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LOVE NEVER FAILS  作者: AW
14/17

くぱぁっと

「眠っちゃったのか」


 鳥の囀りで気持ちよく目覚めた僕は、自分がベッドに寝かされているのに気づいた。


 どこか見覚えがある――あぁ、あのイケメンエルフの部屋か。昨日、糞尿少女とイチャコラしていたベッドだ。想像するだけで僕の身体は興奮してきた。


 うん、問題はない。


 寝ている間に何かされたんじゃないかと焦ったけど、服はちゃんと着ているし、下半身以外に違和感はない。敢えて言えば、頭がボーっとするのと、脳がぐりぐりされるような鈍痛が少しあるくらいだ。



 大きなベッドから這って抜け出す。


 そして、天井から下された幕をすり抜けて部屋を見渡す。



 誰も、そう、リーシャも居ない――。


 一瞬過った不安を、頭を振って強引に振り払う。


 確かにゴブリンに勝利した記憶、可愛いエルフに囲まれてお腹いっぱい食べた記憶がある。


 でも、そこで記憶が途切れている。


 いくら思い出そうとしても、綺麗さっぱり切り取られたかのように記憶が存在しなかった。


 腕時計は2時半を指している。1周回ってからの2時半ということは、こっちの世界が1日=12時間だと考えると――朝5時くらいの感覚だな。


 頭は少し痛むけど、何とか回る。


 時間的に考えると、リーシャは朝食でも取りに行ってくれているんだろう。



 それにしても、あのエルフの部屋か――。


 目に映るのは木の壁に埋め込まれた扉の数々。20畳ほどもある寝室の左右の壁は、これらの扉で埋め尽くされていた。


 突然沸いた好奇心に抗う術はなかった。


 その1つ、最も近い扉に歩み寄り、取っ手を掴む。

 引っ張るようにそっと力を注ぐと、30cmくらいの円形の板が上から下へと開いていく。


「っ!!」


 思わず掴んでいた手を離し、数歩後退ってしまった。


 扉の中は円柱状にくり抜かれていて、その中に骸骨、それも頭蓋骨が置かれていたから。


 そう言えば、ここはお墓も兼ねていたっけ。これがエルフの遺体なのか。まさか、遺体が寝室にあるとは思ってもいなかった。



 少々落ち着いてきたところで、今度はじっくりと遺体を観察することにした。幽霊と違ってこういうのは苦手なんだけど、生物学的に興味がないわけでもない。骨格から、エルフと人間の違いを見るとか、シュールな好奇心が沸々と沸いてくる。


「ん?」


 ちょうど10体目の骸骨を観察しているとき、ふと僕の目に留まったのは1つのアクセサリーだった。


 胸の上に組まれた手、その左手薬指に嵌められた指輪――アルファベットのCを左右逆さに組み合わせたブランド。何故という疑問が疑念に変わったとき、僕は不敬にも指から指輪を外していた。そして、指輪に残されたメッセージを見た僕の目の前は真っ暗になる。


『NIGETE! 紬』


 何かで不器用に削られた痕は、ローマ字で“逃げて”と読める。

 最後の漢字は、つむぎ――僕の母ちゃんと同じ名前か。偶然の一致って怖いな。


 一瞬だけ脳裏を過ぎった不吉な予感。でも、それは確証をもって打ち消すことができた。だって、うちの母ちゃんがブランド物の指輪を持っているわけがないから。


 

 ふぅ、落ち着け、落ち着け。


 この人は十中八九、日本人で間違いない。


 で、どうしてここに居る?


 こっちに連れてこられた?


 そして殺された?


 一体誰が、何のために――。



 僕も眠らされて、こうなっていたのかもしれない。


 お酒も飲んでいないのに記憶がないのは絶対おかしいだろ。



 短絡的に結論を急いだわけではないけど、異世界との繋がりを持つ唯一の存在――脳裏に浮かぶのは、彼女だけだった。彼女の笑顔が、涙が、怒った顔が、うたかたのように浮かんでは消え、消えては浮かぶ。


 僕は彼女を信じるんじゃなかったのか?


 あの子に人を殺せるとは思えない。


 きっと他に――まさか、イケメンか?


 どう考えても、彼の寝室に死体があるってことは動かぬ証拠だろ。どうやって日本からこの人を連れてきたのかは分からないけど、奴が危険だってことは分かった。

 でも、もし殺されたとしてもリーシャが生き返して――くれる保証なんてない。もう村は救ったんだし。


 そうだ、リーシャを見つけて日本に帰してもらおう。


 指輪を元に戻し、僕はこっそり部屋を抜け出した。



 真っ先に向かったのは彼女の部屋。しかし、そこには誰も居なかった。



「ガァォォォ!」


 その時、森の奥から不気味な咆哮が轟いた――。


 この声、ゴブリンじゃない!


