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第二十話 マモハン



 ギルドからの直接依頼を受けてから三日後。

 冒険者ギルドの前にリアン、ガルマン、アリュマージュの三人が揃っていた。


「バカじゃねえの?」

「グッ……バカにバカと言われる日が来るなんて……」


 チームメンバーに愛想を尽かされ、慌てて説得を試みたアリュマージュであったが、誰か一人を選ぶという要求は変わらなかった。追い詰められた彼女は「じゃあ、ミナトちゃんで。ね、選んだから戻ってきて」と言った結果、チームは事実上解散となったのであった。


「まあ帰ってくるわけでもないし、とにかく中に入ろ」

「うぅ……ミナトちゃんまで辛辣ニャ~」


 ギルド内へ入ると、すぐに先日の受付男性と目があった。後ろには見覚えのある赤髪の女性が控えている。


「ミナト様。お待ちしておりました」

「本日はよろしくお願いします。それと、リジュさんも」

「覚えていてくれたんですね! や、やったぁ」

「リジュ君、仕事中だから落ち着いて。さて、本題に入る前にこちらをご覧下さい」


 そう言って差し出された書類を受け取り目を通す。


「特別昇格試験?」

「はい。ギルドはこの依頼は昇格試験と同等の価値があるとみて、ミナト様には内容次第でランクアップ可能な特別昇格試験を受けていただきたいのです」

「おお! 特別試験。あるとは聞いてたけど実際受けた人を見たのは初めてだよ。さっすがミナトちゃんだね」

「オレも初めて見たな。まあ姐さんがいつまでも一つ星ってのは割に合わんわな」


 後ろから覗き込んでいたガルマンとアリュマージュが、驚いたように声を上げる。


「そんなの私が受けていいんですか?」

「もちろんです。と言いましても、私も正直なところ上が受理するかわかりませんでした。ですがこうして無事通ったのも、ミナト様の活躍が認められているからこそです。ささ、こちらにお名前をいただければ全て完了です」


 念のため内容の隅々まで目を通したが、特別昇格試験を受けたからといってこちらを束縛するような事は無いようだ。


(ランクが一つ上がるだけで大仰だなぁ)


 ガルマンから特に注意喚起もないようなので、少々大袈裟に思いつつも書類にサインした。


「ありがとうございます。申し訳ありませんが私は最終確認がありますので、後の事はこちらの者が案内いたします。リジュ君、頼んだよ」

「はい! それでは皆様こちらへどうぞ」


 ぎこちなくはあるが、最初の頃よりもだいぶ落ち着いたリジュが先導する。


「リジュさんは新規登録受付の他にも仕事を任されるのですね」

「いえ、今回は面識があるということで選ばれたので特別です。それより、この前は清黒蝶様にお恥ずかしいところを見せてしまって申し訳ありませんでした」

「気にすることないですよ。あと清黒蝶って呼ばないでください。できれば様付けも結構ですよ」

「そ、そんな! 貴女様を呼び捨てだなんて……」

(ああ、本当に姉妹なんだなぁ……)


 嘗てのやり取りを思い出してしみじみしている内に、ひと組のチームのもとへ案内された。どっしりと構えた壮年の男性が三人と、そわそわと落ち着きのない青年が一人。


「お待たせいたしました。こちらがガルマンさん、アリュマージュさん、そしてあのッ! 清黒蝶ことミナトさんです」

「なんかアタシらオマケって感じニャ~」

「それで十分だ。むしろ身に余る」

「そんなことないよ。頼りにしてるんだから」

「続いて、こちらがゴブリン討伐を引き受けていただいたチーム『セルクル』の方々です」


 紹介されたクルセルの先頭に立つ、厚い鎧に覆われた男性が近寄ってきて手を差し出してきた。握手に応じると、長年剣を握って出来たであろうマメでその手は岩のように硬かった。


「ケヴィンだ」


 それだけ言うとリアンが何か言う前に、すぐに引っ込んでしまった。入れ替わるように別の男性が前に出る。


「オレはパトリス。わりいな。ウチのリーダーはいっつもこんな感じでぶっきらぼうなんだ」


 禿げ上がった頭とガルマンに勝るとも劣らぬ体格はそれだけで威圧感があるが、当人は実に人好きのする笑みをする。


「ル、ルノーです。よろしくお願いします!」

「オレはエディ。よろしくな」


 いまだ緊張気味なルノーや、その反対に軽い調子のエディの自己紹介も終わり、リアンたちも軽い挨拶を済ませると早速討伐へと向かうべくギルドを出発する。


「きゃっ!?」

「おっと」


 リアンがギルドを出たところで横から走ってきた少女とぶつかりそうになった。見れば黒地にフリルがふんだんにあしらわれた、所謂ゴスロリと呼ばれる衣装を着込んだ少女が翡翠色の大きな丸い瞳をぱちくりさせている。


