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出会い ~奏~


「愛」でも「恋」でもないこの気持ちを

ずっと言葉にできなくて過ごした15年間


最後の時


あなたに伝えたい気持ちを言葉にするのなら

一番近いことばは「感謝」でした


わたしをわたしにしてくれて

ありがとう。




自己中心的で自分勝手

自分から近づくくせに

近づきすぎると離れる

社交的なくせに

いつも本音を見せなくて

つよがりで

さみしがりや

つかみどころがない

口がわるくて

すぐにわたしを傷つけるけど

そのあと言い過ぎたって落ち込んで

数日たったら何気ないふりして

わたしの喜ぶことをしてくれるような

そんなひと




はじめて話したのは

忘れもしない中学一年生の夏…



自営業のお父さんと

専業主婦のお母さん

お姉ちゃんが一人

普通の家庭ですくすく育って

私立の小学校に通ってたわたしが


小学生5年のころに

両親の離婚で公立の中学校に入学


まわりは学区が同じの小学校から上がって

きた子ばかりでみんな知らない子ばかり


お金がなかったこともあり

制服はお母さんのお友だちの子供のおさがりで

とても小柄なおねえさんのおさがりの制服は

152センチの身長にアンバランスなくらい

ひょろっと長い手足のわたしには小さくて


おまけに色素の薄い髪の毛と

女で一人で働くお母さんに

「美容院にいきたい」

何て言えないお陰で伸びた髪の毛が

さらにわたしの派手さを際立たせていた。


小学校の時からなんでも器用にこなす

お姉ちゃんにくっついていたわたしは

自分に自信もなくて、そのせいもあり

入学して2ヶ月経ったあとも

女の子の友達はできなかった。


高里(たかさと) (かなで)

中学一年生の初夏



「奏ちゃんっ」


いつもと同じ、一人で下校途中

優しい声に気づき振り返った

めがねで色白

大きな制服に小柄で線の細い印象の

わたしと同じ中学校に通う男子生徒は

金丸(かねまる) 佑樹(ゆうき)


新しい学校で唯一

わたしに話しかけてくれる友達

保育園が一緒だったと気づいたのは、

入学式でゆうきが声をかけてくれたから


登下校が、一緒になると

たまに声をかけてくれて

15分くらい話すだけだけの仲だけど

なんかすごくありがたいと思ってた


「奏ちゃん、学校は、慣れた?」

「すこしづつ、ね。ゆうきは?」

「僕も、すこしずつ‥」

「友達は、まだできてないんだけどね」

「‥そうみたいだね」


‥‥‥


「ほら、女子って男子より

 グループみたいなのあるから小学校違うと、

 入りにくいよね、たぶん時間たったら

 奏ちゃんの気のあう子もできるよ」


(ゆうきは優しいね)


「できるといいんだけどねー」


「奏ちゃん、知らないひとからは少し

 話かけにくいんじゃないかな」

「?」

「あ、変な意味じゃなくて、なんかこう‥

 大人びてるっていうか‥」

「いいよー気を使わなくったって、気づいてるから

 浮いてるの」


‥‥


「僕は、かっこいいと思うけど」

「‥‥」

「‥‥」

「ふふ、ゆうきは、優しいね」

「えっ!!(照)あ、ありがとう」

「誉めてないよ」

「え?そうなの?」



夏が近づいても友達はできず

ただ学校への往復の日々が続いた

暑さのせいもあり

貧血ぎみで朝起きにくい日が続いて

気がつくと遅刻がちになり

さらに教室では浮いた存在になっていた



7月、夏休み前のその日

体育の授業は苦手で

何となくクラスに向かうのが嫌で足取りが

重たい2時間目の途中、


「どけ、ちびっこ」

「‥‥?」

振り向くとそこには

一人の男子生徒が立っていた

突然の言葉にびっくりしたのではなく

学校で先生以外に話しかけられたことに

驚いた私は相手の顔を見ることが出来なかった


暑さのせいか

景色がぼやけていたわたしはうつむいたまま

状況を把握するのに少し時間がかかったと思う


「聞こえてるー?」

わたしを除きこむその顔は

いたずら好きの少年のような笑顔だった


慎重は170センチくらい

明るい髪色に

だらしない着こなしの制服

手ぶらで、見たことのない男子だった


「聞こえてますかー?」


(なに、こいつ、しつこい)

これが第一印象


黙って通りすぎようとするわたしの顔を

のぞきこみにやにやしている男子生徒は

はじめて見る人



「ねえ、友達になってあげるよ」


「・・・ぇ?」

「高里さ、友達いないじゃん」


(そ、そうだけど)

「・・・・」

(改めて言われると、悲しい。

 まわりからそうみられてるのか。

 知らない違うクラスの人にまで‥)


「おれは、手島(てしま) (しゅう)

 2組、サッカー部、

 彼女いなくて、タイプは、高里みたいな人!」


完全にからかわれている。


「声、かけてくれてありがとう

 はじめまして、高里 奏です。

 1組、帰宅部、彼氏いなくて、

 タイプは、ちゃらちゃらしてない人

 さようなら」


「ひでぇー、

 ねー、LINE教えてよ」


「・・・・」


「わかった、電話派か!番号でもいいよ♪」


「・・・むり」

「けちー」

「ごめん、わたし、携帯もっ・・・」

「おいっ!!お前ら授業はじまってるぞ!

 またお前か手島!さっさと教室いけ!

