「あ」だけで救う世界のいろは
改行された文の一文字目が、全て「あ」になっています!
アンドロイドに攻め込まれた世界の運命やいかに。
「あ」の詩の世界にようこそ。
アンドロイドが攻めてきた
あの日を境に
あたしたちの運命は
あっという間に変わった
預けておいたミドルネームと
安全装置を解除して
あたしはどこへでもいける
あなたと一緒なら
「危ないよ」なんて
アドバイスにならないわ
安定感MAXで
アリゾナ州までひとっ飛び!
会いたい人は
仰ぎ見る
青い空の向こうに……
悪の組織の襲来は
或る日突然のことだった
あたしは一人でいつものように
温めたばっかりの
餡掛け中華どんぶりを
あーんと大きな口を
開けて食べようとしていた
「あんた、こんなところでなにしてんだ」
あ、あれっ?!
開け放たれたドア!
呆れた様子の男の子。
「あんただけだぞ、避難していないのは」
「あなた、いったい誰?!」
「あー、もうめんどくさいなぁ。
餡掛けどんぶりは
あきらめてくれ。
アンドロイドに
遭いたくなんてないだろう?」
「ア……アンドロイド?!」
朝の光のように
あたりがぱっと
明るく照らされたのは
あたしの勘違いではなかった。
熱い!そう思った瞬間
鮮やかなまでの爆風が
あたしの家を包み込んだ。
あたしの身体は、
明後日の方向に
跡形もなく吹き飛ばされて……。
跡形も……
ある……?!
あれ?生きてる?!
「あれほど避難しろと言っただろう」
あの男の子の乗る飛行物体に
あたしは乗せられていた。
「あ……ありがとう……。って、
あああああああああっ!!!」
アパートは大爆発。
餡掛け中華どんぶりは
呆気なく炎上中。
「温め過ぎだよおおおお」
「あんまり食い意地張るな。
餡掛けはいつでも食えるだろ」
「朝ごはんからなにも食べてなかったのに……」
「アンドロイドに木っ端微塵にされたいのか」
「あなた、さっきからなんなのよ。
あたしの命を助けてくれたことは
有り難く思っているけれど……。
アンドロイドってなに?
あなたは誰?」
「あんたの部屋を襲ったやつらが
アンドロイド……所謂AI。
明け方、地球に攻めて来た。
あいつらの目的は人間の討伐、
アンドロイド軍による乗っ取りだ」
「アンドロイド軍による……乗っ取り?!」
唖然とした。
餡掛けどんぶりどころではない。
「アンドロイド軍進行は既に予期されていた。
暗部として秘密裏に組織された
安全対策本部のメンバーの一人が俺だ。
アンドロイド軍との戦闘で用いられるのが
あんたが今乗っているコレ、
アンドロメダー」
アンドロメダーとは、絶妙にダサいネーミング。
「アンドロイドの脅威から
安全対策本部が、市民を避難させている。
あんたは逃げ遅れの市民の一人だ」
「あわわ……ごめんなさい」
「安全対策本部」からの連絡なんて
あったかなぁ……?
あまり状況は飲み込めないけど……、
アンドロイドの攻撃から
あたしの命を守ってくれた人なのか。
「ありがとうございました……」
「当たり前のことをしたまでだ。
あんたをこれから避難所に送る。
安心して乗っていてくれ」
あたしはぐるりと見回して
アンドロメダーの中を観察した。
アタッチメントとか、
アダプターがたくさん。
あれ?なんかここ、光ってる……。
「あんた、勝手に触るんじゃない。
アンドロメダーは、
安全対策本部のメンバー……選ばれし者にしか
操ることができないんだ。
危ないぞ、大人しく座ってろ」
謝って引きさがろうとしたその時。
アラーム音がけたたましく鳴り、
アンドロメダーの中に響いた。
赤い警報ランプが
あたしたちを包み込む。
「アンドロイドの襲撃だ!来るぞ!」
頭を抱きかかえられた
あたしの顔は思わず
熱くなった。
あ、あたしのバカ!
赤くなってる場合じゃないっての!
赤いランプのおかげで
あたしの顔色は
明るみにならないで済んだけど……。
甘酸っぱい気持ちを押しやる。
頭を動かして外を伺うと
アンドロイドたちが、
アンドロメダーのそばまで
集まって来ていた!
「あれが、
あいつらが、
アンドロイド軍……!」
アンドロメダーと似た形の
アトラクションめいた乗り物に
アバターのような外見、かつ
「アンドロイド」風の
アルミ色のやつらが
相乗りしているのが見えた。
アンドロイドたちは
アンドロメダーに乗っている
あたしたちめがけて、
アタックを掛けようと取り囲んだ。
「アンドロイド軍の……
あいつらの、好きにはさせない!」
あたしの命運を握るパイロットは、
熱い闘志を燃やした瞳で
アバターたちを睨みつける。
「あんた!
安全装置しっかりつけとけよ!」
「あ、安全装置ぃ?!」
ああ、これかな?
