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真説・公園の魔法使い  作者: 弐逸 玖
うつくしヶ丘高校 本校舎三階の図書室
47/66

ハードボイルドなトランプ

「トランプ? 一緒にやりたかった。……でも、私はページワンとババ拭きしか。知らない、……けど」



 今までの華ちゃんが、そう言うみんながワイワイやってる場に、自分で入っていく。と言うのもなかなか考えづらい。

 でも、今のモデルチェンジした“ニュー華ちゃん”ならあり、かな。


 トランプだって、普通は一人じゃ占いくらいしかできない。

 自慢じゃないが。私はソリティアをリアルのトランプでやったこと、無いもの。



「どうせ時間は余ってるんだし、午後から四人で大富豪やろうぜ? 教えるから」

「本当に? でも私は頭が悪いから。ルールが覚えられないかも知れない……」

「俺ができるんだから大丈夫。――簡単だから」

「ありがとう仁史君。桜も、それで良い?」

「……あ、うん。もう全然」


 結局七並べは、華ちゃんが部屋に来るまであやめさん全戦全勝。

 初めにあんなフリをされたらもうトランプの結果については喋れない。

 だって強い=性格悪い。じゃないか。


 当のあやめさんはニコニコしてるけどね。むしろそこを突っ込まれたいんだろうけど、自分で自分の墓穴を掘る、っていうのも趣味じゃ無いしね!

 だから七並べの話はとっとと切り上げてくれないかな、マジで!



「誰か将棋はできないのか? その辺に将棋盤もあったろ?」

 お昼なので大葉さんも戻ってきている。

 ここはそもそも用務員さんの部屋だし、当然と言えば当然。


「俺は一応中学は将棋部だったんで。ただ桜は動かし方も知らないし」

「チェスなら得意なのですが、将棋はわたくし、駒の動かし方くらいしか。――遊びにいらしているんですの? 毎日」


「非道い言いぐさだな。昼休みとかやってんだけどさ、結構強いんだぜ、俺。――南光君。今度是非、一局」

「お手柔らかに」



 場所が変わっただけで昨日と何変わらないお昼。

 なんとなくみんなご飯を食べ終わる。

 シンクがあるから、その場でお弁当箱をすすげるのは非常に良い。

 いつの間にか華ちゃんがみんなにお茶のおかわりを注いで回ってる。


「クロッカス。お前、なんか最近、気が利くようになったな?」

「今までの私はものを知らなさすぎました。そこは素直に恥じて反省してます。でも今は桜と仁史君が、人として生きていく上で必要なことを。それこそ毎日教えてくれる。それだけのことです。当然今でも知識が足りているとは、自分でも全く思ってませんが」


「良い傾向だと思うぜ? ……お前は機械じゃ無ぇんだからさ、怒ったり泣いたりしてイイんだよ」 

「私は、簡単に怒ったり泣いたりはしませんっ!」

 もう怒ってるじゃん、それに一昨日は泣いてたでしょうに……。


 生きた人間。女の子、華・サフランは。

 だから今まで十五年間やってこなかった分、毎日怒ったり、困ったり、泣いたりで忙しい。

 もっと笑ってくれたら、もっと嬉しいんだけど。


「午前中、“現地”に行かれたようですが、何か変わったことはありまして?」

「見てたんだものな……。」

 そう言うと渋々。と言う感じで大葉さんは、胸ポケットから黒い手帳を取り出す。


「お前の見つけた魔術痕はダミーで確定。本物の吸収口はその左、五m。術式も近代陰陽系とゴシック系のミックスで、しかも封印の一部にデジタル暗号を使ってるんで、むしろ俺らに解くのは難しい。強制解放はできねぇし、魔法的に破壊するのも不可能」


