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セイギノミカタ!  作者: 間形 昌史
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第1話 ヒーロー参上!

ちょっと怪人の倒し方とか一般人への被害とかが激しい描写が有るのでR-15にしました。基本は真っ直ぐなヒーロー物? のはずなのでよろしく。

 まったく、いいこと無いなあ。

 勝俣賢(かつまたさとし)はぼやきながら街を歩いていた。

 賢は現在無職。就職浪人中。とは言っても、もう大学を卒業して一年以上経ってるので浪人どころの話ではない。大卒就職活動サイトでの応募も諦めざるを得なく、しょうがなくこれからハローワークへ通い始めようとしているところである。世の中は世知辛い。

 いくら不況とは言え、酷すぎる。やはり、文学部なんて選んだのが間違いだったのだろうか。しかも、その中でもマニアックなインド哲学専攻。就活の面接で「大学で学んだことを仕事にどう活かせますか?」と聞かれたら全力で「全く無関係です!」と言い切れるような分野だ。

 違う道を歩んでいたらちょっとは違ったのだろうか? 性格的には明るく前向きで活発。決してマイナスではないはずなのになあ。賢はそんなことを考えながら歩いていく。

 が、急にあたりがざわつき始めたので賢は足を止めた。

「怪人だぁ!」

 どこからかそんな叫び声が聞こえ、人波が賢の方へと押し寄せて通り越し去っていく。

 怪人。悪の秘密結社ネオユニヴァースの作り出した改造人間である。最近、時々街に現れ破壊活動、時には人殺しまで、をしていく連中である。それが現れたというのか。

 ちなみに、それに対抗して正義のヒーローなんかも存在しているので、対処法は簡単である。ヒーローが現れるまで逃げればいい、それだけだ。

 向こうにゆっくり歩く人影が現れる。そいつは腕からビームを放って地面に穴ぼこを開けていく。危ない、自分も逃げなきゃな。そう思って賢は振り向こうとして・・・その直前に見た光景に、思わず向き直す。

 そこには、老人の姿が。おぼつかない足取りで歩いている。それは彼なりの全速力なのだろうが、怪人の前では遅すぎる。まずいぞ。賢は冷汗をかいた。

 そして、怪人の腕が老人の方を向いた。賢は思わず走り出す。賢はこういう時考えるより体が先に動くタイプだ。蛮勇と笑わば笑え、人が殺されるのを見過ごすのは、本能が許さなかった。

「爺さん、危ない!」

 賢はとっさに老人を突き飛ばし、そして自分も照準から逃れようとした・・・瞬間、胸をビームで打ち抜かれた。心臓をごっそり抜き取られて、体の動きが止まり、倒れた。

 さすがに無謀すぎたか。それにしても、心臓をぶち抜かれても案外すぐには死なないものだなあ、と賢は考えた。バイクの音がする。誰かが降りた。「変身!」掛け声が聞こえる。「大地の戦士、マスターガイア、参上!」ヒーローが名乗りをあげた。これで爺さんは助かった。でも、俺が死ぬ。一歩遅いんだよ。そんなことを愚痴りたいが口が動かず、賢の意識はそこで途切れた。


 英進之介(はなぶさしんのすけ)が現場に着いた時には、すでに一人、光線によって倒れた後だった。

 遅かったか。そんなことを思いながらも既に終わったこと、気にも留めずに進之介はバイクを降りた。そしてポーズを取って叫ぶ。

「変身!」

 その掛け声とともに進之介の体を光が包み、そして光が消えたころには、そこにいたのは、黄色いカラーリングの、戦国の甲冑を思わせるフォルムをした、片刃の剣を持ったヒーロー。

「大地の戦士、マスターガイア、参上!」

 進之介…マスターガイアはそう名乗りをあげた。怪人はマスターガイアの方を向いた。

「ようやく来たか、ヒーロー。それじゃあ勝負と行こうじゃないか。」

 怪人がにやりと笑う。

「望むところだ。全てこの剣で切り裂いてくれる。」

 対するマスターガイアは、剣を上段に構えて、冷静な声で応えた。

「それでは行くぞ!」

 掛け声とともに怪人は腕をマスターガイアに向ける。そして、すぐさまビームを放った。

 マスターガイアは、よけようとはしない。否、よける必要が無いのだ。ビームが当たる寸前、マスターガイアは剣を振り下ろした。ビームは真っ二つに斬られ、それはマスターガイアの左右を通って後ろのビルに当たった。

