出陣の儀式
「時間があるなら、事前の準備はしておくべきです」
「クロッカスの言う通りだ、クルマと人間の手配はしておく」
「大葉さん。今、執行部の人達は……」
「監理課は全員把握してる、半分は間違い無く一時間以内でここに呼べる」
大葉さんの部下を一気に集めるらしい。
「アヤメちゃん、カモフラ・アンビュランスはどうする?」
「できれば欲しいですわ、どうなるのか予想がつきません」
「わかった。メディックも含めて昨日から神奈川と埼玉にいってる、至急二台とも呼び戻す」
アンビュランスって救急車? 持ってるんだ振興会で。
カモフラって頭に着くのがちょっと気になるけれど。
メディックは医療班? これも振興会独自で持ってると。
どんだけ大きな組織なのよ振興会。本部はあのボロビルなのに!
「ホンモノは?」
「もちろん状況に依りますが、校門で待機させるおつもりですか?」
これはわかった。
ホンモノの救急車が待機してたら不味いだろう。って言う話だ。
でも、状況はそれ程悪いのか……。
「違ぇねぇ。……“先生”.の方にも連絡しておくぞ?」
「それはむしろお願いします」
大葉さんが少し離れて電話をかけ始めたのをみて、華ちゃんはあやめさんに近づく。
「相手はクラスC相当。――お姉様?」
「……良いでしょう。こちらへいらっしゃい、華さん」
その華ちゃんを近くに呼ぶと、あやめさんは彼女の制服の襟に付いたピンズを外す。
「これを外した以上、覚悟は良いですね? 無様な真似は許されないのですよ?」
「お姉様も、怪我などしないよう気をつけて……」
そう言うと華ちゃんはあやめさんの襟に手を伸ばす。あやめさんが自分で作ったのであろう赤い小さなピンズ。それが東屋のプラスチックのテーブルの上に2つ並ぶ。
封印であると同時に、お姉様に作って貰った大事なものだから。
なので壊してしまった華ちゃんは数日後、新しいものを貰うまで。
その事につ(漢字では「就」)いては落ち込んでいたし、大事なものだから私がやって壊れると困る。
と言われて制服をクリーニングに出す時は私が付け外ししてあげていた。
「大葉さん、預かって貰って良い? お姉様の分も」
「わかった」
なるほど、アレは自分で外せないんだ。
もしかすると触ることも出来ないのかも知れない。
だから緊急事態と判断した華ちゃんは、あの公園でピンズを粉々に吹き飛ばすより方法が無かったんだ。
そしてあの日、あやめさんが雷を落とした意味もわかった。
あのピンズを外すと言う事は命がけの証。
だからこそ、あなたは必ず帰ってくる。と言われながら誰かに外して貰う、と言う儀式が必要なんだ。
実際には不要の精神的な儀式かも知れないけれど、ならばこそ絶対必要な儀式。
「アイリスさんはいつ合流して頂けますの?」
「お前の目玉は今、アイリスが持ってる。どこに居るのか知らんが、今ここには来れない。動けるようになり次第介入するそうだ。つまりタイミングはアイリス次第だ」
「分断結界で完全に校舎裏を切り離すなら、大葉さんは中には入れません。ならば、アンクラスドで構わないので、出来る限り執行課と監理課の人員を集めて頂くようお願いいたします。幸い今日は外部の業者さんが入りますからカモフラージュは容易なはずですわ」
「わかった。作業服を着てくるように言っておく」
「レコーダーは私がコエンフォーサー兼任、チーフエンフォーサーはお姉様。アイリスが間に合えば、その時はエンフォーサーはアイリスさん、コエンフォーサーをお姉様に。仁史君と桜が居るので、私はいずれの場合でも基本は結界をメインに考え、二人の護衛を第一義におきます」
「良いだろう。監理課は執行統括のプランを了解する。執行部長、作戦の最終承認、よろしいか?」
「それしか、無いようですわね。……承認致します」
「正面に立つのは私とお姉様。二人は私達の後ろから絶対に出ないでね?」
「わかった。すまないなサフラン。……桜?」
「うん、華ちゃんの邪魔には成らない」
秘密兵器扱いのアイリスさんまでも投入しようと言う任務。
これはもう命に係わる様な事が起こってもおかしくない。
そして会長はそこに私と仁史に行けと言った。その意味は、なんだろう。
「あと三〇分だけアイリスを待つ。それでダメなら。……行こう」
『校内の生徒諸君に連絡します、本日は業者が予定通りに工事に入ります。一四時が完全下校時刻となっています。校舎内、グラウンドに残っている生徒は直ちに下校の準備をしてください。二時の時点で必ず校門の外に出ている様に。――続けて関係する先生方と職員の皆さんに連絡します。サブグラウンド用具庫前に一四時一〇分まで……』




