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第十五話 清黒蝶

 民衆の歓声が背後から遠く聞こる。

 素顔を隠す仮面にはヒビが入って今にも砕け散ってしまいそうだがそれにも構わず、薄暗い路地をひた走る。


「はぁ、はぁ……あっ!」


 遂には足がもつれて前のめりに倒れてしった。起き上がろうと足に力を込めた時、背後から近づく足音に気がつく。恐る恐る振り返ると、逆光で表情はよく見えないが癖のある金髪の少女が立っていた。



「やはり、あなただったのですね――」






『まず、リアンさんは清黒蝶というものを集まった民衆に強く刻みつけてください。それも、できれは他者が真似できないような。これは今後の偽物対策でもあります。そしてあの仮面の方ですが――』


 バイザーにライダースーツ、ボディアーマーに身をつつんだリアンは屋根の上から広場を見下ろしながら馬車の中でフランに言われたことを反芻していた。足元にはフードをつけた男が倒れているが気を失っているだけだ。

 人だかりの外には騒ぎを聞きつけた衛兵が事態の収集を図っているが、人手が足りていないようだ。騒ぎの中心では、いつぞやの仮面の子とこれまたどこかで見た黒い仮面をつけた大男とその他大勢。


(あれ? あの子……)


 仮面の子の髪が黒髪でなく銀髪であることに気がつく。フランに確認をとるべくメンバーバッジに意識を向けると、今まさに連絡を入れようとした相手から通信が入った。


『リアンさん』

「フラン? ちょうどよか……」

『リアンさん、お願いがあります』


 フランはまるで、鉛のように重い空気を喉から必死に引っ張り出すように言葉を紡ぎ出す。


『これは私の我が儘です。悪名を広めたわけではありませんが、勝手に清黒蝶の名を語りこのような事態になったのは自業自得。それでもどうか……どうか、あの方の尊厳をお守りください。私にできることでしたらなんでも――』

「あの方って、仮面の子? 良いよ」

『あっさり!? 本当によろしいのですか?』

「うんまあ、いいけど」


 愛着があるわけではないが、前世でいえば自分のゲームチーム名が勝手に使われていたのだ。その結果、怖いオジサン達に睨まれても自業自得なのだろうが、リアンは(素直に謝れば許してあげよ)位にしか考えていなかった。

 そんな内心を察したのか、フランから安心したように小さく息を吐く音が聞こえた。


『後であの方には必ずちゃんとした謝罪をさせますので。その、よろしくお願いします』

「うん」


 通信が切れて再び視線を広場へと戻す。

 

(今の話しからして、やっぱりフランは仮面の子の正体を知ってるのかな……っと、いけないいけない。それはあとだ)


 視線の先では、動けないであろう仮面の子に大男がにじり寄っていた。


「ヨーコ。衛兵の応援が来たら教えて」

「わかった」


 そう言うと同時にリアンは空へと目掛けて飛び出した。

 反重力子を展開し、白いフードの集団の背後へ緩やかに着地するとそのまま駆け出す。目の前の敵が振り返るより先に腰のスタンロッド引き抜き、相手へと押し付けるように打ちこむ。突然のことに対応できず、青白い火花を散らすロッドに触れた者は一瞬痙攣したあとに次々と倒れていく。