「何だと!」

 怪人が驚きの声をあげた。

「言っただろう、全て切り裂くと。」

 マスターガイアはあくまで冷静に言った。そして、今度は中段の構えを取る。

 怪人がつばを飲み込む音がした。自らの武器が通用しない。ならばどうするか。

「くそっ! これでも食らえ!」

 怪人は駆け寄ってきて、マスターガイアに腕を叩きつけてきた。

 腕、と単に言うが、ビームを放てるように改造された腕である。それは、鉄で覆われていた。つまり、もはや鈍器としても通用するのだった。バズーカ砲も振り回せば人を殴れるように。

 だが、それすらもマスターガイアは剣で受け止めた。否、それどころかそのまま腕を切り落としてしまった。

「が、いてえぇぇぇえ! 畜生、畜生!」

 怪人はわめきながらも、残ったもう片方の、改造されていない腕で殴りかかろうとした。しかし、マスターガイアはそれすらも許さない。拳が届く前に怪人を、横に一刀両断していた。血飛沫がマスターガイアを濡らした。

「くそ、無念だ…」

 最後に恨み節を残して、怪人は息絶え、爆発した。戦闘開始から三分と経たない、早い決着だった。

 さて、終わったか。マスターガイアは息をついて、変身を解除した。マスターガイア…進之介は、さっき怪人によって倒された人間の方へ向かった。倒れている若者の脇で老人が泣きわめいていた。

「おい、若いの、しっかりしてくれ、頼む。」

 老人の声を聞きつつ、進之介は若者の様子を分析していた。心臓の部位に大きな穴が開いている。もはや死んでいるだろう。そうとしか思えなかった。

 進之介が近付くのに気付いて、老人は進之介の方を向いた。

「おい、あんた、この若いのを助けてくれ。儂をかばって撃たれたんだ。あんた、ヒーローだろ。何とかしておくれよ!」

 老人の懇願に、進之介は首を横に振った。

「無理だ。傷の位置が悪すぎる。これでは死亡は確定だ。死んだ者を生き返らせる術などこの世に存在しない。」

「そうとは限らないわよ。」

 進之介の言葉に、後ろから異を唱える声が割り込んだ。進之介が振り向くと、そこには汚れた白衣を着た、ウェーブがかかったロングヘアの女性が立っていた。見知った顔だった。

今田愛(いまだあい)、研究担当、バックアップのお前がなぜここに来る。」

 進之介は冷たく言い放った。愛は研究者である。現場近くに来たとしても、情報さえ集められれば充分。最前線にやってくる必要は無いはずだ。

「それはもちろん、研究対象に変化が有ったからよ。」

 愛の答えに、進之介は顎に手を当て、少し考えた後で、言った。

「お前の専門はカジノドライブだったな。それに変化が有ったとは、どういうことだ?」

 カジノドライブ。ヒーローの力の根源、超常の力を秘めた、謎の、意思を持つ石。その石が正義と認めた者しか、ヒーローになることができない。

 愛が言うのは、つまりは、その石がどうにかなったということだ。では、どうにかとは一体何か?

「反応したのよ、このカジノドライブが、その子に。」

 愛はそう言って持っていた緑色の石を進之介に見せた。これこそがカジノドライブ。そして、このカジノドライブは薄っすらと光っていた。

「反応した? つまりは、選んだということか? この男を、宿主として。」

「そういうこと。この子には次のヒーローになる資格が有る。」

 進之介の質問に、愛は答えて、そのまま話を続けた。

「カジノドライブの能力は、身体強化、変身能力、そして超回復。大怪我をしても、すぐに治るのよ。それこそ、脳が完全に死なない限り、いや、下手すると多少死んでも蘇るかもしれない。それだけのポテンシャルを、この石は秘めている。」

 愛の説明に、進之介は納得した。

「なるほど。カジノドライブをこの男に宿らせて、超回復の可能性に賭けるわけか。それはわかった。しかし、ならば急いだ方がいいのではないか? 手遅れになっても知らんぞ。」

「そうね。話も終わったし今すぐに。」

 進之介の言葉に相槌を打って、愛は若者のところに行った。そして、仰向けになった若者の胸の上、穴の開いてないところにカジノドライブを置いた。

 すると、カジノドライブは吸い込まれるように若者の体に埋まっていった。そして、少し経つと若者の胸の穴が埋まっていった。さらにもう少し待つと、真っ青だった若者の顔に赤みが差していった。

