暇人の選別
「ねぇ、委員長?」
「ん、神代さんか。……なんだい?」
トントン。委員長はプリントの束をまとめながら振り返る。
サラサラな前髪、つるんとした卵型の輪郭。眼鏡が似合って、当然頭も良い。
まさにベタな委員長像、ステレオタイプって言うんだっけ。
私、神代桜が話しかけた彼は、まさにそう言う人である。
そして同じクラスである私は、休み時間に無造作に彼に話しかけても良い。
そう言う権利を有する。
我が実法学院うつくしヶ丘校は、超一流とまでは言わないが、有数の進学校ではある。
……受験勉強、がんばって良かったなぁ。
「今日も忙しそうだねぇ。……放課後もなんかあるの?」
「ん? あぁ。――今日の放課後は、生徒会のクラス委員総会だけれど。何か用事だった?」
「いや、あの。うん、忙しそうだし、良かったら手伝おうかなぁ、なんて」
「ありがとう、今日は気持ちだけもらっておくよ。今も言う程忙しくは無いんだ」
――今日の総会は全校だから、これが結構時間、かかるんだけどね。そう言って目を合わせると、彼は笑う。
まぁ実は。委員長の放課後の予定は知ってはいたんだけど。
私としては、話す口実さえあれば良かったんだけどね。
なんて言いながらそれでも、言われれば当然手伝うつもりは全然あったし。
うん、あったよ。真面目に。
それに放課後に付き合って欲しかった本当の用事も、それはそれであったのだけど。
でも、こんなわかりやすい“抜け駆け”なんかしたら。
クラスの女子全員を敵に回す事になるだろうな。
もっとも、委員長と“仲良し”になれると言うなら。
女子一八名全員が敵に回ったって、何処にも問題はない。受けて立ってやる!
……なーんて、ね。ないない。ないから、両方。
ま、それはともかく。今日の放課後である。
付き合って欲しい用事は厳然として目の前に有り。
うーん。誰か、暇な人をピックアップしないといけないな……。
間違い無く暇なヤツなら一人、いるんだけど。
「なぁ桜、俺だって暇じゃ無いんだが」
「部活もバイトもしてないじゃん、どうせ帰っても動画見て、ゲームするだけでしょ?」
「個人の時間を勝手に削るんじゃねぇ、それだって大事な用事なんだよ」
と言うわけで。
同じクラスで一番暇そうな南高仁史を引っ張って、新興住宅地うつくしヶ丘中心部にある公園へと向かっている。
「だいたい、アイス食うだけでなんでわざわざ公園に行くんだよ。電車の時間が……」
「なんかすごく安っぽく聞こえるからジェラートって言って! ――もう五時十三分の快速無理でしょ? 四十六分のあとは六時過ぎだもん、良いじゃん」
「良くない! 付いたあと、駅からウチまで何分かかると思ってる!」
「自転車で一七分。――駅からバスで行ったら? 一三〇円だし」
「明日の朝どうすんだよ!」
朝のバスは繋がりが悪くて、六時二三分に乗り損ねると次は七時八分。これは猛烈に混むのだ。
「あのさ、公園のね、ジェラートの屋台がおいしいって。みんながさ……」
「だぁかぁらぁ! そういうのは女同士で行けば良いだろ。なんで俺だよ!?」
「周りに帰宅部が仁史しか居ないから。それにもう夕方でしょ? 女の子の一人歩きは危険だしぃ……」
とは言え。何故男子である仁史を、彼氏でも無い彼を。
少なくとも先日から間違い無く女子高生となった私が、帯同しているのか。
「アパートは学校徒歩五分、隣はスーパーだろうが! 寄り道をするな、買い食いをするな、食い物は家で喰え! それで問題はほぼ全て解決だっ!」
彼とは従兄弟同士で有り、本来は家もご近所、同じ町内会で徒歩数分。
ほぼ兄弟、と言う間柄である。
但し高校に入ってから環境は変わった。
彼は自宅から約一時間半をかけて電車通学、私は学校の近所にあるアパートを借りて貰った。
彼が帰りの足を心配しているのはそう言う理由だ。
アニメじゃあるまいし、私んちに泊まるわけにも行かないしね。
だいたい、そう言う意味なら電車の最終は二三時五八分。乗り継ぎ先なんか一時二三分。足が無くなる心配は無い。
駅が学校にほど近いところにある、と言うのもご機嫌斜めの理由だろうな。
公園に来るために駅を通り越してしまってる。
まぁ。仁史は甘いものは好きなんだし、ちょっと興味を引く材料もあるし。
現地に着いちゃえば、多分ご機嫌も治るでしょ。




