悪魔に魂を売ることにしました
カーミラさんとキルケーちゃん二人に、酒場前での顛末を話した私は財宝の山分けを取引材料に、現地までの転移と危険があった場合は魔法で守ってくれるようお願いすることにした。
「お金かぁ、私はあまり興味ないかな。無くても困らないし」
「いや、それはリューくん達が代わりに働いてるからで……」
「僕もあまりお金とか興味ないの、それよりもサニアちゃん自身が僕に何かしてくれたら嬉しいの」
「うーん……私自身かぁ……キルケーちゃんは何して欲しい?」
「僕は……家族がいないから家族が欲しいの、もう独りでいても楽しくなくなっちゃった。だから僕も家族が欲しいの」
以前リューくんを誘拐したことがあったっけ、そのときもキルケーちゃんは寂しかったのだろうか。
「じゃあ私がキルケーちゃんのお姉さんになってあげる、それでいいかな?」
「僕のほうが……えーと……ちょっとだけ年上なの」
「まあ神の尺度でいえばちょっとだよね?私は転生したてだからまだゼロ歳だけど」
「でもキルケーちゃん、ちっちゃくて可愛いから妹のほうが似合ってるよ。それに妹だと甘えても怒られないし」
私の前世の経験上でいえば年上というのは総じて損な役回りが多いように思う。年下の世話をみなければいけない、怒られるときは上が代表して叱られる等々、私とのことで割を食うお兄ちゃんの姿を散々見てきたのだから間違いない。
「うーんじゃあ僕、妹でいいの。サニアちゃん約束ね?絶対よ?」
「うん、約束」
「魂に誓える?」
「誓うよ、キルケーちゃんは私の妹」
キルケーちゃんが指先で宙に何かを描いている、指の動きが止まると両手をパンッと打ち鳴らした。先程宙に描いていたものが形を成し像を結ぶ……魔法陣のようなものに見えるが何だかはわからない。ぼーっと見つめていると心臓の奥が重く揺れるような気がした。
「これにより魂の盟約は結ばれたの。僕とサニアちゃんはいつの時代どこの世界でも姉妹なの」
「えっ……それって……」
「生まれ変わっても僕達は姉妹なの、お願いを叶える代わりに姉妹の絆をサニアちゃんの魂と僕の魂にしっかり刻んだの」
私はほんの思い付きからいつの間にか悪魔に魂を売ってしまっていたらしい。
「お姉ちゃん好き」
そう言って抱き付いてくるキルケーちゃんが何だかいつも以上に可愛く思えたのは私も存外乗り気だからなのかもしれない。
「お、お姉ちゃん好き……ハァハァ」
「カーミラさんは駄目です、なんか怖いんで……」
とにかく移動手段と護衛は確保できた。あとは計画を立て実行するだけ……できるだけ近いうちに動いた方がいいだろう。この二三日中を目標に準備を進めなくては。
「とりあえず今日はこの辺で、話の続きは明日の夕方にでも」
話を切り上げて夕食の支度に向かうとママに呼び止められた。
「あら?キルケーちゃんは?」
「さっきまで話してたけど、まだカーミラさんと遊んでるんじゃないかな」
「だめよサニアちゃん、妹をカーミラさんに押し付けちゃ……」
「えっ!?」
「妹のお世話もお姉さんの大事な役割よ?ママがサニアちゃんに教えてあげたみたいに、サニアちゃんがキルケーちゃんにお料理教えてあげなきゃだめなの。だからお夕飯の支度は三人で一緒にね?」
「ええっ?!」
「あら……もしかして喧嘩でもしたの?お姉ちゃんなんだから妹を邪険にしてはいけませんよ?」
「ええ……」
妹のように扱う、というつもりの約束だったが悪魔の力で強制的に本物の妹になってしまったらしい。
とにかく明日から準備を始めなきゃ……私の思い付きのせいで家族構成まで歪んでしまったことに頭痛を覚えながら、もう後には引き返せなくなったこの計画を完遂すべく今後の予定を組み立てる作業を始めた。