 高里も1組体育だろ」


生活顧問の林先生に叱られ

私たちは教室へと向かった。


わたしは携帯電話を持っていない。

きっとバカにされるような気がして、

クラスメイトとの距離を縮められないでいる。

SNSのコミュニティーはきっと現実よりも

重要視されているんだろう

そう思うと、なおさらしり込みしてしまう。


「・・・わずらわしくなくって、いっか。」



数日が経ち

終業式の日、終礼が終わった帰宅前


勢いよく教室のドアが空いた


「ヤッホー!」

「おー、手島じゃん、めずらしいどうした?

 練習用のユニフォーム忘れたとか?」

「やっほー、手島!」

「手島くん髪の毛延びたねー」


クラスのサッカー部らしき男子や

クラスの女子としゃべっているのは

2組の手島くん、こんな人気者だったのか。

もし気づかれて声でもかけられたらと

被害妄想が膨らむ中

さっさと帰ろうとそそくさと教室のドアに向かう。


「ちげーよ、奏いる?

 高里 奏!」


「・・・へ?高里?」


背中越しにも、

クラス内に変な空気が流れる瞬間が分かった。

さっきまでおしゃべりしていた女子のおしゃべりも止まった。

しかも、したの名前で呼ぶなんて。もう、最悪。


「高里なら、あそこ」

「サンキュー!」


ずんずん近寄ってきてあのときみたいにのぞきこむ

「な、なに?」

「なにって、らーいーん!

 まえ林のせいで途中だったから、

 夏休み入るまえにききたくって!」

「(‥なにもこんな大勢のまえできかなくっても)」

「(ごめんごめん!急いできたから)」

「(わたしね、携帯持ってない)」

「え!マジ?」


・・・・・


「まじだよ、奏ちゃんは持ってない、

 帰ろ、奏ちゃん。」


(ゆうき! ナイスタイミング!)

「そういうことだから、ごめんね」


ゆうきにつれられて教室を出た。



「あはは、手島ふられてやんのー」

「うっせーなー」


女子

「つーかさ、イマドキ携帯もってないとか」

「きゃはは、うける」

「超貧乏とか?」

「てか、メガネくんと付き合ってんの?」



廊下を歩く途中

手島の大きな声が聞こえた


「は?うけねーだろ、うっせーな女子は

 しかし、いったい、

 俺はどうやって連絡とったらいいんだ。

 てがみなんて書いたことねーぞ。

 あ、まず住所しらねえ、ミチシゲーたすけてーーー」

「はいはい、とりあえず部活いくぞ」



ずっと、目立たないよう煙がたたないよう

関わらないようやってきたのに、

学年でもトップレベルで目立つ男子にあんな風に言われて

目立ったあげく、さらに貧乏人だと笑われた。

正直、本当のことだけど、惨めな気持ちになった。


「奏ちゃん」

「なーに?」

「僕もねー、携帯もってないよ」

「あはっ、なにそれ

 気にしてないから平気だよ、ありがとう」




ひたすらまっすぐな川原道

たまにかえるゆうきとの下校の時間が

いつもすごくゆっくりで、心地いい。



ゆうきとは橋を挟んで反対側なので

川原で別れた

川沿いを進んで、駅からさらに15分

小さな商店街を抜けたさきにある小さなアパート

そこの2階がわたしの家

いつも猫がうろうろしていて

今日も太った三毛猫が階段の隅で

気持ち良さそうに寝てる


「ただいまー」

「おかえり」

「あれ?お母さん今日早いね」

「今日は研修だったの、言ってなかったっけ?」


お母さんはやせ形で、

昔の写真はアイドルみたいにかわいかった


「ねえ、奏」

「なあに?」

「夏休みだけど、少しお仕事手伝ってくれないかな?

 お盆とかで施設のアルバイトの人たちが人数足りなくって」

「いいよ」

(わたし、友達いなくって

 することないから、なんて言えないけど)

「やったーー、助かる

 おねえちゃんにも頼んだんだけど、

 アルバイトやらライブとやらでなんか忙しいみたい」

「‥少しでもいいんだけど、

 お小遣いとかもらえるのかな?」

「そうね、施設長さんに聞いてみるわね」

(携帯持ちたい、なんて言えないけど)


お母さんは介護施設に勤めている

いったことはないけど、すごくやりがいのある仕事だって

話してくれたことがあった


「ねえ、奏、今年も川越祭いくでしょ?

 おねえちゃんに頼まれて、浴衣2つ出しといたよ」

「わあーありがとう」



白地に黄色いはなの柄の浴衣と

紺色に白地の浴衣が寝室に2つかけてある

人が多い場所は苦手だけど

お祭りの雰囲気、屋台のにおい

夜でも明るい夜店の灯りが好きだ


「あれーいいにおい、今日カレー?」

「あ、お姉ちゃん!見てみて浴衣」

「ほんとだー、おかーさんありがとう

 お祭りの時、髪の毛やったあげるね」


4つ年上のお姉ちゃんは

高校2年生、しっかりしていて

なんでも自分で器用にこなすタイプで

自分とは正反対だとおもう

顔はわたしよりも童顔で、

2人でいてもいつも友達に間違えられる


「(ねえねえ、奏、お祭りなんだけど、

 彼氏も一緒でもいい?)」

「え!?それってわたし絶対お邪魔虫」

「(しっ、お母さんにきこえちゃう)」

「(え、2人でいってきたらいいじゃん)」

「(なんか、それは悪いって彼言ってて、

 悪い人じゃないから、一緒にいこ)」

「‥う、うん」



小さな時からおねえちゃんの持ってるもの

お洋服、おもちゃ、なんでも羨ましかった

大人の人とも、友達とも器用にこなす

おねえちゃんがいつも羨ましいと思っていた


小さな部屋で、

3人布団をならべて眠る

そんな家がわたしはすごく好きだった





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