 森の隅で戦争していた奴らか?


 ベッドに置き忘れたのか奪われたのか分からないけど、腰のベルトに差してあった棒がない。そう言えばバッグも見当たらない。捜したいけど、こんな状況じゃ諦めるしかないか。


 やむを得ず丸腰のまま部屋を飛び出し、大木の縁に爪先立ちして咆哮のした方角を見やる。


 眼下では、エルフたちが慌しく逃げ惑っている。その中にはリーシャも居なければ、あのイケメンエルフも見当たらない。



 グシャリ


 放物線を描いて飛んできた何かが、隣の大木の幹に当たって破裂する。スローモーションのように固形物が落下していく。

 残されたのは、幹を滴る赤い物――血だ。


「「******!!」」


 森に木霊する悲鳴!

 それを嘲笑うかのように彷徨が続き、次々とエルフの死体が投げ込まれてきた。



 なんだこれ・・・・・・。


 大木の陰からぬくっと現れた巨大な生物――大小様々、その数は4、いや5か。


 小さい者ですら3m程もあり、最もでかいのはさらにその2倍にも達する。身体の所々に矢が突き立っているけど、痛そうなそぶりは全く見せない。


 ドシン、ドシンと地鳴りを挙げて走る様は映画で見たオーガそのものだ。


 まさに筋肉の塊――鈍重そうに見えて、手足の動きは素早い。奴らは、手当たり次第に大木に体当たりして潜んでいたエルフを地面に叩き落しては、服を剥ぎ取っていく。


 まさに性欲の塊――見たくもないが、どうしても目に入ってしまう。奴らの股間がとんでもないことになっていた。森に残るエルフの大半は女性だった。泣き叫ぶ悲鳴を無視し、問答無用の蹂躙が始まろうとしていた。


 助けなきゃ!


 頭では分かっている。でも、僕の足は震えて力が入らない。いや、震えているのは下でこの大木に体当たりを繰り返している奴のせいだ。身長は僕の2倍はある。でも、手を伸ばしても僕の足元にすらその手は届かないだろう。


 一際大きなこの木が巨漢の幾度もの体当たりを耐え切ると、奴は幹を巻くように造られた螺旋階段に手を掛け、よじ登ろうとし始めた。

 僕と目が合った途端、奴の牙がきらりと光る。そして、大量の涎が溢れ出て口から滴る。


 やばい、こいつは本当にやばい――。



「リーシャぁ!!!」


 悲鳴と彷徨が入り混じる森で、腹の底から精一杯の声を張り上げる。


 木霊が何度も跳ね返り、繰り返し繰り返し僕の求める名を叫ぶ。


 しかし、それに答える声は――なかった。


 今回も失敗だ。早くリーシャと合流して日本へ!


 あれ?

 もしリーシャが居なかったら僕はどうなるんだ?


 まさか――。

 さっき幹からずり落ちていった固形物を凝視する――違う、リーシャじゃない。



 逃げたい!


 でも、捜さなきゃ!


 相反する衝動に、身も心も引き裂かれそうになる。


 頭を抱えながらの逡巡――その結果、1つの結論を導き出す。



“今はリーシャが最優先”



 彼女だってこんな結末は望まないはずだし、彼女さえ居れば巻き戻すことも可能だから。これ以上魔法を使わせたくはないけど、これじゃ、今ままで以上に悲惨じゃないか。


 リーシャ、リーシャ、リーシャ!

 心の中で祈るように叫び続ける。

 絶対に捜し出す、それまで無事で居てくれ!


 はっきりと決断してからは早かった。

 彼女の居そうな場所がいくつか脳裏に浮かぶ。

 イケメンエルフが居た白い大樹のどこか、僕が監禁されていた地下牢、戦勝パーティをした木陰と食料庫――。


 蜘蛛の糸のように真っ直ぐ張られた蔓を一心不乱に駆け抜ける。恐怖なんて、沸き起こる暇すら与えなかった。

 定期的に鳴り響く振動――あの涎野郎が揺らしているんだろう――の中、過呼吸になりながらも走り続ける。


 居ない、居ない、リーシャはどこにも居ない。


 白い大樹の行ける所へは全て行った。開いている穴は全て覗いたし、登れる所は全て登った。それでもリーシャは見つけられなかった。



 蔓にぶら下がり、ターザンの要領で食料庫の屋根に飛び乗る。

 ログハウスのようなそれは、思った以上に狭く、地下もない。隅っこに少量の果物が置かれているのみで、リーシャはそこにも居なかった。



 木々の陰に身を伏せながらあの地下牢へと潜り込む。

 外で暴れているオーガの数体が僕に気づいて追いかけてきたけど、地下への入口は高さも幅も2mもない。伸ばされた手が数本、地下道の壁を空しく抉っていた――。


 奥に進むにつれてエルフたち声が聞こえてきた。

 今の状況でここが最も安全だと判断した者たちだろう。眉を顰めながらあの牢を通り過ぎると、6畳ほどの空間に出た。薄闇の中、エルフの少女たちが4人、隅の方で身を寄せ合っている。でも、その中にも彼女は居なかった。


