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異形は恋をする。  作者: 桃文化
第3章 とある日々
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第23話 むすびファミリー①

 ああきっと、これは罰なのだ。


 夏休み半ば。あたしは帰省していた。

 あたしの家は田舎にある。

 そもそもこの地方自体都会とは言えないようなところではあるのだが、駅前あたりには一応それなりのお店があるものなのだ。しかし、ここは何もなく、何もない、というよりそもそも駅員さんすら見当たらない無人駅なのであった。

 駅から外に出ると気持ちの良い風が吹いた。染めた髪の毛が揺れる。あたりに咲いている花や生えている草も同じように揺れていた。空を見上げると青空が広がっている。夏にふさわしい日だと思う。

 そんな日にあたしはひたすら憂鬱そうな顔をして外を歩いていた。

 気温が高いからじゃない。湿度が高いからでもない。あたしはただ、単純に帰省が、実家が嫌なのであった。はあ、と大きなため息をつく。


「そもそも…」


 そもそもだ。あたしには勇気がない。だから誰か誘って一緒に実家に帰ろう、田舎体験ツアーと称して…と考えていたのに。誰も誘うことができなかった。あたしには勇気がないのだ。それすらできないほどに。

 たぶん言ったら来てくれたのだろう。いろちゃんとか、絶対にそういう時は断らないだろう。それゆえに甘えてしまう。たぶん、いけない甘え方だ。だからいろちゃんも、いつも一緒にいる女子グループも誘わなかった。

 それに、うちの実家少し危ないかもしれないし…。

 かわいいいろちゃんを招くわけにはいかない。

 なのでというか、一回だけあいつを誘ったのだ。どうなってもいいやつ、で思いついた大海原を。本人は否定していた気がするけど、たぶん大海原という名前で合ってたはず。


『え? 僕?』


 すでに腹立つ顔だった。


『うーん…貴重な夏休みを…仙道と…悪くはない』


 なぜか上から目線である。まあ、一緒に行こうと頼んだ手前何も言えない。


『でも~~~~~~~どうしよっかな~~~~~~~う~~~~~~ん…なんというか頼み事ってちゃんとした頼み方ってのがあるよね~~~~~~~。別に? 僕は? いいんだけど? でもな~~~~やっぱ僕も人間だから頼み方で返事も変わってしまうところがあるかもしれないな~なんてね。いや、いいんだよ? 別に全然いいと思う。でもそれが人にものを頼む態度かな~って思うわけよ。それで? 仙道。僕にどうしてほしいって?』


 こんな腹立つやつがこの世にいるのかと思うほどに腹立たしかった。

 しかし事実だ。物事を頼むときに『一緒に田舎に行かない?』は少し適当すぎたのかもしれない。


『あたしと一緒に田舎に行ってくださいませんでしょうか。お願いします』

『あ、その日模試あるから無理だ』


 そのあとのことは大海原をぶん殴ったところまでしか覚えていない。

 あいつももっとあたしに優しくなってもいいと思うんだケド…なんでいつもいろちゃんばっか甘やかして…と思わなくもない。

 この間いろちゃんと3人でカフェに寄ったときもあいつはずっといろちゃんを見ていた。


『五陵花、こぼれてるこぼれてる。制服についちゃうだろ。待ってろ。あ、店員さん。布巾あります?あ、ありがとうございます。って口ー! 口のまわり! ほら拭いたげるから! もうー…もうちょっときれいに食べれない? 無理か…いや、五陵花の好きに食べてくれ。まわりのことは僕がやる』


 …お母さん?

 思っていた甘やかしとはちょっと違ったけれど、不思議とそこにあたしがいる空間が嫌いではなかった。微笑ましいものを見ているようで。

 だからまあ、あいつのことは許してあげよう。パンケーキを奢ってくれる約束も取り付けたし。また遊んでやろうじゃないか。

 そう思っても気の重さはなかなかなくならない。思わずため息をまた、ついてしまう。


「あらま。幸せが逃げましてことよ」

「…」


 気づくと隣に赤いドレスを着た女の子が立っていた。まわりの田舎の風景から浮いているその子はひどく現実感がなく、まるで夢のようで。

 白昼夢、とか?


