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セイギノミカタ!  作者: 間形 昌史
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第10話 決戦、四天王! ~四人目、忠実なしもべ近藤貴喜~

 ウインガーとマスターガイアは奥に進んでいく。廊下の突き当たり、電動式のドアが有った。スイッチを操作して開ける。

 中はさっきと同じく半球状になっていた。奥には、今度は明らかにわかるドアが。そして、その真ん中には人が待っていた。

 それは、女性。いかにも女らしいボディラインをした、理知的な顔付きの女性がそこに立っていた。

「女の人?」

 ウインガーがつぶやく。それに反応して、その女性が顔を上げた。

「そう、ネオユニヴァース四天王最後の一人、総帥の従順な右腕、近藤貴喜。あなたたちはここを越えることができない。音速がやっとのあなたたちにはね。」

 その女性、貴喜はそう言うと、鞭を構える。ウインガーとマスターガイアも、それに応じて構えた。

「知ってる? 鞭は、普通の人が使っても音速を超えることができる武器だって。」

「ああ。だが、それは返しの瞬間だけのはずだ。その時だけ超えても、俺らには脅威にならない。」

 貴喜の言葉にマスターガイアが答える。それに対して、貴喜は笑った。

「ならば、食らって見なさい。」

 貴喜が言った瞬間、長い破裂音がした。視界の外から何かが襲ってきて、マスターガイアを吹き飛ばす。

「シンチャン!」

 ウインガーが叫ぶ。その前で、貴喜は手首を返した。その瞬間、同じく見えない何かが、いや、わずかに視界をかすったのは、鞭、それが襲いかかってきて、ウインガーは吹き飛ばされた。

「何だ、これは、速い。」

 立ち上がりながらウインガーが言う。それを貴喜は鼻で笑った。

「そう、普通の人が鞭を使っても、一瞬しか音速を出せない。しかし、私は違う。改造され強化された私が使う鞭は、音速を常に超える。その攻撃を、あなたたちは超えられない。さあ、負けを認めなさい。やさしく殺してあげるわ。」

 貴喜は言う。それに対し、ウインガーは逆側に飛ばされたマスターガイアに目くばせしながら、構える。

 まずは、威力を確かめるべきだ。ウインガーが一歩踏み出す。

 その瞬間、鞭が飛んでくる。ウインガーが受けようとする。しかし、反応しきれない。来るのはわかる。動きはそれに間に合わない。受けることができず弾き飛ばされ、壁に激突する。威力は強大。二十秒ほど回復を待つ。その間にも目配せをする。真っ向は無理だ、と。

 その間も貴喜は円を書くように鞭を回している。動きを目で追い切れないほどの速さ。それが部屋の三分の二程を覆い尽くしている。まるで犯すことができない聖域のように、貴喜は円を描く。

 それでも進むしかない。ウインガーは突撃を始める。それと同時に、マスターガイアも突撃する。正対する二方向からの同時攻撃。

 それに対し、貴喜は鞭で円を描き続けるだけだ。まず近い軌跡にいたマスターガイアが吹き飛ぶ。しかし、その間にウインガーが前に進む。鞭の射程の半分ほどで、ウインガーは鞭を迎え撃つ。

 軌道を予測して、受ける。吹き飛ばない。円を描いている鞭の軌道は、外側ほどスピードが出ている。ならば、中に入れば威力は減る。そのため受けることができた。このまま前へ。

 そう思った瞬間、鞭が体に巻き付いてきた。そして、鞭を巧みに操られて、振り回される。そして、投げ捨てられた。立ち上がり回復を待つマスターガイアに向かって、容赦なく叩き付けられ、さらにダメージが重なる。

 それでも二人は立ち上がる。回復を待って、ウインガーは駆け出す。マスターガイアが後に続く。そして、鞭の射程のわずか手前で、ウインガーは後ろを向く。

 ウインガーはマスターガイアに向けて腕を構える。マスターガイアがそれに乗ると、ウインガーは腕を振り上げた。

 マスターガイアが飛ぶ。円を描く貴喜に対して、三次元からの攻撃。通じるか。

 貴喜は手首を上に返す。その動きで、鞭が瞬時に縦の動きに変わる。それは、真下からマスターガイアを突き上げた。マスターガイアが天井に叩き付けられ、落ちて来たところをさらに貴喜の鞭が襲う。マスターガイアは吹き飛ばされる。わずかにウインガーが軌道を読み、クッション代わりになった。それでも、二人まとめて吹っ飛ばされて、壁にぶつけられる。あまり威力を殺せていなかった。