「リーシャはどこ!?」


「******?」

「*****!」

「*******!」

「******!!」


 この可憐なエルフの少女たちの必死に救いを求める声を、僕は両手で耳を塞ぎ、完全に無視した。伸ばされた手を僕は掴まなかった。それどころか、目を背けさえした。

 残念ながら、僕は平凡な人間だ。一騎当千のチート能力があるわけじゃない。小学生程度のゴブリンには勝てても、自分の数倍もある巨人には勝てっこない。それはもう、知恵を振り絞ったとしても、努力や工夫を総動員したとしても、到底勝利には届きっこないんだ。


 あの華麗な勝利などという英雄譚がなければ、見た目も醜悪な人間だ。これが本来の僕の姿。恐らく、途中からは罵倒に変わっていただろう少女の声から背を向け、僕は逃げ出した。


 今はリーシャが最優先!


 再び入口に向かって走る。


 リーシャはどこだ。ここに居ないなら、どこに居る? 村の外か? あのイケメンに連れられて森の外に避難したのか? まさかゴブリンに? それとも、兎の姿になって隠れている?


 とりあえず、ここを出る以外の選択肢はない。


 1分も経たずに入口に至る。

 暗いと思ったら、入口を塞ぐように巨大な顔があった。既に恐怖なんて麻痺している。走りながら両手で地面の土を掴む。伸ばされた腕を掻い潜り、大きく見開いていた目に向かって右手を振り抜く!


「ギャッ!」


 入口を塞いでいた太い腕と顔が一気に後退してできた隙間を、全速力で走り抜ける。


 近づいてきたもう1体の顔に、今度は左手が掴んでいる土を放り投げる。ギリギリ届くか届かないかだったけど、うまく隙を作って脇をすり抜けることができた。


 あの白い大木に群がる巨人が2体、遠目に見える。


 残り1体はどこだ?


 居た!

 あのでかいヤツだ!

 くっ、あの食料庫を椅子代わりに座ってやがる。


「マジかよ!」


 目が合った途端、仮の玉座から飛び出し、巨体を前屈みにしてこっちに猛進してきた!


 殺される!!

 反対方向へと全速力で逃げ出すしかなかった。



 片や走るのがちょっと得意な中学生、片や巨大な戦斧を片手に闊歩するファンタジー界の鬼――どっちが速いんだ!?


 背後に地響き音が迫るのを感じる。


 その差は5mもないだろう。


 手ぶらで良かった!


 ジャージで良かった!


 倒れた木々の合間をすり抜け、村の外を目指して風のように走る。


 行き先なんて決まっちゃいない。僕の選ぶ道がヤツの追いかける道だ。


 なるべく障害物の、木々の多い方へ多い方へと走る。


 嫌がらせのように急激な方向転換を数回重ねる。


 相変わらず背後からは物凄い爆音とともに咆哮が聞こえてくる。


 距離は――少し、少しだけ離れたか!


 スタミナ?

 部活を引退した僕にあるわけないでしょ。


 森の中を10分も走り回る頃には脚がもつれ始め、膝が上がらなくなってきた。それでも、ボールを蹴り上げるような感覚で必死に脚を持ち上げて走る。



 そんな命懸けの鬼ごっこをどのくらい続けただろう。

 現状、ヤツの足音は耳を澄まさないと聞こえない程度に距離を確保できている。


 正直どこを走っているのか、どこに向かっているのかすら把握できていないけど、次第に木々が疎らになり、森の切れ目に差し掛かっているような感じはしていた。



 すると突然に視界が開けて――。


「うわっと!」


 崖かよ!

 森を抜けた先の上り坂を駆け上がった結果、僕は舌のように数m張り出した崖の先端に来ていた。


 足元から崩れ落ちる瓦礫を視線で追いかける。


 5秒ほど自然落下した後、乾いた音が鳴り響く。10m以上は軽くあるぞ。



「グオォォ!」


 威嚇するように木々を薙ぎ倒しながらヤツが来る。


 どうにもここに誘い込まれた気がしてならない。


 もう、リーシャを捜すどころじゃない。こんなんじゃ、地下牢で隠れて様子を見た方がよっぽどマシじゃないか。



 7m、6m、5m……足元を確認するように迫る巨人。巨大な斧を肩に担ぎ、余裕の表情を浮かべてやがる。頭上に生える2本の角は、空に浮かぶ太陽を挟み込んで聳えるあのツインタワーを思わせる。


 脇を擦り抜けるか、それとも崖下への道を探るか――生死の狭間で究極の2者択一を余儀なくされる。



 アニメだと、相手の攻撃を躱して身体を入れ替えて、崖下に突き落とすパターンだな。


 でも、現実はそんなに甘くはなかった!


