廃村
こういうとき、リューくんならこのあたりに漂う幽霊から色々と聞き出せるんだろうな……と辺りを見回しながら考える。彼は自分の力を地味だと嘆くが、いつも私達の窮状を打開してきたのはその地味な力に違いなかった。
「ねぇ、サニアちゃん。これ……」
カーミラさんが呼ぶ先には堆く積み上げられた人骨の山があった、多分この村の住民達だろう。こういうときこそリューくんの出番なのだが彼には秘密のまま探険にきている。
「キルケーちゃん何かわからない?」
「僕にはさっぱりなの、そういう神格を持った神族か生と死の神様じゃないと無理なの」
キルケーちゃんがそう言うと『もう出来ない』と頭を振るカーミラさん。
いつものように幽霊さんに助けてもらうのは無理みたいだった。こうなれば隠し部屋や地下室がないか徹底的に探すしかない。
辺りを徹底的に調べ尽くしたが何の手掛かりもなく途方に暮れていると、あの二人はまだ人骨山の傍でぼーっとしていた。こんなところに来ても穀潰しなのかと呆れてしまう。
それにしても不自然な気がする。なぜこうまで積み上げる必要があったのだろう。今でこそ骨になっているが積み上げた当初はただの亡骸だったはずだ。かなりの重労働だったろうから、おもしろ半分でこんなことをするとは考え憎い。
周りから見る分にはそれらしいものは見えないが……もしかすると、この中に何かがあるのかもしれない。
「キルケーちゃん、この骨の山退かせられる?」
無言で俯き、短い呪文を唱えるとあっと言う間に骨の山が消え去った。下の方になっていた遺骸は白骨化していなかったのか凄まじい腐臭がし、取り残された蛆などの虫が地べたを這いずっている。
吐き気を抑えながら辺りを見回すと、やはりあった。亡骸が積まれていたところの一部が家の基礎部分になっている。壁も全て打ち壊してから、その上に積んでいったのだろう。床には地下室への入口と思われる小さな扉がついていた。
「ほらね?やっぱりあったの」
「最初から怪しかったもんね~」
「……あの、そういうのは早く言って欲しいかな……」
「え?私言ったよ?これって」
「いやいや……骨の山を指差してこれって言われたら、骨の山だけ見ちゃうから……インパクト強いし」
床と一体になるように取っ手が付いているので起こして思い切り引っ張り上げる。色々な粘液がついているせいか酷く滑るし嫌な臭いが手にこびり付いてしまった……
梯子を伝って地下へと降りていく。元々は食糧貯蔵のための地下室だったのだろう、穀類の詰まった袋が少しだけ残っている。
思いの外広い地下道をどれほど歩き続けたろうか、やっと行き止まりになった。目の前には木組みの簡素な扉がある。その先は部屋になっているのだろう。
扉を開くとそこには大量の麻袋が部屋中に敷き詰められていた。これで中身が麦だったらお笑い草だろう。手前の一つをとって中をあらためる。銀貨がぎっちり詰まっている。
見回すと仕切りのような衝立があったので、こちらが銀貨、あちらが金貨だろうか。確認してみたところ私の考えは正しかった。
目的の財宝は確かにあった、小躍りしたい気分だけど今はやめておこう。本当に金銭に興味がないのかカーミラさんもキルケーちゃんも完全に白けきっているなかで一人はしゃぐものも恥ずかしい。
とりあえずどう運び出したものか考えていると、扉のほうから足音のようなものが聞こえた。私達はとっさに身を隠すと、音の主は何の躊躇いもなくそのまま部屋に入ってくる。
「居るんだろ?隠れても無駄だぜ、入っていくところはしっかり見たからな。さっさと出てきな」