「大丈夫?」

「うん。おねーさんごめんなさい」

「あんまり走っちゃだめだよ」


 軽く手を振って再び歩き出す。




「あれって前見えてるのかなあ?」

「きっとミテみれば(・・・・・)わかるよ」

「だねだね! ンフフ♪」


 一人ささやく少女は、まるでその瞳の中に閉じ込めるかのように清黒蝶を見つめ続けていた。





 討伐依頼を受けた一行はリーン草の群生地まで問題なく到達した。最初のうちはアリュマージュが男臭さに耐え切れずリアンにべったりくっついていたが、さすがに前回ゴブリンが出没した場所に着く頃には先頭に立って前方警戒にあたっていた。


「マッドボアの死体はまだしも、ゴブリンの死体も残ってねえ。報告の通りか」


 ガルマンが呟く。

 リアンたちの報告を受けて翌日、調査に訪れたギルド職員によると血痕や戦闘の跡は見つかったものの、魔物の死体は一つもなかったという。


「でも、なんで死体がないんでしょう」


 セルクルの最年少であるルノーが疑問を呟いた。その疑問にパトリスが振り向く。


「恐らくだが、ゴブリンが持ってたんだろう」

「なんのためにですか?」

「そりゃ食うためだろ」

「えっ! だって同じゴブリンじゃ……」

「魔物は人とは違う。どれだけ姿形や小手先を真似ようともな」


 それまで一言も喋らなかったケヴィンがルノーを諌めるように口を開いた。


「奴らにとって生物とは食うか繁殖に使うかしか考えてはいない。見た目で判断するな」

「は、はい。すみません」


 安全を確認しつつ、一同は再びゴブリンの巣のある場所へと歩き始めた。

 途中、考え込んだ様子のリアンにガルマンが気づいた。


「姐さん、なにか考え事ですか?」

「ん? ああいや。さっきのケヴィンさんの言ったこと、私も散々教えられたのを思い出して懐かしくてね」

「ミナトさんにも師匠っていたんですか!?」


 ルノーが驚いたように会話に入ってきた。


「ええ、もちろん」

「でも話では、信じられないような力を使えるって」

「特殊な力であることは認めますが、それは戦いでの選択肢が多いってだけで、それを扱うのはあくまで私自身ですから」


 十八番である銃器や機動による戦闘を人一倍理解しなければならないのは使い手である彼女自身だ。宝の持ち腐れのまま彼女の言う『みんな』を助けたいなどと言ったところで妄言にしかならないし、最悪自身すらも守ることなどできはしない。


(折角ヨーコからもらったんだから十全に使いこなせないとね)

(ん)


 リアンの上でふわふわ浮いているヨーコが嬉しそうに微笑む。


「おう、ルノー。今のうちに憧れの清黒蝶様にしっかり教わっておけよ。こいつ、アンタの詩を聞いてからいつか自分もって調子に乗っててなあ」

「パ、パトリスさん! その話を今しないでください!」

「おいおい、雑談も結構だがそろそろだろ?」


 アリュマージュと共に前方警戒にあたっていたエディが振り向く。

 地図で現在地を確認すると、ゴブリンの巣まであと少しというところまで来ていた。


「しっかし、話には聞いていたが本当にこんな近くに……ありえなくはないがあの警戒心の強いゴブリンがって感じだな。それにもう一つ、報告書の内容通りだとすると……」

「ああ。巣はこの先の小高い岩山の二段三段と少々高い位置につくられているのを見た」

「まったくよ。こっちに見つけてくれって言ってるようなもんじゃねえか」

「妙ですね。普通は草木や岩で入口を隠すはずなのに……」

「そういう気分だったのかな?」

「アリュマージュじゃあるまいし」


 一同の疑問はもっともで、ゴブリンの行動パターンに例外が多いのだ。


「まさか変異種か?」

「姐さんが倒したやつらにその兆候はなかった。もしかしたらゴブリンをまとめている奴がって可能性はあるが」


 魔物の中でも通常と違う成長をする個体が極稀に確認されることがある。一口に変異種といっても通常より多少優れている程度のモノもいれば、全体のバランスを崩す程のモノが現れたこともあるという。


「それじゃあまずはエディとアリュマージュに先行してもらい巣を確認した後、周囲を確保し突入する」

「先行突入は私が行きます。夜目が利くので」

「……わかった。じゃ各自ミナトに続く。パトリスは入口で見張りだ。行こう」


 ケヴィンの言葉に頷き、一同は立ち上がった。


 その時である。


 地面から小さな振動を感じたかと思った瞬間、突如として鳴り響いた激突音が地響きと共に衝撃となって一同を震わせた。

 地図を確認せずともわかる。音の発生源はゴブリンの巣がある方向だ。

 