 右肩から下された戦斧は推定リーチ5m。こんな巨大な武器、誰がどうやって作ったんだと激しくツッコミたいが、その余裕はない。


 鼻先に突き付けられた先端の槍部分、股まで届く刃渡り――滴る赤い液体が生々しく、僕の戦慄を煽り立てる。



 リーシャが生き返してくれるかもしれない――。


 こんな状況でも、いや、だからこそ、淡い期待に縋ろうとしてしまう。でも、脳裏に浮かんだ彼女のその悲愴な目が僕に訴えかけてくる。


 諦めちゃダメだと。

 恐怖に、自分の弱い心に勝つんだと。



 斧の先端を両手で鷲掴み、綱引きよろしく腰を屈めて引っ張る!

 位置を入れ替えることができればワンチャンと思ったけど、案の定、ビクともしやがらない。


 右手で草ごと土をひん剥き、ニヤリと嗤う顔面にぶちかます!

 手でガードする隙に脇をすり抜けようと思ったけど、案の定、鼻息で吹き飛ばされてしまう。


「うぉぉぉ!!」


 野生には野生、腹の底から精一杯の怒鳴り声を出す!


「グオォォ!!!」


 ぐはっ!

 至近で浴びせられた咆哮――両脚が脱力し、思わず跪く。全身にざざざっと鳥肌が立つのを感じる。これが殺気というやつか。


 辛うじて捕まっていた斧が、大きく振り上げられる。




 そういえば、生まれ変わったら鳥になりたいと思った時期があったな。ううん、何とか生き残って、スカイダイビング経験者の友達をたくさん作ろう。


 まるで埃を掃うかのように斧が二、三度振られた結果、僕の身体は空中に投げ出されていた。命懸けの、それこそ火事場の馬鹿力も今この空間では完全に無力。


 もしこれが映像作品だったら、もの凄い形相で、それこそ情けないくらいに手足をバタバタさせる姿に爆笑が起きるだろう。


 でもって、当の本人はというと、その先の記憶が一部欠落している。気づいたときには、orzの体勢で枯葉の中に埋もれていたのだから。



 見上げると、一部が突き出た崖がある。高さは最低でも50mか。


 身体中が痛い。特に、右手と右脚は痛みで動かすこともままならない。あぁ、そうか――生きているって、こういうことか。


 崖下に生える木々がクッションとなった、たまたま落下地点が腐葉土で覆われた小山だった、と。そこから右半身でうまく受け身をとるように転がること約10m――よくもまぁ生きてたもんだ。



 夕焼けに染まる森の中、ぽつりぽつりと小雨が降り始めていた。


 腕時計を見ると、既に8時を過ぎていた。午後4時くらいか。つまり、5時間は土下座状態だったということ。この状況、オーガもさすがに僕を追うのを諦めたようだ。



 で、これからどうするかだね。


 骨が折れているなら人生ここで終了!


 こんな場所だし、助けなんて期待できないから。


 あぁ、リーシャに会いたい……。


 とりあえず、目の前でくぱぁっと口を開けている洞窟に避難しよう。


 道具も薬も食べ物もないけど、生き足掻いてやる!



 這って這って、虫けらのように這いずり回る。


 ジャージは泥んこでべちょべちょ。


 幸いにも、血は既に止まっているみたい。


 下草を薙ぎ倒し、やっとのことで縦横1mちょっとの入口まで辿り着く。



 人工的に掘られたというより、岩の隙間を風雨が削り取ったかのような洞窟だ。


 まさか、ゴブリンの巣じゃないだろうな――。


 今ならゴブリンどころか、幼稚園児にも負ける自信がある。



 祈る気持ちで洞窟に入る。


 奥まで行く気力も体力も残っていない僕は、入口の壁にもたれ掛かってしばらく目を閉じた。




 激しい雨音が僕の目を覚ました。


 横殴りに叩きつける雨は、僕の身体を水浸しにして体温を奪っていく。


 もっと奥に――そう思い、痛む身体を捻って洞窟の先を向く。



「ひぃ!」


 思わず漏れた声は悲鳴にすらならない。


 目の前には赤く光る眼が2つ、その下には2本の牙と、長い舌が――。


 大蛇でも大トカゲでもどっちでもいい、こっちに来るな!



 僕の必死の願いは通じることなく、逃げ遅れた右半身に牙が刺さる。全身が熱くなった後、痺れて動かないことに気づく。


 ぼんやりした意識の中で、そいつが背を向けて去って行くのが見える。


 何やってんだろ。


 もはや、流れる涙を拭うこともできないまま、僕は瞼を閉ざし続けた――。

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