冬のお姫様とおいしいパンの物語。
昔々、ある所にお姫様がいました。
それはそれは、とても綺麗なお姫様でした。
お姫様は真っ白なドレスを着て、真っ白な塔に住んでいました。
お姫様がいる真っ白な塔の先っぽからは、いつも、白くて、キラキラしたものがモクモク、フワフワと出ています。
あれは、何だと思いますか?
それは、綺麗な綺麗な雪でした。
真っ白なお姫様は、小さなお手々を合わせて、お願い事をしています。
お姫様のお願い事は、真っ白な雪に変わって、お空に飛んで行くのです。
それは、とっても綺麗な結晶でした。
けれども、とっても冷たい結晶でした。
お姫様はいつも独りぼっち。
きれいな服を着ても、きれい塔に住んでいても、とても寂しかったのです。
お姉さま達は、なぜ来てくれないのかしら?
私の事を忘れてしまったのかしら?
お姫様はあまりにも寂しいので、とうとうほっぺをぷぅと膨らませました。
すると、どうでしょう。
お姫様は、ふわりと風船のように飛びあがりした。
真っ白な塔を飛び出して、ふわふわとお空を上っていきます。
空を飛ぶお姫様に、小鳥さんがびっくりして、お目目をクルクル回しています。
お姫様は、ほっぺを膨らませたまま、ゆったりとお空を散歩しました。
すると空の向こうから、大きな雲が、やって来ました。
「こんにちは、冬のお姫様」
もくもく雲は、大きな声でご挨拶しました。
真っ白なお姫様は、それはもう、びっくりしました。
雲さんのお声が、とっても大きかったから?
雲さんに、冬のお姫様って、お名前を呼ばれたから?
いいえ、どちらも違います。
何といっても、とっても香ばしい、とってもいい匂いがしたからです。
そう、もくもく雲さんは、大きなパンだったのです。
冬のお姫様は、雲さんのパンを見て、お腹がぐうと鳴りました。
真っ白だったお姫様のほっぺは、真っ赤になりました。
どうぞどうぞ。雲さんが言いました。
ぱくぱく。雲さんのパンをかじります。
冬のお姫様のほっぺは、みるみる膨らみます。
雲さんをもぐもぐしていると、とっても元気になりました。
お姫様は、お腹一杯ぽんぽこりんになりました。
何だかいい気持ちなので、ふわふわしたパンのベットに寝そべりました。
すると、どこからか、女の子のおしゃべりが聞こえてきます。
お姫様が、耳を澄ませると--
もくもく雲には、春、夏、秋の3人のお姉さんが遊んでいるではありませんか。
冬のお姫様は言いました。
私を一人ぼっちにして、ずっとここで遊んでいたの?
ごめんね、冬ちゃん。でもね、ここのパンは、とってもとってもおいしいんですもの。
4人になったお姫様は、一緒にパンを食べました。
4人で食べたパンは、一人で食べた時よりも、びっくりするくらいにおいしかったのです。
けれども、冬のお姫様は言いました。
みんなが、とっても心配しているので、そろそろ塔に帰りましょう。
3人のお姉さんたちは、反対しました。
もくもく雲さんのパンは、おいしいんですもの。帰りたくありませんわ。
真っ白なお姫様は、桃色と、青色と、金色のお姫様に言いました。
それなら、みんなでパンを作りましょう。みんなで食べると、こんなにおいしいですもの。みんなで作れば、きっと、もっとおいしいパンが出来るはずよ。
4人のお姫様は、立ち上がりました。
もくもく雲さんにさよならを言うと、一緒に、ゆっくりと、真っ白な塔に降りました。
そしてみんなで、小麦粉を捏ねて、パンを作りはじめました。
春のお姫様は、柔らかな息吹を。
あったかパン生地はふっくら膨らみます。
夏のお姫様は、熱い口笛を。
膨らんだパン生地をしっかり焼き上げます。
秋のお姫様は、豊かな風を。
焼き上がったパンを香ばしい香りが包みます。
そして、冬のお姫様は、涼しさのヴェールを。
熱さを抑えて、パンをしっとりと見守ります。
出来上がったパンは、それはそれは、とってもおいしいパンでした。
もう、冬のお姫様は寂しくなんてありませんでした。
だって、おいしいパンと、お姉さんたちがいるのですから。
お願いごとのために合わせていたお手々で、そっと春のお姫様に触れました。
すると、塔の先っぽから、暖かな風が吹き出しました。
ポカポカがやって来て、野原や町に積もっていた雪は溶けてしまいました。
冷たくて真っ白な結晶は、キラキラとしたお水になりました。
春がやって来ました。
さらさらと流れる小川のはたには、小さくて、かわいい、真っ白なお花が咲きました。
お読みいただきありがとうございます。
散髪の待ち時間があまりにも長かったのを利用(理容)して、打ち直しました。子供への読み聞かせの場合は、言葉の意味を想像する楽しさもあるので、すべて平仮名表記としていました。しかし、自身でも読みづらいので「大人版」を投稿しました。
木枯らしは空へと帰り、町には春がやって来ました。今年度もよろしくお願いいたします。
パン大好き