「上の奴ら何してんだ!早くこいつをグッ!!」


 また一人打ち倒し前を向くと、リーダー格の大男は既に態勢を整えていた。そこで大きく跳躍し、残る三人の男達を後回しにして仮面の子の前へと降り立つ。

 仮面の子を見ると表情は見えないものの、その目には困惑が色濃く出ていた。


「チッ。おい! 誰だテメェは!?」


 振り向くと大男が剣を向けて威嚇していたが、特訓時のセレーナの怖さにすら遠く及ばない。



「ボ……じゃなかった、私? 私はね」



 エックス型の噴射口から青白く輝く粒子がまるで羽のように噴出され、その場にいる全員が驚愕に目を見開く。



「『清黒蝶』……って呼ばれてるよ」



 事前に噴射のエフェクトを目立つものに変更しておいたのがうまくいったようだ。


「あっ、その……ほ、本当に?」


 仮面の子がおずおずといった感じでリアンに何かを伝えようとしている。リアンは向き直るとポケットにしれた小瓶を差し出す。


「とりあえず、はいコレ飲んで」

「これ、ポーション……でもなんで? 僕……」

「話しはあとあと」


 そう言ってリアンは再び男たちへと対面する。


「清黒蝶だと? ふざけやがって。同業者ってわけじゃ無さそうだが、オレたちが用があんのは後ろのガキだけだ。大人しく帰るなら見逃してやる」

「それはできないよ。この子が迷惑かけたって言うなら私も謝るから」

「ふん。さっきは不意打ちされたが、今度はそう上手くはいかねぇぞ。退く気がないなら力尽くでいかせてもらうぜ。なに、命は勘弁してやるが腕の一本は覚悟しろよ」


 そう言うと三人が同時にリアンを囲むように動き出す。


「その黒い棍棒に当たるなよ!! 一撃で動けなくしてやれ」


 意外にもよく見ている事にリアンが感心する。


「気をつけて。そいつの剣、魔剣だよ!」

「魔剣?」


 流石のリアンも聞き覚えがあった。

 魔法を内蔵して作られた特殊な武器。一部の職人しか作れず、魔力を込めるだけで魔法が発動する武具は高値で取引される代物だ。主に剣が多いが槍や盾なども存在し、それらは総称して『魔器』と呼ばれる。

 大男の魔剣が炎を吐き出し、そのまま斬りかかってくる。

 バックステップで避けたが、熱気の余波に若干顔をしかめる。直後、フードの二人が左右同時に細身の剣で攻撃を仕掛けてきた。いかに強力な武器であっても、一つでは両方同時に対処は不可能だ。思わず周囲が目を背ける。

 だが、リアンは右からの斬撃を視界に捉えて回避すると、続けて左からの攻撃を振り返ることなく紙一重で回避してみせた。


「なにっ、こいつ見てねぇのになんで!?」


 いや、正確には見ていた。切りつけるモーションに入った時に一瞬だけ視界に入れていた。それだけでリアンは相手の攻撃が来るであろう位置、時間、間合いを計算し、それを考慮した未来予想(筋書き)通りに動いた。

 別段、LPで未来予測や偏差射撃が当たり前であったリアンにとっては珍しいことではない。しかし、それはあくまでゲーム内の話ではあるのだが。

 

「こいつ……」


 男たちは一旦距離を取る。

 一見リアン有利に見えるが、彼女も相手のコンビネーションと洞察力に決め手を倦ねいていた。おまけに衛兵が来る前に片付けなければ。


(さて、どうしよっかな。インパクト重視でとなると、銃じゃ何やってるかわかりづらいし……だからってロケランは論外……となるとアレ、かな)


 ひらめきと同時にパネルを操作するとその手に光が集まり、ソレは顕現する。


「なッ!? テメェ今何しやがった? それになんだ、その、剣……か?」

「コレ? コレはね――」


 道具も詠唱も無く行われた不可思議な事象も然ることながら、取り出されたモノの異様さに周囲は驚愕する。

 ソレは小柄な彼女に似つかわしくない、巨大で切先が丸い剣のようだった。持ち手は赤い箱のようであり、そこから金属の筒が八本突き出ている。よく見ると、剣身と思われる部位は二枚重ねられ、その隙間からギザギザの金属片が顔を覗かせている。



「『チェーンソー』――って言うんだよ」



 どこかうっとりしたようにその名を紡ぐリアン。

 前世では押し寄せるゾンビ共を蹴散らしたり、かみをバラバラにしたり、ロボットに六本つけて回転させながら突撃したり、おまけに木も切れるなど様々な用途を持つ万能工具だ。