 そこまで一気に喋って、黒い手帳をパタンと閉じる。


「現状でどうしても強制的に解放する、ってんなら物理的に直接破壊するしかねぇ。……手段としては爆破だぜ? 都内の学校でできるかそんなこと!」 


 地方だからやって良い、とはならない気がするなぁ。爆破それ


「相手はかなりタチの悪いセミプロで確定だ。相当な注意が必要だぞ。お前の“目玉”だってステルス性が低いからいったん回収した方が良い」



 セミプロ。

 特に何処かの組織に属するわけでも無く、誰か師匠がいるわけでも無く。

 自力で独学で自分自身で魔法を使える様になった人達と言うのは結構居る。

 その中でもなにがしかの目的と高い技能、その二つを持つ人達を振興会ではそう呼ぶ。


 野良の場合は捕まえて力を封印した上で催眠術で魔法に関する記憶を消して放り出すのだけれど、力と、特にやる気があるならば師匠についてもう一度学び治す事だってある。


 先日の学生風(実は高校生だったらしい)も今は改心して執行部の中でも特に厳しい人を師匠として現在修行中と聞いた。


 一方のセミプロについては興味本位で魔法を使う、と言う事がほとんど無い。

 やりたいことは自己顕示とかちょっとしたズルとかそういう事で無く、誰かを呪ったり何かを壊したり。

 そう言うあまりよろしくない事の為に自分の魔法を磨く。


 当然、振興会の執行部とぶつかった場合はただで済む訳は無く、だから捕り物の時は結界師が幾重にも厳重に結界を張り、魔法使いが一撃必殺を期して挑む。

 そして当然、あまり考えたくは無いが一撃必殺。

 その言葉の後半は。しばしばそのままの意味で行使されるらしい。


 一応その手の任務は、未成年である華ちゃんやあやめさんは外されるんだけど、だから大葉さんが気にするのはその部分。

 もしも相手にマークされてしまったら、と言う事だ。



「アイリスに連絡はしてあるがうごけねぇっつーし、今はカキツバタも戻れねぇ。東北からはアジサイかハギ、あとは甲信のクルミかエリカを借りられねぇか交渉中だ」

「それはつまるところ」

「絶対動くな。そして目玉は一度回収しろ」


「わたくしは執行部長です、大葉さん、こう言ってはなんですがあなたの上司……」


「聞こえなかったのか“部長”様? もう一度だけ言うから聞き分けてくれ。遠隔ルッキング結界監視・ファラウェイを今すぐいったん解放バリアアウトしろ! どう言ったら通じんだ、あぁ? 関西弁か? それとも英語か? ドイツ語か、フランス語なのかっ!?」


 ――ふぅ。怒鳴るのかと思ったが、大葉さんはむしろ椅子に深く沈む。

「気持ちはわからんでもねぇんだよ。だいたい、お前が意固地になって、そんで今すぐ解決するってんなら俺にも文句はねぇよ。でもよ、それで。……この件が、解決すんのか?」


「…………。バリア、アウト」

「はなからそうしてくれ」



 高位の魔法使いには高位の役職が付く。あやめさんは今自分で言ったように執行部部長。華ちゃんだって実は執行部各課長の上に立つ執行部統括。


 けれどその序列は現場の判断で簡単に覆る。

 魔法使いでもあり、結界師としても大葉さんよりも上に立つあやめさんだが、経験値は当然圧倒的に大葉さんが上。

 年齢と経験、そこは敵うわけが無い。


 アイリスさんが最初に言っていた。振興会はその辺が良くも悪くもアバウトなんだと。

 そして今は華ちゃんのバディである大葉さんだが、彼女が部長として独り立ちするまでは、あやめさんとコンビを組んでいたと聞いた。

 何を考えているかなどお見通し、と言う事だ。



「それに目玉を使うなと言ってるわけじゃねぇ、むしろ昨日の図書館に置いて欲しいんだ」

「そういう事ならいますぐ……」

「ストップ」

 大葉さんは。腰を浮かし書けたあやめさんに、わざとらしく開いた右手を突き出す。


「……アヤメちゃんなら直接行く必要ねぇよな? 二,三日以内に行った場所なら空間追跡スペーストレースを使えば、ここからでも目玉を“投げる”位は楽勝のはずだ」


 流石元相棒、完全にあやめさんの能力を把握している。

 あやめさんはため息を吐くと、再度椅子に座り目を閉じて深く息を吸い込む。

「……見えました、座標仮固定…………展開、監視方向固定。――これでいいでしょう」


「俺にも画面をくれ。――もうちょい右、向けないか? うん、そこで良い。俺の画面は消しておいて良い。疲れるだろ?」


 ――なんかあったら電話くれ、なんせ今日は俺一人なんでな、こっちの仕事が多い。そう言って自分の作業服の襟を引っ張ってみせると大葉さんはそのまま部屋を出て行った。



 大葉さんは、自分には画面を送らなくて良い。と言いきって出て行った。

 なんだかんだ言いながらあやめさんが自分を裏切って暴走する、とは微塵も疑ってない。

 この二人の関係性を私の語彙では、カッコイイ。としか表現出来ないのが悔しい。



「あぁ言われてしまってはここから動けないですし、華さんもお勉強が終わったところで。トランプでも致しましょうか」

 そして当人もまた、彼の言を無視して行動したりしようとはしない。

 まさに本物の相棒だ。


 自分の語彙のなさが本当に無念、やっぱりカッコイイ。しか浮かばない。

 仁史だったら本の虫だし、もっと何か良い言葉を知ってるだろうか。




「良いかサフラン。強い順に並べるとこうなる。一番弱いのが3なんだ」

「2では無いのね。……ジョーカーはどうなるの?」


「華さんは仁史君にいったんお預けしてしまいましょう。……わたくしは大富豪はあまり得意では無いのですけれど、桜さんは如何ですか?」

「バンバン革命起こしていきますよ。そう言うスタイルです!」


「空気を読まずに自分が不利でも革命を起こすタイプなのですね? それはゲームの組み立てが厄介そうです。思わぬ伏兵と言うヤツですわね」




 そう革命を、起こさなきゃ。

 今の私は完全に、3と4しか持ってない大貧民。

 ……だけど私だって、なんかの役には立つはずだ。

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