 二人は立ち上がる。視線を交わし、次の策を練る。二人は、重なり合うように並んで走り始めた。

 鞭が襲いかかってくる。マスターガイアが受け、それをウインガーが支えた。二人がかりでの守り。鞭はようやく受け止めることができた。

 二人はスクラムを組んだまま前に進む。貴喜は手首を返し、鞭を逆回転させる。射程の半分ほどで、鞭が襲いかかってくる。威力は、外側より弱い。受け止められる。

 そこに、鞭が二人を絡み取る。二人は、思いっきり踏ん張った。鞭が、動かない。二人がかりで、ようやく鞭は沈黙した。

 そう、鞭は。貴喜は、鞭を操りながら素早く二人に駆け寄り、思いっきり蹴り飛ばした。二人ともに吹っ飛ぶ。壁に当たって止まった。鞭ほどの威力は無くとも、なかなかのものだ。

「言ったでしょ、私は改造されている。鞭だけが強いわけではないわ。」

 貴喜が勝ち誇る。そして、再度鞭を円状に回転させ始めた。

 それでも。二人は立ち上がる。荒い息をしながら、カジノドライブをフル回転させて体を回復させながら立ち上がる。それを見た貴喜は呆れたように溜め息を漏らした。

「なあ、シンチャン。あの鞭のスピードはどれほどだと思う?」

 ウインガーが問う。

「そうだな。反応できないまでも、全く見えないほどではない。加えて、さっきの本人の動きは音速を超えていない。それを考えると、マッハ2は出ていないだろう。マッハ1.9、そのくらいではないだろうか。」

 マスターガイアが答える。それに貴喜は笑う。

「惜しいわね。確かにマッハ2は行ってないわ。それでも、マッハ1.99。限りなくマッハ2に近いスピードは出ているのよ。ようやく音速、マッハ1しか出せないあなたたちには到底超えられないわ。」

 貴喜はそう言う。だが、ウインガーは笑った。

「確かに俺一人じゃ1だ。だけど、そこで問題だ。1+1と1.99はどっちが大きい?」

 ウインガーが言う。隣でマスターガイアが得心していた。貴喜は意味がわからないという顔を返してくる。

「1+1は2、2は1.99より大きい。」

 ウインガーはそう言う。隣でマスターガイアが剣をハンマーに変え、構える。ウインガーはそのハンマーに乗り、構えた。ようやく理解した貴喜が、半ば呆れたような驚きを上げる。

「まさか、マッハ1とマッハ1を足して、2にするというの? 物理的には有り得ないわ。力のロスが出ないやり方など無い!」

「物理的に有り得ないなら、」

 貴喜の言葉にウインガーが返す。

「物理を超えるだけだ。」

 ウインガーは宣言する。それに対し、貴喜は呆れて絶句していた。そして、鞭を一度止める。

「そう。不可能に賭けたいなら、そうしなさい。それを私は確実に殺してあげる。」

 貴喜が構える。それは、最も最適化された鞭の構え。確実の最速を、こちらに当てる意思の表れだった。

 一瞬、両者が止まる。そして、ウインガーたちは動き出す。

「プレストン!」

 マスターガイアがハンマーを振るう。音速の速さでだ。そして、それに乗ったウインガーは、

「ソリッドプラチナム!」

 ウインガーは飛ぶ。音速の速さで、マッハ1にマッハ1を重ね合わせて。超高速でウインガーは飛んでいく。

 それに対して、貴喜は鞭を振るう。正確に、ウインガーを狙って。超高速で鞭が襲いかかる。

 ウインガーが飛んでいく。鞭が飛んでくる。その速さはほぼ同じ。そして結果は。

 その瞬間カジノドライブの神秘の力が、物理を上回った。ウインガーはマッハ2の速さで、鞭をわずかにかわして貴喜に飛び付いた。両の拳が胸を打ち、貴喜は壁まで吹き飛ぶ。そして、壁に打ち付けられて、動きを止めた。

