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異形は恋をする。  作者: 桃文化
第3章 とある日々
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第24話 むすびファミリー②

「結さんのおうちはお店屋さんなんですか?」

「ん? なんで?」


 緑が広がる田舎の道を小さな女の子と2人。あたしはひたすらに歩いていた。バスすらも本数が少ないこの町の基本的な移動手段は歩きか自転車となる。

 旅行気分のこのスカーレットちゃんはもちろん、あたしもここに帰省しに来ているため、移動手段は歩きになってしまっていた。そこまで遠くないし、いいかとも思うけれど、日光がとても気になる。とても長い時間かけて手入れして頑張っている肌が…。焼けて…。


「いえ、わたくしが結さんのおうちのお客様であるということを不思議に思ってなかったですよね?」


 普通ならば、知らない人間が家に訪ねてくることはおかしいこと、というより怖いことだ。それを受け入れるということは知らない人間が家を訪ねるのが日常になっている人だけ。

 すなわち、お店等と考えたのだろう。


「いや、ええと…そういうのとは違うんだけど…」

「?」

「というかスカーレットちゃんも、うちがどういうところか知ってて来たんじゃないの?」

「いいえ、わたくしはスクランブルトマトを…」

「いや、ないから…」


 あたしに内緒で親がそういうお店を始めていない限りそれはない。

 というか本当に何なのスクランブルトマトって…。


「結さんの家ってここからどのぐらいかかるんですか?」

「うーん…歩いて30分ぐらいかな。ほんとは自転車か何かがあればいいんだけど…」

「へー…いいですわね。わたくしも結さんの漕ぐ自転車に乗ってみたかったです」

「なんでナチュラルに2人乗りなの」


 しかもあたしが漕ぐ係なんだ…。まあ、さすがに中学生に自転車を漕いでもらって後ろで優雅に座っているだけというわけにもいかないので自転車が1つしかないならあたしが漕ぐしかないんだろうけど…。

 そもそも2人乗りって交通マナー的にいいんだっけ。


「見た目の割にしっかりされているんですね」

「『見た目の割に』はいらない」

「でも、その見た目ってそういうことですよね。少なくとも髪を染めて、胸元を開けて、制服を着崩して、ピアスをつけて、化粧をして。それで真面目に見られようとする、というのはあまりにも、難しいと思いますけれど」

「…」


 たまに核心みたいなことを突いてくる。


「いえ、いえ、すみません。踏み込みすぎたみたいですね。お詫びにと言ってはなんですけれど、わたくしの弱点も晒しましょう」

「弱点?」

「ええ、ラスボスを倒すためには両脇の敵から倒さなきゃいけないとかある特殊なアイテムを使用して相手のガードを崩す必要があるですとかそういうあれです」


 やけに詳しかった。

 ゲーム好きなのかな。


「わたくし、自転車に乗れないのです」


 微妙な弱点だった。

 年相応というか、たまにいるよねそういう人、みたいな弱点だった。


「ふうん。補助輪がないと乗れないとか?」

「補助輪があっても乗れません」

「マジ!?」


 と驚いたものの、お嬢様っぽい雰囲気があるし。というか本当コッテコテのお嬢様感があるので、移動はリムジン。なんでわたくしが自分で漕いで移動しなければならないのですか、なんて素で言いそうではある。それか生まれて一度も自転車に乗ったことがないとか。ありえる。そっちの方がしっくりくる。

 人のできないことをバカにするというのも良くはないし、年下だし、むしろなんだか微笑ましい。


「わたくしの歩みを車輪、なんて物に任せることはできませんから。わたくしの歩みはわたくしの足で行うべきなのです。その方が、進んでいるという実感がある」

「…」


 かっこいい理由だった。

 自転車に乗れないことがかっこよく思えてくるような理由だった。


「逆に思うのです。自転車に乗っている皆様は、本当に前に進んでいるのか、と。その場で足を動かしているだけで、大地も踏みしめず、空を切る。それで進んでいる実感がよく得られますね。わたくしはわたくしが感じたもの、触れたものしか信じません」

「お、重い…」


 自転車に対する考えが重すぎる。

 というか、これ弱点の話だったのでは…?


「弱点も見ようによっては弱点ではないということです。両脇の敵を倒せばラスボスにダメージを与えられるというのは逆に言えば両脇の敵から倒さなければダメージを与えられないということ。アイテムを使用するとダメージを与えられるというのは逆に言えばアイテムを使わなければダメージを与えられない、アイテムを使用するために1ターン相手に使用させるということ。弱点ではなく、これもまた強点なのです」

