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童貞概論  作者:
5/10

道程5 サブタイとかつけるの面倒クセェ

 捨てるど阿呆有れば、拾う黒髪聖女有り。


 そんな事を考える余裕もない。


 俺は目の前の惨劇にうろたえた。

 お前はこれ以上殺した。


 その言葉は俺に重くのしかかった。

 なんと愚かなことか。

 なんと醜いことか。

 なんと言う浅慮か。


 俺は深く考えていなかった。

 魔族は悪であり、人間の敵であり、諸悪の根源であった。辺境の村が開墾に苦労するのも、そこから難民となるのも。

 そしてスラム街で泥をすすりながら、ねっとりとした空気の中でただ生きるためだけに生きるのも。

 全てが魔王と魔族のせいであった。それが俺たちの世界であり、視界だった。身をやつしているのも全てが自分のせいではなく、魔族のせいだと思った。


 だから魔族を倒すという依頼自体に疑問なんてひとつも抱かなかった。


 目の前には血だまりで痙攣する人間が見える。

 あれが魔族だと? 人間と何ひとつ違わない。


「ワーズワース様やりすぎでございます」


 混乱する俺には目もくれず、セラは倒れている少年にそっと近づく。


 セラが手をかざすとポウっと青白い光がともる。

 初めて見る治癒魔法だ。


 みるみる傷は塞がり、息絶え絶えだった少年は安らかな寝息をたてる。


「もう少しで殺してしまうところでしたよ。もう少し加減ください」

「ああ、気をつけよう。ついね、興奮してしまったのさ」


 悪びれもせずワーズワースは肩をあげる。


「それに、エド様にも成功報酬を約束されたのでは?」

「成功? あれは成功とは言わない。まぁ100歩譲って半分成功かな?」

「そうですね。ひとまず魔族は降伏したのですから。だから半分はエド様にも成功報酬をお与えになるのが筋かと」


 セラの声は相変わらず慈愛に満ちている。

 惨劇に狼狽えていなかったのは、治癒できるという事実があるからだろうか。

 それでも俺の背中に冷たい汗が伝う。


 何かがおかしい。

 どいつもこいつも異常だ。まともじゃない。


「しかしね、私の楽しみを奪ったことは万死に値する」

「必ずしも殺してしまう必要はないかと。今後の魔族に対する抑止力のためにも」

「何か考えが?」


 肯定するようにセラは恭しく頭を下げる。


「少しエド様と二人でお話がしたく存じます。申し訳ありませんがワーズワース様は……」

「……まぁいい。後で報告してくれるね」

「御意に」


 俺を抜かして話が進む。

 しかしそんなことはもうどうでもよかった。


 魔族の少年が運び出され、ワーズワースも退出する。もはや俺には一瞥もくれなかった。



「さて、エド様」


 セラは俺の前にかがんで話しかける。


「なんだ? 聖女として俺を慰めてくれるのか? それとも約束を果たそうとでも?」


 半分報酬をくれてやると言ったな。それなら先っちょでも入れさせてくれるのか?


 自暴自棄に呟いたが声がかすれていた。まったく性欲もわかない。そりゃそうだ。

 これで、この状況でヤりたいもくそもない。


「何をバカなことを。聖女の私が、汚らわしいスラムのゴミとヤるとでも?」


 優しく微笑むセラの口から、聞いたこともない侮蔑の声がもれる。


「糞は糞なりに役にはたったから、少しは楽しませてあげる。殺しはしませんよ。死んだら魔族に対する抑止力もなくなりますし」

「……てめぇ。猫かぶってやがったのか?」


 俺の言葉に口元に手を当てクツクツと笑う。


「てめぇみてぇなゴミクズ童貞はしらねぇだろうけどな、女なんて千の仮面を被ってるんだよ! 私の胸を覗く度に、何度殺してやろうかと思ったことか」

「へっ! 減るもんじゃねぇだろうが」

「減るんだよ! 清廉な黒髪乙女を演じる根気がゴリゴリと!」


 はなから約束を守る気は微塵もなかったのだ。


「まったくどうしてくれるんだよ! ワーズワースが第一位王位継承になったら、婚約して左団扇で暮らすつもりだったのによ」

「いきなり呼び捨てかよ」

「ああっ!? 五月蝿えよ。あいつもあいつでチキンでな。指一本触れてこねぇ。私は国一の絶世の美女だぞ?」


 セラはおもむろに立ち上がり床を蹴りつける。

 その姿にもはや黒髪乙女の清楚さは微塵もない。

 俺はワーズワースにうまいこと使われ、セラはワーズワースを手のひらで転がそうとしていたということか。


 ふと思う。そして笑う。


「なんてこたぁねぇな。セラ、お前も利用されてるだけじゃねぇの?」


 セラが俺を見下ろす。冷たい目だ。


「もういい。糞童貞と話すことはもうない。でも半分だけ約束は守ってあげる。でもね、それって、あんたの存在価値がなくなるってことだけどね」


 セラが手を叩くとゾロゾロと部屋に女たちが入ってくる。

 その途端すえた臭いが部屋中に満ちた。


「国中から集めた醜女ですわ。貴方の童貞をもらってあげるそうだから、どうぞお楽しみください」


 セラはニッコリと微笑むと悠然と部屋を後にしようと背を向けた。


「ああ、そうそう」


 そして肩越しに俺に言う。


「童貞を卒業したら、魔法使いも卒業ですわね。晴れてただのスラムのゴミクズに逆戻り。せいぜい人生最初で最後のセックスをおたのしみ遊ばせ」


 俺はセラの声を聞くどころではなかった。


 背筋がゾッとするほどの醜女たちが俺を取り囲む。


 そうして


 俺の初めては


 失われた







でもよくみたら缶に梅干しのイラストがあった


俺ファック

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