 貴喜が荒い息をする。いくら改造されているからと言って、ヒーロー二人分の全力を受けては体が持つはずが無い。

「はっ、恐るべきね、正義の味方は。」

 それでも、貴喜は憎まれ口を叩く。

「私はこれでおしまいよ。さあ、私の屍を乗り越えていきなさいな。あの人は強い。私より強い。あなたたちは勝てないわ。」

 貴喜はそう言う。それに対し、マスターガイアが近付いた。

 そして貴喜に肩を貸し、立ち上がらせた。貴喜が驚いた表情を見せる。

「俺たちは誰の屍も越えていかない。お前も助ける。俺たちは誰一人殺しはしない。」

 マスターガイアはそう言う。貴喜は呆気に取られたような顔をしている。

「ウインガー、すまないが俺はこいつを助ける。入口の方に救急医療器具を持ってきているはずだ。」

 そういうマスターガイアの、変身が一瞬で解けた。それを見て、ウインガーは納得の表情を向ける。

「もしかしてと思ってたけど、やっぱり限界が来ていたのか。」

「ああ。さきほどの戦闘から騙し騙し戦っていたが、カジノドライブの許容量を超えたようだ。もはや回復以外に割けるエネルギーが無い。…いや、回復も充分ではないようだ。しばらく俺は使い物にならないだろう。」

 ウインガーの言葉に、進之介は答える。

「わかった。俺は先に進む。シンチャンはその人を頼む。」

 ウインガーはそう言うと奥に進む扉へと向かっていく。

「待ちなさいよ。」

 それを、貴喜が呼び止めた。ウインガーが足を止め振り向く。

「勝てると思ってるの? あの人は、私より強いのよ! 二人がかりでようやく私を倒したあなたが、どうやって勝つというの? あなたの勝つ可能性はゼロよ。怯えなさいよ震えなさいよ泣きなさいよ!」

 貴喜はウインガーに向かって叫ぶ。それに対してウインガーは、

 笑った。

 マスク越しにわかるほど、晴れ晴れしい笑顔だった。

「俺たちは、可能性が有るから戦っているんじゃない。」

 ウインガーは言う。

「たとえ勝つ可能性がゼロだろうが、戦う。それが、正義の味方だ。」

 ウインガーはそう言う。

「何でよ、あなたの頭に諦めるって選択肢は無いの?」

「無いよ。正義の味方には、そんなものは無い。」

 貴喜の問いに、ウインガーはさらりと答える。貴喜がそれに歯噛みする。

「心配するなよ。その人、ってのはあんたの大事な人なんだろ? 話しぶりでわかるよ。大丈夫。俺は誰も殺さない。」

 ウインガーは宣言する。

「あんたの大切な人を、これから救ってくる。」

 ウインガーは、そう宣言する。貴喜の表情が変わった。どこか悲哀に満ちた、憂いを含んだような、そんな顔。

「あなたはあの人に勝てない。」

「いや、勝つ。正義の味方は負けないんだ。」

 貴喜の言葉に、ウインガーは最大級に不敵な笑顔で、そう言った。

「それじゃあ行ってくる。」

 ウインガーはそう言い、振り向く。

「ああ、信じているぞ、ウインガー。」

 進之介はそう声をかける。ウインガーはその言葉を噛みしめるように、一瞬間を置く。

「ああ、任せとけ。」

 ウインガーはそう返すと、奥に進んでいった。


「あいつ、ただの馬鹿じゃないの。」

 貴喜は、進之介に支えられて歩きながら言った。それに進之介は素直に笑う。

「ああ、そうかもしれない。世界一の大馬鹿者だ。」

 進之介はそう言って、続ける。

「だがな、馬鹿だからこそ前に進める時も有る。なまじ賢いよりはな。君は賢そうだから覚えておいた方が良い。」

 進之介はそう言った。

「…もしかして、あなたも馬鹿だった?」

 貴喜は、素直に外に向かいながらそう言う。進之介はやはり笑う。

「そうかもしれん。俺も感化されてしまったな。」

 その進之介の言葉に、貴喜はすっかり敵対心を失ってしまった。

 それにしても。

 あんたの大切な人を、これから救ってくる。

 ウインガーのその言葉が、妙に心に残っている。

 あの人と彼は敵だ。それも、相容れないほど正反対を向いた敵だ。分かり合えるはずが無いし、その彼があの人を救えるはずが無い。

 そう、理論ではわかっている。なのになぜだろうか。ウインガーの言葉を、そういう意味では否定できなかったのは。

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