 愛は若者の腕を取ってみる。確かに脈打っていた。

「うん、成功ね。良かったわね、おじいさん。この子は助かったわよ。」

「本当か、良かった、本当に良かった…。」

 愛が笑顔で老人に笑いかけると、老人は感極まったとばかりに涙を流した。それに対して愛は笑顔で対応し続ける。

 振り向き、その光景に背を向けて、進之介は小さく舌打ちをした。


 賢は目を覚ました。白い天井が見える。病院のような、けどどこか違う雰囲気が有った。

「ここは…」

「気が付いたわね。」

 賢がつぶやくと答える声がする。賢は声がする方を向く。そこには、ウェーブがかかったロングヘアの、汚れた白衣を着た女性がいた。それも結構美人だ。賢は魅入られたように目を離せないでいる。

「大丈夫? 悪いところは無い? あなたは死にかけてたんだから。」

 その女性はにこやかに笑いかけながらそう言ってくる。そこで賢はさっきの惨状を思い出して、自分の左胸を触ってみる。しかし、穴は無い。心臓はしっかりと脈動している。

「えっと…? 大丈夫、みたいだ。でもどうして? 俺は怪人にやられたはずだ。胸にはぽっかり穴が開いてて…。」

「その理由を、これから説明するわ。私、今田愛と、彼、英進之介で。」

 戸惑う賢にその女性、今田愛はそう言うとともに、彼女の後ろにいた男性を手で示した。賢はようやく男性に気付く。長い髪を後ろでまとめた、端整な顔付きの男性が壁に寄りかかって立っている。愛曰く、名前は英進之介と言うらしい。

 賢はそこまで聞いてから、体を起こす。そして、目で愛に話を促した。

「まずは、そうね。カジノドライブって知ってる?」

 愛はそう聞いてくる。

「ええと、確かヒーローの力の元がそんな名前だったような気がするけど。」

 賢は思い付く限りを言ってみる。

「正解。カジノドライブは、ヒーローの力の源。意志を持つ石で、この石に選ばれた者がヒーローになれる。選ばれる確率がカジノのジャックポット並み、いや、それ以上に小さい。ゆえにカジノドライブと名付けられた。

 そして、そのカジノドライブが君を選んだ。その力であなたの傷を癒し、生き返らせた。それがあなたの生きている理由。もうすでに、カジノドライブはあなたの体の中に有るわ。」

 愛はそう説明する。賢は自分の体を見てしまう。実感が無い。体の調子に違和感は無い。いやむしろ、あんな傷を負ったのに違和感が無いことがおかしいのかもしれない。

「実感全然無いなあ。そんなこと言われても、体には何も変化が無いわけだし。」

「そう。でも、一つだけ証明できることが有るわ。カジノドライブを体に宿したあなたは、ヒーローに変身できる。それが大きな違いよ。」

 賢の言葉に、愛はそう返す。ヒーローに変身。それは大層楽しそうには聞こえる。

「嘘だと思うなら、試してみてちょうだい。むしろぜひ試して! ヒーローは属性を持つんだけど、それが今まで発見できたのは炎、水、大地なの。あと一つ判別できれば、東洋思想にのっとったものなのか西洋思想にのっとったものなのかわかる! ちょっと楽しみよね。うふふ…。」