 LP内ではカスタムの幅が他の武器よりも多彩であり、リアンのチェーンソーは前世でV型8気筒エンジンを積んだチェーンソーが太い丸太をバターの様にスライスした映像に影響され、八つの気筒を付けて大きさも巨大化されている。


「ボ、ボス」

「狼狽えんな。まだよくわからねぇが、ほっとくとやべぇ感じだ。あいつがこれ以上何かする前に仕留めるぞ」


 今度は三人が連続して斬りかかってくる。リアンはそれを最小限の動きで避けると、途中からフードの男が一人消えていることに気がつく。


「そいつの後ろ!」


 仮面の子の叫び声が聞こえると同時に、大男の背に隠れていた男が死角から斬りかかってきた。さらにはその背後からも追撃すべく剣を構える男達。


「もらったァ!!」


 男の凶刃が一直線に迫る……が、リアンはそれよりも先にホルスターから抜いたSAA.Jを地面に向けトリガーを引いた。


「なっ!?」


 銃口から解き放たれた風魔法は砂塵を巻き上げ、瞬間的に男達の視界を遮る。


「また魔器か!? いったい幾つ持ってんだあいつは!」

「そんな事より奴はどこだ!?」

「ッ!! 上だ!!」


 一瞬、空から影が差し見上げると、清黒蝶は遥か高みで空を舞っていた。


 リアンはゆっくりと重力に引かれはじめる感覚の中で自身のチェーンソーを撫でて懐かしい気持ちになっていた。


(チェーンソーオンリーフェスを思い出すなぁ。チェーンソーがうねりを上げると、みんな知能指数が著しく低下して世紀末状態だったっけ。あの時はボクも……イカンイカン、我慢だ……ガマン……あっダメだ)

「ヒャア!! もうガマンできネェ!!」


 突如、壊れた様に嬉々として叫びながらワイヤーをおもいっきり引っ張る清黒蝶。するとチェーンソーも持ち手に応えるように咆哮を上げ、激しく火花を散らしながらソーチェーンが回りだす。


「な、なんだアイツ!? それにありゃ……畜生! なんなんだ一体!?」

「落ち着け! もう一度、今度はあの風魔法に気をつけて――「ヒャッハアアアァァァ!!!!」」


 見上げた先には理解できない奇声を上げ、大男の魔剣がマッチに見える程の炎を吹き出すチェーンソーを振りかざし、落下しながら迫ってくる清黒蝶がいた。


「……ダメかもしれんな」


 そのまま片方のフードの男の元へと振り下ろす。


「消毒ッ!! ショウドクウウゥゥゥ!!」

「ひ、ひいぃ!!」


 おもわず目をそらしながらも、反射的に剣を横に構えて防御しようとする。次の瞬間、鈍い金属音がして目を開けると、無残にも中程からへし折られた自身の剣と足元の地面を抉るチェーンソーが映った。


