ドラマチックな駅前ロータリー
「なるほど。それなら場所にはあまり意味が無いのか知れませんわね」
「必ずしもそうだと言うことでは無いですけど、可能性はあるんじゃ無いかなって」
いつもより30分遅く起きて、朝ご飯、お弁当、身支度。
結局9時前には待ち合わせの駅に着いた。
仁史を連れて駅から出てきたあやめさんの顔を見るなり、走り出す華ちゃん。
「お姉様、本当にごめんなさい。今後このようなことは無い様に致しますので今日より3日間、補習の間、どうか桜を守ってあげて下さい。お願いします!」
「反省していればそれで良いのです。引きずることはありません、この状況下においては今後どうするかのほうが重要、そこまで考えていたようで安心しました」
そう言って、あやめさんは華ちゃんの肩に手をかける。
少女漫画なら背景はお花で埋め尽くされてるな、これ。
でもここ、うつくしヶ丘駅前のロータリーなんだけど。
「桜さんのことはわたくしに任せて、今日より3日はお勉強に集中なさい。補習は午前中なのでしょう? 図書室に居ますから補習が終わったら合流してそのあとで一緒にお昼にする事としましょう」
「……お姉様」
「わたくしとあなたもまたパートナー、わたくしは以前からそう思っていましてよ?」
ラッシュの時間帯を抜けたとは言え、まだまだ朝の駅前は千客万来。あまり力の入って居ない路線とはいえ、全線を通じて3番目の乗降客数を誇るうつくしヶ丘駅。
少女漫画風に先輩後輩の泣かせる場面が展開されているそこは、通勤の人達が行き交い、バスやタクシーが並ぶ、ごく普通の駅前ロータリーである。
と言う事だ。
護衛の名の下にあやめさんに連れてこられた仁史も、怪訝な顔をして通り過ぎる通行人と同じく、この流れにはほぼ関係が無い。
だからといって、私が関係があるかと問われれば、そこも凄く微妙な気がするし。
――あの、さ。完全に流れに置いていかれた私と仁史。その仁史が口を開く。
「桜。これは、……なにか感動しなきゃいけない感じの場面なのか、それとも呆れて良いところなのか。どっちなんだ?」
「……はぁ。ね? アンタどっちだと思う?」
「俺が聞いてんだよ……」
「いずれ調査は継続するものとして。結界の痕跡を探すより、場所の特性の方に主眼を置いた方が良さそうではありますね」
草刈り鎌とビニール袋を持った大葉さんが窓の下に見える。
「何も無いとは言い切れないですけど、それこそ思いつきだし」
「あとで大葉さんにも伝えておきましょう。お休みとは言え、一応敷地内での通話は禁止が校則ですものね。校舎の中では流石にわたくしでも気がひけてしまいます」
そう言ってスマホを右手につまんで笑う。
何度見てもお嬢様だ、アニメや漫画でしか見たことの無かったお嬢様が目の前に……。
「お昼には合流するんですもんね」
仁史はどうやら開き直って本気で本を読むことにしたらしい。
ハードカバーの本を上下巻2冊持ってきてそのまま微動だにしない。
そう言えば本が好きだったはずなのに。最近は、本を読んでるのをあまり見かけなかったな。
振興会の関連で忙しいから、だと良いんだけど。
上手く言えないけど、中学まであんなに、夜も寝ないで読んでたんだし。
本を嫌いに、とかは成らないで欲しいな。
別に本屋さんの回し者では無いけどさ。好きなものはずっと好きで居て欲しいな、って思う。
一方のあやめさんは小説を手にしながら窓の外を気にする仕草。
とは言え立ち上がらなければ窓の下は見えないので、これは気配を探っている。
と言う事なのかも知れない。
いくらあやめさんとは言え、あまり品行方正で無い生徒がたむろしている。と、初めからわかっている場所に近づくわけにはいかなかっただろうし。
実際には
『そんな方々の5人や6人でしたらどうとでも成りますわ』
なのかも知れないけれど。
そうだとしても潜入調査中の身の上である以上、お嬢様が不良をのした。
みたいな悪目立ちをするわけにはいかないだろう。
それに華ちゃん曰く。――お姉様は人払いに関しては、凄く広範囲でかつ大雑把な結界しか張れないの。とのことだったから、実際に場所を見るのは初めてなのかも知れないな。