 愛は興奮気味にそう言う。それにちょっと引きながらも、賢は言葉を返す。

「それはつまり、地水火風の四元素か、五行の火水木金土かってこと?」

「そう。どちらかの説を取っている可能性が高いの。それがわかれば残りのカジノドライブの数も推測できる。研究者として、非常に楽しみね!」

 賢が持っている知識をフル動員して言うと、愛はそう返してくる。やはりテンションが異常に高くてちょっと怖い。

「わかったよ。それじゃあ、変身してみたいけど、どうすればいいんだ?」

 寝ていたベッドを降り、立ち上がりながら賢が聞く。

「適当でいい。ただ変身したいと願えば、勝手になる。イメージしにくければ、言葉で言えば良い。」

 進之介がぶっきらぼうに言う。適当なんて、そんなもんなのかな。賢は少し戸惑いながらも、変身しようと試みた。

 イメージを高めるため、どこかの変身ヒーローを真似たポーズをとってみる。

「変身!」

 そして言葉に出す。すると賢の体は光に包まれた。

 そこに現れたのは、緑のカラーリングをした、背中に一対の羽根を持つ、流線型のフォルムのヒーローだった。

「ウインガー01。俺は、風の戦士ウインガー01だ。」

 賢は思い付くままに言葉を紡ぐ。ウインガー01。それが賢の、ヒーローとしての名前らしい。

「ふむ、属性は風か。それじゃあ、これでカジノドライブは打ち止めかもしれないわね。」

 愛は嬉々とした目でそう語った。進之介は興味無さげな顔だった。

「そうか。それでこれ、どうやって戻るんだ? 今は変身しておく必要性無いだろう?」

「解除も適当だ。念じれば、元に戻る。」

 賢の問いに、進之介がそっけなく答える。わざわざ言葉にするとかっこ悪いので、心の中で戻れと唱える。すると賢の体は元に戻った。

「なるほど、ヒーローか。だけど、この力を一体何に活かせばいいんだ?」

 賢はそうつぶやく。

「そこで、私たちから提案よ。」

 それに愛が答えた。

「私たちはJRAと言う組織に所属している。悪の怪人たちに対抗し、戦うための組織、それがJRA。

 君には、ぜひ私たちの一員となって、悪と戦って欲しいの。いえ、むしろそれしか道は無いと言ってもいいわ。ヒーローになった以上、それは義務。

 もし、今働いているなら、それを辞めてもらわないといけないけど、そこら辺の事情はどう?」

 愛はそう言ってくる。

「それは、願ったり叶ったりかな。実は今無職でさあ。何か働けるあてを探してたんだよね。こんな形で自分の力、もらい物ではあるけどさ、それを使えるなら、こちらからお願いしたいくらいだよ。」

