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オレが片想いしているひとの弟は親友だが何の助けにもならない。

作者: anik

三人の会話。

「おい、フミ。その、コイツさえいなければ、って顔やめてくんない。さすがの俺も傷つく」


「んだよ。わかってるなら最初から割り込んでくんなよ。オレはアヤネちゃんと二人で来るつもりでだね」


「いやー。言わせてもらうけど、姉貴と二人きりで映画デートなんて無理無理。あの時、適当な理由で適当に断られる未来しか見えなかったぜ。俺も行くって言ったからこうして来られたんだって感謝されこそすれ、恨むのは筋違い」


「うっ。そんなはずが……」


「あるある。あの人、ああ見えて気乗りしないことにはとことん辛辣だから」


「それは、そう、かもしれないけど。とにかく、親友の恋路を応援するのが優しさじゃないのかよ」


「してんじゃん。今、この瞬間。麗らかな春休みに、ゆっくりと映画と買い物なんて完璧デート以外何でもないだろ」


「ああ……お前さえいなければな」



「はぁ、お待たせ。お手洗い混んでて遅くなっちゃった。二人ともごめんね」


「ううん、全然大丈夫!」


「俺らずっと歓談してたからな」


「ふふ。君たちはいつも本当に仲良いなあ。お姉ちゃん羨ましくなっちゃう」


「さ、アヤネちゃん、この店であと何を見たいって言ってたっけ。全部のフロアが文房具なんて初めて来たけど、すっごいね。欲しい物探すのは大変だけど」


「フミくん、わかってないなぁ。そこが楽しいところなのよ。次はね、ペンケース。来月からまた心機一転お勉強しなきゃだもんね」


「ペンとか書く物系の売り場は、一個下の階らしい。俺も新しいシャーペン欲しいな」


「よし、じゃあレッツ行こうー」



「これいいんじゃない。薄いイエローで春っぽい」


「ううん、ダメ。汚れやすいのは減点。大学四年間使える気がしないもん」


「じゃあ、こっちの花柄の……」


「サイズ感が受け入れられないので却下でーす」


「姉貴、これは? ブロックチェックでコンパクトな」


「あ、タカくんナイス。いいかも。グリーン系が可愛いけどブラウン系も捨てがたいなあ。んー、どの配色にするか悩む~」


「じゃあ俺達シャーペン見てるから、ゆっくり考えなよ。行こうぜフミ」


「え。ちょ、待てって」



「俺これにしようかな。フミもお揃いにしようぜ」


「何が悲しくてお前とシャーペンをお揃いにしなきゃならんのだ」


「親友の証? みたいな。いいじゃん。お、今ならすぐ名入れできるって。ヨシタカ&ヨシフミって入れてもらおうぜ」


「ねぇよ」


「じゃあ色違いにしてやろう。俺はコバルトブルーで、フミは……グラファイト格好いいな。よし、じゃあレジ行ってくる」


「マジかよ」


「タカくん、フミくん、買うもの決まった?」


「今ちょうどレジ行こうとしてたところ。姉貴はそれでオッケー?」


「うん、やっと決定。タカくんのも一緒にお会計してくるよ。入学祝いだよ」


「サンクス。持つべきものはお姉さまだな。これ、俺とフミで一本ずつなんだけど、名入れしたいからレジついていくわ。お揃いでヨシタカ&ヨシフミって入れるのよくない?」


「わー、素敵だねえ。書体と色も選べるみたいだよ。楽しいね」


「よくない! やめてくれ。って、聞けよぉ」



「ほい、フミの分」


「いらねぇ。一人で使え」


「姉貴からお前への入学祝いだぞ。一生に一度の高校入学祝いだというのに、本当にいいのか」


「うっ」


「……」


「……」


「……」


「ください。欲しいです。有難く使わせていただきます……」


「そうだろう。大事にするがいい」



 忌々しい気もするが、と思いながらヨシフミはヨシタカに渡された小さな箱の包みを解いた。

 簡易的ながらもゆったりとした箱の中には、一本のシャーペンが収められていた。

 鉱石のように深みのある艶やかな黒い軸には確かに刻印が入れられていた。銀色のクリップの脇にひっそりと模様のように筆記体で彫られていたのは、彼が恐れていた男二人分の名前ではなかった。


「ラウ、レル?」


 Laurel。


 黒いボディに黒い文字で刻まれた言葉は、月桂樹。

 その花言葉は、「栄光」「勝利」「裏切り」そして「私は死ぬまで変わりません」。


 ヨシタカが何を思ってその言葉を選んだのかをヨシフミが知るのはまだ先のことになる。

大きな文房具店は良いです。いつまででもいられます。


文具に限らず、世の中に名入れや刻印をしてくれるサービスは意外と色々あります。

愛着が湧くのでぜひお試しください。

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