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LOVE NEVER FAILS  作者: AW
16/17

おてがみ

 私はりーりす・しゃーりあ。りーしゃって呼ぶのはあなただけ。呼んでいいのはあなただけ。だから、もう何年もその名前で呼ばれていないの。早く会いたい。りーしゃってまた呼んでほしい。早く会いたい。会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたいよ! 会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい! はぁ、おちつけ、私!


 初めて会ったときのこと、おぼえてる? とってもむかしのことだから、あなたはおぼえていないでしょう。私は今でもはっきりとおぼえてる。もちろん、あの約束も、ね。いっしょに住もうって言われたときは、ほんとうにうれしかったよ。だから、そのあとで山の中において行かれたとき、とてもかなしかった。たくさん泣いちゃった。


 別れたあと、村にもどった私にまっていたのは、ほんとうにいやな毎日だった。ぷりんすと呼ばれる小人しゅの王や、きんぐと呼ばれる巨人しゅの王に告白された。森のおきてなの。古き森のしはいしゃである私たちは、森の民とうまく付き合わないといけない。いけにえというのかな。私は、小人しゅ、巨人しゅ、森ざるしゅのだれかとつがわなければいけない。でも、いやでいやで毎日泣いてた。だって、他に好きな人がいるから。すてられたのに、あきらめることができなかったその人。また会いたいと思ってしまった。


 だから、ずっとずっと長い時をかけて考えたあと、告白は全てことわることにしたわ。まさか、そんなことでせんそうになるなんて思ってもいなかった。東から巨人たちが攻めてきた。数少ない男たちがそれを止めたんだけど、こんどは南から小人しゅが来た。村の女たちがたくさんころされた。兄様たちが命がけで私をにがしてくれなかったら、私はもう、あなたと会うこともできなかった。


 それから、私はずっとあなたをさがした。森にあなたをつれて行けば、みんなをせっとくできると信じて。だってそうでしょう? だれだって好きな人とむすばれたいもの。私たち森の妖精しゅはとても長く生きる。だから、そういうのを気にしない子も多いわ。でも、それはちがうと思う。長い時、ずっとつらい思いをしながら生きるなんて、私はぜったいにいやなの。だから、私は何年も何年も、一人であなたをさがしつづけたの。


 あるとき、妖精語で書かれたてがみを見つけた。何回か行ったことのある、ほろびた石のおしろ、そこに私がさがしている人がいると書いてあった。てがみの送り主は分からなかった。でも、行くしかなかった。他に手がかりがなかったから。これはないしょなんだけど、らびしゅのすがたをしていると、のりものにただでのれるの。私はお金もってないから――。


 おしろの中で待っていたのは森ざるしゅだった。どうしてこっち(日本)にいるのか分からないけど、今思えばあのてがみはわなだったのかも。もっと気をつければよかった。でも、でも、ほんとのほんとに、あなたが来た! 7年しかすぎていなかったから、すぐにあなただと分かったわ!


 森の古いことばに“2度助けられたものを一生愛せ”というのがあるの。じゃぱにーずすたいるだと“うんめいてきなであい”と言うのかな。もうむねがこわれるくらいどきどきした! あなたってば、私のことおぼえていなかったよね。でも、そういえば初めて会ったときの私はらびしゅのすがただったから分からなくてとうぜんかも。ちょっとさみしい気がしたけど……うん、がまんする。


 ノブナガ――それがあなたのなまえ。ノブナガ、ノブナガ、ノブナガ、ノブナガ、ノブナガ、ノブナガ――それさえ知っていれば、もっと早くさがせたのに、もっと早く会えたのに。ノブナガ、ノブナガ、ノブナガ、ノブナガ――私はあなたを一生愛します。妖精しゅの愛、それは時を共に生きるけいやく。いっしょにいないと時が止まったまま。ちょっとろまんちっくだと思わない?


