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第六話 学園王国 後編

 モノクルに映し出されたマップには、白い点滅が雑木林の中にポツンとひとつだけある。


(こんなところに・・・誰だろう?)


 少し考えてから様子を見に行くことにしたリアン。建物の裏に回ってみると、木々が立ち並んで鬱蒼としているが人の姿は見えない。

 少し首をかしげながらもマップの位置を確認すると、パネルを出して首から下に装備を纏った。そして、自分が乗っても大丈夫そうな太い枝に狙いを定めワイヤーフックを射出し固定すると、各部位から反重力子を展開して飛び上がる。勢いよくワイヤーに引っ張られ、あっという間に目標まで飛んだリアンは一回転しながら着地した。


「うわっ!!?」

「えっ?」


 そこには目を大きく見開いて驚く少年が腰掛けていた。人がいきなり飛んできたのだから当然の反応ではあるが。


(反応はこの子のだったんだ)

「だ、誰だよオマエッ!?」

「あぁ、驚かせてごめんね。人の気配がしたから・・・。でも、こんなところで何してたの?」

「なんでもねぇよ・・・。てか、すごい勢いで飛んできたけど魔法士なのか?」


 特に降りれないというわけでもなさそうなので、リアンは少年の隣に腰掛けた。少年は茶髪に赤い瞳の整った顔立ちで、所謂美少年であったが顔や手足は擦り傷が目立つ。


「ううん、これはボクの特殊能力みたいなもの。それにボクはまだ魔法使えないし」

「使えないって・・・、魔法も使わずにあんな風に飛べんのかよッ!?なぁ、それオレにも使えるかッ?」

「うーん、かなり特殊なものだからボク以外は・・・」

「そっか・・・。格好良かったんだけどな・・・」

「・・・」


 残念そうに落ち込んでしまった少年。格好良いと言われて気を良くしたリアンはそんな彼を見て、慰めになればとひとつの提案をすることにした。


「じゃあさ、体験、してみない?」

「えっ?」






「それじゃ、しっかり捕まっててね」

「お、おう」


 緊張気味な少年がリアンの首に手を回して背中におぶさる。しっかり捕まっているのを確認すると、リアンは左腕のワイヤーフックを他の木に向けて射出した。


「よーっし、いくよー」

(こいつ、髪サラサラだしスゲーいい匂い・・・いやいや、何思ってんだオレ!こいつは男だぞ!)


 なにやら勘違いをしている少年に気づくことなく、リアンは足場から飛び出した。

 ふたりは反重力子によって生み出された力場を、イオンエンジンとワイヤーによって縦横無尽に飛び回りだす。

 空中でワイヤーフックを付け替えながら木々をスレスレに交わして飛び回る姿は見ているものをヒヤヒヤさせるが、リアンにしてみればこんなのは慣れっこだ。


「うおおおおおおおお!!すっげええええええ!!」


 少年も気に入ってくれたようで両手を上げて喜んでいる。


「ってアレ!?手を離しちゃダメだってば!!」

「あっ・・・」


 注意したまさにその瞬間。風をもろにうけた少年の身体はリアンから離され、重力に引かれて地面へと落ちていった。


「おわああああああああ!!」

「クッ!!」


 急いで方向転換すると、エンジンを目一杯ふかして少年へと向かう。少年との距離はあと5m程。

 すぐに少年が落ちる位置を計算したリアンは、地面スレスレを飛んで正面からキャッチして振り子のように空中へ舞い上がった。


「もう!離さないでって言ったのにっ!」

「へへっ、わりぃわりぃ」

「今度は離さないでね!」


 あまり反省しているようには見えない少年を正面に抱きかかえたまま飛び続ける。そして、最後の締めとして高い木の頂辺にワイヤーをかけると、そのまま勢いよく突き抜けた。


「すっげぇ・・・」


 木々を抜け空高く舞い上がったリアン達は、学園を一望できる高さまで来ていた。時間にしてみれば数秒だったが、リアンのすぐ横で呆けた顔の少年には何倍にも長く感じたことだろう。

 イオンエンジンをふかしながらゆっくりと地面に降り立つ。少年は未だ興奮冷めやまないようで腕をブンブン振り回している。


「お前すごい奴だな!!どうやって飛んでんだコレ!?」

「えっと・・・、(存在が確立された)反重力子によって生み出される無重力空間を、(未来の)イオンエンジンとワイヤーによって飛ぶことができる(設定)・・・だったかな」

「あー・・・よくわかんね。なぁ、魔法使えるようになったらオレも同じように飛べんのかな?」

「どうだろ?あんまり魔法を見たことないから。でも先生は、いろんな可能性があるって言ってたからいつかできるんじゃないかな」

「そっか・・・」


 途端、何かを考え始めた少年だったが顔を上げるとポツポツと話始めた。


「オレ、そこそこ有名な貴族の三男なんだけど、魔法とか全然使えなくってさ。兄貴達は優秀なのにオレだけダメダメ・・・。段々、魔法勉強するのも嫌になって逃げ出してきたんだ」