「夢。わたくしの存在が夢のように美しいという意味ではそれもまた正解でしょうね」

「いや、不正解でしょ」


 むにむにと女の子のほっぺを広げる。触れる。現実だ。自分の頬をつねる。現実だ。いや、こんなべたな方法で確かめることになろうとは。


「ええ、現実です。わたくしはよくある二次元キャラが画面から出てこないかな、アイドルがテレビから出てこないかな。そんな夢を現実にした女の子の正解です」

「不正解じゃん…」


 なんだか不思議な子だった。

 見た目は中学生ぐらい?染めたわけじゃなさそうな金髪が太陽の光を反射してまぶしい。外国、ハーフの子なのだろうか。悔しいことに美しいのは本当で、お人形さんみたいで可愛らしい見た目をしている。

 あたしは自分の髪を見て、黒に戻そうかな、なんて考えてしまうほどに、自信がなくなっていた。世の中にこんなきれいな髪の毛があるんだ。


「ええと、迷子?」


 無駄に広い土地。変わらない風景。どこも同じように見える風景は、ここに住む人間ならば慣れているものの、そうではない人間はとても迷いやすいのかもしれない。見渡す限り山、畑、田んぼ…緑まみれだ。だからこそ都会から離れたい観光客もいるみたいだけれど。


「迷子? それはあなたのほうではなくて? 人生の迷子」

「そんな諭されるような人生は送っていないけど…」


 なんで出会ったばかりの女の子に人生についての話をされなければならないのか。


「あ、おひとつ聞きたいことが」

「ん?」

「スクランブルトマトが食べられる場所ってあります?」

「スクランブルトマト…?」


 聞いたことのない名前だった。料理名?スクランブルエッグなら知ってるけど…。何とも言えないあたしの症状を読み取ったのか、その子はさらに詳しい説明を始めた。


「トマトを潰すんです。そしてかき混ぜるんです。ぐちゅぐちゅと。それを炒めて食べる料理らしくて、このあたりが有名だと聞いたんですけれど」

「うん? 聞いたことないなあ」

「わたくし赤いものには目がなくて、赤色もとい真紅が大好きなのです」

「色目当てってのも珍しいね。というかそれ、自分で作れるんじゃないの? トマトを潰すだけでしょ? あたしでもできるよ」

「あなたはラーメンが作れるからと言ってラーメン屋に行かないのですか?」

「いえ…行きます…すみません…」


 圧がすごくて謝ってしまった。


「あなたは焼きそばを自分で作れるからと言ってお祭りで焼きそばを食べないのですか?」


 許してもらえなかった。


「いえ、ごめんなさい…食べます…。やっぱお祭りで食べると何倍もおいしく感じるよねーって言いながら食べます…」

「それと同じでわたくしも本場のスクランブルトマトが食べたいのです」


 本場…。

 そもそもこんなど田舎が本場の料理自体ないような気がする。もしくはあたしが離れていた間に町おこしとかで新しい料理を広めた、とか…?それがスクランブルトマトというのもなかなか悲しくはあるけれど、実際に食べなければ文句も言えないのである。

 そこまで言われると少しだけ気になってしまう。


「どうせ暇だし、あたしでよければ手伝うよ。その料理を出してくれるお店」

「本当ですか?」

「うん」


 暇なのは本当だ。というより実家にはいたくないから外出する口実ができればいいや、なんて考えているわけだけど、あたしの暇な時間で誰かを手伝えるのであればそれもまたよしだろう。


「助かります。歩いていたら道がわからなくなってしまって」

「それを迷子っていうんだよ。よく人生がどうとかって言えたね…」

「わたくしの迷子は、なんとかなるでしょうけれど、人生の迷子はどうにもなりませんから。誰かが手伝うこともできず、ひたすら迷い歩いて終わってしまうこともあるのです」

「終わりって…そんな大層なものじゃない気もするけど」

「終わりですよ。間違いなくね。人生の終わりは死だけじゃないんです」

「…」


 死だけじゃない。

 人生の終わりっていうのはきっと、もっと何か、何かがあるものなのだろうか。


「まてまてマセたお嬢さん。今はあなたの迷子をなんとかしないと。どこに向かってたの?知ってる場所ならいいんだけど」


 ええと…と言いながらポシェットの中をがさごそと探す女の子。

 1枚の紙きれを取り出して「ああ、ここです」なんて言いながら見せてきた。どれどれ。

 あたしがそれを見ると、まあ、確かに、知っている場所ではあるのだが。なんというか。なんともいえない、あたしと目的地が同じだったからだ。


「あたしの実家じゃん…」


 そこに記してあったのはあたしの実家の住所だった。なんでこの子が?そんな疑問が思う浮かぶ前に、女の子はドレスの裾をつまみ、ぺこりとお辞儀して、自己紹介を始めるのだった。


「わたくしはスカーレット。スカーレットとお呼びください。仙道結さん」

「うち、スクランブルトマトなんて出してないよ?」


 思わずなことで混乱して、変な返しをしてしまったからか、なぜ初対面であるはずのあたしの名前を知っているのか、なんてことには気付かなかったのであった。




















よろしくお願いします。

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