 それからいろいろあったよね。小人しゅのぷりんすとの戦い――私の時わたりの魔法がなかったらたいへんなことになってたよ? あなたは私を何度も泣かされたんだから、今度は私を幸せにしてよね。でも、毎日がほんとうに幸せでした。ことばをおしえてもらってからは、私が言いたいことも伝えられるようになったし。こうやっておてがみを書けるようになったのも、あなたのおかげ。魔法で書く方がらくだけど、こういうじゃぱにーずすたいるもいいよね!


 でも、ぷりんすをやっつけたあと、まさか巨人しゅまで攻めてくるとは思わなかった。だから、またあなたに助けてもらおうと思ってこっち(日本)に来たのに、あなたはどこにもいない。あなたが日本にかえったって兄様は言ったもの。でも、あなたはこっち(日本)にいなかった。そのしょうこに、私の時は今も止まったまま。それに――そっちにもどっても、あなたも兄様もいない。やっぱり時は止まったままだし。まるで、私たちがすれちがっているみたい。何かが、だれかが大きな力でじゃまをしているのかもしれない。


 12月15日にもどりたい、そうしたらあなたに会えるのに――何回もそうやって思ったよ。でも、そんなことできっこない。私はひっしにあなたをさがした。私が、この12月16日の土曜日を何回くりかえしたか分かる? どうしてきたのか、どうすればいいのかを忘れないようにするためにも、こうやって何回も何回も同じおてがみを書いてるんだよ。でもね、ほんとうは、あなたに会ったときにこれをわたしたくて書いてるの。こういうの、らぶれたーって言うんだって。ちょっとはずかしいから、私がいないときに読んでね。


 そうそう、今日のことを書かないとね。



 0:00


 あの石のおしろで目がさめる。寒くて暗い夜。私はいつもどおり、一人ぼっち。

 泣いてはいられない。ぼーっともしていられない。ここにいると、あと2分で森ざるしゅが来て私はつかまってしまうから。そう、じっさいに30回くらいつかまったの。

 でも安心して! へんなことはされてないから。

 森ざるしゅの3人は、きっと私をさがしてた。やっぱりあのてがみは私をさそいだすわなだったみたい。



 0:03

 

 にげる? かくれる? たたかう?

 せいかいは、“かくれる”でした~。

 にげるとだいたいつかまる。らびしゅになっても同じ。たたかっても、あなたみたいにかんたんにやられちゃった。

 入口の左から3つ目のおへや、まどの下のかーてんの中にかくれるのがせいかい。こつは、うまくつまさきで立っておしりを出さないこと。そうすると、ぜったいに見つからない。



 0:10


 3人がおしろから出て行く。

 ここでこっそり逃げてもいいけど、それだと手がかりが何もなくて、同じ毎日をくりかえすだけだった。

 だから私は逃げずにここでまっていたの。そしたらいいことがおきた。私ってかしこいのかも。ほんとは、どうしようもなくてずっと座っていただけなんだけどね。



 0:20


 小さい森ざるの子、口に布をかぶった女の子がもどって来た。わすれものをとりに来たみたい。

 こわかったけど、話しかけた。だって、どうしてノブナガがここに来ることが分かったのか、ずっと気になっていたから。ノブナガに会いたいからゆうきを出したの。たくさんほめてね。

 もちろん何回もころされた。なかなかひみつをおしえてくれなかった。でも、うまくこうしょうして、彼女をなかまにできたの。

 どうやったか知りたい? でも、今はないしょ!