青い紐を引っ張ると、
足元にシールドが
現れて、固定された。
安全装置をつけたのを確認すると
アンドロメダーは急旋回した。
「アタックをかけるぞ!」
相対した敵軍たちを、
アンドロメダーは
穴だらけにしていく。
安全対策本部……!かっこいい……!!!
アンドロイドは瞬く間に
あたしたちの周りから消えた。
「アンドロメダーって、強いのね!
ありがとう、また助けられた」
「あのな、そういう時は普通
アタッカーの腕を褒めるもんだぞ」
「あ、ごめんなさい」
あなたは十分素敵でした……なんて
あたしの口からは言えないよ……。
「あっ!?う、うしろ!」
アンテナ傍受で拾いきれなかった
アンドロイド最後の一機が
あたしたちの後ろに回り込んでいた!
あたしが叫んだ時にはもう遅く
厚みのあるはずの
アンドロメダー本体は
嵐の中にいるときみたいに
圧迫され、大きく揺れた。
アンドロイドの攻撃を受けたんだ!
安定感を失って、
暗転する機内。
「安全なところへ一旦逃げようよ……!」
あたしが振り返って立ち上がると。
あの男の子は
頭と腕から
赤い赤い血を流し、ぐったりしていた。
「あんた……座ってろ。
危ないだろ、俺がなんとかするから」
喘ぎ声交じりの言葉で語りかけてくる。
危ないのはどっちなのよ!
「危ないったって、
あなた自分の状況分かってるの?!」
「あと少し休憩すれば、
頭も、腕も、回復する……いや、回復させる。
あんたは黙って待ってろ」
飴をポケットから取り出す男の子。
あまりにも怪我がひどいのか、
握力が低下した手では、
飴玉を口に運ぶことも
能わなかった。
あんな状態で、
アンドロメダーを操作して
アタックを再度かけるなんて……無謀だ。
あたし……もう見てられない!
青い紐を引っ張って
安全装置を解除する。
脚の拘束が自由になり、
あたしは運転席へと転がり込む。
「あっ……!おい!やめろ!
あんたは適合者じゃない……!
アプリ認証されないと、
アンドロメダーに触れても、
操ることなんかできないぞ!」
「あー!もう黙っててよ、うるさいなぁ!
あたしだってそんなのわかってるけど……!」
赤いランプの横、パネルを叩く。
『アカウントを確認できません!』
開かないっ……!
慌ただしく連打するけど、意味はない。
アンドロメダーの虚しい電子音が響く。
『アカウントを確認できません!』
ああ、もう、どうしよう。
アンドロメダーごと、このままじゃ
アンドロイドに撃ち落とされちゃう!
あたしのせいで、この人も死んでしまう!
溢れてくる涙が瞳からこぼれて、
アンドロメダーにぱらぱらと落ちる。
あれっ……?
暗転していた機内の中。
あたしの周りを中心にして、
あたりがほわっと
明るくなっていく。
温かい光に包まれていって……
あったかい、ぽかぽかする……。
『アカウントを認証しました!』
「!! 開いた!」
「?! 開いただと……?!そんな馬鹿な!
あんた……いったいなにを……?!」
「あきらめない心!ってやつよ!
あたしに任せて!」
「あっ、バカ、お前……!
開いたからって操縦できるわけじゃ……!
アカウントがあるだけじゃ交代は」
『アダプション、オッケー!』
「アダプなんたらもオッケー!だって!ほら!」
「……あんた一体……何者なんだ……!
安全対策本部の人間だったのか……?!」
「あたしは逃げ遅れたただの一般市民よ!」
〈アンリミテッドモード 接続〉!
アンドロメダーの機体全体が
紅く発光しているのがわかった。
「ア……アンリミテッドモードだと?!
あの幻の、無限スキルが発動したっていうのか」
アンリミテッドモード、がなにを意味するか
あたしにはさっぱりわからないけれど。
「紅くてなんか強そう!イケる気がする!」
「……アタックを……かけるのか?!
アンリミテッドモードとはいえ、初操縦で
アンドロイドと闘うっていうのか?!」
「当たり前っ!」
操り切れるのかな?とか。
相手を倒せるのかな?とか。
あんまりにも心配だらけだけど。
あたしがやるしかないじゃない!
「アタッカーチェンジ!」
アナログな作りの操縦席が
明け渡されて、
アンドロメダーのパイロットーー
アタッカーが変更された。
「相手になってやるわ……!
アンドロイド!覚悟しなさい!」
アンドロメダーの向きを変え、
アンドロイド軍を捕捉する。
あれだ!
ああ……なんだか!歌わずにはいられない!
『♪ 網目をぎゅっ!とすり抜けて
あっ!という間に
アンドロメダの南西に
アンチユーザーのエネルギー!
集めてどんっ!と爆発させよっ
預かってっ!
あたしのハート♡』
アタックをかけながら
アンドロイド軍に攻め込む。
アンドロメダーの機体が、
紅味をどんどん増していく。
「あんた!おいなに考えてるんだ!
遊びじゃないんだぞ?!」
(台詞)
『アピールタイムはここからよ♡』
「?!……あいつの歌のせいか……?
