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童貞概論  作者:
9/10

道程9 

 俺は目当ての魔法式を発動する。

 魔法使いの時には見当たらなかった術式だ。


『魔法式『踏空ブロウ・アウェイ』を発動します』


 今までのようにリビドーを要求されない。むしろ邪念が入ると不発に終わるようだ。


 術式発動の直後、ミナリは感嘆の声をあげた。


「ほんま飛んでるやん。なんでもありやな」


 ミナリの言葉通り、この術式は飛行の魔術式だ。未だ存在を確認されていない最古の魔術のひとつでもある。


 賢者へと生まれ変わった俺は、脳に流れ込んできた情報を全て得ることができるようになった。

 古代魔法の歴史と、それに伴う古代文明の盛衰。そして賢者へとなるための条件もそのひとつだ。


 賢者になるためには賢者タイムに至る必要がある。それは奇跡的な力を持つ魔法使いが、リビドーを全て捨ててしまった時に訪れる時間のことだ。


 一般的に男性は、出すものを出してしまうと、まるで聖職者のような気持ちに陥る。通常ではそれはいっときの現象だ。


 しかし三十年という莫大な時間を妄想だけに費やし、宇宙よりも高くなった理想が打ち砕かれた時、次のステップへと移行する賢者タイムが発生する。


「つまりそんな時になんかしたらええんか」


 ミナリが目を細めながら見上げる。


「えらいアバウトだが、そんな感じだ。リビドーの代わりにな、真のゴニョゴニョに目覚めたらいいんだ」

「あ? なんて?」

「ゴニョゴニョだ」

「何言ってんのか分からへんて」


 イライラしたのか、ミナリは手頃な石を見つけて投げつけてくる。


「だから! 真の愛に目覚めたらッ!」


 俺の言葉にミナリはニマリと笑う。


「はぁぁん!? 何やて。聞こえへんねん。もう一度言うてや」

「てめっ! 言っとくけどな、俺の愛はアレやアレ。全人類に降り注ぐ無償の愛的な?」

「聞こえへんなァァッ!」ミナリは耳に手を当てて怒鳴り返してくる。


 地上と空中で一悶着終えると俺はゆっくりと着地する。

 その俺の服の裾をミナリはちょこんと掴んだ。


「ほんで、何て?」


 まるで子猫のように瞳を潤ませながら上目遣いで俺を見上げる。


「……その手には乗らんぞ」

「ちっ」


 舌打ちしながらそっぽを向く。

 まるで声をかけてくれと言わんばかりに背中が語っているが、俺はそれどころではないのだ。


 確認したかった二つの術式は成功した。

 誰も殺さず、それでもワーズワースの本性の暴露と同時に、魔族の捕虜を解放しなければならない。それが俺がこれから歩む贖罪の第一歩だ。


「行くんか?」

「ああ」


 背中を向けたままミナリが問いかけてくる。


「ウチに出来ることはないん?」


 どことなく寂しそうに聞こえるのは、自意識過剰というものだろうか。それともそう期待しているからなのだろうか。

 しかし俺たち二人を探している追っ手の気配をビンビン感じる。魔力による索敵に反応があるのだ。きっとミナリも気づいているはずだろう。彼女ならそれを逆手にとって逃げることもできるかもしれない。


「ないな。足手まといだから逃げてくれ」


 素っ気なくいう俺へミナリが振り向く。

 泣くかと思っていたが、そうではなかった。


「半分本当で、半分嘘やな」


 困ったような、それでいて嬉しそうな笑顔だった。


 俺はひたいに手をやる。

 そうだった。こいつに嘘は通じない。


「心配してくれるんはわかってんで。でもな、世界最強の賢者様の側にいるのがな、いっちゃん安全やねん」


 ミナリは小さな手を差し出す。

 本当に小さくて、でも傷だらけの手。


 そんな手が俺を救ってくれたのだ。

 三十年待ち続けた救いの手が、まさかこんなにも小さいとは。


「どうなっても知らんからな」


 俺のやろうとしている道は険しい。

 それでも……と思う。


 俺は目の前に差し出された手を握った。





10話で完結したかったので、今回は短めでした


ちゃうよ?

手抜きとかちゃうよ。


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