 賢は笑いながら言う。

「それじゃあ、了解は得られたと考えて良いわね?」

「ああ、よろしくお願いします。」

 愛の確認に賢はそう頭を下げる。愛はホッとしたように頷いた。

「ええ、JRAはあなたを歓迎するわ。」

 愛はそう答える。賢も頷いて返す。

「それにしても予想外だったな。まさか俺が、正義の味方になれるだなんて。」

 賢は何気無くそんなことをつぶやいた。

 その瞬間、破壊音が部屋中に響き渡った。

 賢は驚いて音のした方を見る。進之介が壁に大きなへこみを作っていた。

「ちょっと進之介、研究室の壁に穴を開けないでよ。」

 愛はそう注意する。

「話は終わった。俺は帰らせてもらう。」

 しかし、進之介はそれを無視して歩き出した。そのまま部屋を出ていってしまう。

「何? あいつ、急に怒った?」

 賢は茫然と言う。

「あなたの言葉が癇に障ったのでしょうね。世の中には、例え自分の立ち位置が悪の反対だとしても、正義と認めたくない奴もいるのよ。」

 愛は寂しそうに言う。

「…何か複雑そうだな。」

「意外とそんなものよ。ヒーローなんて、案外複雑でたちが悪い、そんなもの。」

 賢の言葉に、愛は答える。その表情は、やはりどこか寂しそうだった。


 その後、契約書にサインして、正式に賢はJRAのヒーローになった。その後は、それまでいた研究所を出て、色々施設を案内された。正式な仕事は翌日からになった。

 そして、その仕事というのが。

「トレーニング、かよ…。」

 賢は走りながらつぶやく。

 JRAの屋内訓練所、一周四百メートルのトラックコース。まずそれを百周。それが賢たちに課せられたトレーニングメニューの一つ目だった。

「ほらあと十六週よ! 進之介には六周差つけられてるんだから、これ以上離されないようにしなさいよ!」

 コーチ役の愛の声が響く。賢は足を進める。しかし遅い。トレーニングを始めて初日なのだから無理も無いが、それでも悔しい。

 また進之介に並びかけられた。抜かせまいと踏ん張る。しかし悠々と追い越されてしまった。これが毎日鍛えてきた奴との差か。思い知らされる。

 数十分後、ようやく賢は百周を終える。息を切らしている賢に対し、進之介はすでに平常に戻っていた。

「け、結局十三周差か。やるな、シンチャン。」

 賢は進之介に声をかける。進之介は怪訝な顔をする。

「待て。その呼び方は何だ?」

「あだ名だよ。進之介だからシンチャン。どうだ、いい名だろう。」

 進之介の問いに賢は気楽に答える。進之介は苦虫を噛み潰したような顔になる。

「なぜお前からちゃん付けで呼ばれなければいけないのだ!」

「いいじゃんかよ。シンチャンも俺のことを気軽にウインガーと呼んでもいいんだぜ?」

 抗議する進之介に、賢は平然と答える。

「ちゃん付けとヒーロー時の名前じゃ釣り合わないだろう!」

「細かいことは気にすんなって。ハゲるぞ、シンチャン。」

 進之介の怒りも、賢は華麗にスルーした。

「はい、おしゃべりはそこまで。次のメニュー行くわよ。」

 それを愛が遮って話を進めた。

「だってさ。行こうぜ、シンチャン。」

「だからその呼び方はやめろというのに…。」

 賢の言葉に、進之介は言う。進之介は半ば諦め気味だった。

 その後、筋トレを挟んで、ヘッドギアとグローブを付けてのスパーリングが始まる。

「元々の俺の流儀は剣を使ったものだ。存分に手加減してやろう。」

 進之介は尊大に言う。

「そう簡単には負けねえぞ!」

 賢はいきり立つ。スパーリングの開始だ。

 まずは距離を詰める。お互いに、少しずつ前に出る。

 間合いに入った。賢は拳を振りかぶる。

 しかし、その瞬間に進之介のジャブがクリーンヒットし、賢は腰を落とす。

「甘い。そんな大振りじゃ敵の攻撃の方が先だ。」

 進之介は言う。それに、賢はもう一度立ち向かう。拳を振りかぶる。

 進之介はすかさずジャブを入れる。今度は即座にストレートを入れるワンツー。賢は完全に吹き飛ばされてしまった。

「これで一度死んだ。ここが戦場だったらどうするつもりだ。」

 進之介は辛らつな言葉を投げかけてきた。

「まだだ!」

 賢は立ち上がる。そして、立ち向かう。拳を振りかぶり…そして、再びワンツーで沈められた。

 結局振りかぶる癖は直らなかった。


 二週間が経った。この間は敵の攻撃もそれほど無く、ヒーローの出番は無かった。賢たちはトレーニングに集中することができたのだった。

 最初のトラック百周。九十九週目まで賢は追い付かれることは無かった。最後で追い付かれそうになったが、スパートして振り払った。

 抜かれなかったとは言え、ほぼ一周差は有ったのだが。

 スパーリングを始める。賢は相変わらず振りかぶりながら戦った。そこに進之介のワンツー。賢はわずかにのけぞるが、また前に出る。

 振りかぶる。そしてその一撃は…進之介のジャブと同時。今度は両者とものけぞった。

「どうだ! 届かせてみたぜ!」

「チッ! ならば続けてみせろ!」

 賢の叫びに、進之介も叫び返す。はたして次の攻防は。

 進之介のワンツーが決まった。賢は崩れ落ちる。

「はい、休憩入れましょう。」

 そこに愛が声をかける。スパーリングは一時中断となった。

「どう? 賢の様子は。」

 愛は進之介に声をかける。進之介は渋い顔だ。

「想像以上に良くやっている。体力的な成長も早い。筋肉を酷使して超回復させる効果的なトレーニングだとは言え、それを考えても早い部類だ。」

「格闘技術は? 珍しく一発入れられたみたいだけれど。」

 進之介の答えに愛はからかうようにそう言う。

「あの大振りでは上手くいくとは思わん。しかし、確かに速いのは有る。大振りでも無理矢理当てるとはな。」

 進之介は溜め息交じりに言う。

「俺も捨てたもんじゃないだろう。」

 そこに賢が口出ししてくる。進之介は不機嫌な表情になる。

「まだまだだ。俺が剣を持てば確実に勝てる。現時点では超えられない壁だ。」

「言うねえ。それじゃあ、そろそろ再開しようぜ。大体回復した。」

 進之介と賢はそんな会話を交わす。

 そこへ、非常ベルが鳴った。ヒーローの出動の合図だ。二人は顔を引き締める。

 愛がすかさず通信機器を弄る。渋い顔をしながら、指令を聞く。それから、二人の方に歩いて来た。

「怪人が出現したわ。それも二箇所同時。賢にも出撃してもらわなきゃいけないんだけれど…大丈夫?」

「全然オッケー! むしろ待ちわびてたぜ、この時を。」

 愛の言葉に、賢は頷く。愛は頷き返して、命令を言う。

「それじゃあ、マスターガイア、ウインガー01。両者出動しなさい。」

 愛はハッキリと言った。いよいよ賢の初陣が始まる。


 街中に、怪人はいた。手に金属がはめ込まれたその怪人は、ボクサーのような動きで電柱を殴り倒し、建物を殴りつけ崩壊させていった。

 そして怪人は次の獲物に狙いを定める。足がもつれて転んでしまった、女子高生だ。怪人が近付く。女子高生は恐怖で立てないのか、へたり込んだまま後ずさるだけしかできなかった。

