おかしい!
「今日は少し寒くねえ? ……お前、大丈夫? コート着てたらおかしいだろうけどさ」
「寒くは無いけど、季節にはちょい早い感じかな。……お店も閉めちゃったね」
噴水の前、ベンチに座ってジェラートを舐めるのは私達二人のみ。
まだ日があるのに公園内には他には誰も居ない。
広い公園に仁史と二人きり、なんか違和感。
時間はまだ日暮れ少し前であるにもかかわらず。
ジェラート屋さんは私達が品物を貰った直後にテントをたたみ始め、既に屋台から派手なクルマへと変貌を遂げていた。
エンジンがかかる。
フランスの車でもエンジンの音は普通にエンジンだった。
「あ、ゴミ良いよ。袋あるから。……ほれ、頂戴?」
鞄からコンビニ袋を取り出して広げると、仁史は笑い出す。
「ひひひ……、なんか、そういうのさ。その辺のおばちゃんみたいだよな、お前」
「そこはさぁ。良い奥さんになりそう、とか言うところじゃないの?」
「おばちゃんは大抵奥さんだから、そう言う意味では大きく間違ってないだろ」
そう言いながらゴミは捨てるのな。
その辺に捨てられるよりは良いけれど。
「あとはみんなにアメ配ったりするんだろ?」
「女の子のポッケに甘いものは必需品なの!」
「持ってんのかよ! ははは……、いいじゃねぇかおばちゃんで、いずれなるんだし」
「良いわけあるか!」
絶対に私を持ち上げない、という誓いでも立ててんのかコイツは。
「……で、なんのアメだ?」
「オレンジののど飴、こないだ新発売になったヤツ」
「おぉ、一個くれ」
……しかも結局、食べるんじゃ無いか!
「あのねぇ、だいたいゴミ袋もアメ玉も……。ん? なんだろ、コレ」
雰囲気、たたずまい、趣き。
……公園の中全体が急激におかしくなった感じだが、分けてもある一部だけが圧倒的に。
おかしい。
他の表現が思いつかない、おかしい。
「……どうした、大丈夫か?」
「ねぇ、仁史。なんかあの辺、おかしくない?」
指をさしては見たものの、私が見たって何一つおかしくはない。
なのに歪んで歪んでいびつで異質。
コレは、なんだろう。
公園を見渡す。周りには二人だけ、既にジェラート屋さんのクルマも無い。
おかしいと言えばそれもおかしい。
時間はまだ六時前。
散歩するおじいさんや子供達はおろか、うつくしヶ丘の制服さえゼロ?
ゴミを入れた袋をカバンにしまって立ち上がる。
どうしても確かめずにいられない。
その何も無い場所を。
これは何かの病気か? 自分一人ならその辺の判断は出来ないが仁史が居る。
私がおかしくなったのならきっと気づいてくれるはず。
そうなら帰るのはアパートではなく、自宅ということになる。
一緒に来たのが送ってくれる仁文だったのは、これは必然だったのか。
そう思うくらいの圧倒的なおかしさ。ホントに、なんだこれ?
「なんにもおかしいとこなんか……。おい! 足下怪しいぞ」
――ばっ、左腕を捕まれ、引っ張られる。
転ぶところだったらしい。
「無理に歩くなっての! 何処行くんだよっ!」
「確かめる。悪い、一緒に来て」
「なんだっつーんだよ! お前はホントに、……聞いてんのか! ちょっと待てって!」
彼の声にかぶって唐突に遠くの方から声が聞こえる。
《クロッカス、結界は本当に大丈夫なんだろうな》
《現状に何か問題がありますか?》
《あるから言ってんだ、学生が2名。退去しないで本結界に近づいてる。バレてんじゃないか?》
《大葉さんの人払いが効いていないのでは? ここは素通り出来てしまうんです。気が付いても触れない。カッチングワンドで割ろうとしても接触した瞬間、存在ごと消滅。気にしないで良いです》
《結界を検知できる体質なのかもな。早く終わらせちまった方が良い、急げ》
《事前情報が間違っていなかったらとっくに終わってます! ――ちっ、野良の癖に!!》
男女二人分の幻聴、しかもこんなにハッキリ。
……本格的に終わったかなぁ、私。
学校は長期でお休みするようになるんだろうか。
だったらいっそ、辞めてしまった方が良いのかも。
委員長と。もう少し、おしゃべりしたかったなぁ。
でも、だったら尚のこと確かめなくちゃ!
まだおかしい所までたどり着いていない。もう少しだけ。
「おい、マジでどうしたんだよ! 本格的におかしいぞ、お前。――ほら、肩貸すから掴まれ。――はぁ? それこそ人の目なんてどうでも良い!」
――救急車、居るか? そう言いながら仁史は、私の左手を自分の肩に回す。
「なら先ずはアパートに帰るぞ! そのあと、おばさん、は今日は遅番か。――なら、うちのオヤジが家に居るはずだ。車で迎えに来てもらおう」
「……大丈夫、自分で歩ける。せめてあそこまで」
再び指をさす。やっぱり何も無い。
「意味がわからねぇんだけどさ。とにかく、そこ迄行ったら諦めんのな?」
とりあえず頷く。
「まったく、誰に似たんだよ。おじさんもおばさんもそうじゃねぇだろ! 融通が利かねぇんだから、この莫迦は! ……だったらもう少しシャンとしろ、ほれ」
そう言うと仁史は、こちらの都合は無視して私の左腕を引っ張り上げる。
気が付かないうちに、だいぶ前屈みになっていたようだ。
そして仁史の肩を借りつつ七歩目を踏み出したとき。
言いようも無い気持ち悪さが全身を包んだ。
「……ぶっ、――ぐ、おえっ……ぷ!」
「おい、桜! 大丈夫か!? しっかりしろ……!!」
私は吐き気に襲われ、
「おぇ、……げぇっ。がはっ、はぁ、うっ、ぶぅげぇぅ……」
と言うか、吐きながら地面に膝をつく。