「屁理屈すぎる…」

「あんなほそっこい車輪で体を支えるなんてできるわけないんです! 信用できません!」

「それが本心か」


 なんだかんだ言いつつ自転車に乗るのが怖いみたいである。

 そちらのほうが可愛げがある。


「わたくしを倒したくば自転車に乗らせることですね」

「そんな特異なラスボスはいない」

「わたくしにダメージを与えたければまずはその自転車に乗らせるがいい」

「そんな特異な状況にもならない」


 この子なりに気を遣ってくれたのかもしれない。

 弱点が自転車に乗れないというのは可愛らしいけれど、それでもスカーレットちゃんにとっては弱点を晒しているわけだしね。

 あたしも年上として、しっかりしなければ。


「その赤いドレスも汚れちゃうしね」

「これは外出用なので特に問題もないのですけれどね」

「外出用…というか本物のドレスなの?」 

「本物、というと?」

「ドレスっぽい服とかじゃなくて本物のドレスなの?」

「なるほど。世の中にはドレスような服、というのが存在するのですね」

「…」


 住む世界が違う。

 あたしもそれなりに身なりには気を遣う側の人間ではあるけれど、さすがにドレスを着たことはないのだった。着たことある人の方が少ないんじゃないだろうか。

 庶民であるあたしには羨ましいという気持ちより値段はいくらなんだろうとか汚れちゃわないのだろうか、ということばかり考えてしまう。


「結さんはドレスに興味があるのですか?」

「うん、まあ、値段とかどのぐらいなのかなーとは思うケド」

「着てみたいという気持ちはないのですか?」


 ポカンとしてしまう。


「ないない。ないよ。あたしそういうタイプじゃないし。似合わないよ」

「そうですか?似合いそうですけれど。赤いドレス」

「やっぱり赤が好きなんだね…」


 スカーレット、なんて偽名みたいな名前ではあるけれど。

 その名前のとおり、真紅が好きなんだろうな、なんて思う。そもそも、今着てるドレスが真っ赤だし。


「わたくしの家庭はこの名前故か、赤色に対してとても執着心のようなものがあるのです」

「赤色が好きとかじゃなくて?」

「好きです。とても。度が過ぎるぐらいに」

「まあ…」


 言わなかったけれど。直前にきちんと飲み込んだけれど。

 度が過ぎるぐらい好きじゃないとあんな真っ赤なドレスを着て外を歩けないだろうな…。


「結さんは意中の相手に見せたいとは思わないのですか?ドレス姿」

「意中の相手?」

「大海原さんだとかなんとか」

「あいつは意の中というより檻の中に入れてほしいぐらいだけど…」


 あれ、あいつのこと、スカーレットちゃんに話したっけ?

 まあ、あいつは全くもって恋愛対象ではない。

 ただ単純に、あいつの前だと素の自分でいられるというか、いや、そんな綺麗なものじゃないな。あいつになら何してもいい、と思ってるからだ。

 あたしはそれなりに、かなりあいつにひどい目に遭わされている、ように思える。思えるというか事実遭わされている。だからその分あたしはあいつに何をしてもいい、と考えることですごく気楽に過ごすことができるのだ。

 あとは、あとは…。


「一緒にご飯を食べたから…かな」

「ごはん?」


 少し前にいろちゃんとあたしのおまけとしてあいつも一緒にご飯をお店で食べたことがある。その時のことがあたしは忘れられないのだ。


「ご飯を食べることが、ですか。誰かとご飯を食べることが初めて、というわけでもないでしょうに。それこそ家族で食卓を囲むことだってあるでしょうに。そんなに大切なことなのでしょうか」

「初めて、だよ」


 あたしは笑いながら、そう言う。


「初めてなんだ、あたし。誰かとご飯、食べたことなかったからさ」


 スカーレットちゃんは大きく目を見開いた。

 初めて、驚いた顔を見た気がする。なんだか、驚かされてばかりだったからこれはこれで気持ちがいい。


「着いたみたいだね。ここがあたしの家」


 タイミングよく、あたしの実家についた。

 まず、目につくのは家のあちらこちらに貼られたお札だろう。1つ1つに意味があるみたいだけど、あたしにはよくわからないし、知りたくもない。

 庭には大きな銅像があった。銅像、というか彫刻だ。まるで教会飾られた聖母のような。しかし、その形は人間ではない。

 異形だった。

 『異形の教え』という宗教がある。人間離れしている異形は突然変異や病気の類ではなく、人間を導くための神の使いと考えるような宗教だ。さらにサラマンダーの異形等、現実にはいない生き物をモチーフにした名前を付けていることから、中には神を模した異形がいるのではないか、と考えるのもこの宗教の内容の1つである。

 どこから派生したのかもわからないようなそんな宗教。

 神の異形なんかいるはずがないのに。それでも一定数の人気はあるようだった。


「うちも昔はこんなんじゃなかったんだけど…たぶん」


 そんなありえないような宗教であっても、弱った人間の心には刺さってしまう。具体的には、家族仲があまりよくない、うちの家族なんかはまさにターゲットであったのだろう。

 わけのわからないものに対しても、救いの手を求めてしまう。

 こうして、いとも簡単にあたしの家族は、バラバラとなったのだった。


「ママ…というかお母さんがハマっちゃってね。物心ついたときからこんな感じだった。意味は分からないけれど、意味が分からないものほど、何かを委ねやすいものはない。わからないからこそ、不明だからこそ、可能性がある。異形はまさしくそれにぴったりだったんだ」


 それで、今ではうちもこんな状態で、母親は割とその宗教の偉い位置にいるみたいで、目の虚ろな人間が、よく参拝かのように、救いを求めてうちにやってくる。

 だから、あたしは最初スカーレットちゃんをその宗教関係のお客さんだと思っていたのだ。先ほどから黙って目を見開いている様子を見るとどうやら違うみたいだったけど。


「ね。こんなところにはスカーレットちゃんの求めているものなんてないでしょ?」

「いいえ」


 スカーレットちゃんはにこやかに笑う。


「期待以上です」















よろしくお願いします。

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