(それで、あんなところにいたんだ)

「でもオレ、もう一度頑張るよ。んで、いつかお前みたいに空を飛んで・・・いや、空を駆け回ってみせる!!」

「そっか」

「おう!!言っとくがこの話、誰にもすんなよ。お前を友と見込んでの話だからな」


 最後のセリフは少し恥ずかしそうだったが、リアンとしても同世代の男友達ができるのは嬉しかった。


「うん。もちろん誰にも言ったりしないよ」

「へへっ。オレはソル・マイヤー。来年から正式にこの学園に通うんだ」


 そう笑いながら手を差し出してくるソル。どうやら彼とリアンは同学年になるようだ。

 リアンも握手で返す。


「うん、よろしくねソル。ボクはリアン。ボクも来年からこの学園に通うんだ」

「本当か!!そいつは嬉しいな。にしてもお前ちゃんと剣握れんのか?手も小さいし、リアンってのも女みたいな名前だな」

「うん?まぁ一応、女の子なわけだし」



「・・・・・・えっ?」



「どうしたの?」

「だだだだってお前、『ボク』って!それにズボンもッ!!」

「ボクは昔からボクだからね。ズボンは戦闘服だからっていうのもあるけど・・・えっ?・・・あっ!ごめん。ボク、人待たせてるの忘れてた」


 リアンは握っていた手を解くと走り出した。


「お、おい!」

「またねソル。楽しかったよ」


 そのままリアンは去っていった。ソルは呆然として右手を見つめると、リアンと触れ合った柔らかい感触や顔を近づけた時の甘い香りのことが思い起こされ、頭の中がいっぱいになった。


「ぼっちゃまーーーーッ!!」


 遠くからソルには聞き慣れたはずの、執事が自分を呼ぶ声が聞こえてくる。が、ソルは右手を見つめたまま微動だにしない。


「はぁ・・・はぁ・・・。こんなところにいらしたんですか!

 さぁ!せっかくキュレア学園で特別授業を設けて頂いたのですからしっかりと・・・ぼっちゃま?」

「えっ?・・・なぁっ!?なななななんだセバスチャンかッ!?いつからいたんだ!!?」

「いえ、先程から。どうなさいました?お顔が赤いですが・・・、まさかっ!?風邪でも引かれましたか?それなら今日はお休みになって・・・」

「いや、いい!!授業にもちゃんと出るから!!」


 初老の執事から逃げるように駆け出すソル。自分でもわかるほど熱くなった顔が、教室に着くまでに冷まされることを願いながら。


 余談だがこの日、少年は初めて眠れぬ夜を過ごしたそうな。






「いやぁ、ありがとヨーコ。すっかり忘れてたよ」

「ん」


 ソルとの会話中、ヨーコが割り込んできてシエラたちが探していることを伝えてきた。ただのトイレにしては長すぎると思ったようだ。

 川原に戻ると心配していたシエラに理由を聞かれたが、遊んでいたとバレないために建物の中で迷っていたことにした。


「すん・・・、すんすん。リアン、なにか良くない匂いがする」

「えっ!?まぁトイレに行ってたからね」

「リアンちゃん。やっぱりアナタ、恥じらいが足りないわ」

「そうじゃなくて、なんというか・・・」

「そ、そんなことより、フランはどうしたのかな?」


 いつの間にか鼻が効くようになっていたステラを誤魔化すために聞いたのだが、実際フランの姿が見えないのは気になっていた。


「フランちゃんのお父様の会談が終わる時間だからもう帰ったわ。私たちもあと少し見たら、今日はお開きにしましょ」


 シエラの言葉に頷いて、武芸の稽古をいくつか見てお開きとなった。




「じゃあ、明日の朝迎えに来るからね。早く寝るのよ」

「はい」

「はーい」


 翌日は授業風景を見学する事となり、シエラと別れた。泊まる場所は寮の一室を学園から用意してもらった。

 ただの見学者にしては、学園長との挨拶があったり寝床も用意してもらったりと至れり尽せりだ。


(これもセレーナ先生のおかげなんだろうな)


 リアンは心の中でセレーナにお礼を言うと、疲れて先に寝てしまったステラの隣で寝支度をする。その時、ふと自分が未だモノクルをかけていることに気がついた。


(そういえばフランにメンバーバッジを預けたままだ)


 遠隔操作で消せるのだから、特に焦ることはなかった。メンバーバッジはそれぞれのチームシンボルの形となっているので、そのデザインを気に入ってくれてリアンも嬉しかったのを思い出す。

 マップを表示させたのもなんとなくだった。

 ただ、フランはもう寝てしまったのだろうかという何気ない遊び心だった。






 マップに表示されたフランを示す緑の点が、王都から離れていくのを見るまでは。





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