アンドロメダーの攻撃力が……
上がっていく……?!」
『♪明日をきらっ!とトキメいて
あっ!という間に
あざとさ可愛さあどけなさ
あたしを創るエネルギー!
愛してばんっ!と爆発させよっ
荒らすわよっ!
あなたのハート♡』
アイドルきどってノリノリで
アニメさながら
アクティブに!キメるッ!
あと少し……!
あと少しで、倒せる……!
〈アンリミテッドモード 終了!〉
「「あっ」」
アンドロメダーは
紅く光るのを辞めて、
あたしのターンは
あっけなく終了した。
「危ない!気を抜くな!」
あたしの集中が切れたタイミングで
アンドロメダーは
圧縮空気砲を放っていた。
嗚呼、最早これまでか?!
汗という汗が吹き出るのを感じる……!
あきらめかけて、力を抜いたそのとき。
あたしの手を、パイロット様の手が包み。
アタッカーハンドルを支えた。
「あきらめない心!だろ?!」
「あいつを!倒せる!倒す!
あと少しだ!違うか!」
あたしは目を見開いた。
「あきらめない……心……!」
アンドロメダーは
圧縮空気砲を辛うじて避け切ると、
アンドロイド軍に再度
相対した。
「赤いボタン長押し10秒チャージ。
アンドロイド対策ビーム、
アンドロバスターを発射できる!」
「アンドロバスター!ダサイ!」
「赤いボタンは俺が押しておく。
あんたはその間、
アンドロイドの攻撃を避けつつ
アンドロバスター発射の位置どりを作れ!」
「あいあいさー!」
あたしは……
あたしたちは……
あきらめない!絶対に!
あたしたちは10秒のカウントをする、
あっという間に普段なら流れる10秒を
飽きるほど長く感じながらーー。
「アンドロバスター、エネルギー充填完了!」
「アンドロイド射程内、オッケー!」
あたしたちは、二人で一つの
アタッカーを握りしめながら、叫んだ。
「「アンドロバスター!ファイアー!」」
・
・
・
・
・
「あんた本当に、本当に本当に、
安全対策本部の人間じゃないんだな?
アカウント、なんで認証されたんだ?
アダプションも、なんで取れたんだ?
〈アンリミテッドモード〉どうやったんだ?」
アンドロイド軍の奇襲を無事乗り切ったあと。
安全地帯で一息つきながら
あれこれと話を詰めていた、のだが。
「あたしはなんにも知らないってば!」
「アンドロメダー乗ったの初めてなんだよな?
操れるなんてどうなってるんだ?
アンドロメダーに乗るのに
安全対策本部がどれだけ訓練してるか……!
あとあの歌はなんなんだ?!必要なのか?!
当てつけか?!俺らに対する!!!」
「あーあーあー!もう!
あたしだって訳わかんないんだってば!」
頭が爆発しちゃうってばー!
「あんまりまくしたてると傷開くよ?!」
「あんたなぁ、そもそも……」
「あっ!それ!」
あたしはとうとう、質問攻めを切った。
頭の爆発を阻止する……ためだけでなく、
あたしがずーっと気になっていたこと。
「あの……その、
あんた、っていうの。辞めて。
あたしにはあたしの名前があるし……。
アタック、二人でした、仲……だし?なんて」
「あ、えっと……悪い」
「「あなたの、名前は?」」
あたしたちが尋ねあった瞬間。
アラーム音がまたしても鳴り響いた。
アンドロイド?!またぁ?!
アンドロメダーの中を覗くと、
青いランプが点滅しているのが見えた。
「安全対策本部からの伝令だ」
安心して胸を撫で下ろす。
『アンドロメダー3A-1914号機。
安全対策本部に帰還せよ。繰り返す。
アンドロメダー3A-1914号機。
安全対策本部に帰還せよ。……』
「安全対策本部に帰るぞ。乗れ」
「あたしも?!」
「当たり前だ。
アカウントもないのに
アンドロメダーを初見で操縦し、
〈アンリミテッドモード〉を解除し、
アンドロイドを見事撃破した
アンドロイド対策の救世主様だぞ。
麻袋に入れてでも連れていくからな」
麻袋……拉致じゃん……。
「安全対策本部のメンバー総出で尋問だ。
あんたが何者か、白状してもらうからな」
アンドロイドを捉えた時と同じ、
熱く、鋭い眼差し。
ああああああああ……!
あたし、これから一体どうなっちゃうのぉ〜?!
「あっ……、悪い……。
……あだ名のほうが、いいのか?」
「あだ名?」
「あんた、じゃなくて名前で呼ばれたいんだろ」
「あっ……えっと……あたし」
甘酸っぱい気持ちが胸に込み上げる。
あたし、どうしちゃったんだろう……。
「あたしの、名前は……!」
明日のことなんてわからないけれど。
あたしは、どこへだって飛べる……!
あなたと一緒なら!
「あ」だけの世界、いかがでしたか?
第2話はひらがなを変えて書いていきます。
感想や評価、是非ともお待ちしております。