 0:40


 女の子、えりかって名前なんだけど、妖精語がしゃべれない。森ざるなのに! ノブナガに日本語をおしえてもらってよかった。

 このままずっとここにいたかったけど、あいつらがもどって来ちゃうから、私たちはおしろを出たの。



 1:10


 それから、ノブナガと行った“からおけぼっくす”にかくれた。

 ここはあったかいし、お勉強するのにべんり。えりかにもたくさんおしえてもらって、少し漢字も書けるようになったよ。

 でも、ぎゃる語っていうのが多くて、ちょっとだけいやになる。



 2:50


 3時になると、けいさつって人がたくさん来てえりかがつかまっちゃうの。見た目からしてあやしいからね。

 ざんねんだけど、私たちがここにいられる時間はみじかい。それでも、ここにはノブナガとの思い出がたくさんあるから、毎日かよってるよ。



 4:20


 森ざるに見つからないように私たちがかくれたのは、ノブナガの家のおとなり。

 金曜日に何回ものせてくれたおじさんが、今日も私たちを乗せて送ってくれた。時間がちがったけど、会えてよかった。

 ノブナガの家に入りたかったけど、かぎがかかってて入れなかったの。それで、おとなりの古いあぱーとにかくれた。かぎ? がんばってまどから入りました!



 6:30


 ノブナガのお母さんがかえってきた。

 でも、すぐにあわてて出て行っちゃった。手にもっていたのは、ノブナガが書いたてがみかもしれない。あなた、いったい何を書いたの?



 8:40


 少し休んだあと、えりかがノブナガをさがしに行くって出て行った。

 まただまされるかもって心配だったけど、今のところだいじょぶみたい。森ざるしゅは、ノブナガを知っているし、何かをたくらんでいるみたいだけど、何回たのんでもおしえてくれない。



 13:40


 ノブナガのお母さんがかえってきた。

 すごく泣いてるみたい。けいさつの人がいっしょにいる。

 何回か、私がお母さんとお話をしに行ったんだけど、私のことをいっぱいきいてくるだけで、ノブナガのことをおしえてくれないから――会いに行くのをやめた。


 えりかから、私はかくれていたほうがいいって言われているので、ずっとアパートで考えごとをしてます。

 ノブナガのお母さんがもどって来るまでをくりかえして、今回が12回め。

 えりかは今回、どこに行くって言ってたかな。


 私はじっとまつのはいや。でね、私にも何かできるんじゃないかって思ったの。それで、何回もあぱーとを出てみたんだけど、すぐにつかまってしまう。森ざるがノブナガの家をみはっているのかもしれないよ? きっとそうだよ。気をつけないとね!


 だから、私はここでずっとおてがみを書くことにしました!

 早くあなたに会いたいな! 会いたい会いたい会いたい――



 ドンドン! ドンドンドン! ドンドン! ドンドンドンドン!


 けたたましくドアをノックする音が鳴り響く。


 「むぅ~」


 赤く染まった頬をぷっくり膨らませ、細く可愛い眉を反らせた少女が振り返る。肩まで伸びた綺麗な白髪が柔らかく舞う。握り締めているペンを名残惜しそうに机上に広げられたノートに置く。

 そして、ぴょこんと椅子から跳ねるように降りると、不機嫌丸出しでドアを開け放った。


 息を切らせた女が部屋に飛び込んでくる。


 少女は両手を腰に据え、無言で彼女を見上げる。


 興奮を抑えるためだろうか。白いマスク越しにスーハースーハー深呼吸する音。

 そして、満面の笑みを浮かべて叫ぶ。


「妹! 彼の座標が判明したし!!」


「ほ、ほんと!?」


 内股でぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶ少女。でも、揺れるほど果実は実っていない。


「だから言ったじゃん! あたし、ううん、御姉様に任せておけば大丈夫だって!」


 裏ピースを決める女性を無視して少女は叫ぶ。


「いますぐいくわよ!!」


「ねぇ、漢字少なくない? 超読みにくいんだけど!」


「みないで! これでいいの!」


 顔を一層真っ赤にし、ノートをパタンと閉じて自分の荷物を纏め始める少女。




 数秒後――。


 黒服黒マントに白マスクという怪しい金髪ギャルと、エルフ風のコスプレ衣装を身に纏い、薄紫色のランドセルを背負った白髪少女の2人が、ボロアパートの一室から出て行く姿が目撃されたのだった。

次回、リーシャちゃんの冒険物語です。乞うご期待!

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