「あっ……ああ……」


 その光景に腰を抜かしてしまったのか、倒れたまま立ち上がる気配はない。


「な、なんなんだよお前ッ!! クソッ!!」

「おい! どこ行くんだ」


 もう一人のフードの男は錯乱状態に陥ったのか、逃亡を図る。と言っても民衆に囲まれているため、必然とその中を突っ切ろうとする。


「オラァ! どけどおッ!?」


 剣を振り回しながら威嚇する男の足が不意に止まった。よく見ると、くるぶしの辺りまで石畳に飲み込まれている。


「みんなに……みんなに危害は加えさせないよ」


 多少足がふらついているものの、傷の癒えた仮面の子が民衆を背に銀の杖を向けている。


「このッ、ガッ!」


 何とか抜け出そうとしていたが、青白い光の雨が降ったかと思うと次の瞬間には顎に強い衝撃を受けて意識を手放した。


「ナァイスだよ君!」


 すっ飛んできたリアンは仮面の子へ向け、サムズアップする。そのポーズの意味が分からないのか一瞬ポカンとしたが、ぎこちなく同じポーズで返してくれた。


「さぁて、後はお前一人だ。覚悟はいいか?」

「ぐっ、ぐぐ……」


 大男は魔剣を強く握りしめたまま呻いている。


「ボス、こいつぁ化物だ。逃げて下せぇ」


 腰を抜かしながらも殊勲な部下が声を上げる。すると、大男は仮面に手をかけそのまま勢いよく地面に叩きつけた。


「だ、誰が逃げるもんか。俺はお前らのボス、ガルマンだ!! 相手が清黒蝶だろうがなんだろうがおめぇらをおいて行くわけねぇだろうがよ!!」

「ボ、ボス……」

「さぁ、清黒蝶!! オレが相手になってムブッ!?」

「ボス!?」


 仁王立ちして勇ましく天を仰いだガルマンの顔面にとび蹴りを食らわすリアン。ガルマンはよろめくがなんとかその場に踏みとどまる。


「女の子相手に多勢でかかっといてなァに良い話風にしているかな、ド阿呆が!」


 そう言って、右半身を引きチェーンソーを右脇に下げて構える。


「だが、その心意気は天晴れ! その意気に応えて全力で相手してやる!!」

「えぇッ!? ボスやオレ達を見逃しては――」

「んな都合のいい話はねぇ!! なに、命まではとらん。が、一本くらい覚悟しろよ」


 宣言した瞬間、リアンの背から巨大な青白い粒子が吹き出したかと思うと、その姿が霞のように掻き消えた。


「消えた!?」

「いやッ! 消えちゃいねえ。そこら中から聞こえんだろ。奴の音が……」


 民衆もどこだどこだと目を配らせるが一向に見つからない。しかし、ガルマンの言うとおりチェーンソーの叫びがそこかしらから聞こえ、時折石畳や家屋の壁に火花が散るのが見える。が、それでも清黒蝶の姿をとらえることができない。

