! そっちはどうだった?」

「軽く仕留めた。人的被害は無い。お前の分もしっかり働いてきたぞ。」

 賢の言葉に、進之介は皮肉で答えた。

「それは良かった。それより愛が変なんだけれど、何かわからないか?」

 そう笑顔で返す賢に対し、進之介は溜め息で返した。

「変の方がマシだな。馬鹿には返す言葉すら見付からない。」

 進之介はそう言ってバイクを飛ばし去っていく。賢は茫然とする。

「…一体何なんだ?」

 そう首を傾げる賢の脇で。

「ナンデコンナノニ…ナンデコンナノニ…」

 愛は言い続けるのであった。

 何でこんなのに惚れたのだろうかと。

 怪人は倒れた。今日も平和は守られた。

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