 距離がゼロになる。怪人が、拳を振りかぶる。

「あんたに恨みは無いが、死んでくれ。」

 怪人はそう通告する。

 その時だった。空気を切り裂いて向かってくる音がした。怪人は音のする方を見る。そこには、緑を主体とした派手な色の、いかにも特別製といったバイクが向かってきていた。

 怪人はバイクの方へ向き直った。その目は品定めするように鋭い。

 バイクはブレーキをかけながら止まっていき。

 そして、止まり切れずに怪人を撥ね飛ばした。

「てめえ、何しやがる! 恰好つかねえだろうがよ!」

「すまん! 二輪には全く慣れていないんだ!」

 怪人の怒鳴り声に、バイクに乗っていた賢は降りながら謝っていた。

「ええと、これは一体?」

「ああ、大丈夫。俺はJRAのヒーローだ。怪人は俺が止めるから、君はすぐに逃げてくれ。」

 女子高生の言葉に賢はヘルメットを取りながらそう答える。女子高生は、賢と怪人との掛け合いで恐怖が薄れたのか、立ち上がり素直に去っていった。

 さて。気を取り直して、賢は怪人に向き直った。

「一応聞いとこうか。お前は何者だ?」

 怪人は定番の台詞を吐いてくる。

「変身!」

 答えるために、賢は変身する。光に包まれ、現れたのは、羽根の生えた緑のヒーロー。

「俺はウインガー01。正義の味方だ。」

 ウインガーはそう宣言する。

「ふん。何が正義だ。気に入らねえな。ぶち殺すぜ、俺の敵。」

 怪人はそういきり立つ。

 ウインガーと怪人は見合う。動き出したのは同時。距離を詰め、ウインガーは大振りの拳を、怪人はジャブを出す。そして、当たったのは同時だった。

 怪人がのけぞる。一方ウインガーは、微動だにせずに受け切った。鍛えた肉体を変身で強化しているのだ、耐えるのはたやすい。

 攻防は次の段へ。怪人はのけぞりながらジャブを繰り出す。ウインガーは大振り。しかし、のけぞった分怪人が不利。ウインガーの拳が先に当たった。

 さらにウインガーは追撃する。ウインガーの連打に、怪人は対応しきれなかった。三たび、拳がめり込む。

 怪人はようやく不利を悟り、距離を取った。二人は再び見合う。そして、怪人の突撃。ジャブでは不利と見たか、怪人も大振りのフックだ。

 しかし同じ大振りなら、ウインガーの方が早かった。クリーンヒットしたウインガーの拳は、怪人を吹き飛ばす。

 それでも、怪人の執念は再び立ち上がらせる。

 ウインガーは、思った。決め手に欠けると。何か一撃で勝負を決める、そんな手段が無いかと。

 そこに、ウインガーの頭の中に情報が入ってきた。それは必殺技。カジノドライブが教えている。一撃で勝負を決める手段は、有ると。

 相手はふらついている。カウンター狙いに切り替えたのか、足は止まっている。狙うなら今だ。

 ウインガーはジャンプした。高く高く、真上へと。捻りを加えて、回転しながら。

 そして、足が怪人を向いた瞬間、それを発動させる。背中の羽根が向きを変える。それは、矢羽のように。

 そして、錐揉み状に回転しながら、ウインガーは怪人に向かい突き進んでいく。

「ギャラントアロー!」

 ウインガーは技の名を叫ぶ。今のウインガーは、まさしく一本の矢だった。ウインガーは怪人に到達する。そして、怪人の胸を貫いて突き抜けた。

 ウインガーが着地する。そして怪人は、爆発して果てた。ウインガー、初陣は勝利。

 ウインガーは変身を解く。

「さて、シンチャンの方はどうなってるかな?」

 賢がそう言って、通信機を取りにバイクへ戻ろうと振り向くと、すでにそこに進之介はいた。

「って、もう終わってたのか、シンチャン!」

「当たり前だ。お前とは違う。」

 驚く賢に進之介はそっけなく答えた。

「それじゃあ、帰ろうか。戦いも終わったことだし。」

 賢はそう言ってバイクに近付く。しかし進之介は賢の方を気にすることなく、すぐにバイクに乗り、行ってしまった。

「うーん、こんな感じで上手くやれるのかねえ。」

 賢はそう首を捻る。だけどまあいいか、と思い、ヘルメットをかぶりバイクにまたがり、発進した。

 怪人は倒れた。今日も平和は守られた。

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