 全身から冷や汗を流し、逃げだしたい衝動を歯を食いしばって必死に押さえ込みながらも、ガルマンはひたすら音に集中していた。

 そして次の瞬間、微かに石畳を削る音をとらえた。


「ッ!! そこだァッ!!」


 渾身の力を込めて魔剣を振り下ろす。


「ハズレ」


「ッ!!!!」


 魔剣は空を切り、背後から声がかかる。すべてがスローモーションに感じる空間で、ガルマンは魔剣を振り下ろしたまま背後へと振り返る。

 視線の先に見えたものは、脇構えのまま地面を滑走し迫り来る清黒蝶がいままさに振り抜く瞬間であった。



 一瞬だった。



 誰かの息を呑む音まで鮮明に聞こえる静寂の中、カランと何かが落ちる音がやけに大きく聞こえた。見れば、無残にも中程から削り折られた魔剣であった。

 ガルマンが膝をつき、右腕を差し出す。


「約束だったな。もってけ」

「ボス!!」


 リアンは一瞥だけするとチェーンソーを光の粒子に戻した。彼女を包み込んでいた禍々しい気配はもう無い。


「私をなんだと思ってるのさ。それ一本だから」


 リアンは折れた魔剣を指差す。


「それとさ、最後の一撃。ちょっと届いたよ」


 少しだけ見える口元をほころばせ、少しだけ燻った自身の髪先を摘んで見せた。

 刹那、呆然としたガルマンであったが、まるで憑き物が落ちたように肩を落とす。その顔はどこかすっきりしていた。


「オレの、負けだ……」


 周りからドッと歓声が上がった。


「いいぞー!! なんか聞いてたより荒っぽいけどつえーしかっこよかったぞ!!」

「ほんと。さっきの戦いでアタシまで手が震えちゃったよ」

「おい、ガルマン! あんな中で逃げ出さないなんてガッツあんじゃねーか」


 リアンは歓声にぎこちなく手を振ると仮面の子の前へと駆け寄る。すると、またもや周囲が張り詰めたように静まった。

 戦闘のインパクトで忘れていたが、この場にはもうひとり偽物がいたのだ。不安げに固唾を飲んで見守る周囲。


「あの、ぼ、私……本当に……ごめん、なさい」


 泣き出してしまいそうな声を聞きながらリアンは口に笑みを作る。


「そんなに落ち込まないで。ほら」

「でも、でも……」

「私が不在の間、みんなの平穏無事を守る約束を君は十分成し遂げてくれたよ。さっすが私の仲間だよ」

「……えっ?」


 リアンの言葉にポカンとする仮面の子。そして民衆は戸惑いつつもリアンの思い通りに解釈してくれる。


「仲間? てことはあの子は偽物ってわけじゃない?」

「なんだい。清黒蝶様にも仲間がおったんだね」

「おねぇちゃんニセモノじゃないんだ。よかったぁ」


 再び歓声が高まる中、リアンはいまだオロオロしている仮面の子の耳元へ口を寄せる。


「右手の裏路地へ。早く」

「えっ、あああのあの」


 いまだ混乱している仮面の子の背中を多少強引に押して逃走を促す。実は先程、ヨーコから衛兵の増援が伝えられあまり時間に余裕がない。


「ほ、本当にごめんなさい。いつか必ず……」


 なんとか納得してくれたのか、まだ何か言いたそうな顔のまま一礼して指定した方へと飛び去った。


「……さて、と」


 使命を終えたリアンは背後の民家へとワイヤーを使って飛び乗る。仮面の子を目で追っていた民衆は再びリアンへと向けられ歓声が起こる。


(リアン。決め台詞)

(あー……なんでそんなどうでもいいこと覚えてるかなぁ)


 事前にフランから『決め台詞は絶対』と念を押されていた事を強制的に思い出させられ、屋根の上から民衆へと振り返る。


「えーっと……深い鬼よ? 私が清黒蝶である。民よ、じゃなかった、なんだっけ? ええい、めんどくさい! ミンナー、アイシテルヨー!」


 そう締めくくると身を翻し飛び去った。

 適当且つ棒読み気味ではあったが、集まった民衆は興奮状態にあったおかげか大歓声で見送った。


「ミナト、台詞違う」

「勘弁してよ。……って、いつつッ!」


 珍しくふくれっ面をするヨーコをなだめていると、全身の痛みにその場に倒れ込むリアン。


「ミナト!? やっぱりさっきの……」

「ちょっとだけだったから大丈夫だよ。どうしてもガルマンの心意気に応えたくてさ」

「『セントーキョー』ってやつ?」

「違うよ! これは男の――『あー、あー。リアン聞こえるか?』うえぇ!? ソル?」


 メンバーバッジから渡していないはずのソルから声が消えてきた。リアンは路地裏に飛び込み応答する。


「どうしてソルが?」

『ホントにこんなので通じるんだな。ああいや、途中衛兵の応援が駆けつけたんだが、フランが自分が抑えるから代わりに連絡役を任せるって押し付けてな』


 そういえばとリアンは思い出す。


「ってちょっと待って。衛兵を抑えるってそんなことできるの?」

『そりゃ、さすがに追い返すなんてできないだろうが、フルーヴ王宮伯の娘だし足止めくらいなら』

「え? フランの家って王宮伯だったの!?」

『もしかしてそれも知らなかったのか? 王宮伯の中でも、もっとも王に近いと言われている北区のフルーヴを任されているのがディヌオ家だ。フランソワーズ自身、王子の遊び相手を務めていることから王宮でも結構名が通っているぞ』

「……」


 貴族であるということはわかっていたが、思っていた以上に高貴な身分であったことに暫し愕然とするリアンであった。






 広場の騒ぎが遠く聞こえる。

 それほど離れていないのに薄暗い路地にいると、まるで別世界の事のように感じる。

 フランはある人物を求めて早足で駆けていた。すると、視線の先で黒い塊を見つけた。近づくと塊……に見えた人物は、恐る恐るといった具合に振り返る。その顔には半分に割れた仮面が張り付き、よく知るその顔は驚愕の表情を覗かせていた。


「やはり、あなただったのですね……エイムストラ王子」








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