「ッ!? なんだってんだ一体!?」

「アタシ見てくるよ!」

「おい、ジャジャ猫ッ!」

「大丈夫だって……えっ?」


 真っ先に飛び出したアリュマージュの背後から影が一つ彼女を抜き去った。


「悪いな。一番乗りはこのエディ様がもらうぜ」

「おい、エディ!」

「ちょっと、それはこのアタシの役目だってば!」


 エディとアリュマージュはそのまま競うように駆けて行ってしまった。


「ウチのジャジャ猫と同レベルだな」

「あはは……エディさんはいつもあんな感じなんですか?」

「えっ? ああ……いや、どうかな」


 リアンは同じチームの事をもっともよく知ってそうなパトリスの反応を不思議に思った。すると表情から察したのか、ケヴィンが答えた。


「奴は臨時みたいなもんだ。さあ、オレ達も行くぞ。だがこの先に何があるか不明だ、各自警戒を怠るな」


 それ以上の詮索は不要と判断して思考を切り替えたリアンはグリップを強く握り締めた。


「ガルマン。ちょっと作業するから周囲をお願い」

「わかりやした」

「あの……いまだに信じられないのですが、それは本当に銃なのですか?」


 道中、リアンが掛けていたソレをルノーに限らずセルクルのメンバーはずっと気になっていた。銃器による中距離戦闘と説明していたが、重厚な鈍器にしか見えないソレが本当に銃であるのかさえ疑っているようだ。


「銃ですよ。ただちょっと……常識からズレてるかな。いろいろと」


 まるで常識の外側から取ってきたような《UTS-15》を持つリアンは、困ったように首を傾げた。





 目的地に到着すると、崩れた山肌の手前で言い争うエディとアリュマージュを見つけた。


「だからアタシの伸ばした腕のほうが先だってば!」

「いーっや、オレの指先が先だったね。だいたい、お前はこの場所に来たことあったんだろ? 初めて来たオレとで僅差なら次からは圧勝だな」

「フライングした癖に何言ってるかニャ」

「ほお? そんなに言うなら、もう一回やるか?」

「へえ? わざわざ恥をかきたいなんてね。いいよ、のってあげる」

「いいわけねぇだろ」


 ガルマンの拳がアリュマージュの頭上へと振り下ろされると「フギャ!」とこぼしてうずくまった。エディの方はというと、ケヴィンにケツを蹴られていた。


「ったく。で、これはどういうことだ?」


 周囲を見回すと崩れた岩が散乱しており、所々潰れたゴブリンの死体が転がっている。目的であった巣の入口があった場所も完全に塞がっている。


「落盤か?」

「たぶんな。オレたちが着いた時には全滅だった。ったく、肩透かしもいいとこだぜ」

「無事に終われたのならいいじゃないですか。見たところ生き残りもいないみたいですし」

「いえ、まだいます」


 油断していたわけではないが、先ほどまでの彼女とは別人のような声色にルノーは驚いた。見ると彼女は戦闘態勢を解いておらず、積み上がった岩山に銃口を向けている。


「そこの岩山の中に三匹です。ゴブリンでは無いかもしれません」

「岩山の中って……どうしてそんなことがわかるんですか?」

「詳しくは省略しますが、私は魔器により生命の反応……光を見ることができるので」

「そんな……生命の輝きそのものが見える魔器なんて……そんなの伝承でさえ見たことないですよ!」


 彼の驚きはもっともで、ケヴィン達もさすがに信じられないといった様子だ。反対にガルマンとアリュマージュは警戒を強めた。


「姐さんが言うのなら間違いねえ」

「そうね。でも、岩に埋もれているのならすぐ死んじゃうんじゃない?」

「初めはそう思ったよ。けど、ここに着いた時からずっと反応が消えないんだ。それにそのゴブリンの亡骸」

「な、なにかありますか?」


 あらためて周囲を見渡すと、潰れたゴブリンの死骸と落ちてきてきたであろう岩が散乱している。


「頭や上半身など大きく潰れているのが殆どですが、その周りに散らばった岩が小さすぎます」

「く、砕け散ったのではないでしょうか?」

「いや、それなら今度は少なすぎる。おいおい、もし清黒蝶殿の言う通りならそのなにかがやったてことかよ」


 エディは不穏な雰囲気を察して警戒の色を強めた。それに続くように他のメンバーもそれぞれ得物を構える。


「私が行きます。ガルマンもお願い」

「へい」


 二人は生体反応のある場所の真上に登ると、ガルマンが岩を退かすために手をかけた。リアンはなにかが飛びかかってきても対処できるよう、構えたUTS-15のトリガーに指をかける。

 

「むッ!?」


 ガルマンがいざ持ち上げようと力を込めるが岩はびくともしない。

 それでも腰を入れ、全身で持ち上げようと踏ん張ると不意に岩が上がりだした。しかし、それは持ち上がったのではなく――


「退避ッ!!」


 リアンの合図で二人は弾かれたように飛び降りた。


「コイツは……ッ!?」

「ああ。こいつは岩山の中にいたんじゃねえ」


 ケヴィン達の視線の先では、岩山が低く唸りながら立ち上がっていた。





あけましておめでとうございます

師も走るなら弟子は激走

そんな年末を越えて2017年を迎えました 今年もどうぞよろしくお願いします

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